大人二次小説(BLGL・二次15禁)

炭受け
日時: 2019/08/17 20:59
名前: りんご

炭治郎受け小説上げる
大体支部に上げるものの下書きとか没ネタ

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Re: 炭受け ( No.2 )
日時: 2019/11/22 20:59
名前: り

某青鳥にあげてたやつと加筆。まだ続く。
高校生善×大学生炭の善炭。色々捏造。ハッピー現パロ。




「よいしょ」
 掃除機をかけて、窓をピカピカに拭いて、それから、彼がまず足を踏み入れるであろう玄関をホウキで掃いておいた。……客人を出迎えるのには合格点といったところか。ふぅ、と息を吐いて、俺は額の汗を拭った。
 さて、彼が来るのはこれからおよそ一時間後だ。思っていたよりも汗だくだから、一旦風呂でも入るか、と俺は下着を手に取る。
 彼、とは、高校生の頃まで住んでいた実家の近所の子、少し年の離れた幼馴染だ。五つ年下の子を、俺は弟のように可愛がっていたし、多分、彼も俺を兄のように慕ってくれていただろう。……本物の兄とは、あまり仲が良さそうでは無かったが。
「ふー……」
 シャンプーを洗い流して、俺はシャワーを止めた。すると、遠くから、チャイムの音が鳴っていることに漸く気付いた。
「……あれ?」
 ガチャ、と風呂場のドアを開けてみると、もう一度チャイムが鳴った。それから、「おーい、炭治郎!」と、懐かしい声が聞こえる。
「早く着いたのかな?」
 軽く体を拭いて、面倒だし、まあ男同士だしいいか、と、下のズボンだけを履いて、首にはタオルをかけて、玄関の扉を開けた。
「あ! ごめん、ちょっと早く……って、なんて格好してるのさッ!?」
「はは……ごめんよ、掃除してたら汗かいたから、シャワー浴びてたんだ。まあ、気にせず入ってくれ」
「……ハァ、相変わらずだね、炭治郎は」
 幼馴染である彼、我妻善逸は、頬を赤く染めながら、やれやれ、と溜息を吐く。
「久し振りだね、善逸! ……ていうか、背、伸びたな、俺とあんまり変わらないじゃないか」
「ふふーん、まあね」
「ふふ、変声期も終わったんだな」
「うっ、煩いな! その話はやめてよね!?」
 むすぅ、と頬を膨らます善逸を見て、三年前に、変声期が中々終わらないと、掠れた声を上げながら泣いていた彼を思い出していた。善逸は、おじいちゃんに怒られたり、テストの点数が悪かったり、何かと悩みがあると、わんわんと泣きながら俺の家に来ていた。その度に、俺は頭を撫でて、彼が落ち着くまでずっと抱きしめていた。その頃に比べたら、ずっと大人びていて、正直吃驚した。
「それに、筋肉もついたな、身体、鍛えてるのか?」
「ん? あー、まあ、運動部入ったから、それのお陰かも」
「あ、そっか、高校は陸上部にしたんだっけ」
 麦茶を取り出しながら、なんでだっけ、と呟くと、耳が良い善逸は、それを聞き逃すことはしなかった。
「俺の逃げ足が早いから、陸部の顧問に勧誘された」
「っふ、ははは! 善逸らしいな」
「どういう意味よ……」
 目の前に出された麦茶を、善逸は一気に煽る。
「炭治郎は逆に筋肉落ちた?」
「ん? あー、そうかもな、最近は全然身体動かしてないなぁ」
「……ふぅん」
 善逸は腕を伸ばし、今は殆ど筋肉の付いていない俺の腹を、つぅとなぞる。びく、と肩を跳ねさせれば、善逸はへらりと笑った。
「炭治郎、びんかんー」
「くすぐったかっただけだ」
 善逸の手を退かそうと腕を掴む。すると、自分の記憶の中にあった、彼の腕よりもずっと太く、しっかりしていて、更に驚いた。今日は、善逸に驚かされっぱなしだ。
「ねぇ、炭治郎」
「……なんだ? ぅ、わッ!?」
 その腕を引かれてしまうと、俺が腕を掴んだままだったため、善逸の方へと引き寄せられる。目の前には、善逸の顔があって、それは、昔よりもずっと男らしいものだった。
「炭治郎って、昔から無防備だよね」
「……は」
 ポタリ、と俺の髪の毛から垂れた水が、善逸の目にかかったらしく、善逸は顔を歪める。
「わっ、善逸、大丈夫かっ!?」
 ごめん、ごめん、と昔の癖でつい頭を撫でてしまう。
「大丈夫……だし、こんなことで頭撫でなくても」
「……あ、はは、ごめん、昔の癖で」
「俺だって、もう高校生にもなったし、子供じゃないのに」
 ボソリ、と呟かれた言葉に、俺は首を傾げる。
「まだまだ子供だろう、十八にもなっていないし」
 そう言うと、ぴしり、と善逸の周りの空気が凍ったような気がした。
「……え、どうした?」
 善逸の目の前で手を振ってみるけど、反応は無い。……何か、まずいことでも言ってしまったのだろうか。高校生を子供扱いするのは、流石に駄目だったのだろうか?
「その、あの、誤解しないでくれ!善逸は子供っていうか、その、そう、俺にとっては可愛い弟ってだけで、子供っぽいとか馬鹿にしてる訳じゃない!」
 これだ!と最適解を出したつもりだったけれど、善逸はプルプルと身体を震わせた。ほんのりと怒っているような匂いがして、俺はもう一度首を傾げた。
「……なんで怒ってるんだ……?」
「ふっ、ざけんじゃないよ!」
「うわっ!?」
 善逸は勢い良く立ち上がる。拳をプルプルと震わせながら、顔を真っ赤にさせていた。
「だっ、だれのために、こんなに頑張って身長も伸ばして、筋肉をつけたと思ってんだよ!?」
「えっ……? だ、だれ」
「お前だよ!! このクソ馬鹿鈍感炭治郎がぁあ!!」
 ……もの凄い勢いで罵倒されたな。と目を丸くしていると、善逸はフゥフゥと息を荒げながら、目尻に涙を溜めていた。俺は慌てて立ち上がり、善逸を優しく抱きしめる。
「な、泣かないでくれ、善逸」
 よしよしと背中を撫でてやると、善逸はもう一度叫び声を上げるのだ。

