官能小説(オリジナル18禁小説)
- 女だもの。
- 日時: 2016/12/03 22:03
- 名前: 七夜
初めましての方は初めまして。七夜と申します。
「ニッチな小説」板の方で、「文ストで色々。」というスレで活動しています。文スト好きの方はそちらも見ていただけると嬉しいです( ´ ▽ ` )
R18官能小説を書くのは初めてです。拙いものになってしまうとは思いますが、少しでも興味がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。
***
ああ、わかってるよ。
こんなのおかしいよ。
だってほら…私、絶対こんなの、望んでなかったよ?
痛い。ああほら、痛い。痛いだけだよ、こんなの。
…痛いだけの、はずなのに。
だってほら、私、そうするしかなかったんじゃん。
ああ、どうしたって、溺れるしかなかったんじゃん、ほら。
…私だって、
「女だもの。」
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- Re: 女だもの。 ( No.1 )
- 日時: 2016/12/06 20:53
- 名前: 七夜
prologue-all
朝。
「よっこらせ」、なんて、16歳の女の子には似つかわしくない言葉を発しつつベッドの上で半身だけ起こす。
…腰痛いな。最近ちょっと金欠だからって、報酬は弾むからっていう言葉にやすやすと乗るんじゃなかった。お陰で腰が怠いに限らず全身が鉛のように重たい。…まあ、お金は3倍にしてもらったし、前払いだから裏切られることは無いわけだけど。
季節は夏の終わり。
横で寝ている気弱なおっさんを横目に見る。おっさん言うけど、多分40歳はいってない。ただなんていうか、仕事のことでストレスでも抱えてんのか、妙にくたびれた顔だ。寝顔だから余計よくわかる。…あたしは昨日、コレに金払われて抱かれたのか。
やっぱ、女捨ててんな。
やっぱ、女捨ててんな。
誰の話って、うちの姉の話だ。今も、昨日から姉は《仕事》に出掛けていて、朝なのに家に居ない。《仕事》なんかしなくたって、姉のスペックなら彼氏のひとりやふたり出来てもおかしくないんだから、その人とすれば…とは思うが、やはり、お金絡みなんだろう。………。
そりゃあさ…姉が悪いなんて、私は思ってないけどさ。誰が悪いと言えば父だと断言するけどさ。けど…けど、高校生なんだし、もっと真っ当なバイトとか、したらよかったのに。ま、貰える量に限界があるってことだろうけど。もう、姉の現状は、見てられない。嫌だ、やめてほしい。
ああ、最悪だ、最悪だ。
ああ、最悪だ、最悪だ。
もう、わたしがここに在ること自体がもう、許せないくらい。誰からも求められない、つまらない人間のくせに、外面だけ異常によくて。単純な能力だけが、ずっとずっと上を行っていて。中身を見れば、ああ、何てことない…それどころか、ずっと最低で下衆なやつだわ。
だから、壊れたがってる。
ずっと前から、何もかも投げ出して、ぶっ壊れたいって思ってる。グズグズになって、誰にも見向きされなくなったとき、初めてわたしは「わたし」を認識できるんだと思う。
…だから。
壊れたいから、毀れたいから。そして、請われたいから、乞われたいから。
自らの躰を曝して、無様に啼くのだ。
自らの躰を曝して、無様に啼くのだ。
結局男どもに出来るのはその位の事なのだ。みっともなく不恰好に情けなく、女に跪いてその身を呈し、啼いて傅くべきだ。
まだ24の女が出した、ひとつの結論だ。
…まあ、女という生き物よりは、男の方が愚かゆえに高潔と言える。この場合の愚かとは、愚直というものを指す。逆に女は、愚かも愚かで、どぶに嵌ったまま足掻く、汚らしい生き物。この場合の愚かとは、そのまま愚者というものを指す。
だから男は、愛おしい。
だから女は、厭らしい。
だから女は、厭らしい。
だから女は、厭らしい。
だから女は、厭らしい。
そう。
私達もまた、その、「女」たちなのだ。
- Re: 女だもの。 ( No.2 )
- 日時: 2016/12/18 10:38
- 名前: 七夜
episode.1
prologue-maki
朝。
