官能小説(オリジナル18禁小説)
- 自立の代償
- 日時: 2016/05/23 21:46
- 名前: 斎藤ロベール
今日も一日、何とかやり過ごせますように。廻田聡真(かいだそうま)は、何の信仰がある訳でもなかったが、今朝もそう心に祈り、家を出た。外は爽やかな五月晴れだった。
就いた仕事は三年間続けろと世間では言う。また、何事も十年経って一人前だとも言う。大学を卒業してすぐ高校教師になった聡真は今年で三十三歳。仕事の十年目に当たっていた。大学進学しなかった友人には、もう十五年ほど同じ仕事を続けている者がある。
聡真は重い気持ちで担当の進学クラスの戸を開け、朝の連絡を淡々と、しかし笑顔で済ませると、早々に職員室へと引き上げた。自分の席に腰掛けるとまず、時計を見た。そして今日の時間割を確認し、どれだけ空き時間があるのか、何時頃には帰れるのか、一日の流れを思い浮かべてみた。
生徒の顔を見ることにも授業をすることにも喜びはなかった。美術部顧問をしていたが、それも然りであった。
いつからこうなったのか。夜までとことん生徒と付き合って活動していたかつての自分を振り返ると、今の自分の一種の無能さに聡真は呆れる思いだった。
とにかく帰りたい。休みたい。それが聡真の心の、職場での基調なのだった。そろそろ自分に終わりが近づいているかのような気分だった。
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- Re: 自立の代償 ( No.1 )
- 日時: 2016/05/26 06:39
- 名前: 斎藤ロベール
「先生、人物画のコツってありますか。」
昼休みに、部員で一年生のマーヤが職員室に現れた。この女子は、ほとんど毎日、休み時間には聡真のところへ、ものを尋ねに来るのだった。
マーヤは黒い瞳の、黒髪をおかっぱにした細身で小柄な生徒だった。顔つきは子供っぽいけれど、整っていた。人数不足のため存続の危ぶまれている美術部の中では活動的なほうだったが、絵に情熱があるというよりは、最初から聡真に興味があったように見えた。
こんな生徒は、所によらず時代によらず、高校には必ずいるものである。そして、高校の若い男性教師と言えば、女子生徒との色恋沙汰で一悶着あるというのが世間のイメージだ。女子生徒のほうも、「女子高生」のブランド名を掲げて、あらゆるメディアで大人との関係を取り沙汰されること、枚挙に暇がない。
実際、聡真の後輩に当たる或る教師は、顧問の女子バスケット部の生徒から告白されただけでなく、悪く言うとストーカーじみた追い掛けを受け、その後、その女子生徒の友人に告発されたかどで退職していた。連絡も絶えた。今はどうなっているのか、当てのある筋に聞くのも何だか聡真には恐ろしく、分からないままになっている。
「あたし、男の人がうまく描けないんです。」
聡真は内心、面倒だと思いながら
「誰か捕まえて練習したら? とにかく数をこなすことだよ。」
と答えた
- Re: 自立の代償 ( No.2 )
- 日時: 2016/05/27 07:58
- 名前: 斎藤ロベール
「顔はいいんですけど、体が。肩とか難しくて。」
「写真でも見れば。」
「先生、モデルになってくれませんか。」
「時間がないからなあ。」
この曖昧な答え方が聡真のいつもの調子なのだった。それが、マーヤのような生徒には、想像の遊びに広がりを与え、喜ばせた。この態度は優柔不断なようで、生徒に考える余地を与えることになっていたから、マーヤでなくとも、聡真は大抵の生徒の信頼を自然と得ていた。
そもそも、何をするにも人任せなところが聡真にはあったが、それで何の問題もなくこれまで来ていたばかりか、むしろ上手く行くことの方が多いのだった。ただ、心身の不調だけはどうにもならなかった。
「あたしも先生のモデル、してあげます。」
「今はいいよ。」
