大人オリジナル小説
- サイキック!
- 日時: 2020/06/06 22:34
- 名前: 宇目崎 ◆HvKWmbrNOQ
宇目崎(うめざき)と申します。よろしくお願いします。
気合を入れて、最後まで書いていきたいです。何があっても最後まで書ききるつもりでいるので、皆様どうかお付き合いのほどよろしくお願いします。
この小説は不定期ながら月1〜2更新を目指しています。更新する曜日は日〜水曜日の間が多いかと思います。
目次は親記事ではなく>>1に貼っております。
※複ファにて連載していましたが、事情により此方の方へ移動しました。
《注意》
・グロ、流血、性的、暴力表現含
・ジャンルは異能寄りです
□目次【>>1】
■2019/08/26 スレ立て
- Re: サイキック! ( No.4 )
- 日時: 2019/08/26 12:35
- 名前: 宇目崎 ◆HvKWmbrNOQ
〈01/1〉
「悪魔憑きよぉ、悪魔憑き。今話題なのに、あなた知らないのねぇ」
香水の匂いを撒き散らしているおばさんが、嬉々とした表情で興奮気味に捲し立てた。しばらくの船旅だ。船着場に到着まで暇だし、他人の話に付き合うのも良いだろう。
でもまぁ、悪魔憑き……聞きなれない言葉だ。地方特有の言葉だろうか。サイキック探しに有力な情報かもしれない。もしかしたらサイキックとはなんの関係もない、もっと別の事件かもしれないが。
「……あー……最近この辺に来たばっかなんで」
「あらぁそうなの! それは大変ね! どこから来たの? ハンプダンプ……いえ、ロマンナウ……うーん、やっぱりヴェルネダーニャから来たのかしら?」
「あ、そうっすねー、そんなところです。……んで、悪魔憑きというのは」
苦笑しているつもりの笑みを浮かべるとそれとなく誤魔化し、おばさんの方をしっかりと見る。
おばさんは大袈裟に反応すると、口元に手を寄せた。おばさんが親戚のような語り口で有名所なのだろう地名を挙げているのを流しつつ、話の軌道修正を入れる。お喋りなおばさんの様だし、関係ない話をホイホイ聞いているとあっという間に時間が過ぎていってしまう。
「そうそう、ハールマン家の話ね。――でも、タダの噂で、本当かどうか分からないのよねー」
おばさんはにっこりと笑うと饒舌に話し始める。しかし、タダの噂なのよねーと話を締めくくると少々つまらなそうに頬に片手を添えた。
「丁度、この船の行先、ハールマン家が治めているらしい所だから、行ってみたら良いんじゃないかしら」
おばさんはそう言うと、両手を合わせて提案するように笑いかけてきた。まー、噂だけで情報の善し悪しを決めるべきではない。そっすね、と短く返しながら、腕時計に視線を落とす。おばさんの話で大分時間が経っているようだった。
そろそろ、船も停る頃だろう。
■
外は雨。それも、わずか数分で大きな水溜まりが出来るほどの大雨である。警報が発令されてもおかしくないほどの激しさだ。
「すっげー雨だなぁ……」
ボサボサ気味の黒髪が特徴的な小柄な女性は、チョコチップスクッキーを食しながら呟いた。この女性の名は天知 渉(あまち わたる)。馬来事務所に所属する探偵として働いており、よくチェック柄の羽織物を羽織っている。
「この季節にしては珍しいですよね。雨が降る前に、事務所に着いてよかったです」
天知と対面する位置に机を挟んで座っている少女が、バスタオルを手にしながら安心した口調で述べる。どこか困ってるような笑みを作っているこの少女は八日城 礼(やかしろ れい)だ。緩く作った二つ結びが特徴的な女子高校生である。休日平日問わず、制服を身に包んでいる。
現在、この二人は馬来事務所に居る。馬来事務所は見た目こそは一軒家だが、中身はれっきとした仕事場でそれなりの業績も積んでいる。また、巷では「何でも屋」としてちょっと有名だ。
「……でも、お客さん、大丈夫でしょうか? こんなに土砂降りだと、傘を差してもびしょ濡れな気が……風邪も引いちゃいますし。タオルは、用意してますけど……」
八日城は膝の上で手を組むと、不安そうな目付きで暗い窓を見つめた。窓には絶えず雨が打ち付けられ、時々激しい雷の音が鳴っている。雨は一向に止む気配が無い。天知は落ち着かない様子の八日城を一瞥すると、面倒そうに「大丈夫だろ」と吐き捨てた。
「でも……」
――ピヨッ! ピピピピピ ピヨッ! ピピピピピ
「……! なんですか、これ」
――ピピ ピヨッ! ピピピピピ ピヨッ!
