官能小説(オリジナル18禁小説)

雨傘に野良猫
日時: 2019/05/29 23:42
名前: 白楼雪

最初に

調教、没にして申し訳ございません。
何か色々設定とか考えていたらうだうだになりまして、
そんな状態で書いてもどこか窮屈な気がしたんです。

新しく書く「雨傘に野良猫」はある夜にずぶ濡れになった男を拾った女性との話です。
R18要素もありますが、恋愛小説よりになると思います。
自分元々純愛系メインだったので、原点回帰をと思い、
そして何れ程成長出来たかの確認も込みという感じです。

途中や完結を読み終えた後、感想とか貰えたら嬉しいです。
成長してたら嬉しいな。

では始めます。

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Re: 雨傘に野良猫 ( No.1 )
日時: 2019/05/30 00:19
名前: 白楼雪



   プロローグ 雨と傘



「最低!何で分からないの?」
その日町中の小さな喫茶店で、恋人に振られた。
奥まった窓際のボックス席。四人掛けの席で恋人にグラスの水を浴びさせられた。
肩に触れる黒髪から、幾つもの滴がテーブルに滴り落ちる。
別に浮気をしたわけでも、恋人に暴力を振るったわけでもない。
寧ろ、今暴言等を投げつけられているのは、この俺加賀(カガ)武臣(タケオミ)の方と言えるだろう。
「俺が何したっていうんだ…」
本心からの言葉を溜め息混じりに口に出した。
だが、それが余計に恋人の怒りに火を付けたらしい。
不意に右頬に熱い痛みが響いた。その痛みを与えたのは、向かいの席から身を乗り出した彼女の左手のひらだったようだ。
「…っ、…ぅ…貴方がそういう男だからよ!貴方は私を見てもくれなかった」
熱を帯びた頬に触れ叩かれたという事に漸く気づいた時、彼女の声が嗚咽混じりである事に気づいたが、恋人の声が加賀の伸ばそうとした手を遮った。
「…もう、別れましょう?疲れたわ」
苦笑と頬を伝う涙で、彼女が最終通告を加賀に問い掛ける。
今まで幾人の女性にも言われてきた言葉に、再び溜め息が溢れた。
加賀自身目の前の恋人を愛していない訳ではない。彼女を愛していたからこそ付き合ったわけで、そこに嘘偽りはなかったが、答えは過去の恋人達に宛てたものと変わらなかった。
「わかった」
例え此方が彼女を愛していたとしても、相手にその気持ちがないのなら意味などない。
意味がないなら引き摺る必要性もないというのが、加賀の答えだった。
すると再び目の前の彼女の怒鳴り声が響いた。
「ほら、やっぱりね。貴方に、人の心なんて分からないのよ。さようなら!」
ダークブラウンのショルダーバックを掴み、足早に元恋人は立ち去っていく。
彼女のバックには付き合い始めの頃にねだられ買った、ペアのストラップが小さく揺れていた。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.2 )
日時: 2019/06/08 03:46
名前: 白楼雪

一連の様子を見守っていた店内の客達も、彼女が立ち去った事でそのざわめきを薄れさせていく。
もう二度とこの店は通えないな。結構気に入ってたんだけど。
たった今恋人を泣かせ振られたというのに、まるで他人事の様な思考になった。
そしてそれは、今回に限った事ではない。
今まで数人の女性と付き合ってきたが、毎回同じような終わりを迎えてきたのだ。
加賀自身その時々付き合った恋人の事は本気で愛していたし、大切に思ってきた。上手くいかずどの女性とも長続きこそしなかったが、別れを言い渡すのはいつも彼女達の方だった。
それでも自分には彼女達を幸せに出来なかったが、どうか別れた女性達が幸せになる事を祈ってきたし、振られたり暴言を吐かれても本気で嫌いになった事など一度もない。
きっと自分の心は、ずっと昔から、もしかしたら最初から渇いているのだろう。
だから恋人を愛しても、それが足りないのだ。
『貴方は私を見てくれない』と彼女は言った。
その言葉を聞いても、良く理解出来なかった。
ただわかるのは、加賀の見ている世界はどこか絵画を思わせるという事だ。
現実なのに現実らしくない。他人と一枚の透明な壁で遮られている。そんな錯覚を思わせた。
「あの、お客様。こちら良ければお使いください」
女性の店員が一枚の白いハンドタオルを手渡す。
そこで漸く加賀は我に返った。
「ありがとうございます。すいません、お騒がせしてしまって」
ここで断るのも違うと思い、苦笑を溢しながら店員からタオルを受けとる。
店の喧騒も今はなく、客達は各々の時を過ごし始めていた。
男女の騒々しい別れ話も片割れの彼女がいなくなる事で冷め、客達の興味を失わせたせいだろう。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.3 )
日時: 2019/06/19 00:55
名前: 白楼雪




