大人オリジナル小説

死神たちの反省会
日時: 2017/10/15 16:31
名前: 雑草魂

 昔々から語り継がれる話。

 町はずれの森の奥。其処には古く大きな洋館が建っている。
 人呼んで『咎人の館』。人を何百人も殺した伯爵が住んでいたと言われている。
 ツタが壁を覆い、重苦しい沈黙を保つその洋館。勿論中は廃墟同然、人なんか住めるはずがない。
 しかし、ある日。一枚の招待状が貴方の元に届くと、用心しなければならない。
 その招待状を手に、貴方は絶対に洋館に向かうことになるだろう。
 貴方は洋館の主に出迎えられ、部屋を用意され。
 そして、貴方は夜な夜な、咎人と共に宴を行うことになるだろう。

 死んでも死にきれぬ、消え入りそうになりながらその罪を背負い続ける彼らを救いだすまで。



 三人の死神がいた。
 彼らはみじめな罪人たちの罪を深く知り、理解する者。
 彼らはまがまがしい力を持つ館に付き従う者。
 上等の部屋を用意し、上等の食事を提供し、上等の環境を創造する。
 そんな彼らの日常のひとかけら。



 初めまして、雑草魂です。
 大人なりきり掲示板にて「亡霊たちの晩餐会」(こちらでは花売り)というスレッドをしている中で生えてきた設定を吐き出すためにこのたび小話のような感じのものをかこうと思い立ちました。
 どうせ続かないぜ……と思うので、緩い感じでお付き合いください。


キャラの簡単な紹介
・ドルイット……この物語の舞台である館の主人であるここで主人公格となる死神。にこにこ顔がデフォルト。
・アーサー……館のコック。明るく朗らかな一見死神に見えない死神。
・イーサン……館の庭師。とにかく無口で仲間内でさえあまり話さないが実は心優しい死神。

※たぶんエロもグロもない、ギャグ&時々シリアス予定。もともとのスレッドがR18だからここに建てた感じです。

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Re: 死神たちの反省会 ( No.2 )
日時: 2017/10/16 00:04
名前: 雑草魂

T・仕事について


 ここでの仕事は哀れな罪人たちの魂を開放する手助けをすること。
 死でさえ断つことのできなかった罪の意識の鎖を解き、天空へ送るのは死神の仕事のようにも感じるが、何故かできないのが実態である。
 彼らは生を望んでいる。生きた愛情を望んでいる。偽りの生をなぞり、人のように振る舞った人形から与えられる嘘の愛情では、どうすることもできないのだ。
 だから私たちは手助けをする。彼らの魂が無事に苦しみから解き放たれるように。
 この館がひと時の間でも、安楽を手にできるように。


 血の気のない蝋のような顔を歪め、瞼を開けた青年は、何度も瞬きを繰り返しながらあたりを眺める。
 顔に繊細な影を落とすまつ毛で飾られた鋭く黒い双眸は、長い間苦しみ続けた疲労によって淀んで生気を失っていた。
 彼の目に入るのは広く清潔な部屋、上質な皮で作られたソファー、赤々と燃える暖炉、大きなシングルベッド。生活に必要な家具が一通りそろった暖かな部屋の中を不可解そうに何度も見渡す。彼にとっては見たこともないような場所だろう、私は彼のリアクションに満足していた。

「おはようございます、ギル・クロウニー様。ご加減はよろしいで……おっと」

 私は彼の後ろに立っていたため、せわしなくあたりを観察していた彼の目に入ることはなかった。まさか人がいるとは思っていなかったのだろう、声のした方向に無理に首を回した青年は一瞬目を見開き、首を押さえてソファーに蹲る。

「大丈夫ですか? あまり無理をなさるといけません」
「だ、だだ誰だあんた!? 俺、俺なんでこんなところにいるんだよっ!?」

 興奮と恐怖が入り混じった様子の青年は舌をもつれさせながら私に叫ぶ。疑問の回答を望んでいるわけではないことは重々承知だったが、聞かれたことには答えようと私は口元に微笑を形作る。

「申し遅れました、私はドルイットと申します。この館の主であり、ギル様のお世話をさせていただく者です」
「や、館って……なんでこんなとこ……俺は、捕まって、病気になって……」

 血の気のない顔がさらに青白くなったような気がした。私の顔を凝視したまま、青年――ギルは何かを思い出そうと瞳を小刻みに震えさせる。
 パニックになるのも仕方がないのだ。ギルにしてみれば、自分は先ほどまで真冬の監獄の中で寒さに震えながら横になっているはずだった。薄手の毛布を肩にかけ、段々と薄闇に飲まれていく空を小さな窓から見上げながら。
 「あれから……あれからどうして」。ギルの口からうわごとのような言葉が漏れ出してくる。
 今ここで考えて思い出してもらうこともいいのだが、まずは大切な用事を済ませてしまいたい。ギルの黒い瞳と視線を合わせたまま、私は口を開く。

「ギル様、まずはお召し物をお代えになってください。この部屋は暖かいですが、その格好ですとやはり寒いと思われますので」

 唐突の申し出にギルは自分の体を見下げる。囚人服は薄い生地でできた簡単なもので、よくこれであの環境の中生きていたものだと私はつくづく思ってしまう。一瞬戸惑って目を泳がせるも、ギルは素直にうなずいてくれた。