「だから子供扱いすんなって言ってんだろうが!!」

難しいお年頃らしい。

「善逸、どうした、オムライス美味くなかったか?」
 俺は、オムライスを前に手を止める善逸を見て、首を傾げてそう問う。オムライスの味を確かめるために自分のオムライスを一口食べてみるが、特にしょっぱい訳でもなく、味が薄い訳でもなく。不味い、とは感じない。だから俺は、ますます首を傾けた。
「だって、いや美味しいけどさぁ……」
「うん? どうしたんだ」
「お前さぁ、これぇ、子供の頃好きって言ったやつじゃんか」
「……もう、嫌いだったか?」
 ちら、と様子を見ると、善逸は肩を落とす。
「そういう訳じゃねぇよぉ……、俺が好きなものとか、昔から変わんないもん……」
「なら良かった」
「……まあいいや、食べるよ? だって、美味しいし」

Re: 炭受け ( No.3 )
日時: 2020/02/11 10:20
名前: り

ツイッターに上げてたやつ
恋文貰う善逸の話。善炭

 恋文を貰ったと、善逸が炭治郎に嬉々として話したのは、四月の終わり頃であった。
「……そうか」
 炭治郎はそれだけ言って、良かったなと微笑み、軽く目を逸らす。善逸は、なんだよ、俺が恋文なんか貰っちゃったから、嫉妬してんのー? なんて揶揄う。炭治郎は、なんでもない、と俯きながらボソボソと呟いた。
「でもさー? やっと俺の魅力に気付いた人も現れたって訳でしょ?」
「そうだな」
「まあついに俺の時代になったってことだよねー!」
「そうだな」
「この手紙書いた人は、時代に追いついて……、……ねえ? ちゃんと聞いてる?」
 炭治郎が、三度目の「そうだな」を返したところで、善逸はむうと頬を膨らませた。
「絶対聞いてないよねぇ!?」
 もう知らない! と言って、善逸は伊之助の方へ走って行った。勿論、その「恋文」を片手に握って。
「……」
 炭治郎はただそれを見つめていた。善逸を好きな人は、時代に追い付いているのかぁ、なんてぼんやり考えて。
 そうである筈の自分は、賑やかなところも苦手で、山の中の方がずっと似合っている。そう考えると、善逸の主張は間違っているんじゃないか。なんて冷静に考えて、小さく笑った。