痛い、腰が痛い。お腹もちょっと痛い。躰全体が重くて怠い。何て言うか…液状化した重たい鉛が全身を支配している感じ。ま、もう慣れたけど。
重たいのを無視して、半身をベッドから起こす。…やっぱ腰痛い。
昨日と同じ客。
隣に寝ているこの人。2夜連続とか、珍しいこともあるものだ。少しクセのある絡み方をしてくる壮年のおじさん…てかまあおじさまで、中々嫌いじゃなかった。痛くなかったし。起きてみればすんごく痛いけど。
「…ふわぁぁ」
大あくび。
可愛げの欠片もなくそんなことをすれば、部屋の隅の壁にある鏡に映った自分の顔が、酷くやつれて見えた。…可愛くない。花の十代がこれか。なんかもう泣きたいわ。泣くの面倒くさいけど。
「よいしょ…」
ベッドからしっかり起き上がって、ぽてぽてと歩く。軽くシャワーを浴びてから、半袖のゆるいTシャツを着てショートパンツを穿く。特に凝った手入れもしていない、3ヶ月前くらいにショートにしたっきり放っといたら伸びてしまった黒い髪。相変わらず真っ黒だ。少しくらい茶色くてもいいのに。
肩にタオルを掛けながら部屋に戻ると、壮年のおじさまが起きていた。
「ああ…もうシャワー浴びたのかい」
「うん」
「もう帰るのかい?」
「うん、帰る」
「そうか。…ちょっと待って」
おじさまはそう言うと、ごそごそと高そうな革の鞄の中を漁って、「はい」とカードを渡してきた。
「これ。好きに使っていいよ、100万入ってる」
「………え」
「ああ、心配は要らない。クレジットじゃなくて、どちらかというとクオカードとか図書券みたいなものだから。使えば無くなって、0円になれば価値もなくなる。そうなったら捨ててくれ。それを提示すれば、大抵の店では使える」
「…ありがと」
「やだな、お礼だよ」
ふわりと微笑して、おじさまはシャワー室に向かった。微笑んだ顔が何だか酷くやつれて見えて、鏡の中で見た自分と重なる。…本当は、悪い人じゃないんだろうな。関係ないけど。
だから、出来るだけさっぱりと別れを告げて、去る事にした。
「じゃあね」
「…ああ」
ホテルから出て、街を歩く。結構暑い。重たい躰が、うだる暑さでもっと重くなる。歩くのすら嫌になる。
季節は夏の終わり。
これは私の日常。
それは、世間から見れば、非合法の非日常。
…やっぱ、女捨ててんな。
16の夏がこんな終わり方するなんて、世間様のJKからしたら許せない終わり方だろう。…関係ないけど。
陽炎の揺らめく街道を行く女子高生の後ろ姿は、ゆっくり前に進みながら、しかし底無しの沼へと堕ちていくのだった。
これはあたしという女の話。
episode.1
maki harukata
- Re: 女だもの。 ( No.3 )
- 日時: 2016/12/21 20:55
- 名前: 七夜
1.榛片 舞樹
「おはっすー」
「おは〜久し振りー!あ、ねぇ宿題やった?」
「やった…ていうかなに、あんたやってないの?」
「へへ、あったりまえじゃん」
「何をもって当たり前なのかわかんない」
夏休み明け初日の学校。
だるい身体を無理やり動かして登校すれば、クラスの友達とだるいやり取りをする。夏休みの宿題をやってないのが当たり前とか、どういう神経をしてるのか知りたいところではあるが、それを聞くのも面倒だし意味が無いし、やめておいた。
そのまま流れるように別の友人に話し掛けに行ったその子に構わず、窓際の席に鞄を下ろし、手早く準備を済ませて着席。どかっと腰を下ろして頬杖をつき、窓の外を見やる。快晴とはいかないものの、気持ちの良い青空が広がっていた。まだまだ気温は高くて暑い。…だが、夏休みが終わっただけだというのに、何だろう、夏が終わってしまったように思えてくる。夏休みっていうのは、学生にとって相当に大きな意味を持つものらしい。
なんてぼんやり考えつつ、空を眺める。雲の動きはかなり鈍く、ここから見ると動いてないように見える。そのどんよりとした感じの動きが、なんとなく自分のこの感じと重なって可笑しかった。
「おい、ハルマキ」
「痛…?」
頭にくる鈍い痛みと、安直なあだ名。浸っていた思考の世界から引き戻される。正直、もっとずっとぼーっとしてたかったので、不機嫌そのままの表情で窓と反対方向に振り返ると、あたしの頭を叩いたそいつは「うげっ」という声を出した。…そんなに酷い顔してたか、あたし。
