「あれ?もう帰るの?」
翌日、凪が帰る準備をしていると、ふと後ろから声をかけられる。
振り向くと別のクラス、即ち嵜と同じクラスの女生徒だった。
茶がかかったミディアムくらいの黒髪に、爛々と光る茶色の瞳。
腕には『広報部』とかかれた腕章が付けてあった。
それこそまさしく、『一ノ宮 鬨』の、放課後の姿であった。
凪は至極普通に答える。
「ああ、用事あるしな」
「嵜は?ここ最近学校来てないけど」
「いつもの低血圧だろ。気にするこたーねーって」
そう言うと、一ノ宮に背を向ける。
「じゃ、またな」
一言だけつぶやくと、凪は真っ直ぐ階段へと向かっていった。
その姿を見て一ノ宮は暫くぼうっとしていた。
「(かっこいい………)」
顔がだんだんりんごのように赤く染まっていく。
瞳はとろんとしており、なんだか危険な雰囲気を匂わせる。
だがそれもすぐに消える。
「部長ー!どうしたんですか棒立ちになって………って部長!?本当にどうしたんですか!?熱あるんですか!?」
「ハッ!?」
突如声をかけられ、われに戻る一ノ宮。
隣を見ると、心配そうにのぞき込む後輩の姿があった。
制服はぴしっと決めており、髪の毛も整っておりまさに理想の学生像、と言っても過言ではないだろう。
その人物こそ、最近入部した広報部1年生、『矢車 御言』だった。
矢車は苦笑いしながら一ノ宮に話しかける。
「部長、新しい記事できましたよ。例の殺人鬼についての」
そう言って一枚の紙を見せると、一ノ宮は素早くそれをひったくった。
その記事を見るなり瞳は輝いていった。
「いいわねコレ!早速纏めましょ!」
「はいっ!」
一ノ宮はダッシュで部室へと戻っていき、矢車もそれに続かんとばかりに、全速力で部屋に戻る。
今日も、桜庭高校広報部は、活気に溢れている。
☆
一方ここは誰かの家。
庶民的な家で、その部屋はゲームがたっくさんおいてあり、ゴミなどはほとんどなかった。
若干光は弱いものの、パソコンの光でなんとか普通に保っているようだった。
そんな部屋に、1人の男子の1人の女子がいた。
1人の女子というのは、あのゲーマー少女嵜のことだ。
では1人男子というのは?
「『夏蓮』、暇」
「と言われても要件全部済んだんじゃねえの?」
「帰るのめんどくさい」
「そんな無茶な」
嵜の一言を苦笑して受け流す少年。
引きこもっているせいか肌白く、髪は少しボサボサだった。
しかしながら顔立ちはそこそこよく、印象はまだいいほうだ。
この少年の名前は『村雲 夏蓮』。嵜の良きゲーム友達だ。
出会いはネトゲのギルドメンバーだったことがきっかけで、そこから仲良くなったという。
ちなみに彼は殺人鬼を殺す殺人鬼の正体を知っており、協力者の立場にいた。
ある意味嵜が、凪以外に心を開ける他人という好ポジションにいる。
そんな彼の家にいる嵜。
一体どんな用件だったのだろうか。
「それにさ、今度夏蓮をうちに招待しようかと思って………無理だな」
「ちょっと待てなんだ最後の諦め」
「いやだって、夏蓮さあ、外に出るといっつも問題起こすじゃん。だから無理だなって」
「そりゃ確かに起こすけど………」
「じゃあ無理だな」
「頼む俺に彼女の家で彼女と2人きりなんて夢を抱かせてくれ」
「彼の家、ってのはやり尽くしたからね。何?今度はR-18的な話になるの?」
「俺お前と同じ高校生な。しかも3年な。まだ純粋な。そんな大人の階段まだ登るのは早すぎるな。だから俺落ち着け、な」
「…………………」
彼らの関係。
一言で言うならば「恋人同士」と言った方が早いだろう。
どちらが告白したとかそういう話はなく、ただ単に気があったし付き合ってみるか、という彼らの概念によって、「恋人同士」となっただけである。
お互いに好意を抱いているのかは分からないが、村雲が嵜を好いているのは確かだ。
「そんなことよりな、修理終わったぜ」
村雲は話題を変えようと、棚から二丁の拳銃を取り出し、嵜に投げた。
ゴトッと重々しい音がした。
見てみるとそれは嵜の武器である、『S&W3566』というとんでもない拳銃だった。
S&W 3566というのは、s&w M59ベースの競技用拳銃である。
カスタム部門のs&wパフォーマンスセンターによるカスタムのため「PC356」と呼ばれる。
.356TSW弾を使用し、高いストッピングパワーを持つ。
現在はカタログ落ち状態で、かなりレアであったりする。
初めて見た時、どこで仕入れたのだろうかこんなレア物、と一瞬村雲は思ったが、段々そんなことはどうでも良くなった。
嵜はそれを手に持つと、くるくると回してみたりと、いろいろ試した。
ジャキッと銃をしまうと、コクコクと頷きながら
「うん、かなりいいよコレ。夏蓮に任せておいてよかった」
と言った。
村雲はかなり頑張った、と嵜に笑った。
「今夜の仕事バッチリ決めろよ」
村雲はそういうと、嵜に拳を突き出した。
嵜も拳を突き出し、こつんと合わせた。
☆
リア充め!!!!
この廻間を置いといて何をしとるか!!
「また盗聴?」
うん、なかなか帰ってこないから。
いやあ青春っていいねえ殺すぞ。
「僻むなこの不審者」
君も大概だけどね?
第一拷問が趣味の人って聞いたことないよ物騒じゃないか。
あれでしょ?拷問で苦しむ人の顔を楽しむんでしょ?あー怖い怖い。
「彼らに殺人鬼やらせてる君も大概だけどね」
はて、なんのことやらあ?
「ガロットかエクスター公の娘かどっちがいい?」
やめろ後者は知ってる人いないから。
つーかどっちにしろやめろ。
「あ!異端者のフォークとかどう!?」
てめえ殺すぞコノヤロー。
「冗談だって。冗談だから。だからGDPはやめてイタイイタイイタタタタタタ」
ったく君は本当に変態だな。
拷問かけたやつのもがき苦しむ顔をオカズにするんでしょ?
うわー引くわー
「エクスター公の娘と結婚しろ」
やめてください死んでしまいます。
「「ま、それはおいといて」」
今夜なんだよなー、楽しみ楽しみ。
まあ『アイツ』も見てるんだろうけどさ。
「『アイツ』って、あのアイツ?僕もアイツはどうにもならない野郎だなーとは思ってるけど」
何れはこの手で直接殺す。
見てるとホント殺意しか沸かないんだよな。見ててイラつく。
「1回拷問かけさせてよ」
あー楽しそうだなそれでも。
でもま、まずは今夜の仕事を楽しんでから考えるとしましょうかね。
「はは、了解」
To be continued