 善逸への恋文は、定期的に送られた。丁寧に書かれた字が綺麗だ、言葉遣いが綺麗だ、善逸は手紙を炭治郎に読み聞かせながら、ご機嫌だった。
「善逸は書かないのか?」
「書いてるわ! でも、この手紙、返信は入りませんってご丁寧に書いてあるんだもの。もしかしたら何か事情があるかもだし、住所も無いし。送らないよ」
「そうか」
 気遣いもできるんだな、とは言わず、炭治郎は温かい緑茶を啜る。
「あー、会ってみたいなぁ。きっとすっごい可愛いんだろうなぁ」
「ふふ、なんでそう思うんだ?」
「可愛いに決まってるよ、こんなに綺麗な言葉を使うんだもの」
 恋文を何度も何度も読み返して、善逸は幸せそうに目を細めた。炭治郎は、彼から漂う甘い香りに酔いそうになっていた。
「善逸は」
「ん? なぁに」
「……その子が好きなのか?」
「えっ、きゃー! 何言っちゃってんの炭治郎くんのばかぁ!」
 善逸はわざとらしく高い声を出して、大袈裟に両手を振った。身体をくねらせる善逸に、「ちょっと気持ち悪い」と炭治郎が言えば、善逸は「辛辣!」と声を上げる。
「うーん、ふふふ、どうでしょうねぇ」
 焦らすように彼は言う。まあ、その香りから察することはできるんだけど、そんな風に言う善逸が少し面倒臭くて、炭治郎は顔を顰めた。
「お前、本当に分かりやすいなぁ!」
 冷たい反応をされているにも関わらず、善逸は楽しそうに笑う。
「ね、分かりやすい炭治郎くん」
「……うん?」
「いつ、俺にちゃんと返信させてくれるんですかぁ」
 そう言って、炭治郎の肩に頬を擦り寄せ、自身の指と炭治郎の指を絡ませた。
「……えっ!?」
 炭治郎の声は裏返っていた。それを聞いて、善逸は、「本当に分かりやすいね」と揶揄った。

Re: 炭受け ( No.4 )
日時: 2020/04/23 04:57
名前: り

ご飯を食べる善炭の話 そのうちpixivにものっかります

「えへへ、今日も有難うな、たんじろぉ」
 善逸はふにゃりと笑い、昨日の売れ残りのパンを頬張る。中はふんわり、外の生地はさくっと仕上げられたメロンパン、ウインナーを挟み、その上からマスタードとケチャップを程よくかけたウインナーパン、中に甘いあんこがぎっしりと詰まったアンパン……、それらは善逸の口の中に放り込まれ、あっという間に消えていく。食べ盛りとは恐ろしいものである。
「どうせ店の売れ残りだしな」
「んふふふふ、ふふ、申し訳ないなぁ」
 彼の浮ついた口調から、そんなことは思ってないなんて簡単に分かった。
「ふふ、本当はそんなこと思ってないだろう、笑っているし」
「んー? えへへ」
 誤魔化すように笑ってから、善逸は口の横についた餡子をぺろりと舐めとった。
「炭治郎の家のパンは美味しいから、つい頬が緩んじゃうんだよねぇ」
 なんて言われたから、俺は素直に嬉しく思った。

