官能小説(オリジナル18禁小説)

Re: Это убивает【12/14本編更新】 ( No.25 )
日時: 2015/01/17 17:20
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM





「……………?」

不意に、体が浮かび上がる感覚がしたあとの状況確認。すなわち目を開けた。そして彼は数秒の確認のうち、その状況を理解することとなる。
彼は今空中に居る。
何者かもわからない、『白い紙で素顔を隠した人物』に抱えられて。

「ツッコミ所しかねえええええ!!」

彼がそう叫び降りようと暴れてみるも結局は徒労に終わった。どうやってみてもこの人物の握力はものすごく、ガッチリと彼の体を支えたままびくともしないのである。その人物はトッ、と軽い足取りで着地すると、ふうとため息をついたかと思えば、隠された素顔をどこぞへと向け、そちらへと声を大きくして口を開いた。

「随分とおっかないことをするんだね。そんなに彼を、いや彼らを殺したいのかい?」

その言葉に凪はハッと顔を先程までいたはずのソファへとむける。そこには、いくつものガラス片が満遍なく散らばっていたのである。その上を見れば、シャンデリアがなくなっているわけで。凪は確信した。ああ、シャンデリアが落ちてくるからコイツは俺を抱えて大げさな回避をしたのか、と。だがもうひとつの疑問が浮かんだ。なぜシャンデリアが落ちてきたのか?老朽化で落ちた、とは考えられない。なんせ、つい最近このシャンデリアは古いものと変えたばかりなのである。それがなぜ落ちてきたのか。考えられるのはほかにひとつしかなかった。『誰かが意図してシャンデリアを落とした』という他にない。だが凪は、今『なぜ自分が狙われたのか』、ということしか考えられなくなっていた。それほど、突然のことだったのだ。

「………応答はない、か。逃げたみたいだね。おっと、君、大丈夫?」

と、白い紙で素顔を隠した、明らかに不審人物であろう者が、凪に話しかけてきた。話口調や態度に、見たところ敵意はないらしい。凪はその人物を怪しみながらもふと懐かしいような感情を持った。久しぶりに会ったような、そんな気がしなくでもなかった。だが彼にとって、この人物とはこれが初対面のはず。なぜそんなものが込上がってきたのかは、今の彼には思い浮かぶまい。恐らくしばらくはわからない筈である。凪はハッとして、怪我はないとだけ伝えると、その人物はほっとしたように息を漏らした。そして目線に合うように、その人物はしゃがみ、凪をじっと見つめる。凪はその行動に驚きはしたものの、なぜかそれを許した。理由はわからない。だが、彼の心情はその人物に対して、懐かしみや会いたかった、などの感情が入り乱れていた。不思議なものだった。

「ねえ、凪。君は一生をこのプレッシャーとかいっぱいあるこの要塞の中で過ごすか、僕と一緒に来て、普通の暮らしを過ごすのと、どっちがいい?」

その質問は凪にとって、救われるような質問だった。一生を閉じ込めるこの箱の中で過ごすよりは、誰かもわからないこの人物と一緒にこの家を出ていき、自由のある普通の暮らしをした方がいい。凪は真っ先に、

「家を捨てたい」

と言った。その者はその答えに満足そうに頷くと、凪に手を出した。おいで、とその言葉が聞こえた気がした。凪はその手を握り締め、決意の顔をあげた。その顔は今の今までしていた顔よりも幾分か凛々しく、それでいて清々とした顔だった。

「よっし、決まりだね!あ、僕の名前を言ってなかったね。僕は『廻間』。廻間さ!よろしくね!凪、嵜!」

そういうと凪はふと、不思議な顔をした。今明らかに廻間なる人物は凪と嵜、と言った。しかしこの場には彼の妹である嵜はいないはず。なぜ嵜の名を呼んだのだろうか。凪はそう思い、辺りを見回した。するとふいにこちらを見るような視線が刺さった。その視線は廻間の後ろから送られていた。途端に訝しげな顔になり、後ろに回り込むと、ささっと何かが隠れたようだった。いらっとしたのか、凪はそれに向かって声をかけた。少し、低めのボーイアルトで。

