大人オリジナル小説
- 生きる希望を下さい
- 日時: 2016/10/27 22:44
- 名前: 華世
私に希望の光は見えるのか――――。
■登場人物
*神崎 千聖(Kanzaki Chise)
私立中学受験に失敗して、母親から暴力を受ける。
*森川 紗雪(Morikawa Sayuki)
小学1年生の時に森川家に養女として引き取られた。
*宮坂 由麻(Miyasaka Yuma)
不良のリーダー。千聖を悪の道へと誘う。
*三島 玲(Misima Rei)
クラスの女子学級委員。誰よりもクラスの事を考えている。
*森川 千鶴(Morikawa Chizuru)
紗雪の義母。心配性だが紗雪を大切に思う。
*相澤 誠司(Aizawa Seiji)
紗雪が幼い時からお世話になっている男性医師。様々な知識に富んでいる。
■目次【お客様>>20】
♯プロローグ…>>1
♯1 操り人形は籠の中…>>7
♯2 鳥になりたい少女…>>14
♯3 生きているという事…>>17
♯4 幸せって何ですか…>>18
♯5 私の大嫌いな言葉…>>19
♯6 操り人形は束縛されて…>>25
♯7 私の心に悲しみを…>>26
♯8 夜に映える白い花…>>28
♯9 終わらない虐待…>>35
♯10 二度目の出会い…>>42
♯11 小さな挑戦、大きな勇気…>>48
♯12 太陽と月の花…>>53
♯13 君とあたし、違う道…>>58
♯14 堕ちていく自分…>>60
♯15 変わりゆく日常…>>65
♯16 善と悪の境界線…>>69
♯17 偽りの存在を捨てて…>>87
♯18 裏切りと別れ…>>92
♯19 心の中の雨…>>95
♯20 言葉の刃…>>100
♯21 蝕まれる身体…>>101
♯22 喪失と崩壊…>>103
♯23 僅かな願い…>>104
♯24 月明かりに照らされて…>>105
♯25 涙の告白…>>107
♯26 偽りの表情で…>>110
♯27 夢と現実…>>111
♯28 昂る鼓動を抑えて…>>113
♯29 最後のお願い…>>116
♯30 迷宮に囚われて…>>117
♯31 薬物依存症の罪…>>118
♯32 伝えたい…>>122
♯33 精一杯の言葉…>>125
♯34 懐かしい微笑…>>128
♯35 自由な鳥のように…>>129
♯36 変わらない教室…>>133
♯37 捕われた絶対女王…>>134
♯38 笑顔は夕日に照らされて…>>135
♯39 生きている証…>>136
♯40 未来へ向かって…>>137
♯41 迫る命のリミット…>>142
♯42 命の儚さ…>>143
♯43 花の如く…>>144
♯44 呟いた言葉…>>147
♯45 大切な日々を…>>159
♯46 満開に咲く頃に…>>160
♯47 世界に一つの…>>162
♯48 近づく別れ…>>170
♯49 彼女の心拍数…>>173
♯50 優しい温もり…>>174
♯エピローグ…>>175
あとがき…>>178
■お知らせ
・2014.1/3 完結しました。
・小説大会2013夏金賞 挨拶…>>167
・完結記念イラスト…>>181
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- Re: 生きる希望を下さい ( No.174 )
- 日時: 2013/12/24 16:57
- 名前: 華世
♯50 優しい温もり
「紗雪、生きて……!!」
嗚咽と震える声を押し殺して出た言葉は、意識が朦朧としている紗雪に聞こえていたのだろうか。
必死に口を動かして何かを伝えようとしている姿に胸が締め付けられる思いだった。
隣で涙を堪えていた千鶴さんが顔の近くまで寄ってどうにかして言葉を聞き取ろうとする。
「ここまで育ててくれて有難う。血は繋がっていなくても、お母さんの事、大好きだよ。ずっと元気に過ごしていてね」
紗雪はゆっくりと言葉を紡いでいくかのように、消えてしまいそうなか細い声で思いを伝える。
何度も何度も頷いて口元をハンカチで押さえている千鶴さんを見て、込み上げる感情が漏れないよう私は唇を強く噛み締めた。
「相澤先生」
心拍数を表示する機械を険しい表情で見つめていた相澤先生は、その一言で紗雪の方へと顔を向けた。
「先生は……あたしが小さい頃からずっと、助けてくれていたよね。入院生活はつまらなかったけど、先生のお話聞くのが唯一の楽しみだったな……これからも沢山の命を救ってあげて下さい」
苦しいはずなのに頑張って笑顔で言いたい事を伝えていく紗雪に相澤先生は強く頷いた。
「ああ、必ず……必ず沢山の命を救ってみせる」
その声は決意に満ちた、とても芯のある声だった。
紗雪はしばらく天井を見つめたまま、次第に弱まる心拍数の電子音と遠くに聞こえる雨の音に浸っていた。
「千聖……あたし、本当はまだ生きていたいよ」
視線を天井から逸らさずに、私が先ほど伝えた言葉に答えてくれた。
痛いのはとても辛い。闘い続けるのはとても苦しい。死ぬという事はとても怖い。
力のない笑顔の下にこれらの感情が隠れていると読み取れると同時に、ごく僅かであるが私も理解している。
「そうだよ……もっともっと生きていてほしい。これからも沢山お話したいよ!」
絞り出たような声で思っている事を吐き出し、彼女の手を握った。
「うん、あたしも。思えば千聖と過ごした時間、短かったよね。そういえば分裂した事もあったね……でもあたし、ずっと信じてた。戻ってきてくれた時、本当に嬉しかったんだよ」
快楽のためだけに紗雪を捨てて由麻たちの仲間になったあの日。
私は今でも忘れていないし、罪悪感だって消えるはずがない。
耐えられなくなって思わず俯いてしまった私の手を紗雪は握り返した。
「千聖はあたしの最高の親友。それはこれから先もずっと、変わらないって信じたいな……」
押し殺していた嗚咽が口の端から漏れる。
「うん。これから先も絶対に変わらないよ……!」
私の言葉に、苦痛に耐えながらも優しい微笑を浮かべる。
「ありがとう、千聖。大好きだ……よ」
小さな声が消えゆくと同時に、今まで刻んでいたはずの心拍数がとうとう延々と変わらない音を発するようになった。
それは、紗雪の死を残酷にも物語っている。
相澤先生の方を振り返ると、顔を顰めて静かに首を横に振った。
千鶴さんはその場に泣き崩れ、私は答えてくれるはずもない紗雪の名を叫んだ。
「紗雪……!!」
私はその後も声が嗄れて出なくなるまで何度も何度も彼女の名前を呼び続けた。
返事はないと分かっていても、また“千聖”と微笑んでくれる気がして。
まだ少し寒い春、紗雪は14歳という若さでこの世を去った。
満開の桜に見送られながら、優しい微笑を浮かべて。
握ったままの手は、まだ僅かに彼女の温もりが残っていた。
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