大人オリジナル小説

いじめ崩し(いじめは私が無くす・心理療法士神尾の挑戦)
日時: 2014/05/31 21:44
名前: おきた達也

イジメは、いつまでたっても無くならない。

中学生A少年は、同級生の5人にイジメを受け、何度もお金を要求されノートに「もうこんなことはボクだけでやめてくれ・・」という遺言とイジメた5人の名前を残して自宅の勉強部屋で首を吊って自殺した。
女子高校生Bは、4人の同級生から度重なる陰湿なイジメを受けてイジメた同級生の名前とイジメの一部始終を書いたノートを残し学校の屋上から投身自殺を遂げた。

そんなイジメは、起こる度にテレビで取り上げられ教育評論家がもっともらしいコメントを語り、市や県も二度と同じ悲劇が起こらない様に最善の対処をして行きたいというコメントをお題目の様に唱えるがイジメは一向に無くならない。

ある5月の夕方、池袋のカラオケボックスで火災が起こった。しかしその火災はただの火災ではなく日本中を震撼させる事件の始まりだった。その火災がただの火災ではなかったのは部屋にいた焼死した男子高校生5人はその5人の中の一人が撒いたガソリンを全身に浴びせられガソリンを撒いた生徒が自らのライターでつけた炎に焼かれ焼死するという言わば無理心中に近い事件だったからである。

そしてその4日後、静岡県の中学校の屋上で7人の女子中学生が同じくガソリンに引火した炎に焼かれ全員が死亡した。

そう・・それらは事故ではなく明らかに仕組まれた事件だったのである。

その事件には、事件を起こした子供たちから先生と呼ばれる一人の男が関与していた。

その男とは、横浜に住む神尾まもる43歳、なんと子供たちからイジメの相談を受け自殺などをしないように対処する命の110番的な仕事を生業(なりわい)とする男であった。

神尾は、いくら心を込めて説得しても後を絶たないイジメによる子供たちの自殺に業を煮やしていた。
そして大人たちの無責任とも言える事後処理にも我慢がならなかった。
被害者であるはずの自殺した生徒の人権は踏みにじられ、イジメがあった事すら学校は隠蔽(いんぺい)する。そして自殺に追いやった犯罪者とも言うべき加害者の子供たちは「未来がある少年少女たちだから」と擁護(ようご)される・・・。
「そんな理不尽な事が許されていいのか!」神尾は何度も世間やマスコミに訴えたがうなづく者はいても真剣に行動を起こしてくれる者は皆無に等しかった。

そんな中で、神尾は、いじめられている子供たちに対して「悪魔のささやき」とも言える提案を試みたのだった。
もしこれが20年前であったならば、事件はこんなにも大きくならなかったと想像できるがインターネットやフェイスブックなどが子供たちの手で簡単に扱われる今日、それは津波が広がるように全国に飛び火したのであった。
神尾は、10年前、自分に心を開いてくれていたある男子生徒の自殺を止められなかったという苦い経験を持っていた。親身になって相談に乗り、学校やイジメている生徒の親にも直接に話をもっていったが信じられない対応をされてしまったのである。

学校の言う真剣な対応とは、全校生徒やホームルームで匿名にしてはいるものの「イジメられていると言ってきた人間がいるので絶対にイジメはしてはいけない。もしイジメを目撃したら先生に言う様に」という話をする事であった。さらに、イジメた人間の名前を伝えた事に対しての処置は、イジメた生徒とイジメられた生徒を放課後に一緒に呼んでイジメた生徒に「先生はイジメだとは思わないが、もうイジメと間違われるような言動は慎むように・・」と言って生徒同士で握手させる事であった。そんな処置でイジメが無くなるはずがない。イジメはより巧妙に陰で隠れて行われるようになった。そしてその生徒は、事態をより悪化させた神尾をも恨みながら命を絶ったのである。
それから神尾はその反省を生かし何人もの生徒の命を救ったが全国的には自殺する生徒は後を断たず、イジメ自殺のニュースを聞く度に神尾は自分の無力さを実感せずにはいられなかった。
そしてまた神尾がイジメの相談を受け面倒を見ていた中学2年の女生徒がイジメた人間の名前とやられたイジメを遺書に書き残し自分の住むマンションの屋上から飛び降り命を絶った。
学校は、事件を隠蔽しようとし、実名を書かれた加害者の生徒や親は自殺した生徒がノイローゼで被害妄想から自分たちの名前を書いた・・と事実を認めようとはしなかった。
全く変わらないその成り行きを見て神尾は激怒した。
そして一つの恐ろしい決心をしたのだった。