「久し振りだな、ハルマキ」
「…うん、久し振り…ハラマキ」
「お前その呼び方そろそろやめろよ。何だよ、腹巻きって」
「じゃあ春巻きって呼ぶのやめて」
「嫌だね」
「じゃあハラマキって呼んでもいいでしょ」
「いや、ハルマキはまだいいけど、ハラマキってなんか嫌だろ?」
「意味わかんない」
そう言ってふいっとまた窓の外を眺めようと思ったら、「待てよ」と止められた。…何なんだろう。
「お前…そう、夏休みってどっか行った?」
「特に」
「そ、そうか。俺はな、ユニバ行ったぞ、ユニバ」
「あそう」
「何だよお前その反応、もっとなんかあるだろ、普通」
「なんかって、何」
「何って…何でもいいだろ、羨ましがったりさ」
「別に羨ましくないし…」
「…は、はん、そうかよ、このぼっち」
「悪かったね」
そう言って、あたしには珍しく悪態をついてニッと口角を少しつり上げてみせると、ハラマキは急にあたふたして「じゃ、じゃあな」と別の友達のところに行ってしまった。行ってしまったと言うが、席が隣なので、結局後から戻って来るんだけど。…ていうか結局あいつは何の用だったんだろう。
そのあとは窓の外をずっとぼーっと見て過ごし、HRの時間までずっとそうしていた。ハゲた担任の話など興味も無いので聞き流し…たいところだったけど、今回は少し珍しいことを聞く。
「えー、今日から転校生がこのクラスに来る。高校で転校生ってのは珍しいからな、わくわくするだろー、お前らー」
…特にわくわくはしないけど、少しは気になるところだ。
- Re: 女だもの。 ( No.4 )
- 日時: 2016/12/24 21:43
- 名前: 七夜
「せんせー、それ女の子ですかー、男の子ですかー?」
「それは見てからのお楽しみだ」
「えー、けち!」
「どうせすぐ見れるんだからいいだろう」
「そうだけどぉ。あれ、もうそこにいるの?」
「いるぞー、扉のすぐそこにな」
「まじ?イケメン男子だといいなぁー、目の保養になる」
「おばさん臭いこと言うなお前」
おそらく先生のことをさほど尊敬してないであろう女子クラスメイトと尊敬されない先生が調子のいいやり取りを交わす。まあ、あたしも先生のことを尊敬なんかしてやしないけど。
そのまま先生と女子生徒はいくらかやり取りをしあったあと、さすがに転校生を待たせすぎるのはマズいと言って、「おーい、入ってきていいぞー、待たせたな」と呼び込んだ。
ガラガラガラ。
「…女の子ぉ?」
「え、やだ、可愛い」
その子が入ってきた瞬間にざわつくクラス。
確かにその子は凄く綺麗な顔をしていた。可愛い、という声が聞こえたけど、可愛いよりは綺麗って感じだ。清純と言えばいいかな。
けど、それより気になったのは、色素の薄い栗色の、サラサラの髪。それから、髪と同じ色の目。肌も色白だし、背は高いのに身体の線もかなり細いし、全体的に儚い感じがする。
その女の子は壇上に上がり、ぺこっと一礼…。
…女の子?
「初めまして」
その子から発せられた綺麗なボーイソプラノの声に、クラス中からため息がもれる。容姿に似合って、声も綺麗だ。高すぎないのがなんか綺麗。
ここまででは、ただの可愛い女の子。いわゆる美少女だ。制服も女子の物。
だけど、この違和感は…そう、これは…。
「僕は、ここのえ らいと言います」
そう言うと、先生に視線で軽く了承を得てから、黒板にチョークで名前を書いた。「九重 莱」。一応ふりがなもふってくれる。
…クラスがちょっとざわついた。さっきのとは違うざわつき。多分、一人称の「僕」だろう。だけどこのご時世、僕っ娘なんて人もいるわけだし、とみんな勝手に納得したようだった。
これでもまだ女の子。
けれど、あたしが感じる違和感は、漠然としたものから、はっきりとしたものに変わっていた。
多分、この女の子は…いや、女の子に見えるこの子は。
「こんな格好してますが、僕、男です」
さらっと、しかしはっきりとその事実を告げた。
ざわつきじゃない、確かな喧噪に、クラスが包まれた。
なんとなく察しはついてたものの…この子、女の子にしか見えない。や、むしろ、本当は女の子だけど、男だって偽ってるんじゃないか、と思うほど美少女。
…待って、そういうこと?
