官能小説(オリジナル18禁小説)
- 【BL】この世界で【短編】
- 日時: 2020/03/18 18:41
- 名前: 孵化
※ここではR18の表現を多用します。18歳以下の方は見ないようにしてください。
初めての方は初めまして。孵化と申します。文章を久しぶりに書くので色々と不自然になるかと思いますが、読んでいただけると幸いです。
ここに置いておく物語は備忘録だったり設定を深める目的があります。断片的にぱらぱらと書いていきます。
書く予定のものの中に
・オメガバース、それに類するもの
・おじさん受け
・暴力表現
・倫理に反するもの
などが含まれる可能性があります。苦手な方はご注意を。
◆作品
設立日
2020/03/18
Page:1
- Re: 【BL】この世界で【短編】 ( No.1 )
- 日時: 2020/03/19 09:32
- 名前: 孵化
【オメガバース】【おじさん受け】
きっかけは、あまりにも偶然だった。
その日、電化製品の営業マンである白野 浩(しらの ひろ)は、営業先である会社のビルでトイレを探していた。プレゼンが終わり、先輩と昼食に行く前に済ませておこうと考えたのだが、初めて来るビルなので勝手がわからずにしばらくウロウロと辺りをさまようことになった。
そこまで急を要することではなかったが、こうも見つからないと不安になってくる。諦めて外でみつけようかと考えていると、やっとトイレらしき場所を見つけた。内心で安堵のため息をつきながら近づいたが、白野は再び問題に直面した。トイレの外には掃除用具やゴミを載せた大きなワゴンと、入口には「清掃中」という看板が見える。つくづくタイミングが悪いなぁと感じながら踵を返した時、ふとトイレの中から怒声が聞こえてきた。
詳しく何を言っているかは聞き取れなかった。怖い人もいるものだと、その時は関わらないように無視をすることにした。午後からもプレゼンを控えている、ここでトラブルを起こすわけにはいかない。
白野はこのビルの一階にトイレがあったことを思い出し、そこに行くことにした。エレベーターに乗り込んだ時、既にあの怒声のことはほとんど忘れかけていた。
- Re: 【BL】この世界で【短編】 ( No.3 )
- 日時: 2020/03/19 10:12
- 名前: 孵化
用を済ませ、先輩を待たせている会議室に戻る途中、再びあのトイレの前を通り過ぎる。もう怒声は聞こえなくなっていたが、ワゴンや看板はそのままだった。
しかし、不思議なのは誰の気配もしない事だ。掃除をしているなら清掃員が出入りをしても良さそうなものだが、そういった様子はなく、静まり返っている。もしかすると誰かが掃除用具と看板を回収し忘れたのかもしれない、そう思うと自分が馬鹿なことをしてしまったように思えて情けなくなる。深々と溜息をつきながら、興味には逆らえずに少し中の様子を覗いて見た。
まだ新しい会社のトイレは綺麗で清潔そうだ。やはり中に掃除をしているような人物はいなかったが、ひとつの個室のドアが半開きになっており、誰かの足が見えた。その足は時折震えており、白野はその時になってようやく誰かの苦しそうな呻き声を聞いた。
「だ、大丈夫ですか?!」
慌ててトイレの中に入り、その個室に近づいていく。
そこに倒れていたのは清掃員の格好をした男性だった。歳は40代ぐらいだろうか、白野よりも随分年上のように見えた。その男性は脂汗を滲ませながら倒れたまま嘔吐を繰り返していた。服や顔を中心に、白く粘ついた液体が付着している。
「あの、大丈夫ですか? 俺の声聞こえますか?」
一瞬ためらったが、人命には代えられないと思いきり、男性を抱き起こした。便器に持たれかけさせると、再び嘔吐したが、もう胃の中には何も入っていないようで、胃液を垂れ流すだけだった。
「取りあえず救急車呼びますね、少し待ってください」
背中をさすりながらスマホを取り出す。意識は戻ったとはいえ、ここまで苦しそうなら救急車を呼ぶべきだろうと考えた。しかし、白野の腕を男性の土気色をした手が掴む方が早かった。驚いて男性を見る白野に、彼は懇願するようにやめてくれ、とかすれた声を絞り出した。
「俺は、大丈夫だから……放っておいてくれ、頼む」
「で、でも体調悪そうだし、一応病院は行った方が……」
「後で行く。俺には金もないんだ、ことを大事にしないでくれ」
結局、男性の必死な様子に負けて白野はスマホをしまうことになった。
- Re: 【BL】この世界で【短編】 ( No.4 )
- 日時: 2020/03/19 13:47
- 名前: 孵化
「よぉ白野、遅かったな……ってなんて顔してんだよお前」
会議室で待たされていた会社の先輩である上原は、トイレから帰ってきたらしい白野を見て眉根を寄せる。帰ってきた後輩の顔色はトイレに行く前よりも数倍悪くなっていた。
「それが、さっきトイレで吐いてる人がいて、今考えるともしかしてあの人……」
