大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- 嫌いの裏側 ( No.1 )
- 日時: 2020/11/21 23:18
- 名前: さむわん
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?mode
第一弾なのでR18は無しです。16歳の太中(?????)。
「ねぇ中也」
太宰が独り言のように云う。また傷が増えた手で、執務用机の端にあったチェスの齣を弄る。顔をうつ伏せにして、脚をぶらつかせる。
太宰は何時もこうだ。世界の全てに興味を失ったかのような目でものを見、世界の全てに興味を失ったかのような態度で時を過ごす。
「んだよ」
ソファを挟み、向き合うように並べられたもう一方の執務用机に、中也は座っていた。左手は書類の山、右手はパソコンのキィボォドを叩いている。其の口には煙草。
「凄く臭いのだけど。私未だ此の匂いには慣れていないのだよね。せめて私の居ない時に吸って呉れないかな」
「誰の所為で吸いたくなる程仕事させられてると思ってんだ?糞青鯖野郎。吸わないでやってられっかよ。大体何で手前のサボった仕事が巡り巡って俺に回って来るんだよ可笑しいだろ」
「中也、1つ思い違いをしているよ。私の仕事はね、作戦を練って聞き込みをすることにあるのだよ。故に書類まとめは私の仕事でないからサボったことにはならない!!」
「な訳ねえだろ死ねよ」
相手にするだけ無駄だと悟り、中也は眠気との戦闘に備え珈琲を淹れに行く。
太宰はチェスの齣を、一点を中心にしてくるりと回す。そして、カタンと倒した。
倒れた齣を、零度の瞳で見つめる。
悪に生きる者が持つ温度。
稀に見せる、冷涼さ。
しかし、次の瞬きをして目を開けた時には、其の温度は何時ものものに直っている。
太宰は立ち上がって伸びをし、欠伸をし、また伸びをした。
そして、書類の山に手を伸ばし、半分ほど取り上げる。
「仕方がない。只君を待って居るのも退屈だし、手伝ってあげるよ、私優しいから。」
中也は目を見開いて太宰を見詰める。普段なら此んなこと絶対ェ云わねえのに。
しかし、元は太宰の仕事だ。誉める処など何も無い。
カップを机に置く。
「さっさと終わらせねえと帰れねえぞ。俺は徹夜なんて御免だぜ」
「過労死か……眠るように静かに死ねるらしいね。仕事を頑張り過ぎて死ぬだなんて、私には考えられないけれど。」
「何でも自殺に結び付けんじゃねえよ自殺嗜癖。嗚呼、過労死は自殺じゃねえか。」
そうかもね、と呟く太宰を横目に、中也は作業を再開する。だがふと、違和感のようなものに気が付く。
「手前、何で何時も俺が仕事終わるの待ってんだ?先に帰りゃ佳いじゃねえか」
え、と太宰が固まる。
普通の学生が、友人と帰りたがるように。
普通の恋人が、相手と隣を歩きたがるように。
太宰にも、普通の感情が在るのだろうか。
誰かと共に帰路に就く、其の何気ない幸せに、此の太宰が気が付くのだろうか。
中也は不意に知りたくなり、太宰の返答を待った。
すると太宰は、頬を赤らめて口を開く。
「だってさ……一人で帰るの寂しいじゃない。どうせなら誰かと帰りたいと云うか……君だけ置いて帰るのは悪いと云うか……うん。」
寂しい、のか。此奴。
悪いと思っているなら先ず仕事をサボるなよ、と中也は心中で叫ぶ。
「それに」
「それに?」
「……好きな人とは、隣を歩きたいものでしょ?同じ家に帰るなら…ずっと一緒の方が良いじゃないか」
「へ?」
今此奴何て云った?俺を??好き???太宰が????
太宰は真っ直ぐ中也を見ていた。今度は中也が赤面する番だ。
だって。
木偶の坊で、迷惑噴霧器で、自殺嗜癖で、包帯無駄遣い装置で、女の敵で、人間失格で。
此んな奴のことなんか、俺は好きなわけ……ーーー
そうか。普通なら此んな奴、縁切ってる筈なんだ。だのに俺は、此んなにも嫌いな此奴と、今の今迄一緒に居る。殺したいほど嫌いな此奴を信用して、仕事をしている。
出会って一年で、此んなにも此奴から目が離せなくなっていたんだ。
「末期だな、俺も、手前も。」
「うん。末期だよ。……中也は、私のこと、好き?」
新しい悪戯を見つけたような笑顔で、中也は云う。
「あ?莫迦か手前。手前なんか大っ嫌いだ、惚け。」
太宰は満足そうに、中也を見詰める。
そうだーー今は、此れで良い。
隣に立ち、真っ直ぐ前を向き、歩く。絶対に交わらないからこその相棒。
交わってはいけない。
嫌いでなくてはならない。
太宰からの好きの言葉は、胸に仕舞って。
太宰と中也は、肩を並べて帰った。
そして何時か、此の軛から解放され、関係を堂々と持てる日が来ることを、太宰は望んでいた。
好きで、好きで、好きすぎて嫌いな中也と。