胸はぺったんこだけど声は高い。背は高いけど、モデル体型と考えれば何も不思議じゃない。男子特有の無骨な感じとか、肩の広さとか、輪郭の四角い感じとかが、まったく感じられない。ただ、なんて言えばいいのか、雰囲気というか、細かな動作とかに、何となく男っぽさが感じられる。だからはじめ、男だと思ったのか?………。
あたしは、こと「人間観察」に長けすぎたらしい。
今更ながらそれを実感する。転校生ひとりとっても、見れば見るほど、その人の隠し事も秘密も裏事情も、大体わかってしまうクセがある。…それが外れた試しがない。ただの日常でこんなことを実感するのも、なんかおかしいなと思いつつ、また美少女転校生を見る。
「えっと…これから、よろしくお願いします」
はにかみながらぺこりと一礼するその子に、クラスからまたため息。しかし、ため息の後にざわつき。…「そういやこいつ男だっけ…」みたいなことだと思う。
…はぁ。
面倒だな、この特性も。
面白くない…本当、面白くない。
秘密がわかるなんて、何も得しない。ドキドキ感もワクワク感もない。転校生の事情までは今はさすがにわからないけど、まあ会話する機会があったらすぐわかっちゃうんだろう。…はぁ。
あたしが心の中でため息をつきまくってる間に、転校生の席が決まったらしい。…あたしの隣。
あれ?
あたしの隣って、空いてたっけ。
- Re: 女だもの。 ( No.5 )
- 日時: 2016/12/28 23:09
- 名前: 齋藤ロベール
この感じ、比較的好きです。展開が楽しみです。
- Re: 女だもの。 ( No.6 )
- 日時: 2016/12/30 19:46
- 名前: 七夜
齋藤ロベール様
コメントありがとうございます!
これからもよろしくお願いします( ´ ω ` )
- Re: 女だもの。 ( No.7 )
- 日時: 2017/01/03 20:50
- 名前: 七夜
「…ハラマキ、席替わったの」
「おう」
ハラマキが転校生と席を替わっていた。ひとつ後ろで、教室全体では1番後ろの、隣に誰も居ない席に行っている。………。
「ほら…転校生、1人の席じゃ可哀想だろ。だから、替わってやろうと思って」
「…ふーん」
あたしの隣嫌だったのかな。そんな素振り見せた事無いけど。
心なしか気の抜いた顔をしてしまっていると、ハラマキは怪訝そうに言った。
「何だよお前…怒ってんの?」
「何で?」
「…あっそう」
怒ってんの、と訊いたくせに、今度はハラマキが怒っている。…?
よくわからないうちに、転校生はタイミングを計らってか、軽い会釈と共に「よろしくね」と言ってきた。適当に「よろしく」と返す。多少素っ気ない気もしたけど、これくらいでいいだろうか。
…そういえば名前何だっけ、と思って、黒板を見直す。ちょうど先生が黒板に書かれた「九重 莱」を消すところだった。危ない。
ちらっと横目で窺うと、ハラマキは何ということもないように普通にしていた。………。
「えー、では、連絡に入るが…こら、ざわざわしない!ああ、チャイム鳴っちゃったじゃないか…」
なんかすっきりしない気持ちと共に、HRもぐだぐたのまま終わったのだった。
***
あたしはイライラしている。
何でイライラしているかって、そりゃ、
「ねぇどこから来たの?」
「待ち、今わたしが質問してたの!」
「九重くんって普段メイクとかすんの!?」
隣がうるさい。
転校生ひとりでこんなに騒げるとは、恐るべしJK。いやあたしもJKだけど。なんていうか…「JK」って言葉の響きには、「女子高生」という意味以上の特殊なニュアンスがあると思うのだ。それを踏まえて考えると、あたしはJKとは言えない気がする。
そうこうしていると、1時間目始業の予鈴が鳴った。転校生の周りに集ったJKたちは残念そうにしながら席に戻っていく。ようやく静かになるか…。
「あの…」
「…?」
静かになると思ったのに、転校生に声をかけられてしまった。
「初めまして、九重 莱って言います…あの、あなたの名前は何ですか?」
「ああ…榛片 舞樹です。漢字はこれ」
適当にファイルから紙を引っ張り出して、「榛片 舞樹」とその上に「はるかた まき」と書いた。転校生は得心がいったように微笑んで頷いた。
「よろしくね、榛片さん」
「…よろしく、九重さん」
「え?」
「ん?」
至極普通に返したつもりだったが、変な顔をされてしまった。…なんか変な事言った?