「……オメガだったのか?」
白野は蒼い顔で頷いた。
この世界においてオメガは弱い立場に追い込まれている。定期的に発情期を迎え、仕事が続けにくいことや、フェロモンでアルファやベータを誘惑しトラブルが起こるなど、様々な問題が起こっているのが事実である。発情期を抑える薬もあるが、高額であるために貧困に悩む彼らへの普及率は少ない。
そんな彼らは性的被害に遭うことが多く、社会的弱者の彼らが声を上げることも困難なことを知った者たちからぞんざいに扱われてしまう。実際、脅されて子供を孕み、貧困の中で心中するような事件が多発し、社会的な問題として取り上げられることも多い。
白野の会社ではオメガの支援をするボランティア活動が盛んで、親戚にオメガがいる白野は彼らの問題に関して積極的に関わっていた。彼らが直面する問題を、少しは知っているつもりだった。
しかし、いざその現場かもしれない場所に居合わせても、自分は何もできないのだと、どこか悔しい気持ちになる。
「その人、どこにいた? まだトイレにいるかもしれない」
先輩である上原は、姉がオメガであるために白野と同様、ボランティア活動にも熱心だった。二人で行けば助けることもできるかもしれない、白野は頷いてさっきのトイレに上原を案内する。
「気分が悪そうだったって、発情期に働いてたのか、その清掃員の人」
「わからないんです、俺あんまりフェロモン感じられない体質だし……」
「そうだったな……あ、ここか?」
案内した先のトイレからは掃除道具や看板は取り除かれていて、男性が倒れていた個室もきれいになっていた。
「……この会社の人に言っておくよ、清掃員の一人が倒れていたって。お前の気遣いはきっと相手もうれしかっただろうよ」
あの人は、あのままどこかに行ってしまったようだった。何もできなかった歯がゆさに俯いていると、上原が白野の肩をたたき、励ますように頷いた。
「よし、午後もいろいろしなきゃいけないことがたくさんだからな! ぱっと飯食って打合せするぞ!」
「は、はい!」
上原の明るい声に白野も何とか答え、顔を上げた。しかし、そのあととった昼食は、あまりおいしくは感じられなかった。
- Re: 【BL】この世界で【短編】 ( No.5 )
- 日時: 2020/03/19 15:17
- 名前: 孵化
数日間が過ぎた。
あの男性が気がかりではあったが、名前も分からない状態でこれ以上どうすることもできなかった。会社に報告はしたようだが、あれからどうなったかは白野が知ることではない。日々の仕事の忙しさに流され、もやもやとした気分を抱えたまま、ぼんやりと過ごすことになった。
その日、珍しく早く帰れることになった白野は近くのコンビニで弁当とビールを買って上機嫌で帰宅していた。随分と寒くなってきた11月初旬の夜空を見上げながら、発売日に買ってそのままにしていたゲームに手を付けられるだろうと期待に胸を膨らませる。
自宅のアパートの近くにある公園に通りかかったとき、ふと目線を上げた先に人影が見えた。数人いるようで、互いにせわしなく声をかけながら公衆トイレから出て、逃げるように去っていく。気味の悪い胸騒ぎがして、急いで公衆トイレに向かった。
狭いその中は饐えたにおいで満ちていた。近づいただけで鼻を衝くそのにおいに眉根を寄せながらも、声をかけながら中に入る。
一つしかない個室の中に、あの時見た男性が座り込んでいた。灰色のトレーナーにはぐちゃぐちゃとした粘液のある液体と嘔吐物で汚され、下は何も履いていない状態だった。すぐ近くに落ちているジーンズは誰かに踏みつけられたように泥で汚れていた。
「どうされました!? 俺がわかりますか?!」
弱弱しい咳をするだけで、男性は白野の声にあまり反応を示さなかった。今にも閉じそうな真っ黒な目が、白野をぼんやりと見つめるだけだ。
うっすらと無精ひげの生えた細い顎には嘔吐物がこびりついている。唇からは色がなくなっており、顔色もどんどん悪くなっているようだった。あの時よりも随分とやつれた印象を持つ男性を見て、白野は震える手でスマホを取り出した。
その時。男性が目を見開いた。いきなり体を起こすと、白野の腕をつかむ。その力はあまり強いものではなかったが、その衝撃にスマホを落としてしまう。
「やめ、て……お願い、だから、それは……」
混乱している様子でぶつぶつとつぶやく男性の声はあまり聞き取れなかった。それと同時に呼吸音が乱れ、苦しそうにひきつった音が喉から漏れだした。受け止める間もなく彼は床に倒れこみ、体を丸める。
「わ、分かりました。救急車は呼びません、だから落ち着いて」
やっと我に返った白野は男の丸まった背中をさすった。少しずつ落ち着いていく様子を見て安堵のため息をつくが、この状態をどうしようかと頭を抱える。この状態ではこの人も弱ってしまうだろう。自分のジャケットを渡しながら、何とか絞り出した手段を講じることにした。
Page:1