大人オリジナル小説

沈黙の後より -after episode-
日時: 2012/11/16 07:05
名前: 世界 ◆hdwFu0Q9Eg

……ひとりの生徒の死によってそれは始まった。
教師として対応に追われる観岸は、生徒が自殺した原因を探るうちに、さまざまな問題へと巻き込まれていく。
やがて広がっていくそれは、彼らをどこへと向かわせているのか。

――死を持って、不幸という種はすべての人へと根付こうとしていた。


 ***

(仮タイトル)

虐める側か、虐められる側か、そんなのばっかりなのでちょっと指向を変えて。
皆さん的に言えば、バッドエンドから始まります。
当事者はすでに自殺しているところからです。
つまり、『その後』をえがくことになります。そして焦点は、『大人達』です

そして一部の人にとっては気持ちの良い話ではありません。
読む途中で気分が悪くなった人は戻るボタンを。
「社会問題系」ですが、何かを訴える気とかありません。あくまで物語の部類として選んだだけです。


目次
主要登場人物 >>1
(1) 無音の騒乱 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
(2) 怒りが向く先
(3) 見えない理由


** 11/10 本文修正

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Re: 沈黙の後より -after episode- ( No.4 )
日時: 2012/11/10 19:52
名前: 世界 ◆hdwFu0Q9Eg

 職員室を抜けて、再び会議室へと戻った。東は、椅子に座って机に頭を伏せ続けている西木渡の横に立ち、じっと天井付近に備え付けられたテレビを眺めていた。テレビには朝のニュースが流れており、モザイクが掛かっている。しかしこの状況で見れば、確かにこの学校が映し出されているのがわかり、そしてレポーターが何かをしゃべっていた。音声が流れていないので何を言っているのかはわからないが、字幕がある程度、状況を説明していた。
 切り替わるテロップ……『生徒飛び降り自殺……原因?』『ずさんな夜の学校管理、なぜ深夜に生徒が?』。すでにいろいろと、状況は変わっているようだった。わかっていないのはむしろ、観岸たち教職員側かもしれない。故に、当然ながら学校側の対応は『現在調査中であり、何も回答できることはない』とニュースでは発表されていた。
 ここにはいない、笹木校長の姿もそこにはあった。冷静に対応しているように見えるが……これは、視聴者から見るとどうなのだろうか。観岸はそれでも、笹木校長にはある程度の信頼を持っているのだが……焦りが感じられない様子は、むしろ何も知らない世間からは非難を帯びる可能性もある。だからといって、どうしようもない……。
 しばらくして、寺司生徒主任が会議室へとやってきて、観岸達に生徒自宅への連絡を行うようにと指示を出した。休校措置は当然ながら、状況の説明も行わなければならない。担任、副担任だけでなく、総手で連絡を回すことになった。連絡網で回すという方法はもちろんあるが、今は混乱を防ぐために、ひとつずつ学校側から連絡の措置を行うことにした。
 職員室の各机へと教職員が戻り、それぞれ対応を始めた。出来ることがある……それが少しの間だけ、観岸達の混乱した思考を整理する時間にもなった。

「――中学の、担任の観岸です、おはようございます。緊急なのですが、本日の学校は休校となります……。はい、そうです、緊急の事で……」

 中には自殺のことについてすでにニュースで知っている保護者もいて、観岸に強く質問を投げかけることもあった。今は木条の名前を出さず、他クラスの生徒のひとりが、と言うことが精一杯である。どこまでを人権的保護とすればいいのか難しく、観岸はひとつずつ言葉を選びながら対応していた。
 途中、観岸は肩を叩かれて手を止めた。