「…………おい嵜」

そう呟くとビクッとさせ、慌てて凪の表に現れた。黒髪の艶やかなロングストレートに、少しばかり可愛くあしらわれた喪服、それでいて凪と顔が瓜二つ。まごうことなく彼の妹である嵜である。嵜はてへへと笑い、殺すような真似してごめんと軽く謝った。廻間もあっと声をあげてまた凪に軽く謝った。凪はそこで全てを察したようだった。
あのシャンデリア落下事故は何かの陰謀じゃなくて。老朽化でもなくて。要は凪と嵜が家を出るために仕組んだ廻間と嵜の計らいだったのだ。実は嵜は廻間とは両親の葬式のあと会っていて、なかなか外に出られないし、このままじゃ命を狙われるかもしれないから、ということで、わざと凪の上にシャンデリアを落下させ、それを外部の人間がやったように見せかける。そうすればあっさり渚を出られる、という計画を立てていたのだ。ちなみにシャンデリアを落としたのは嵜本人である。方法は単に、シャンデリアにBB弾をあてただけ。
それがわかり、凪は落胆したような呆れたような、そんな変なものが渦巻いた。当の2人はてへへと笑うだけである。これには毒気も抜けてしまう。
凪は深いため息をついて、そのあとは苦笑するしかなかった。


To be continued

Re: Это убивает【1/17本編更新】 ( No.26 )
日時: 2015/02/22 09:22
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM

…月…日 今日の日記

凪兄と私で、見知らぬ白い人と一緒に家を出ました。
とてもワクワクしています。
これからどんな事が起きるのか、楽しみです。





廻間に抱えられ、連れてこられたのは郊外の別荘。丁度、海の近くと言った方がいいだろうか。見晴らしは良さそうな建物だった。廻間は足で乱暴にその扉を開けると、2人を下ろした。嵜は早速別荘へと入り、その綺麗さにはしゃいでいる。それもそのはず、この別荘は元々渚家の物で、渚が手放して以来、売りに出されていたのだ。それを廻間が買い取ったのだ。買い取ったのは実に3年前あたりくらいのことで、ここに誰も来ていなければ、埃だらけになっていたはず。それが、眩しいくらいに綺麗なのだ。小さな子供ならはしゃぐのも分からなくでもない。だが凪は、どこか腑に落ちない顔をしていた。ここは凪にとって、苦い思い出がある場所なのだ。というのも、まだこの別荘が渚の物だった頃、凪はここを大変気に入っており、いつものように隠れては遊びに来ていたのだ。ある日、その日は両親に許可を取り、付き人と一緒に遊びに来ていた時のこと、凪の一番好きな部屋を訪れた際、あたりが血だらけになっていたのだ。その血の池の真ん中にいたのが、凪と嵜をまるで孫のように可愛がってくれていた、長寿のメイドだったのだ。凪は今でもその光景を忘れられることなく、尚且つ誰にも話せぬまま、この別荘から離れた。それ以来、凪は寡黙になり、感情を表立って表すこともなくなった。そんな別荘にこれから住もうというのだから、凪は心が重くなるばかりだった。

「どうしたの?」

不意にそう廻間から声をかけられ、ハッと取り戻した。気がつくと冷や汗をびっしょりかいていた。気のせいだろうか、息も荒くなっている。口は微かに震え、手も真っ白。これでは廻間が心配になって声をかけるのも不思議ではない。廻間はそんな凪に、お風呂入ってきなよと声をかけ、別荘に入らせた。凪は急いで風呂場へ向かい、嵜はいつの間にかどこかへと行ってしまった。1人取り残された廻間は、気にすることなく書斎へと向かっていった。

「(やっぱり、忘れられない、か)」

廻間は知っていた。凪が何故あんなふうになったかを。あの血だまり事件。元はといえば例の『殺人鬼』が起こした事件だったのだ。同期も殺害時刻も、分かりはしない。だが廻間には、『分かっている』とこが幾つかあり、それを彼に話せばいい話なのだが、『事実』をいきなり言われ、狼狽えない人間がどこに居ようか。それだけ、廻間の秘密は彼、いや彼らにとっては重いものだった。かくいう廻間も、それを受け止め切れていない部分がある。それでもなお、廻間はその『殺人鬼』を追い求めている。