   ※※※

店員からタオルを受け取り、髪の水滴を拭った加賀が店内を出たのは数分前。
本来の代金に幾らかの金額を上乗せして-店員に始めは断られたが、お願いして受け取って貰った-会計を済まし店を出た時は、既に空は灰色の雲に覆われていた。
一雨降るだろうか。そんな思いに呼応するよう、アスファルトに水滴が落ちる。
「雨、降ってきたな」
先程元恋人に水を掛けられ、今度は突然の雨に降られる。
天気予報を確認しなかった加賀自身が悪いと言えばそれまでだが、自身の気分としては厄日としか思えなかった。
シトシトとアスファルトは水滴を滲ませ、乾いていた歩道は降り続ける雨に染まっていく。
そんな地面を見つめ、次に天を仰ぐよう雨を見上げる。
潤いのない自身の心にも、この雨の様な潤いがあれば良いのに。
傘も指ずにずぶ濡れの加賀に、不意に声が掛けられた。
「お兄さん、傘、入ってく?」
背後の声に加賀が振り向くと、そこには背に掛かるストレートに流れた黒髪の女性が、透明なビニール傘を片手に微笑んでいた。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.4 )
日時: 2019/06/21 23:23
名前: 白楼雪

一目で思ったのは、ナンパをするには向かない女性という印象。
クリーム色の七分丈カーディガン。濃紺でシンプルなブラウスに、白いフレアスカート。
肌を露にし過ぎず、化粧も薄い。例えるならば、大人の清楚なお姉さんと言ったところだろうか。
「あら?ずぶ濡れを好む人なのかしら?」
だが、世間知らずや天然というわけでもないらしい。言葉に辛辣さもある。
苦笑混じりに問う、彼女に加賀は数秒悩んだ。
元彼女への後ろめたさはない。既に吹っ切れている。
目の前の彼女が持つ傘は、大人二人が入る事も出来なくはない。
苦笑を浮かべ、答えを待つ彼女も決して好まないタイプではない。
ならば、必然答えは決まっていた。
「いや、入らせて貰うよ」
加賀の返事を十数秒も待たされたというのに、彼女は何も気にしていないようだった。
すっと彼女が距離を詰める。柔らかな石鹸のような香りがした。
薔薇やバニラ、ラベンダー等と違う、優しい香り。
それがシャンプーなのか、香水なのかは知らないが、今の加賀には癒しを得られた。そんな気持ちにさせる香りだった。
寄り添うように傘に入れてもらうと、彼女の背丈が加賀の肩辺りである事を実感する。
「ねえ、傘持ってくれない?」
自身よりも背の低い彼女にとって、加賀を入れながら傘を持つのは少し手間なのだろう。
「悪い、気づかなかった」
そういい加賀の右手が、彼女の持つ傘に触れる。
その際、僅かに触れた彼女の指先が、細く華奢で『あぁ…、女性だな』なんて事を改めて思った。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.5 )
日時: 2019/07/02 01:50
名前: 白楼雪

「行きたい所は?」
緩やかな歩調で雨に染まり続ける道を進み、彼女へ問う。
彼女の傘に入れて貰って居るのは加賀の方で、彼女が行きたい場所があるのなら、そちらを優先するくらいのマナーは心得ている。
そんな紳士的な精神でいたせいだろうか。彼女が口にした言葉に驚きを隠せなかった。
「そうね、ホテルが良いわ」
「へ?…え、ホテル?」
会って数分の男に、オフィスビルやカフェ等が建ち並ぶ街中で、ホテルへ行きたいと誘うとは…。
いや、艶のある癖一つない綺麗な黒髪。健康的でそれでいて日に焼けていない肌。
すらっとした身体には豊かな胸元。そして甘く優しい香り。
そんな彼女に誘われて、嫌悪な気持ちはないのだが。
「…ねえ、もしかして何か勘違いしていない?」
戸惑い立ち止まる加賀に、彼女が瞳を細め鋭く問いかける。
「私が誘っているのは、ビジネスホテルよ?だって貴方…その格好だと、何処にも行けないじゃない」
彼女に責める言葉を吐かれ、漸く理解が追い付く。
確かにこんなずぶ濡れの服装では、何処の店にも入れそうにない。
服屋に向かっても良いが、近くに男性向けの服屋も見当たらない。
そしてここはビジネス街付近。ビジネスマン向けのホテルは沢山ある。
「…あぁ、そうか。悪い、とりあえずあの辺りでも良いかな?」
一人空回りしていた事を思うと、羞恥心が加賀の頬を染めてしまう。
視線を合わせる事も出来ず、もっとも近くにあったシンプルなビルのホテルを提案した。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.6 )
日時: 2019/07/11 10:48
名前: 白楼雪



