官能小説(オリジナル18禁小説)
- Re: 創作BL短編等 ( No.1 )
- 日時: 2025/05/08 22:32
- 名前: 四阿
「狼藉」/和泉 七瀬×渚 夕凪
こうしていれば忘れていられる。
「や、っあ゛、それ…ッ」
こうしていれば無視していられる。
「なな、せッ……な、っう゛、やだ…!」
こうしていれば。
没頭していれば。
片付けられない頭の中に、目を向けなくて済む。
濁った目も、ひずんだ声も、その季節の事も。
一人で居れば全部が鮮明で、全部が押し潰しにくる。
あいつが死んでから、ずっと。
録音したものを延々と喋り続ける玩具みたいに、変わらない表情、変わらない声色。分別の出来ない記憶。
それら全部、ここにはない。
「な、っせ、…ッ何、なんなの、なんか言えよ、」
彼が手を此方に伸ばす。頬に指先の温度を感じる。
熱い。あついな。こんなに体温を上げて、必死に自分を求めている。目を合わせれば、涙で潤んだ葵色が、不安と快楽でパンクしそうになりながら此方を見上げているのだと分かって。
「…大丈夫、だから」
それしか言えずに、また奥に入り込む。太腿を持ち上げたままぐっと腰を押し当てて、とん、と彼の一番弱い所をたたく。
今回ばかりは怒られるかな、とか、考えたのに。
最低限の確認だけでほぼ言葉を交わさないまま、何も伝えずにここまでの事をしてしまっている。その癖、彼の口からは酷く焼き付くような嬌声ばかり。
甘えてしまう。だってここにはノイズがない。
世界から全く切り離されたようなこの部屋で、自分と彼、それだけ。それだけなのだと思わせてくれるから、どうしようもなくて。
「夕凪、…ね、…お願いだから、拒まないで」
…どうしようもなくて、なんて柄にもない。
狡い事をしている自覚はある。でも、こういった衝突、…否、自分一人の衝動。それを前にすれば簡単にぐらついてしまう程脆い人間だ、なんて事は、誰より自分が一番理解している。
思い出したくない。思い出したくない。
この熟れた声と吐息だけを聞いていたい。震える体の熱を、重い快感を、享受していたい。
感情の種類に良いも悪いもない。それらは等しく、時に凶器にさえなり得るものだ。…今、自分が彼にこうして向けているように。
「ッも、…っ七瀬、お前なに、何で今日そんな我
慢すんの、ッ…いつ終わんだよ…!」
「…やだ、もうちょっと、…ッ」
我慢、って。終わらせたくないから、我慢もするだろ。もう少しただ気持ち良いだけでいたい。
その後の事なんて考えたくない。だって片付けは下手くそなんだ。
「夕凪、…ゆうな。…ごめんね、」
もう少しだけ、散らかしたままで。