他の教師の目を気遣って、置いた距離ではあったが、この生徒が一線を越えてくるのもあと少しであると思われた。どのように躱そうか。いや、そもそも自分はうまく躱せるのか。世間の想像と違い、いや、その通りなのか、高校の女子生徒など、まず体から求めてくるものなのだ。断れば、周囲を巻き込んで荒れる者さえ珍しくない。どう転んでもこれから起こりそうな面倒事に、聡真は憂鬱になった。ただ、若い女の体が魅力に欠けているはずもなく、二人のほかに人間が関わらないのなら、すぐにもマーヤの期待に応えてもいいと聡真は思ってみた。もちろん、何もなければ、それに越したことはない。
その日の放課後、結局、聡真は部活に顔は出さず、部長から終了の知らせを聞くと、部室を見ることさえしないで帰宅した。
- Re: 自立の代償 ( No.3 )
- 日時: 2016/06/01 20:20
- 名前: 斎藤ロベール
アパートに帰っても特別することはない。したいこともなかった。すべき事があるとすれば授業の準備である。しかし、聡真はとてもそんな気になれなかった。
いつかは、近いうちには、授業の内容を充実させるための勉強がしたい。そう思って、どれほど時間が過ぎてきたか。夥しい本を買った。まだ買い続けるのは止まらずにいる。ところが、その一つもまともに読めていない。
漫画も小説も楽しめなければ、映画を観ることにも耐えがたい重みが感じられた。
一つだけ、敢えて挙げられる可能な行為は、インターネットのポルノサイトを見ることであった。こちらは止めようとしても止められなかった。目の前に人参をぶら下げられた馬の喩えよろしく、いくら見ていても満足は得られず、かと言って、人参はいくつも現れるから、空腹の自分を抑えられない。休みの日には軽く五、六時間も続けて閲覧してしまい、体力ばかり消費して、疲れた翌朝を迎えた。
- Re: 自立の代償 ( No.4 )
- 日時: 2016/06/03 07:14
- 名前: 斎藤ロベール
聡真の見ていたものは、小学生の裸を写したようなサイトに限られた。そういうものを見ると、サイダーのような性欲と喜びとが感じられた。子供の裸があれば何でもよかった。性行為や、猟奇的な内容は全く必要なかった。
ただ女の体に触れたいのなら、街で風俗にでも行けばよかった話である。聡真の疲れた心にとって、何より裸の子供に触れることが肝心なのだった。しかし、写真を見るよりほか、聡真の思いの叶えられる筈はない。一層それ故の苦しさだった。それを麻痺させるため、毎日アルコールが欠かせなくなった。
一体、これからどうすれば良いのか。聡真は自問し、積んである本をめくっては閉じ、またパソコンの電源を入れる。生きている気のしない生活だった。
- Re: 自立の代償 ( No.5 )
- 日時: 2016/06/05 19:13
- 名前: 斎藤ロベール
「生まれる前から繋がっていて
私のことを見ていてくれた
でもこれからは
私の隣で歩いていって
ずっと 永遠に」
マーヤは歌のこの部分を繰り返しながら聡真をよく思った。そして、大人の落ち着きを湛えた聡真の柔らかな笑みが、自分だけに向けられる時を夢に描いた。恋をしていることがこれほど幸福を感じさせるものかと、毎日を何かに感謝したい気持ちだった。
ベッドに入り、明かりを消すと、花の香りに似た甘い恋のイメージは蜜のような濃さを伴い、体を目覚めさせた。昨年まで、腿を擦り合わせていただけだったのに、今では指を使っている。清純な昼の乙女が着けているのは、夜に汚れた下着だった。真昼の軽やかさまでも夜の夢が次第に染めつつあった。マーヤは聡真の体を求める自分を認め、少しでも触れる機会を探って近づいた。聡真に関係することなら、吸い寄せられるかのような熱心さで、調べ、学び、取り組んだ。
- Re: 自立の代償 ( No.6 )
- 日時: 2016/06/13 06:19
- 名前: 斎藤ロベール
ついに来る時がきたと聡真は思った。職員室の聡真の机の、置いてある本の下に手紙があった。聡真が来るより早く登校して置いたのか、きのう聡真が帰ってから置いたかのどちらかである。差出人と文面を流し読みしただけで内容は明白だった。だからそこには興味がなくて、電子機器全盛のご時勢に手紙を選ぶとは面白いものだなどと思ったが、立場を反対に考えたら、やはり自分でもそうするだろうと、国語科の根性がこんな所に顔を出すのを馬鹿馬鹿しく思いながら、聡真は納得した。