 俺の家は、パン屋を営んでいる。この町では有名なパン屋「竈門ベーカリー」はありがたいことに毎日大盛況だ。……とは言え、パンが売れ残ることだってある。別に赤字になる訳ではないから、特に問題は無いけれど。何が困るって、残ってしまったパンの処理だ。
 捨てるのは勿体ないが、俺はパンよりもお米派だ。弟たちや妹たちにずっと食べさせているのも無理がある。美味しいとしても、パンばかりだと飽きてしまうし、栄養のバランスも偏ってしまう。
 だから俺は、余ったパンを友人に配ることにしたのだ。
 本当はいろんな友人に配ろうとしていたが、いつも善逸に持ってきた分を全て食べられてしまう。ありがたいことではあるけれど。
「……でも、善逸」
「ん?」
 もぐもぐと口を動かしたまま、善逸は顔を上げた。カレーのスパイシーな香りが鼻腔を擽る。
「パンを貰ってくれるのはありがたいが、毎日パンだよな、お前」
「んー……」
 カレーパンを飲み込むと、口の周りについた衣をティッシュで拭ってから、善逸は言葉を続けた。
「お弁当作れないしねぇ」
「……え? 作って貰わないのか?」
「うん、俺一人暮らししてるから」
 さらりと言われたけれど、重大な事実じゃないか。初めて聞いたぞ、そんなこと。
 成る程、ということは朝ごはんも昼ごはんも夜ごはんも、善逸は自分で用意しないとなのか。……キッチンに立つ善逸の姿は想像できない。俺は善逸に訝しげな目を向ける。
「……まさか、お前朝ごはんも夜ご飯もこんな感じで……」
「まっさかぁ! 流石に朝昼夜パンは飽きちゃうって!」
 善逸がケラケラと笑い飛ばしたものだから、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「そうか! じゃあ昨日の夜は何を食べたんだ?」
 昨日の夜。因みに俺の家はロールキャベツだった。柔らかいキャベツを破くと、中から肉汁と甘みが溢れて、美味しかったなぁ。昨日の夜ご飯は結構上手に作れたと思う。みんなも美味しいと褒めてくれた。
「きのうのよるごはん?」
「ああ! 俺は昨日ロールキャベツだったぞ」
 俺がそう言うと、善逸はキョトンと首を傾げて、うんうんと唸って、暫く考えてから、漸く思い出したらしく「あ」と声を上げた。
「そうだ! 卵かけご飯だ!」
 善逸があっけらかんと言ってのけた言葉は、理解しがたいものであった。
 ……夜ご飯が、卵かけご飯。
「……あり得ないだろう!?」
「ええ!? 卵かけご飯をバカにすんなよな!」
「バカにしている訳じゃ……」
「昨日は味の素かけて食べてみたんだよねぇ、美味しかったぁ」
 頭が痛くなりそうだった。
「まさかお前、そんな酷い食生活を送ってるのか……?」
「……ちょっと、何よ! 何でそんな哀れむような目で見るのさ!」
 善逸がきゃんきゃんと吠えるが、俺はその鳴き声を、自分の声でかき消す。
「お前のご飯は俺が作る!」
「ええ!? なんでそうなるのよ!!」
 目を丸くさせた善逸は「意味がわからないよ」「オカンかよ」なんて矢継ぎ早に言うが、俺は善逸の言葉に耳を貸さない。
「いいから、明日からお弁当持ってきてやるからな!」
「だからなんでぇ! 俺別に良いよぉ、パン好きだし!」
「好きとか嫌いとかそういう話をしているんじゃない! 身体の問題だ! そんな生活を続けているといつか体を壊すぞ!」
 はぁ、と息を荒げると、善逸は俺の気迫に押されたのか「ひん」と情けない声を出した。
「でもお弁当は悪いよう……」
「そんなことを言ってる場合か?」
「……だって、俺は大丈夫だし」
「そんなことをしていたら本当に倒れるぞ!」
 善逸は俺の声にびくりと肩を揺らした。そんな彼を見て、俺の頭が少し冷えた。……流石に言い過ぎた。そう思い「すまない」と言ったら、善逸は「炭治郎は悪くないけど……」と口を尖らした。
「まあ、その、炭治郎がそこまで言うならさ……、お金は払うから、夕ご飯とか作ってくれない?」
 炭治郎が良ければ、だけどさ。と付け足して、善逸は目を逸らす。
「勿論! ……でも夕飯なのか? お弁当じゃなくて」
「ええと……、お弁当は、さぁ、伊之助が嫉妬しそう」
「成る程」
 今は先生に呼び出されて席を外している友人を頭に浮かべる。……確かに、善逸だけにお弁当を作ったら嫉妬しそうだ。ああ見えて彼は案外繊細なところもあるのだ。
「じゃあ早速今夜、夕飯お裾分けしに行くな」
「えっ早くない? 一応炭治郎のお母さんに確認とか」
「うん? まあ家のご飯は大体俺が作ってるし……、別に大丈夫だと思うよ」
「炭治郎が作ってるの!?」
 善逸は大きな目を丸くさせた。
「……そうだけど……、だから俺が善逸にもご飯を作ると提案したんじゃないか」
「まあそうだけど、そこまでとは……」
 女子力高いなあ、なんてボソボソと呟いてから、善逸は、二十分前まではパンが沢山入っていたビニール袋を空にさせて、くしゃりと潰した。
「本当に、いいの?」
「ああ、勿論! 家で作った晩ご飯を善逸の家に届けるとか、そんな感じになるが……」
「十分だって! ……ええ、何か悪いなあ……」
 パンを頬張っていたときとは違い、善逸は本当に申し訳なさそうに頬を掻く。
「……別に気にしなくていいぞ? 善逸が倒れる方が心配だ」
 きゅ、と善逸の両手を掴むと、善逸は頬をほんのりと赤くさせて、目を逸らして「お人好しだなぁ」と呟いた。

