官能小説(オリジナル18禁小説)

Re: 創作BL短編等 ( No.5 )
日時: 2025/07/06 09:48
名前: 四阿

「瑕疵」/霄代 綴×霄代 繭

最中、こいつが背中に回してくれる手は優しい。
優しいというより、酷く弱い。
子供の頃からずっと消えない傷痕。体が修復しきれなかったらしい、白く膨れたそれの幾つも残る背中。そこに触れる繭の温度は、いつも遠慮が
ちだ。
どんなに蕩けさせても、意識を手放すんじゃないかと思う程与えても、そんな所だけはどうしたって理性的に思えて。…いえ、こいつの根底を考えれば、これは寧ろ本能なのかもしれないが。
確かに少し爪が立てば、鈍いがしっかりひりつく痛みは走る。薄い布越しに触れるような、決して気分の良い物ではない感覚。体調や天気次第で、刺激なんてしていなくてもそれは重くなる事だってある。
きっと全部理解してこいつなりに大切にしてくれているのだと、それこそ痛い程伝わる。
でも、そんな事なんて気にしていられない位飛んでしまえば良いのに、とか、どうしても考えて止まらない。

「……爪、立てて。大丈夫だから」
そう促せば、此方を見つめながらくっと力を入れる。そんなに目で訴えなくたって、良いと思っていなければ、ハナからこんな事は言わないのに。
腰を進めて、奥に入り込んで、高く苦しげな声と共に更に指先が傷に食い込もうとする。
痛い。痛い。…きもちいい。
自覚出来る程の甘ったるい息が勝手に出ていく。
きっと相手にも伝わっている。
でも違う、ちがう痛い事が好きな訳じゃなくて。
こんなの、繭じゃなければなり得ない。

「つづ、り、…ッ?」
繭は相変わらず窺うように、濡れた鳩羽色を此方に寄越す。
ああもう、そんな風に見んなよ。柄でもねえ事言ってんのは、自分が一番よく分かってる。
だって良いじゃねえの、どうせお前ならそれも愛してくれんだろうが。

誤魔化すようなキスにも、悦ぶようにくぐもった声が二人分重なる。全身がぞくぞくして、挟るような腰の動きも一層増して。その癖手つきだけは優しく彼につく肩口の傷痕を触ってやれば、きゅっと中が締まって。
自分達における傷痕というのは多分、忘れられない、忘れてはいけない過去だ。繭にとっては失敗の証、俺にとってはそれまでの人生。…いや、正しく人と言えるものでさえなかったかもしれない。
でも、互いがそれを愛してはいけないなんて事もない筈で。
丸ごと包み込んで一緒に生きていくと決めたから、俺にもきちんと触って欲しかった。

傷によって張った皮膚は、"次"がないように、という計らいか、今度は傷がつきにくくなる。
でも、痛みは感じられるのだ。愛する人間から与えられるこの痛みは。
甘く宿って、じくりと肌の奥に残ってくれるのだ。
辛かった事なんて全部放って、こいつの痛みにしたい。
だから、

「…まゆ、もっと」

お前の傷にしたいよ。