もうすぐ来る依頼人を気遣っていないような天知の言葉に、八日城が頬を膨らませて反論しようとするのを、壁掛け時計が阻止する。雨音が静かに響く部屋の中、動物の鳴き声のようなチャイム音が数回繰り返される。今の状況に似つかわしくないほどほのぼのとした時計のチャイム音は、八日城の動きを封じるのに十分だった。
天知はチャイム音などさほど気にしていない様子で、ゆっくりとした動作でパソコンの傍にマグカップを置いた。天知がチラリと時計に視線を寄せると、午後三時を過ぎた頃だった。天知は自身の顎を撫でながら淡々とした声で八日城に命じる。
時計のチャイム音は天知が設定したものであり、依頼人との約束の時間に遅れないようにと早めに設定されている。
「そろそろ、依頼人が来る時間か。なぁ八日城、迎え行ってくれないか」
「えぇー、外に出たくないんですけど……わっかりました。行ってきますよ……」
八日城は不満を言うがすぐに天知の威圧に負けたのかそう言い、バスタオルを持ったまま立ち上がる。行ってらー、と天知は退室する八日城を見送りながら、パソコンのメールボックスを開いた。何件かメールが届いている中、既に開封しているメールを開く。
メールの送り主は加藤 美保(かとう みほ)。もうすぐ来る予定の依頼人だ。加藤から送られてきたこのメール自体は一週間前のものだ。依頼メールということは確かなのだが、肝心の内容がすっぽり抜けたように伏せられており、内容を要約すると“話がしたい”としか書かれていないのだ。いわゆる予約というものだろうが、中々奇妙なメールである。
天知はそのメールを数秒睨むように眺めるが、躊躇うことなくゴミ箱へとメールを捨てた。メールボックスに戻り他のメールも簡単に読むが、加藤からのメール以外にめぼしいメールは届いていないようだった。
「……不味いな」
天知は冷めつつある珈琲を一口飲み顔を顰めて呟いた後、クッキーを一枚頬張った。
数分後、靴下を派手に濡らしたらしい裸足の八日城が、長髪の女性を連れて部屋に戻ってきた。長髪の女性は肩にバスタオルを掛けており、髪を濡らしているらしくぽたぽたと雫を垂らしている。
八日城が「飲み物を用意しますね」と台所に消えると、長髪の女性は堅い表情を崩さないまま天知の正面に腰を下ろした。目を優に覆う長さの前髪の隙間から、緑色の瞳が天知をジッと見据えている。少し威圧を感じる人物だ。
「お前が加藤 美保か」
「はい……今日はお願いしたいことがあって……」
「おう。じゃんじゃん話せ」
天知は緑色の視線に負けじと見つめ返しながらそう問い掛ける。彼女の質問に、長髪の女性はこくりと深く頷いた。天知はパソコンのメモ帳を開くと、加藤に話を促しつつ笑いかける。
「……息子を、捜してください」
加藤はしばらく無言を通していたが、決心したように息を吐くと、消え入りそうな声で呟いた。緑色の瞳が不安げに少し揺れる。
「はぁ。……息子を捜す、だと?」
「はい。有り得ないことなんですが……私の息子が、この世界から消えたみたいに、突然姿を消したんです」
天知は気だるげに頬杖をつくと、呆れを孕んだ低い声で鸚鵡返しする。加藤は声に困惑の色を滲ませながら、頷いた。
天知は顎に手を当てると、考えるように視線を下げた。少なくとも息子を捜すくらいなら、そこらの探偵に依頼するよりも警察に突き出した方が早いだろう。
「消えたみたい、か……。それは、一体どういうことだ?」
「実は、最初警察に届出を出したんです。でも、警察は……『君に息子がいる事実なんて無い』の一点張りなんです。『良い精神病院を紹介しましょうか』まで言われてしまって……きっと妄想だって、思われているんです! 私は、嘘をついていません。なのに――」
「……加藤さん。一旦落ち着きましょう」
加藤は自信なさげに顔を伏せると、弱々しく震える声で話し始めた。次第に大きくなっていくボリュームに、八日城が制止の言葉を掛ける。
加藤ははっ、としたように顔を上げるとしどろもどろに謝罪を口にした。
八日城はココアが入ったマグカップを加藤の前に置く。マグカップからは白い湯気が立っている。八日城は加藤に微笑みかけると、天知の隣に立った。
「息子がいる事実なんてない……なかなか、冷たい返事だな」
天知は加藤の話をメモ帳に打ち込みながら呟く。天知は目を細めると、何かを考えるようにため息をついた。
警察はきちんと調べた上でそう言っているのだろうから対応に対して何の文句も言えないが、このままでは警察は使い物にならないようだ。加藤には息子が居た。だが、今は居ない。それも誘拐や家出ではない。加藤の話をそのまま鵜呑みにするならば、そういうことになる。どうやらただの人捜しでは無いらしい。
「息子のことを覚えているのは私だけで……夫も、息子のことを覚えていないんです。覚えていないというより、知らなくて」
「なるほど。じゃあ、その息子とやらを知っているのはお前だけなんだな?」