Re: 炭受け ( No.5 )
日時: 2021/03/26 09:23
名前: り

ご飯食べる善炭A

 お人好しで何が悪い!
 学校を終えて、家に帰り、俺は台所の前に立つ。
「よいしょ」
 ごろり、ごろり。まな板の上に、硬い、丸いモノが転がる。これはパン屋の常連さんから沢山貰った新じゃがだ。
 冷蔵庫の野菜室を開ければ、人参も玉ねぎもある。よかった、と胸を撫で下ろしてから、それらも取り出し、まな板の上に置いて、それから、まな板の横に学校帰りに買ってきた豚こまの切れ肉が入ったパックを置く。特売で買えたし、節約できたな。
「……あ、しらたき買い忘れたな……」
 ビニール袋を漁り、それから冷蔵庫を開けてみたが、やっぱりしらたきは無かった。
「……よし!」
 しらたきのことは諦めた。俺は声を出して自分を鼓舞し、腕をまくった。

 まずは野菜の準備。
 じゃがいもの皮剥きからだ。刃をじゃがいもに当てて表面を削ると、皮は簡単に剥けていく。剥き終わったら芽を取り除き、それから半分に切って、半分にしたそれを更に四等分に切る。それらは変色を防ぐためにも水にさらしておいた。
 人参も皮を剥いて、乱切りにする。……人参を苦手とする弟もいるが、克服してほしいという願いも込めて、少し大きめに切った。
 玉ねぎはくし形切りだ。皮を剥いてから、上部と、根本を切り落とす。それを半分に切って、半分にした玉ねぎに、斜めにした刃を入れる。すると、玉ねぎの汁が弾けて、俺の目尻をじんわりと熱くさせた。
「いてて」 
 素早く切り終えると、俺は包丁と一緒に自分の手を洗いつつ、何度か瞬きをした。玉ねぎを切るのは中々慣れないなぁ。
 
