―――えー、意味分かんないんだけど。
―――おっかしくない? アハハハ。
何処にでもある、笑い声。
何処にでもある、談笑の風景。
なのに私にはそれがとても怖かった。
「……」
中一の、秋。
冬も迫ってきて冷たい風が吹き抜けてくる季節。
私の心身は、そろそろ限界に近付いていた。
今日もある練習に、心が疲れつつあった。
楽器庫の前で、思わずため息をついてしまう。
*
私、深上光はその当時吹奏楽部に所属していた。
楽器はトロンボーンで、ただ今まで楽器経験は無かったから、とにかく必死で練習していた。
私の通う中学校の吹奏楽部は、いわゆる強豪と言うやつで、
東日本大会、と言うかなり凄いレベルの大会まで出ていた。
そんな強い学校だから、練習も当然厳しかった。
土日は休日返上の練習、月〜金は余裕で朝練、午後は完全下校の時間まで練習…と言ったくらいに。
それに小学校からピアノとか楽器をやっている子も多くて、私と比べて上手い同級生がいっぱいいた。
そんな、厳しい吹奏楽部の練習が最初の内は楽しかった。
厳しいけれど、頑張ったらできるようになる。
たくさん練習しただけ、成果が出てくる。
一年生の内はコンクールに出られない、と言うのも楽しさの一因だったのかもしれない。
ピリピリとした先輩の雰囲気に気づかず、能天気に楽器を吹いていられたから。
――――――――けど、段々と、それは変わってきた。
「深上さん」
聞きなれた、先輩の声。
トロンボーンパートの二年の先輩・田宮美琴先輩だ。
肩がびくっ、と跳ねた。
おどおどろ先輩の方へと向く。すると、私の反応がおかしかったのか笑いをこらえている表情を見せていた。
気のせいだろうか。
その笑いは、毒々しく見える。
「何ぼーっとしてんの? 早く練習してよ。後そこにいると邪魔」
「あ、はい……ごめんなさい」
どうやら、楽器庫の前で突っ立っていた私を見かねたみたいだった。
先輩は目の前で大きなため息を着いて、私を押しのけてから楽器庫へと入って行った。
瞬時に謝ったものの、あまり効果は無かったらしい。
胸が、少しキリキリと痛みだす。
周りの声が、嘲笑う声のように思えてきた。
「練習…しないとね」