「(僕がどうこう、って出来るわけないんだけど。こういうことは、自分達で解決させる方がいいのかな)」

廻間は1人、誰にも話せない悩みを1人、抱えていた。





「くそっ、なんて役立たずなんだっ」

ドンッと思い切り壁を殴る男が1人。
ここは警察署。とある市の警察署。その警察署に、一つの難題事件が降りかかっていた。そう、『渚グループ総帥夫妻殺人事件』である。どこをどう調べようにも、侵入された跡もなく、それでいて目撃証言もなく、そして困ったことにその夫妻の子供達が行方不明となっているのだ。これでは犯人はますます捕まらない。だが分かっていることが一つ。それは『例の殺人鬼』による犯行だということ。今までにその殺人鬼が起こした殺害の手口が、今回の事件と全く同じだからである。そのため、その殺人鬼を全国指名手配しているのだが、有効な手がかりは未だゼロ。これでは、犯人の手のひらで動かされているのと同じ事だった。そんなことに、この刑事、「斗澤 永楽(トザワ エイラク)」は苛立ちを隠せないでいた。

「犯人からの脅迫文とかもねえし、メッセージもねえし、かといって見かけた奴なんて1人もいねえし………どうなってやがる。それに、子供が行方不明?何なんだホントにあの家は!!」

またも苛立ちが隠せず、思いっ切り壁を殴る。そんな斗澤に後ろから「おい」という言葉がかかった。斗澤は振り返りもせず、その相手の名を呼んだ。

「…………なんなんだよ柊」
「気持ちは分からなくでもない。だが感情を噴出させるのはよせ。余計前が見えなくなる」
「分かってるっつーの。けどよ、ここまで何も無いってなると、我慢できねーんだよ………!くそっ」
「侵入された痕跡もない、目撃証言もない、渚家は関わるな一点張り、おまけにその子供が行方不明。………確かに、何もかも『出来すぎている』。俺でもお手上げだ」

2人は同時にため息をつく。

「園村は?」
「安斎家に行ってる」
「安斎?渚じゃなくてか?」

安斎家、というのは、元々渚コンツェルンだった時に別れた、言わば渚の分家である。しかし大半は渚に対し敵意を持っている人間ばかりで、やることなすこと、渚にとっては不都合なことばかりやってくるので、渚からはスカンされているグループだ。因みにその安斎に所属していたのが廻間である。もっとも脱退したが。

「ああ。いくら分家であっても、今回の事件に一枚噛んでそうだから。園村がそこらへんを調べてる」
「そうなんか。ってーなると、また難しくなりそうだな………」
「それには同意見だ。ややこしくなってくるな、確実に」

2人の刑事は、薄暗い廊下でまた深いため息をもらした。


To be continued

※追記

先程のスレは間違いです。
こちらをお読みください

Re: Это убивает【2/22本編更新】 ( No.27 )
日時: 2015/03/29 21:07
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM




「ん………」

すぅっと目が開き、光が入ってくる。
とりあえず体を起こし周りを確認する。時計を見てみればもう真夜中であった。熱も下がり、頭痛も止まっていた。あれだけつらかった気だるさももうない。いつの間にか縛っていた長い黒髪は解かれていて、体の上にはブランケットが被せられており、ぐるりと後ろを向くと、疲れ果てたのだろうか、嵜と廻間と曙が机に突っ伏して寝ていた。灯りは少し抑えられているようで、眩しさを感じなかった。恐らく廻間あたりが灯りを弱めたのだろう。そして自分が今までソファで寝ていたことに今更気がつく。なぜこんなことになったか思い出そうとするが、記憶がない。あまりの辛さにすっぽ抜けてしまったのだろう。凪はそう考える。

「それにしても随分と懐かしい夢を見たな………」

人は死ぬ前に走馬灯を見る、と言うが、先程までの凪はまさにそんな状況だったのだろう。凪はソファから立ち上がると、ジャケットを羽織り、台所に立った。あの様子だと誰も何も食べずに看病していたのだろうとか思い、せめてもの仕返し(と言う名の感謝)に、料理を作ってやろう、ということらしい。凪は手際よく準備をし、髪をひとまとめに縛り、料理を作り始めた。