 野菜の準備をしたら、鍋を出す。コンロに火をつけて、鍋を熱してから底に油を垂らすと、パチパチと油が跳ねた。
 豚肉のパックを開けて、豚肉を投入。豚肉の油も跳ねて、パチパチと小さかった音が、少し大きくなる。フライ返しを使い、豚肉を炒めて、色が変わってきたら、玉ねぎを加える。
「んー……いい匂いだ」
 玉ねぎと豚肉が絡み合った香りを嗅げば、きっとこの世の八割位の人間は「美味しそう」と評するんじゃないかと思う。勿論俺もそう評する人間の中の一人だ。すんすんと暫く楽しんだ後、玉ねぎがしんなりしてきたら、じゃがいも、にんじんを加えて、全体をかき混ぜた。
 油と具材が上手く混ざったら、水とめんつゆと砂糖とみりんを鍋の中に投入し、醤油で味を整える。
 煮汁がぐつぐつと煮えて、水泡が弾ける。ふわふわと漂う湯気は、しょっぱくて甘い、優しい香りがした。
「よし!」
 蓋をして、このまま十五分程煮込めば完成だ。
 妹と弟達がお腹がすいたと言い出す頃まで冷ませば、具材に煮汁が吸い込んで、美味しく仕上がることだろう。
 そして、この十五分で副菜を作る。料理はスピード勝負だ。並行して色々することはまだ難しいため、こうして暇な時間を使って、他のものを作る。
 今日は、菜の花のごまマヨあえを作ろう。
 先に新しい鍋を取り出し、冷水を入れて、火にかけておく。
 次に野菜室から菜の花を取り出した。
 一度まな板を軽く洗ってから、まな板の上に菜の花を置き、下の部分を切り取る。切り取るのが終わるころには、鍋の中の冷水は熱湯に変わっていた。
 熱湯に塩を少々。茎の部分から菜の花を入れて茹で、茹で終わったら冷水で冷やして水気をしぼる。
 これを程よい長さに切って、ボウルの中に醤油と一緒に入れて混ぜ合わせ、汁気を切ってから、マヨネーズとすり白胡麻とわさびも加え、それからまた醤油を少し垂らして、全体を混ぜれば完成だ。 
 今日のご飯は、肉じゃが、菜の花のごまマヨあえ。春の野菜を楽しめる晩ご飯だ。
「善逸も喜んでくれるかな」
 ……そうだ、汁物はどうしよう。我が家は朝ごはんの為に作ったお味噌汁がまだ残っていたからいいけど、流石に善逸の分は無いだろう。
「うーん……」
 冷蔵庫を開けてみたら、それなりに材料は揃っていた。……でも、具材は少なめにしようかな。
 大根と後は……。
「しめじも入れよう」
 大きめの袋にしめじと大根、それからお味噌と出汁の素を詰め込む。炊飯器を初め、道具一式は家にあると言っていたし、お鍋とお玉は善逸の家にあるだろう。
 出来上がった肉じゃがと菜の花のごまマヨあえをタッパーに詰めて袋に入れて、俺は家を出た。
 お味噌汁の具材を少なめにしたのは、料理の経験が少ないであろう善逸とご飯を作るから。良い機会だから、善逸にお味噌汁の作り方の一つでも教えよう。そう思ったのだ。

「お! 炭治郎いらっしゃーい!」
 教えられたアパートの一室に辿り着き、チャイムを鳴らせば善逸はすぐに出てきた。
 ご丁寧にスリッパまで用意して、善逸は「汚いけどぉ」と手招きして、俺の持っている袋をキッチンの前に置いてある、大きめの机に置くように指示をした。
「……てか、めちゃくちゃ多くない? 重かったでしょ……」
「そんなことないぞ?」
「結構力あるよね、えへへ、中見ちゃお」
 善逸が袋の中身を覗き込む。
「肉じゃが、煮込み終わってから直ぐにタッパーに詰めてしまって、あんまり染みてないかも……、移動してるときに味が染みていたら良いんだが……」
 俺の話なんて聞いていない様子で、善逸は袋の中を覗いたまま、硬直していた。
「……どうした?」
 そう言えば、善逸は漸く顔を上げる。目がまあるく見開かれていて、「鳩が豆鉄砲を食ったよう」と表すのが適切だな、と噴き出してしまう。
「何これ、すごい……」
「ははは、お前もすごい顔をしてる」
「笑い事じゃないよお! このバカ炭治郎がよお!」
 善逸は「すごい」「美味しそう」「天才なの?」と小学生が言うような感想を繰り返して、感嘆の息を吐いた。
「良いお嫁さんになるわぁ……」
「お嫁さんにはならないぞ?」
「そうだけどさ……、ところで炭治郎、奥底に眠ってる、味噌と出汁と野菜たちは何……?」
 善逸は味噌を掴み、不思議そうに首を傾げた。
「お味噌汁に使う味噌だ、善逸の家に味噌無いだろ?」
「料理しないからね! じゃなくて、お味噌汁? 今から作るの?」
「ああ! 善逸と一緒にな」
 にこりと笑顔を作ると、善逸はまた目を丸くさせ、口を大きく開けて、甲高い悲鳴を上げた。煩い。
「近所迷惑だぞ善逸!」
「あらごめんなさいねぇ!? いやそれどころじゃないって! だって俺料理したことないもん! 包丁怖いし!」
「怖くない! 俺が横で手伝うし! な?」
 優しい口調で話しかければ、善逸は「うう」と小さく唸りながらも、首を横に振ることはせずに、小さな、弱々しい声で「がんばる」と言った。