マーヤは行動的な分、せっかちでもあることが手紙から分かった。付き合ってもらえないなら、せめて初めての人になって下さいとあり、更に、場所の都合が面倒だろうから、「先生のいいように」立ったまましてくれるだけでも良いと書いてすらある。よほど思いつめたものだと聡真は思った。
いつものだるさの変わらない聡真には、判断力が欠けていた。それを自分でも知っていた。手紙を返そうとする意志もなく、成り行きの心配も、どうでもよかった。早くこの面倒臭さから解放されたいとばかり願われてならなかった。
- Re: 自立の代償 ( No.7 )
- 日時: 2016/06/16 20:58
- 名前: 斎藤ロベール
恋い焦がれる情が人を動かす力は侮れないものである。短期間のうちに、インターネット上の聡真の「顔」をマーヤは殆ど調べ尽くしていた。そして、自分よりずっと年下の少女に、異常な熱意で繋がりを求めている聡真を、沢山のサイトの中に発見していた。幾つもあるペンネームもメールアドレスも調べて分かっていた。
マーヤはそんな聡真のことも、好きだという気持ちを通して知ったため、意外ではあっても、怖れたり、ましてやそれを口実に脅したりする気は毛頭なかった。聡真の、女性器に対する執着、小さな胸や体臭への興味を知ると、どうしたら自分の体で聡真を喜ばせることができるか、真面目に考えたくらいだった。
実を言えば、聡真は既にマーヤの体を、実の親などよりも目で見て知っていたのであった。マーヤのほうで、小学生と偽って、インターネット上のページに聡真を招き、体の写真や動画を送っていたからである。もちろん二人とも仮名であるから、聡真のほうは相手がマーヤだとは分からないでいた。これ以上に恥ずかしいことは無いと言えるほど、マーヤは女のところを見せてあった。
逆に、聡真が自分の写真を送ることは決してなかった。だが、マーヤは自分のページに聡真向けでない写真も載せていたので、他のユーザーから、男性器の画像その他がたくさん届いていた。それで、男のこともよく知っているつもりでいた。
- Re: 自立の代償 ( No.8 )
- 日時: 2016/06/29 06:58
- 名前: 斎藤ロベール
結局、放課後の美術準備室でマーヤの思いは遂げられた。スカートの下に何も穿かず、綺麗に剃り上げて、中には若さの粕を溜めた女の武器に、意志のない男の性欲は根こそぎ抉り取られた。自分にこれだけ力が残っていたのかと驚く勢いで、聡真は、壁に寄りかかる乙女のマーヤを背後から突き抜いた。
「先生ありがとう。お腹の中がとても熱い。」
喜びに頬を赤く染め、仕事を済ませた満足を瞳に湛えたマーヤは最後に
「失礼しました。」
とお辞儀をして去っていった。
聡真は、数ヶ月来の体のだるさがすっかり抜けた不思議さに唖然としていたが、いま、心に快活さと、ある安心とが漲るのを感じていた。女の本質的な力だろうかと、天を見上げる気分だった。
- Re: 自立の代償 ( No.9 )
- 日時: 2016/07/05 07:19
- 名前: 斎藤ロベール
それから聡真は露骨にもマーヤを下宿に呼んでは交わり、学校の準備室でも、プリントを渡す気軽さで交わった。聡真の体に作られる男の精は毎日残らずマーヤの腹に移されて、空になった。マーヤの腹の奥には、「女の日」であっても、聡真が生きて動いていた。
元気になったことと、この交わりとを除いては、聡真の態度は変わらないのだった。だからマーヤの聡真を思う気持ちも変わらなかった。そして事実上、マーヤは聡真の愛情を独占していた。
体の結びつきが強すぎた二人は、心で求め合うことをしないで済んだ。至極自然な振る舞いに、二人の関係を怪しむ者は現れなかった。
「生まれる前から繋がっていて
私のことを見ていてくれた
でもこれからは
私の隣で歩いていって
ずっと 永遠に」
この歌をマーヤが歌うのを聞いた時、聡真には、歌詞があたかも自分の発した言葉であるように思われた。
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