   ※※※

加賀が提案したホテルは、平日だったという事もあって直ぐにチェックインする事が出来た。
始め加賀はシングルを二部屋取ろうかと思ったのだが、彼女に『ダブルの部屋で良い』と言われそのままダブルの部屋を一つ取り、部屋に急いだ。
そのホテルは大手チェーンのビジネスホテルらしく、室内は清潔で落ち着いた造りだった。
「お風呂、ユニットバスみたいだけど、どうする?」
トイレとユニットバスのある狭い部屋を覗き、彼女が問い掛けてくる。
「シャワーだけで良いよ」
そんな彼女に背を向け、加賀はベッド横にあるクローゼットに、脱いだ上着を掛けていた。
ハンガーに掛けた黒地のカーディガンは湿気を吸い、どこか寂しげに見える。
「そう?分かったわ。ところで…」
ユニットバスからバスタオルを二枚抱えて、彼女は加賀に歩み寄ってきた。
さっきともに歩いた距離感よりは離れているが、それでも二人きりの室内。大きめのベッド。そして何者にも邪魔される事のない一時。男なら意識せずにはいられない。
詰め寄られる距離で再び、あの優しい香り。自然と心拍数が増していく。
だが、彼女は笑顔でそれらの淡い期待を消し去った。
「お兄さん、何て言うお名前?」
突然名前を聞かれ数秒固まる。そういえばお互いまだ名前も名乗っていなかったのだ。
「……加賀」
とりあえず名字のみ名乗って見る。
すると彼女は不満そうな表情で加賀を見つめた。
おそらく『下の名前』を教えろという事なのだろう。
彼女は優しげな雰囲気だが、意外と意志が強いのかもしれない。きっと教えるまで不満を消し去りはしないだろう。
「…加賀、武臣」
面倒事になるくらいならば、名乗ってしまう方がずっと楽だ。
そう思い名前を教えると、彼女は微笑みふかふかの白いバスタオルを一枚加賀に手渡した。
「武臣さんか、素敵なお名前ね。私は速見(ハヤミ)雫(シズク)よ。雫って呼んでくれて良いわ」
心が疲れ雨に降られた身体に、柔らかなバスタオルと優しい微笑みは狡いと思う。
しかし今はそんな一時が、雫という目の前の女性が、加賀の心には必要だった。
そしてこの出会いが、この先加賀に大切なものを幾つも教えてくれるのだ。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.7 )
日時: 2019/07/13 12:36
名前: 白楼雪




   一話 温もりの共依存



カチカチと壁掛け時計が秒針を刻む。
クリーム色の壁紙に、ダークウッドのフローリング。一LDKの静かな部屋で、二人の男女が寛ぎ過ごしていた。
加賀が速水雫と出会った日から既に三ヶ月の時が流れ、今では時折こうして彼女の住むマンションに通う事も、既に日常だった。
「もうそろそろ、夕飯作ろうか」
リビングのソファーで寄り添いあい映画を観ていたのだが、彼女の言葉に窓の向こうの景色が、夕闇に染まりつつある事に気づく。
「手伝うよ」
紺色の布地ソファーから立ち上がった雫に、加賀が声をかけた。
今日は予め泊まっていく約束をしていたので、食材とかは待ち合わせした後に共に買ったのだ。
速水雫は、その容姿に違わず、料理や掃除等もそつなくこなす女性だった。
プロを思わせるようなものではないが、お洒落なものから家庭的なものまで、日々の生活に僅かな幸せを彩るには充分な家事が出来る人だ。
加賀も一人暮らしなので一通りの家事は出来るが、彼女の能力には遠く及ばない。
しかし及ばないのと、行動しないのは違う。
「そう?それじゃ私はメインを作るから、武臣はサラダをお願い」
そう指示する雫とともに、カウンターキッチンへ向かった。
何かをしてもらう代わりに、加賀も出来る範囲で返す。
彼女の優しさに頼り過ぎないよう、重荷にならないようにする。元彼女にはこんな気持ちは懐く余裕もなかったというのに、雫といると労る気持ちが自然と溢れてくるのだから不思議なものだ。
「ドレッシングはさっぱり系?それともまろやかなのが良いかな?」
隣で食材を切る雫に、加賀が問う。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.8 )
日時: 2019/07/23 22:48
名前: 白楼雪

