官能小説(オリジナル18禁小説)

闇に囚われる。
日時: 2017/03/30 15:03
名前: 錐床の墓


ーー政府非公認の市場で行われる闇オークション。
その競りに、私は"出品"されていた。
じゃらじゃらと音を立てる黒い鎖。品物に合わせて嵌められたそれは、私の自由と幸せを奪い、社会の闇へと突き落とした……。

ーー真っ暗な会場で行われる、悪趣味な見世物。観客はその光景に興奮し、或いは品物の程度を測り、買い取るか否かを判断する。
淡々と品物に目を通す観客の目は、ゾッとするほど無機質でーー硝子玉の様に思えた。
観客の多くは、政治に関わる人間による人間の売買取引。人が家畜を見定める様に、同族である人間を取引する場所。
ある者は、自身の歪んだ欲を満たすために。或いは、違法製造工場で働かせる労働力を求めて。時には、生きた人間で造られたーー芸術作品や玩具として。
狂った人種による、狂気のオークション会場ーー。
それがこの場所だ。
ーー狂ってやがる。
思わず嫌悪に顔をしかめた。とても常人がいるとは思えない。
ーーそして自分は、そんな狂った場所にいるのだ。
そう認識した途端、一気に恐怖と吐き気、目眩に襲われる。ムカムカと胸の辺りがぐらつき、うっと口を押さえる。視界が点滅し、謂れの無い恐怖に身が強張る。思わず屈み、ーー堪えきれずに嘔吐した。
ゲェゲェと胃の中の物が吐き出され、ビチャバチャと音を立てて飛び散った。吐瀉物の臭いが辺りに広がり、臭いと異変に気づいた係員が飛んでくる。
一瞬で理解した係員が憤怒の表情で怒鳴り、罵倒し、私の体を蹴り飛ばした。衝撃で咳き込み、痛みに表情が歪む。
「ーーこの糞餓鬼ッ!! テメェは大事な品物なんだ!! 余計な手間掛けさせんじゃねぇ!」
更にもう一発蹴りが入った。今度は鳩尾に当り、呻く事しか出来なかった。
くそったれ...! 思わず内心罵倒し、両親を憎んだ。
直後、別の係員に連れられ、清潔な布服へと着替える。ボロ服を脱ぎ、家畜を見る様にブラシとバケツの水で擦られ、洗われた後だ。
蹴られた箇所はまだ痛むが、大分楽になった。
……自身の性別は女だからか、どうも身成を整えて売る様だ。
歳は16だが、充分"女"として売れる。
ーーそう考えて敢えて、このオークション会場に売り払った両親が憎い。もし目の前にいれば、確実に殺した。
やがて足枷が嵌められ、オークション会場の売り場へと連れられる。
……地獄の死に様への、第一歩が。
ーー幕を開けた。
「では皆様! ーー御次は16の娘、タニーナァ!! 価格は130000ドイチェ!」
私の値段が告げられ、競りが始まる。
私の買い取り金額が次々と 言い出され、重ねられ、やがてーー私の買い取り金額が決まった。買い取り主は、ーー人間の剥製造りが趣味の、狂人。
会場の裏へと運ばれる。
男はにやりと厭らしい笑みを浮かべ、私に手を伸ばした。まるで哀願動物のように。ペットに対して、撫でる様に。
新しい玩具を、試すようにーー。
サッと頭を過ったのは、見世物小屋で拷問される子供の姿。爪の一枚一枚を剥がされ、鋭い針でゆびを貫かれ、悲鳴をあげる様をーー観察し、ニヤニヤと楽しむ観客の姿。
この男も、同類なのだろう。なら、

ーー私は、死ぬまで、この男に飼われ続けるの?
ーー嫌だ。ーー死にたく、無い!!

その言葉が浮かんだ瞬間、買い取り主を突飛ばした。拘束具は外され、ーー自由の身だ。周囲には主人と引渡し人しかいない。
そう分析し脇目も降らず駆け出した。
逃げろ。

走れ。

走れ。

走れーー!!

「おいっ! ※※※番の餓鬼が逃げたぞっ!」
「なっ!? ーーまさか、逃げるかッ!」

係員が次々と現れる中、作業中の奴隷達の間を私は駆け抜ける。
係員の言葉に、思わず笑みを浮かべる。逃げる切れる訳がない。なら、取るべき方法は一つ。
走り続けた結果小さな空いた部屋を見つけ、忍び込んだ。
息を整え、何かしら凶器になる様な物を探す。
古びた箱の中に、良く研がれたナイフを見つけた。
それを手に取り、感触を確かめる。
ーー飼われ、殺される位だったら……!
覚悟を決めた、

その時。

勢い良く扉が蹴り開けられた。
見つかったーーそう考え、突き刺そうとした。
しかし。
何故だか手が、動かなかった。
死への恐怖感ではない。躊躇した訳でもない。
ーーまるで、蛇に睨まれた蛙の様に、動けなかった。
体が強張り、脳が動く事を拒絶したかの様な、奇妙な感覚。
やがて、ナイフを取り落とした。自分の意思ではなく、自然に。
ーー操られている?
奇怪な事だが、そうとしか考えられなかった。相手が、ナイフを屈んで拾う。
ふと、相手の紫の瞳と視線が合わさった。
ぐらりと、体から力が抜ける。何故だか酷く眠くなった。
駄目だ、眠っては...いけない......のに。
私は、そこで瞳を閉じてしまった。

...倒れ込むように崩れ落ちた少女の体を抱き留める。痩せて入るが、比較的健康な体付き。華奢で儚げな顔立ち。
その少女の表情は、安らかだった。生きている。
その事に男は安堵すると同時に、さらりと少女の長い髪を撫でる。
もうすぐ係員が、駆けつける。処分は、恐らく確実だろう。
しかし、この少女は殺させはしない。
ーー俺が買い取るからな。
男は薄く笑うと、係員が駆け付けるまで、静かに髪を撫でていた。
慈しむ様に。

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