2014年4月27日、神尾はインターネットで自殺を考える少年少女に檄(げき)を飛ばした。

「自殺を考えている皆さん・・私は常々命は一つだ!死んだらお終いだ!絶対に死んではいけない・・という言葉を繰り返してきました。でも、そんな言葉は追い詰められた人には通用しませんでした。だからもう私は、死んではいけないとは言いません。でもよく考えて下さい。皆さんは悔しくありませんか?皆さんが「生きて行くのは死ぬより辛い」と思わせた人間をそのままにして自分だけ自殺して悔しくはないんですか?よく、自分の死によって自分をイジメた人間が自らのやったいじめを反省して心から悔い改めて欲しいといった内容の遺書を残して自殺する人がいますが、それでその自殺をした人が望むようにイジメた人間が反省した事がありましたか?そいつらは、皆さんの遺書を見ても何の反省もなく「あんな遺書を残して死にやがって頭にくる」といった感想しか持たない人間だと気づきませんか?イジメを感じ取っていながら阻止しようとせず見て見ぬふりをして助けようとしなかった学校や周りの人間が反省して事を公にした事がありますか?見て見ぬふりをした事がバレるのを恐れて隠蔽しようとするのを皆さんは何度も見てきているんじゃありませんか?そんな中で自分だけ死んだとしたらそれは犬死に以外の何ものでもありません。私はこれから皆さんの死が犬死にならない方法を提案したいと思います。それは、どうせ死ぬならば皆さんをイジメて皆さんに死を覚悟させた人間も全員一緒に道連れにして死のうという自分で言って恐ろしくなる悪魔の提案です。しかし、皆さんの死は無駄死ににはなりません。皆さんは犬死をする負け犬ではなくイジメをした人間は自分の命で清算しなければならないリスクを負うのだという事を思い知らせる英雄となるのです。今から皆さんをイジメた人間がたとえ何人でも一緒に道連れにできる方法を教えます。今から皆さんが相手が何人でも命を取れる位に強くなってもらって相手に復讐するなどという事は不可能です。そんな事が出来る位ならばイジメられて死のうなどとは思わないはずです。でも、死を覚悟すれば方法は存在します。その方法を実行する為にまずガソリンをポリタンク一杯ほど用意して下さい。これは10人位の人数を道連れにする時に必要なガソリンの量ですので数人ならば2Lのペットボトルに1〜2本のガソリンで大丈夫でしょう。自宅に車がある家は車のガソリン注入口からポンプを使って吸い出して用意できます。ガソリンを浴びせて火をつけて焼き殺すならば何の修練もいりませんよね!イジメの加害者を呼び出すのなんか実に簡単です。手紙で・・今はメールですかね「もうお前たちには我慢の限界だ!大人しくしてればいい気になりやがって!みんなまとめて俺が一人でぶっ殺してやるから雁首そろえて夕方5時に学校の屋上に来やがれ!」みたいな文章を送れば喜んで集まってくるはずですから・・さあ皆さん、イメージしてみて下さい。ガソリンをかけられて恐怖におののきながら命乞いする貴方をイジメた人間を見て皆さんは大笑いしながらゆっくりライターに火をつけて燃え盛る火の中で死ぬ時の快感は、寂しく一人で死んでいく時とは天と地ほどの差があるはずです。でも出来るならば私は皆さんに死んで欲しくはありません。死んで欲しくはないのですが犬死のような自殺をするのならば、今までのイジメられて悔しかった思いの丈を充分に遺書に書き残し皆さんに死を選ばせた人間に天誅を下して欲しいと思います。」
その呼びかけに一体何人の生徒がどんな反応をしたのか・・・後は結果を待つだけだった。

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いじめ崩し(いじめは私が無くす・心理療法士神尾の挑戦) ( No.21 )
日時: 2014/06/06 12:28
名前: おきた達也

拍手が鳴り止むか鳴り止まないかのタイミングで再び玉木アナウンサーの声が響いた。

「こちらに今の話を踏まえてどうしても発言したいという方がいらっしゃるので・・」

玉木アナからマイクを渡され先ほどの父親と同じくらいの年齢の男性が立ち上がった。

「静岡県から参りました鎌倉と申します。
私も先ほどの方と同じく中学生の娘をイジメで亡くしました。
神尾先生の話がまるで自分の事のようだという点も同じですし、うちの娘もどうせ死ぬならばイジメた生徒も道連れにして一緒に死んで欲しかったという気持ちも全く同じです。
ただ一つ違うのは、神尾先生に対する気持ちです。
私は今、神尾先生に謝りたい気持ちで一杯です・・・」