「……これ、俺の服か」

 クローゼットを開け、驚きに声を上げたギルは私を見つめる。手にした黒いコートと灰色のマフラーは正真正銘、彼が使っていたものだ。

「はい、ご用意させていただきました。ご愛用品のようでしたので」
「なんであんたがこれ持ってるんだ……捕まった時に押収されたはずなのに」

 「大体、どうやってこんなところに自分がいるんだ……」。そんなことをぶつぶつと呟きながら、用意されたシャツやズボン、その上からコートとマフラーを身に着ける。
 まだ混乱はしているものの、とりあえずは落ち着いたらしいギルは、しっかりとコートの前を手で押さえながら、私が示したようにソファーに座り込む。居心地の悪そうに身をすくめながら、ゆったりと胡乱げに再びあたりを見渡した。

「……ドルイットとか、言ったか? 俺をどうやってこんなところに連れてきたんだ……俺は捕まって牢屋に入れられてたはずなのに」
「はい、そのことに関しては知っております。あなたは確かにあの牢屋でお休みになっておりました」
「……俺は、俺は人を殺したんだ……あそこを出るまであと何十年もかかるはずだった。……正当に解放されたとは思えない」

 疑り深い狼のような目が私を観察する。私は微笑を張り付けたまま誠実に答える。

「しかし、あなたは解放されたのです。これは正当な解放です」
「あんたが俺の罰金全部払ったってことか? ……あり得ねぇ、あれだけの大金を、しかも俺はあんたのことなんか全然知らないのに」
「いえ、お金を払ったわけではありません。あなたがどれほどの金額を背負っていたのか、私は知っていますが、それが何の助けになったでしょう」
「それじゃぁどうやったんだよ」

 回りくどい言い方をする私にギルの口調も荒々しくなった。ただでさえ混乱しているのに、これ以上混乱させないでくれ。そんな心の声がその表情から漏れ出してくる。
 実際この回りくどい会話を挟まないまま事実を言った過去の人々は驚きのあまり私の話を聞いてくれなくなったことが多々あった。まぁこんな会話を挟んだところで話を聞いてくれない人々もたくさんいたのだが。私は微笑のまま話を続ける。

「あなたはあの日、夜明けを待たずに病によりお亡くなりになりました。私はあなたの魂をここにお連れしたまでです」
「……………………………………………はぁ?」

 喉の奥から声を懸命に集め、吐き出したような音を、ギルはぽかんと開けた口から発した。

「あなたはすでにお亡くなりになっています。あなたの今の体は、あなたの魂に生前の姿に似せた肉を着せた一種の幻想になります。あぁ、でもよくある幽霊映画のようにものが透き通ったりは致しません、ちゃんと血が通い、心臓も動く立派な着ぐるみです」
「…………………………」
「あなたは生前の罪にさいなまれたままお亡くなりになりました。あの牢獄で寒さに震えながら孤独に死んだ恐怖でさえあなたの罪の意識を癒すことはなかった……そのため、私がお迎えに上がったのです。ここでゆっくりと自己に向き合いながら、あなたを救ってくださる方をお待ちください」
「………………………………………」
「何か、ご質問はありますか?」

 ぽかんと開いた口は中々ふさがらなかった。それも当然である。誰しも自分の死をなかなか受け入れられないものだ。
 質問は、と聞かれてもギルは呆けたように私を見つめるだけで、言葉を発する様子はなかった。だからと言ってここでこの場を去るつもりはない。じっとその思考が追い付くまで待つ時間なら気が遠くなるほどある。
 どれほど時間が経ったか、正確に測るわけにもいかないが、ギルは比較的短い沈黙の後、口を閉じ、小さな吐息を一つ吐いた。うつ向き、目頭を軽くもんで、もう一度私の顔をまじまじと、これが初対面であるかのように見つめる。

「……………俺は、死んだ?」
「はい」
「…………あの時に、死んだのか」
「日が沈み、数時間が経った時です。その時にはギル様は意識を失っておられました、午後九時三十七分に脳が停止されました。発見されたのは翌日の朝礼時、真面目なあなたが出てこないことを不審に思った看守が見回りに来た時のことです。豪華にはなりませんでしたが、質素でちゃんとした葬式ののち、あなたの体はお母様とお父様が眠る墓地に埋葬されました」
「…………そうか」

 妙に詳しい情報をギルは吟味するように眉をひそめて聞いていたが、最後には納得した様子でがっくりと肩を落とす。
 自分が死んだことを、やはり魂は覚えているのだろうか。勘の良い人物は無駄な抵抗をせずともこの現実を受け入れられる。ギルはその手の人種のようで、長い溜息を吐きだすと、ぷるぷると首を振った。

「…………分かった、いや、分かりたくねぇんだけど、俺が、その、死んだのは……分かった。そういうことにしとく……今は、な? それで……それで俺はすんなりと神様のところに行けないってことだよな」
「はい、あなたの中で罪の意識が魂の完全なる昇華を邪魔しているのです」
「罪の意識って……そりゃぁ人殺してんだ。……意識もするさ」

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