「あ…いや、何でもない、ごめんね」
けれど、そう言って転校生は前を向いてしまった。
何を引っかかったのか訊きたかったけど、開始のチャイムに疑問を消されてしまった。
- Re: 女だもの。 ( No.8 )
- 日時: 2017/01/12 23:43
- 名前: 七夜
「…だるい」
4時間目終了後、昼休み。
ここまで過ごしてきて、超絶怠かった。腰が。痛いというより怠い。原因はわかりきっているものの、しかし、これは怠い。
それに、今日は転校生に教科書を見せるために机をくっつけて授業を受けるというJK真っ青のイベントがあったため、必要以上に人からチラチラ見られて、それが凄く気に障った。怠いのはそのせいもあるかもしれない。とりあえず…疲れた。
…お昼どうしよ。
いつも購買でパン買って食べるから、今日もそのつもりだったんだけど…とにかくだるくて動きたくない。眠いし。あぁでも、お腹すいた。どうしよ。
ま、いっか。寝よう。
午後になってまともに日が差してきたせいで、この窓際の席は非常に暑かった。夏はまだ終わらねーよ、と太陽に言われた気がする。なんかそうやって考えると、無性にイライラしてしまうのだった。やめよう、寝よう。多少投げやりな感じでカーテンを閉めて、机に突っ伏した。
***
がさり。
「………?」
耳の横で音が鳴った。
正確には、耳の上の方で音が鳴った。頭に何かを乗っけられた感じ。音からすると、ビニール袋のような…。
「何寝てんだよハルマキ。お前昼食ってねえだろ」
「…はら…まき?」
「その呼び方は肯定しないけど、一応そうだ」
いつもの口調…悪態とも言い切れないような、微妙に悪意のある口調で、ハラマキは「ほい」と机の上にビニール袋を置いた。
「昼だよ。そんな量入ってねえけど」
「…ハラマキは?」
「俺は購買行った」
「…これは?」
「コンビニで買ったやつ。元は俺の昼になるはずだったやつ」
…つまり、自分が昼ご飯にしようとしてたものをあたしにくれて、自分は購買で新たにパンか何かを買ってきたということ?
がさがさと袋を覗くと、甘そうな菓子パンがふたつ入っていた。ハラマキ、甘いもの好きなんだ…似合わな…。
「…ちゃんと食べろよそれ」
そう言ってふいっと何処かに行こうとするハラマキ…を、呼び止める。
「待っ…ハラマキ、お金は」
「バーカ」
振り返って、彼はこう言うのだった。
「貸しだよ」
…その菓子パンは、妙に美味しかった。
***
「榛片さんって、原町くんと付き合ってるの?」
こそこそと耳打ちするように、九重さんは訊いてきた。女子特有の恋話というやつだろう。そういえばハラマキの名前って、原町…ハラマチ シュウキなのは憶えてるんだけど…シュウキの漢字が思い出せない。いやそれよりも、九重さんに返事をしないと。
「付き合ってないよ」
「え、そうなの?」
「うん…そうだけど?」
「へ、へぇ」
途端に引きつった顔をする九重さんに、変な子だなと思う。事実、付き合ってないんだし、やっぱりあたし変な事言ってないよね?
「じゃあじゃあ…ど、どう思ってるの?」
「は?」
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