大人二次小説(BLGL・二次15禁)

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日時: 2014/12/30 17:28
名前: etori

そしてまた君は泣く。僕の知らないところで。
君の悲しみだけが僕の中を駆け巡る。涙があふれてくる、その理由さえも知らずにいるのに。

志衣Shii
紀伊は僕のことを知らない。狭川紀伊(さがわきい)、僕の双子の弟だ。僕と紀伊は同じ学校に通っているけれど、兄弟ではないことになっている。後継ぎとして将来を約束された紀伊と、狭川の家とは何の関係もない者として育てられた僕。生まれてすぐに引き離されたから、ろくに相手のことを知らない。もしかしたら、紀伊は僕という存在すら知らないかもしれない。だけど僕は。

ツキン、胸が痛む。ああ、またか、と思う。病気ではない。小説とかにありがちな、恋煩い、とかでもない。共鳴。この痛みは、紀伊の痛みだ。この時間は、紀伊は美術室にいるはず。様子を見に行ってみようか、と思う。紀伊に僕から近づいてはいけないと言われているけど、遠くからそっと見るぐらいは許されるだろう。僕は美術室に向かった。
ずきずきとした痛みに足を速める。泣いているかもしれない。誰よりも大切な双子の弟、この共鳴はその証明のようなものだ。美術室のドアを少しだけ開けて、中の様子をうかがう。中にいたのは、三人。一人は紀伊で、あとの二人は先輩だ。美術部部長の綾瀬先輩と、その親友でバスケ部の坂口先輩。紀伊を傷つけたのは、どちらだろうか。それとも、両方?だけど二人から負の感情は感じられなかった。寧ろ坂口先輩は紀伊を優しい目で見ていて、紀伊も先輩をみていた。
どく、どく。心臓が早鐘を打つ。そうか――紀伊は、恋をしているんだ。坂口先輩に。そのまま観察していると、綾瀬先輩が紀伊の絵を覗き込んで言った。「狭川君は自画像ばかり描いてるんだね?」紀伊は俯く。何故だろう、胸がギュッと締め付けられるような感覚。それが紀伊の感じたものなのか、それとも自分のものなのか、僕にはわからなかった。綾瀬先輩が何か言った。紀伊と彼の顔が近づいて、触れそうで。心臓にナイフが突き立てられたような痛みを覚える。そして僕は気を失った。

綾瀬慎一Shinichi
狭川紀伊。それが俺の好きな人の名前だ。一目惚れだった。
裏庭のほとんど人が来ないベンチは、俺のお気に入りだった。そこに、彼がいたのだ。すっかり寝入ってしまっていたようで、隣に座っても気づかなかった。俺は他人とは距離をとるほうだと、自覚はあった。だからこんな風に自分から近づくことなど、普段の俺であればしなかったのに。顔にかかっていた長い黒髪が邪魔そうで、指で払ってやる。そしてあらわになった彼の綺麗な顔に驚いた。思わずその柔らかそうな頬に触れる。すると寒かったのだろう、白い手が伸びて抱きつかれた。その仕草が可愛らしくて、クスリと笑ってしまう。頭を撫でてやっていると、ふいに彼が身じろぎした。長い睫にふちどられた眼がそっと開く。「えっ?」俺に気づくと、慌てたように身体を離す。ベンチから落ちそうになった彼を支える。「すみません!」「大丈夫、慌てないで」彼を支えていた手を離すと、無意識だろうけど視線で俺を追いかけた。「それより、時間大丈夫?」学校が終わってからずいぶん経ってしまっていた。佐生宗下校時刻まであと少し。「え、もうこんな時間?すみません!」「いいよ、気にしないで」彼は一礼して校舎へ走って行った。「あ…名前、聞いとけばよかったな」
だけど彼とはすぐに再会できた。俺の所属する美術部に見学に来ていたのだ。髪を切って、色も変わっていたけどすぐにわかった。彼は俺を覚えていないようだったけど、半ば強引に美術部に誘ったのだ。だけどすぐに違和感を覚えた。目の前の彼と、記憶の中の彼が一致しない。だけど彼が描く自画像の中の人物は、確かに俺が会った彼だった。