「今日は暑かったし、さっぱりしたものが良いわね。確か冷蔵庫に柚子があったはずだから、それを使うのはどうかしら?」
彼女の言葉に頷き、加賀は冷蔵庫から香り豊かな柚子を一つ手に取り、ついでに刻んだ小葱のパックを取り出した。
今年の夏は例年とそれほど変わらないと、テレビでキャスターが言っていた。
それでも何故か毎年「今年は去年より暑いな」などと思ってしまうのだから、本当にどうしようもないものだ。
「こんなものでどうかな?」
柚子の果汁に、細く刻んだ皮。雫がいつも作りおきしている小葱に、塩胡椒と生生姜の細切りを混ぜ合わせたドレッシング。それをティースプーンで一掬いして味をみる。
爽やかな柚子と生姜に、小葱の香りが良く合う。
味がぼやけないように加えた塩胡椒が程好く旨味を引き締めて、加賀自身としては良い味に仕上がったと思った。
「私も味見させて?」
小さな笑みで、加賀の使ったスプーンを雫が受けとる。
彼女は、速水雫という女性はこういう僅かな時に心の距離が近い。
もしかしたら加賀に対してだけそうなのかもしれないし、誰に対しても変わらないのかもしれない。どちらにしても彼女と知り合って日の浅い加賀が、そんな事に悩んでもきっと無意味なのだろうけど。
その後彼女の御墨付きを貰ったドレッシングは、グリーンサラダの上で艶をもたらし食卓に色を添えていた。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.9 )
日時: 2019/07/24 12:15
名前: 白楼雪

グリーンサラダに、雫の作った白身魚のムニエル。炊きたての白米に、絹さやと豆腐の味噌汁。それらを並べ夕飯を食べたのは二時間程前。
食後のコーヒーを飲み、交代で風呂に入り、そして加賀と雫は今薄暗い寝室にいた。
「…っ、…ん……」
カーテンの隙間から溢れる月明かりが、皺の寄るシーツに光を落とす。
ベッドの上には抱き合う男女の姿があった。
「雫…」
吐息を混じらせ、彼女の唇を加賀の唇が重なる。
雫の家に来るようになって、もう何度目の情事だろうか。
あの雨の日に出会って数日、加賀と雫は互いの年齢が三つ離れている事を知った。
加賀は二十四歳。そして雫はそのさらに三つ年上だった。
だが、こうして加賀の唇に、指に翻弄されている彼女を思うと年の差などあって無いようなものだと改めて実感する。
元々加賀の容姿は年相応と言われているが、雫の容姿や表情は、少し幼さを感じさせるものがある。
もっと言うならば、加賀より年下と思われても不自然には思えない。それほどあどけなさを感じさせる女性なのだ。
「ねぇ…何、考えてるの?」
雫の豊かな胸を柔らかく揉み、その胸の薄紅の尖りを指先で擽っていると、雫が甘い吐息と共に不満を告げた。
女性と言うのはベッドで自分以外の事を考えていると、不意に察する事があると雑誌で読んだような気がする。今の彼女の問いもそういう事なのだろう。

Re: 雨傘に野良猫 ( No.10 )
日時: 2019/07/31 00:32
名前: 白楼雪

「…何も」
何も大した事は考えていない。目の前の彼女の事を考えていたわけだからやましい事もないのだから、わざわざそれらを言う必要もないだろう。
だが、雫の気持ちは違ったらしい。
胸元から腰へ。そして彼女の太股に触れようとしていた加賀の手を、雫の手に遮られた。
恥じらいによる抵抗ではない事は、彼女の不機嫌な表情を見ればすぐわかった。
ただ何故気分を害したのかまではわからない。
瞳を細め問うような視線を向け続けていると、雫が少し距離を取った。
「何も考えていなかったの?」
僅かに怒りを滲ませた瞳で、雫が鋭い言葉を投げてくる。
「いや、そういうわけじゃないよ。ただ言う程の必要がない事を、口に出して言わなくても良いだろう」
ベッドの上で、身体を重ねている女性を思う。
それは何も恥ずべき事ではないが、わざわざ告げる事でもない。彼女と出会った頃の事に思考が流れていたのは事実だが、他者を思うよりはずっと誠実だろう。
「…そう、でもそれでも、私は教えて欲しいと思った」
部屋着を掴み、胸を隠すように両手で衣服を抱く。その仕草から、彼女にその気が失せたのははっきりと読み取れた。
加賀には、時々女性の気持ちが良くわからない時がある。
なんでもかんでも言葉にしないといけないなど、煩わしいとしか思えない。
口にせずとも相手を信用していれば、不満も不安も生まれないだろう。少なくとも、加賀は何もかも言葉で伝えて欲しいとは思わない。
それで誤解されるのなら、それで良いとすら思っているのだから。

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