『死ね。お前、死ね。死ね。死ね。死ね。死ね、死ね、死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね廻間、死ねえええええええええ!!!!!!!』

目前に迫るナイフ。目の前の女はそう絶叫して廻間にナイフを投げた。目は充血して、やつれていて顔色も悪くて、いびつに曲がった左腕が自分を掴んでいて、振りほどこうとするけど力が強くてふり解けなくて。もうどうでもよくなった廻間は目を閉じて意識がなくなるのを待った。が。何故か顔に、生暖かくてぬるっとした気持ち悪いものがかかった。目を開いてみると、そこには自分を殺そうとした女が、血を吐いて目を見開いていた。そしてその後ろに第三の人影が映っていた。その人物はニヤリと笑っていて、口を三日月のようにしていた。顔ははっきりとは見えない。だが、その人物の手に何かがしっかりと握られてあったのはちらりと見えた。廻間は女を振り解き、そちらを見てみる。その目に映ったのは

『自分と瓜二つの人間が、人を殺して楽しそうに背中にナイフが深々と刺さった死体で遊んでいる』光景だった。


「ッ!!」
「ごがっ!!」

ガバッと体を起こす。が、その反動により頭が何かにぶつかり、表し難い痛みが廻間を襲う。思わず頭を押さえて悶えて後ろを振り向いてみると、顎を抑えて壁と向き合っている凪の姿が。そうか、凪の顎にぶっけたんだ。そう納得しつつ凪に謝りながら近づく。凪は若干顔を歪ませつつもまあいい、と許してくれたようだった。しかし凪は廻間の様子を見てギョッとする。

「おい、廻間……」
「え?」
「お前……紙、透けてる」
「え……う、嘘っ!?」

慌てて自身の顔を隠している白い紙に触れると、確かにしおしお担っていて、触れただけでも簡単にボロボロになった。無意識にその白い紙をすべて崩していまい、廻間の顔が顕になる。流石に凪は見たらいけないなと思い、廻間の顔から目を逸らしてはいたが。急いで自室に駆け込み、鏡を見ると

確かに廻間は泣いていた。

「な、なんだ……いつも通りじゃないか………っ。ははっ…」

廻間は涙をふき、白い紙を見つけてそれを顔に張り付ける。すると自然に涙は止まった。改めて鏡を見て確認し、廻間に戻ると部屋を後にした。


『う………あ………うわああああああああああああああああ!!!!』

それは数年も前の話。廻間が顔を隠す理由となったとある事件。あまりの辛さに、廻間は自身の顔を白い紙で覆い隠してしまった。当時の廻間にとってみれば、それがなければ顔を隠すことなんてなかった。いや、そうであったはずだった。そして、廻間として生きることもなかった。今思い出してみればほんとうに些細なことではあったが、当時は本当に大事だった。廻間はその思い出を振り返らないことにし、そして今までの人生を捨て、『廻間』として生きることを決めた。この話は、彼ら二人には話してはいない。知っているとしても、今の身内でいえば曙くらいだ。

「いやあごめんごめん!心配かけちゃってさ!!」
「………いつもの廻間に戻ったか」
「はあー、それにしてもお腹減ったー。何食べようかなー」
「もうそろそろ出来るから準備して待ってろ。ついでに2人を起こしておいてくれ」
「はーい。ほら嵜、曙!起きて!夕飯できるって!」

凪にそう頼まれた廻間は、無邪気な子供のように、まだねている2人を起こして夕飯の準備を進めた。その日並べられた夕飯は3人の共通した好物で、皆が幸せそうに舌づつみを打った。
そんな様子を1人除く人間が、月夜に照らされて輝いている。白い法衣にじゃらじゃらとついた両腕に巻きつけられた鎖、そして吸い込まれるような白い肌。

「見つけた♪」

そうつぶやいた時には、もういなかった。
その後には赤い液体が落ちていた―――――。


Fourcestory fin