紀伊Kii
僕には双子の兄がいるらしい。それを知ったのは、中学の頃だった。幼い頃から、何かがおかしいとは思っていたのだ。隣にいるはずの存在がいない。昔はただ、自分が寂しがり屋なだけだと思っていた。だけど成長するにつれその不自然さは大きくなった。そして家の者がしていた噂話で、僕には兄がいたのだと知った。生まれてすぐに引き離されて、狭川の家とは全く関係ない家庭で育てられたらしい。もしかしたら、僕のことも知らないかもしれない。だけど僕は、彼のことを探している。名前も知らない、僕の兄さん。その影を追い求めるかのように、自画像ばかりを描いていた。
だけどもう一人、気になる人ができた。バスケ部の、坂口先輩。僕が所属する美術部の部長である綾瀬先輩の親友で、幼馴染。僕はきっと先輩のことが好きなのだと思う。先輩は時々美術室に遊びに来てくれるから、僕は毎日ここに来ていた。

今日も坂口先輩は美術室に来た。綾瀬先輩と一緒に。二人が会話をしているのをみて、ツキン、と胸が痛む。知らない振りをして自分の絵に集中した。だけど二人の笑い声が耳に突き刺さる。二人がそんな関係じゃないことは、僕だって知っている。幼馴染だから仲が良いのだと、以前言っていた。
「狭川君は自画像ばかり描いてるんだね?」急に綾瀬先輩が話しかけてきて驚く。動揺を表に出さないように俯いた。坂口先輩は僕のことなんて視界に入らないかのように美術室に飾られた絵をみている。「それ、自画像なのか?」僕の絵なんて見ていないと思ったのに、坂口先輩がそう言った。「全然似てない」似てない、といわれて。ああ、そうかと納得する。これは自画像じゃない。僕が描いていたのは、兄だったのだと。黙り込んでしまった僕に落ち込んでいると思ったのか、綾瀬先輩がフォローを入れようとする。僕が気にしていない、と伝えようとしたとき、廊下で大きな音がした。同時に、ひどい頭痛が襲ってくる。僕は椅子から立ち上がってその場にうずくまる。「どうした?」心配そうにのぞき込む先輩に応える余裕もない。僕は廊下に飛び出した。
廊下には一人の生徒が倒れていた。その小柄な生徒は気を失っているようだ。取りあえず綾瀬先輩に保健室に運んでもらう。先輩、意外と力持ちだなぁ、そう思ってみていると坂口先輩に持ち上げられた。「お前も保健室行くぞ。さっき具合悪そうだったろ」下ろしてください、そう言ったのに先輩は放してくれなかった。しかもお姫様抱っこ。赤くなった顔を見られないように、僕は先輩の肩にしがみついた。

慎一Shinichi
ベッドに寝かせた彼の髪を、恐る恐るかき分ける。艶やかな黒い髪、白い肌。隠されていた、整った顔立ち。裏庭のベンチであった、彼だった。俺が好きになったのは、紀伊ではなかった。だけどなぜ、二人はこんなに似ているのだろう。
「起きたか?」「まだだよ」保健室に入ってきたのは啓介(けいすけ)と紀伊君だった。というか…何でお姫様抱っこ?俺の視線に気づいたのか、紀伊君は啓介に下ろしてくれるように言う。それでやっと二人は離れた。「あ、起きた?」騒がしかったのか、彼がゆっくりと体を起こす。彼は啓介と紀伊君をみて固まった。

志衣Shii
目が覚めると保健室にいた。頭がずきずきする。押さえると、たんこぶができていた。「起きた?」なんで綾瀬先輩がここに?後ろには坂口先輩と紀伊もいる。ああ、倒れてしまったのかと思う。昔から紀伊の感情が高ぶりすぎて、気分が悪くなることはたびたびあった。そしてそれが僕ではなく紀伊が後継者となった理由でもあった。
どん、と圧されて視界がぐらぐらと揺れる。見れば紀伊が抱き着いていた。

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