鎌倉の意外な発言に反応した神尾が鎌倉の方を振り返る。

「こんな方法があるならば、本来、私を始めイジメで子供を亡くした親の誰かが考え出し実行しなければならなかったのではないか?・・そう思いました。
私は事件の後、加害者を恨み社会を恨み抜け殻のような毎日を送って来ました。
それが池袋のガソリン事件があって、その発端となったのが神尾先生の発言だと知り頭をハンマーで殴られたような気持ちでした。
私は神尾という人間に興味を持ち知る事が出来る限り調べました。
最初は「この人の目的は何だろう?」「何がメリットなんだ?」そんな穿った見方しかしていませんでした。
しかし神尾先生にはこれだけのリスクを負ってまで得る利益など何もない・・これが私の結論でした。
私は、イジメで子供を亡くした経験もない神尾先生だけが重い十字架を一人で背負わされてこうして矢面に立っていらっしゃる事が申し訳なくてたまりません。
最初この番組を観ていて私は「コメンテーターは口先ばかり一丁前の事を言って何の実行力もないいい加減な人間ばかりだ・・」と感じていましたが、そういう私も全く同じだと思いました。・・神尾先生・・」

鎌倉が見つめる神尾の間が潤む・・

「神尾先生・・本当に申し訳ない・・・私は、政治家の警察も学校も人間すべてが信じられなくなっていました・・でも神尾先生によって人間をまた信じてみようという気持ちになりました・・・心から感謝いたします。有難うございました!」

鎌倉はそう言いながら深々と頭を下げた。

神尾も席から立ち上がり鎌倉に向かって深々と頭を下げて返した。
会場のあちこちから嗚咽ににた声が聞こえ再び拍手が沸き上がった。

小田原が重い口を開く

「今日は、神尾さんが発言して起こった事件に対してその当事者である神尾さんの話を聞き、質問どころか詰問してやろうという意気込みで出席してきたコメンテーターがほとんどだと思う。
しかし、私を含めて今まで何の役にも立たない事を責任なく発言し、他人の意見の揚げ足を取るコメントを言ってメシの種にしてていた・・まあ極端かも知れないが今回の事についてはそう言われてもしょうがない気がする・・・そんな自分たちの襟を正しこれからコメンテーターとしてメシを食うならどうしなければならないかという宿題も出されたと思わなければいけないと思う・・。その宿題が出来ないコメンテーターは、私は廃業すべきだとも思う・・」

「いや・・ちょっと待ってください!・・小田原さんいいんですか?・・こんな神尾さんの発言が肯定されるような流れで・・おかしいでしょう!」

江戸川議員が小田原の発言に待ったをかける。

その時「そうだ!そうだ!君たちおかしいぞ!」という声がスタジオにこだまして一度退室した葛飾が戻ってきた。

「葛飾さん・・帰られたんじゃないんですか?」

「そんな仕事を放棄するようないい加減な事は私はしないよ!・・冷静な討論が出来る様に一時頭を冷やしに行っただけだよ!」

「そうなんですか?」

会場は、しらけた空気が流れたが人々の白い目も葛飾にはカエルの面にションベンだった。

葛飾が戻ってきて討論は再開されたが、その中身のない発言に何度もブザーが鳴り響いた。

そうしているうちに放送時間も残りわずかになり小田原がシメに入る。

「本日は各界から優秀なコメンテーターに集まって頂いたんだが、どうやら今回だけは観覧者として集まってもらった人の方がもっと優秀なコメンテーターだったような感想を持ったのは私だけだろうか・・・とにかく今回の事件の法律としての善悪、常識としての善悪、その他いろいろな視点から見て答えが出るものとは思っていなかったが、予想通りと言っていい結果だったとおもいます。テレビに皆さんもいろいろな視点で是非考えてみて下さい・・では今日はこの辺で・・」

深夜の番組でありながら平均視聴率は38%という驚異的な数字を叩き出した。

神尾の発言が良かったのか悪かったのかは永久に答えが出ないであろう。

しかし、神尾の発言のあと日本中から過去に類を見ないほどイジメは減少していた。

                        ( 1部 完 )

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