大人オリジナル小説
- わたしと舞って
- 日時: 2019/02/08 17:58
- 名前: 藍いろ
あの人と目が合ったのだ。
ダークスーツを着こなす、美しい人。
だけれど肌は真っ白くて、白黒のコントラストが強烈だった。
私は夢を見ているんだ、そう思った。こんな美しい人が、こんな薄汚れた駅のホームに立っているはずがない。
私は一瞬、目を逸らした。でも、もう一度見た。
すると、どうだ。黒い人が、向かいのホームでにこり、微笑んでいた。私を見て、微笑していた。
蛇に睨まれたカエル、ということわざが頭をよぎった。私は、あの人を畏怖した。
その瞬間、電車がホームに入ってきた。
- Re: わたしと舞って ( No.3 )
- 日時: 2019/03/05 17:58
- 名前: 藍いろ
「あ……え、と。」
私の体はピクリとも動かなかった。跳ねる心臓の音が、黒い人に聞こえてしまいそうだった。
「昨日、ホームにいたよね。」
この人は私のことを覚えていたのだ。冷や汗が背筋をつたうのが、はっきりと分かる。
「そう、です…」
何かもっと気の利いた返事をしなくては、と思えば思うほど、頭が真っ白になる。
「なんで俺を見てたの?」
ひゅ、と自分が息を呑む音が聞こえた。まさか「貴方が綺麗だったからです」とは言えない。
「そ、それは……ですね。」
「うん。」
必死に目を泳がせて、時間を稼いだ。何か良い言い訳が欲しい。何でもいい。
ある看板が見えた。吸い寄せられるように注視すると、メンズブランドの広告だった。綺麗な黒革靴が目立つ。
「あっ。」
「え?」
気付けば、私は看板を指さしていた。
「あ、あの看板です。あの看板の靴と同じ靴ですよね。かっこいいなって思って。それで昨日見ちゃったんです。ほんとです。私、靴とか足元のおしゃれが好きで。それで。」
焦りに焦って早口になった。これじゃ、まるで言い訳だ。なんだか余計なことも言った気がする。
「へぇ……」
心なしか、リアクションも冷たく聞こえる。引かれてしまったに違いない。気持ち悪い女だと思われたかもしれない。
恐る恐る顔を上げると、綺麗な人が驚いたように黒い目を見開いていた。
「俺、あのブランドの社員なんだ……。まさか、靴のこと言われるなんて、思わなかった。」
彼は彼で衝撃を受けているようで、淡々と話した。でも私はもっと驚いている。
私はてきとうな事を言ったつもりなのに、なんでか私が的を射たような切り返しをした展開になっている。
「あ、いや、そんなつもりじゃ。」
「もう少し詳しく話、聞かせてくれると嬉しいんだけど……。あ、今日じゃなくていいよ。これ、渡しておくから。」
それは小さな紙切れ____名刺だった。