大人オリジナル小説

サイキック!
日時: 2020/06/06 22:34
名前: 宇目崎 ◆HvKWmbrNOQ

 宇目崎(うめざき)と申します。よろしくお願いします。

 気合を入れて、最後まで書いていきたいです。何があっても最後まで書ききるつもりでいるので、皆様どうかお付き合いのほどよろしくお願いします。
 この小説は不定期ながら月1〜2更新を目指しています。更新する曜日は日〜水曜日の間が多いかと思います。
 目次は親記事ではなく>>1に貼っております。

※複ファにて連載していましたが、事情により此方の方へ移動しました。


《注意》
・グロ、流血、性的、暴力表現含
・ジャンルは異能寄りです


□目次【>>1
■2019/08/26 スレ立て

Page:1 2 3 4 5 6



Re: サイキック! ( No.5 )
日時: 2019/08/26 12:38
名前: 宇目崎 ◆HvKWmbrNOQ

〈01/2〉


「お前の息子はちゃんと見つかる。安心しろ」

 天知の力強い言葉に、加藤は目を見開く。加藤は瞳の奥に嬉しさを宿らせるが、すぐに堅い表情で天知を見つめた。
 先程までの僅かな会話だけでこうもはっきりと断言する天知に加藤は微かな不安を覚える。やり方は違えど警察と同じなのではないか。さっさと面倒事を片付けたいだけではないだろうか。そんな感情が過ぎるが、なんとか振り切る。

「そう、ですか。……あの、この手紙……受け取ってくれないでしょうか」

 加藤は平坦な声で述べつつ、一通の白い封筒を鞄から取り出す。封筒の口を赤いテープでしっかり閉じており、一度も開けられていないような状態をしていた。だが、肝心の封筒は触ってみると雨で酷く濡れていることが分かる。紙がジトッと張りついている感じに顔を顰めつつ、天知は白い封筒を受け取った。

「これはなんだ?」

 天知は封筒を裏返したり光に透かしてみたりしながら、問い掛ける。中には何やら四角いものが入っているようだが、何かとは断言しきれない。

「息子の写真が入っています。少し驚かれるかもしれませんが……」
「ふぅん、写真か。一応、預かっておく」

 加藤はおどおどしくそう告げれば一口分残っていたココアを飲み干した。天知は貰った封筒を何気なくパソコンの傍に置いた。

「……息子のこと……よろしくお願いします」

 窓を見ると、雨は上がってきていた。どんよりした雲が少し少なくなってきたように見える。
 加藤は深々と頭を下げるとそう言い、静かに部屋を立ち去る。加藤の肩に掛かっていたバスタオルは、加藤が座っていた椅子の背もたれに掛けられていた。


「天知さん、本気、ですか?」

 加藤が去って数分後、八日城は眉間に深い皺を刻みながら問い掛けた。顔が「根拠の無いことを堂々と言って」、と呆れを語っている。

「本気に決まってるだろ。やることが一緒だからな」

 天知は冷めきったコーヒーを飲み干しながら、自信満々に話す。やはり冷めたコーヒーは不味いのか、僅かだが顔を顰めている。

「は、はぁ、やることが一緒? わ、私たち? どういうことですか?」
「なーにとぼけてんだよ。どう見てもサイキック絡みの話だろ? 比喩表現なしで息子が“この世界から消えている”」

 天知は指先で机を叩きながら至極当然のように話す。そして流れるように、怪訝顔を浮かべている八日城を大きな瞳で見上げた。天知は一度顎を摩ると、ピンと人差し指を立てた。

「サイキック……ですか?」
「そーだ。今回は特殊な事例だな。この世界から、別の世界に行ってしまったパターンだ」

 サイキック。それは、異能力と呼ばれるものだ。天知曰く全ての人に与えられた“特異的な体質”のようなものである。しかし、サイキックの詳細は明らかになっていない上、ほとんどの人がサイキックを自覚していないことの方が多い。そのため、世間では都市伝説とまとめられることが多々有る。だが、サイキックについて根気よく調べる学者もいるのも事実である。

「この場合はなるべく早く助けないと、助からないことが多い。元の世界に帰れなくなる可能性が大きいからな」
「別の世界って……第二世界、とかにですか」

 八日城の問いかけに天知は「ああ」と頷くと、先程の封筒をビリビリと破いた。雨で濡れているため、封筒の一部はティッシュのごとくちりくずへと化した。
 第二世界とは、天知たちが生活する世界とはまた別の世界である。世界とはいわゆる一つの箱のようなものであり、その箱が一つ一つ並んでいるだけに過ぎない。しかし箱は脆いためたまに隙間が生じ、ごく稀に別の世界の住民が他の世界へと行ってしまうことがあるのだ。天知たちが暮らす世界を基準に、既に観測されている世界は名前を付けられている。現在は、天知たちが暮らす世界を含め七つの世界が観測されている。

