[ chapter 1 ]
図書館通いの日々を一昨日終え、昨日は中間試験を終え。
勉強詰めの日々からようやく一瞬解放された3年2組に今日、転校生がくる。
「 やっぱあの新築のとこだよね 」
「 かっこいい男子だったら超嬉しい 」
「 期待すると損するぞっ 」
仲良し3人組の私、恩香、鈴は、教卓を取り囲んでそんな話をしていた。
本音を言えば、私には転校生は関係ないだろうと思っていた。
かっこいい男でも美人な女でも、不細工な男でも太った女でも。
私は転校生と関わる気があまりなかった。いつもの3人組で仲良く卒業を迎えたいと言うのが本音だった。
朝の教室に予鈴が響く。3年にもなると、注意されずとも自ら着席するようになる。
しんとした教室。でも誰もが転校生への期待を抱いているのだろうと思った。
隣の席の荒居君も、美人に期待してるみたい。
さっきの鈴の「期待すると損する」という言葉を、荒居君に言おうか迷った。
がらっと、乱暴に教室の戸をあけて、背の低い中年女性教師が入ってきた。
後ろに続く子は――女の子だった。頭が下がっていて、顔は見えない。
ふと恩香の方をみると、残念そうな顔を浮かべている。かっこいい男子じゃなかったからね。
茶髪がふわふわ揺れている。地毛だろうか。あの茶髪は……。
顔をあげた女の子は、大きな瞳と綺麗な二重、上がった口角が可愛い子。
隣で荒居君が小さなガッツポーズをしている。
「 はいはい、静かにね 」
誰も喋ってはいないのに、担任の渡辺はそう言った。
「 知ってる人もいるかもしれないけど、xx県から転校してきた、桃澤唯子さん。自己紹介してもらいますね。 」
先生がそういうと、悟るように女の子が1歩前へ出て口を開いた。
「 初めまして、桃澤唯子です。よろしくお願いします。 」
深々と頭を下げると、教室からは拍手が起きた。
私は拍手を――しなかった。