「観岸、済まないが後を頼む。木条の親御さんのところへ行ってくる」

 そう東は言って、力の無い西木渡を支えて立っていた。

「木条君の両親、どこにいるんだ?」
「今は病院だ……。いろいろ、動かなきゃいけない」
「わかった、一組への対応はこっちで引き継ごう」
「頼む……」

 隣に立っていた警察官が促すように二人に声を掛ける。

「東先生、西木渡先生。こちらで病院へと送りながらお話を聞きたいと思います。どうぞこちらへ」

 東は一組の副担任だ。西木渡と共に、一番辛い立場にある。彼がまだしっかりしてくれている分、まだマシだが……。この先、木条の両親に会ってどうなるか……想像は容易くはない。
 二組への連絡を終え、残っている一組のリストを参照する。基本的に見知った名前ばかりだが、五組もあるとなると、やはりあまり記憶に無い生徒もいる。……木条のことをわかっているつもりになっていたかもしれない。そう観岸は今更にも感じていた。
 あるひとりの、一組の生徒の自宅へと電話を掛けたときだった。

「二組の担任の、観岸です。緊急の連絡で、今日の学校は休校と――」
『――担任を出してください! どういうことなんです? なんでうちの子と同じクラスの子が、自殺なんてしたんですか? 事情をきちんと説明してください!』
「お、落ち着いてください――」
『どうしてあなたは落ち着いているの? 自分のクラスの子ではないから? 担任は何をしているの? 自殺なんかが起きるクラスに、私の子どもは居たんですか?』

 当然、このような事態は考えられたのだが、実際に起きてみると、観岸はどう対応していいのかわからなくなった。

「ええと……担任は現在、対応に追われていまして……今はこちらも、きちんとしたことがわかっておらず……」
『そんなこと聞いてないの! それで、一体だれなんですか? どの子が自殺したんですか?」
「いや……」

 いよいよ観岸の頭が混乱し出した時だった。受話器がぱっと手からすり抜ける。慌てて振り返ると、そこには受話器を耳に当てた寺司生徒主任がいた。

「お電話代わりました。生徒主任の寺司です。現在は状況を確認中でありお答えできることはありません。また後ほど、お電話をかけさせてもらい、事情を説明したいと思います。こちらも対応を急がねばなりませんから、これにて失礼いたします。では――」

 少し強めに、寺司は受話器を置いた。電話が切れる直前、相手の方が何か言っていたようだが、それを寺司が気にする様子はなかった。
 さすがに良いとはいえない対応に、観岸は疑念をそのままぶつける。

「ちょっと強引すぎませんか? 一応、学校としての対応は……」
「今はとにかく、余計なことは言わないことです。余計に相手を混乱させますし、ああいったタイプはこちらが弱めに出ると、永遠と自分の不安が消えるまで質問を繰り返しますよ。確かに強引かもしれませんが、今はこうするしかありません」
「……わかりました」

 やり方にはあまり賛同できないが、自分の意志をしっかりと持つ寺司には頼れるものがあった。こんなとき、統制力のある存在というのは不可欠だ。気をつけなければいけないのは、そういった存在にばかり頼りすぎて、自分の考えを見失わないことだ。
 忙しげに急ぎ足で去る寺司の後ろ姿に、軽く頭を下げながらそう観岸は思った。今はそれぞれが自分の考えで動き、それがまとまっていない……。頼れるのは自分の感性だけか。
 作業をこなす間に、早くも一時間が経過していた。観岸はふと立ち上がって職員室の窓から外をわずかに覗く。すると、下の方に人だかりが見えた。正門はすでに閉じられ、外部からの来訪を完全にシャットアウトしている。そして幸いにも、正門からは少し離れており、また地形的にも高い位置にある職員室は、彼らの強い視線を受けずに済むが……。
 少しずつ大きくなりつつある事態に、恐怖を抱き始めている教職員も多いように見える。職員室に耐えることのない呼び出し音は、少しずつだがここに居る全員の気力をそぎ始めていた。中には完全に業務をせず、頭を机へと伏せている職員もいる。
 自分は関係ないと……思う人がいるのも、仕方ないだろう。観岸だって、自分の学年、自分に遠いところで起きたことだったならば、今頃は同じように思っているかもしれない。

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