「そんで、この状況を裏付けるのは、この写真だ」

 天知は一枚の写真を八日城に見せるように呈示する。八日城は怪訝そうな顔つきで写真に目を向けた後、分かりやすくギョッとして目を見開いた。それもそのはずである。例の写真には一人の少年が映っているが、少年の顔だけくり抜かれたように真っ黒になっていたのだ。顔以外は普通の写真と変わりなく鮮明に映っており、気持ち悪さやアンバランスさを掻き立てていた。肝心の顔が分からないようでは、人捜しなんてなおさら無理の筈である。しかし天知は、写真の状態に既に予想がついていたらしく然程驚きもしない様子であった。

「顔が、ないですけど……」
「そうだな。顔が無いし、写真のこいつを捜すのは無理ゲーでしかない」

 少し気持ち悪そうに、声をひそめて八日城は呟いた。写真を見たくはないのだろう。そっと写真から視線を逸らしつつ、チラチラと天知の様子を伺っているようだった。

「だが、こいつがいる世界、いわゆる第三世界に行けば、こいつの顔が分かっちまうんだよ。写真のこの穴が無かったかのように埋められちまうんだ」

 天知は八日城に例の写真を向けたまま、ペラペラと滞りなく話す。天知が遠慮なく垂れ流す言葉はついさっき初めて封筒を手にし、写真を見たにしては知りすぎている程の情報量である。それはまるで誰かに事前に話を聞いていたかのような周到さが混じっているようであった。

「つまり、いつもどおり世界探検に行けば事は済むんだよ。サブクエストで人捜しを頼まれてるだけでな」

 天知はそれだけ言うと、写真をくしゃくしゃにして懐にしまい込んだ。
 八日城は眉を寄せながら「そうですか」と短く返事を返すと、先程まで加藤が座っていた椅子に腰を下ろした。じんわりと確かな湿り気が背もたれ部分から感じられる。

「ま、なんでこいつが第三世界に行ったかはまだ不明だが……恐らく、同じサイキックを所有してたんだろう」
「ああ、えっと……同じ“種類”のサイキック同士は、惹かれ合うんでしたっけ」
「ああ。仮説が本当だったらの話だけどな」

 サイキックには種類というものがある、という仮説が存在している。サイキックの種類にはABCの三つが存在し、同じ種類のものは共鳴し惹かれ合う特性を抱え持つ。同じ種類のサイキックを連続して発動すると、複数のサイキックによる多大な影響が見込めるという。サイキックの内容に寄らず、種類はランダムに決められているのも一つの特徴とされている。サイキックの内容に寄らず、種類はランダムに決められているのも一つの特徴とされている。

「で、多分だが......こいつはサイキックを自覚していた」
「......それはどうして――あっ」

 八日城は天知の言葉に疑問符を浮かべるが、すぐにハッとしたように一際大きな声をあげる。そして、答えあわせをするかのように口に出した。

「サイキックを自覚すると、惹かれ合う力が強まる......?」
「ああ。世界を飛び越えて、同じ種類に惹かれるのは、そうとしか説明がつかない。と私は思う」
「じゃあ、加藤さんの息子さんは、サイキックを自覚したということですか?」

 八日城の言葉に大きく頷いた天知は、焦りを滲ませた表情を浮かべる。天知は顎に手を宛がいながら、「それと同時に、別世界の誰かがサイキックを自覚した」と静かに付け足した。
 しかし、そこで八日城は不思議そうに首を傾げた。世界と世界の壁を越えても、サイキックを自覚した同士が強く惹かれ合うなら、こういった事態は何度も起こっている筈だ。全体的に見ればサイキック自覚者の割合は僅かだが、確かに存在する。それは、この世界だけに限った話ではない。しかし天知は、はっきりと「今回は特殊な事例である」と主張していた。

「でも、自覚しただけでそれだけ強く惹かれ合うものなんでしょうか?」
「......そこまでは分からないな。惹かれ合うものが種類以外にもあるんだろうよ、ABCの中の、Aの種類はAだけじゃなくて、A'とA"まであるって感じでな。この辺は研究中だからな、難しい」

 八日城の疑問を受け流した天知は、デスクトップに表示していたメモ帳を閉じた。未だ疑問符を浮かべる八日城に「サイキックはまだまだ謎なんだよ」と仕方ないと言いたげな声色で述べた。八日城も無駄に食い下がる気は無い。「そうですか」とポツリと呟くのみだった。
 サイキックはまだ世間に深く浸透していない。サイキックが世間にとって“都市伝説”ではなく、“事実”として当たり前になれば、今の状況は大きく改善されるのだろう。

「......さーてと、これは明日から忙しくなってくるな」

 ググーッと凝った体を伸ばすように背伸びしながら、天知は言った。

「ですね。私も、旅行に行くって学校に連絡しないと......」
「学生は大変だな」

 天知はそういうとカラカラと笑った。
 別世界に出かけて、依頼人が捜している人を助ける。何も知らない人から見れば、空想に溺れたような言い種である。だが、これは確かに現実で起こっていることなのだ。

Page:1 2 3 4 5 6



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。