「ほら、善逸、包丁を持って」
「あうう……」
「必要な分の大根の皮は剥いたし、まずはこう……大根を……、スパッと! シャキッと!」
「分かんないよう……」
 鼻を啜りながら、善逸は首を傾げる。
 大根は短冊切りにしないといけないが、善逸は緊張で手が震えているようだ。
「えっとな……」
 善逸から包丁を受け取り、大根を程よい薄さに切る。トン、トン、トン、とリズミカルに奏でられる音。善逸は「ほあ」と間抜けな声を出した。
「すごいね、炭治郎は」
「そうか? 慣れれば簡単だぞ!」
「一生慣れる気がしないよう」
 善逸に包丁を渡すと、それを受け取った善逸は、包丁をしげしげと見る。
「……だってさ、手が切れちゃいそうじゃん」
「まあ、刃物だからな」
「……刃物って、怖いよ、人に刺さったら、とか色々考えちゃうしさぁ……」
 善逸は溜息を吐く。俺は善逸の顔と包丁の刃を交互に見て、それから口を開いた。
「確かに、刃物は人を傷つけるかもしれないけど、それだけじゃない。こうやってご飯を作ることもできるし」
 悪いことばかりじゃないんだぞ、と言ったら、善逸は呆れたような目をして俺を見つめた。
「本当、炭治郎って先生みたいだな」
 善逸は包丁をしっかりと握り、大根に刃を当てる。ゆっくりと、でも確かに、大根を薄く切っていった。
「善逸、左手が」
 大根を固定している左手の指が伸び切っている。
「こうやって、丸めて……」
 善逸の手に自身の手を重ねて、善逸の指を曲げさせると、善逸の肩が小さく跳ねた。
「……ん? どうした?」
 善逸の顔を見たら、頬が真っ赤に染まっている。善逸はプルプルと手を震わせて、いやぁ……、と口から漏らした。
 善逸の様子が可笑しいのはいつものことだけど、どうしたんだろう。もう一度「どうした?」と聞いたら、善逸は「ダイジョウブデス」と答えてから、大根を切るのを再開した。何故か言葉を発さなくなったけど、まあ集中してくれてるならいいか。因みに、そんな状態は善逸が大根を切り終えるまで続いた。
 火にかけた水の中に出汁の素を入れて、俺と、善逸が切った大根を中に入れる。大根が柔らかくなってきたら、石づきを切り落としたしめじを手で裂きながら加える。
「これがぐつぐつしたら、箸でくるくるして味噌を混ぜてくれ!」
「あ! 比較的分かりやすい!」
「はいお玉」
「今の説明お玉の要素あった!? いや流石にお味噌くらい溶かせますけど!」
 煮立ってきたら火を弱める。お玉で汁を掬って、お味噌を溶かしていく。
「あーお味噌のいい香りー!」
「うん! 美味しそうだ、うまく溶かせたな、善逸!」
 善逸と俺の目が合う。
「でしょ?」
 善逸は、得意げに笑った。
「さて、お味噌汁もできたし……、俺は帰るな」
 コンロの火を消しながらそう言ったら、隣の彼は、えっ、と声を上げる。
「帰っちゃうの?」
「……ん? まあ……」
 一応家族が待っているしな……、と出かけていた言葉を急いで飲み込む。一人暮らしをしている善逸に、こんなことを言うのは失礼だからだ。
 善逸は、求めるように俺を見つめている。例えるならばその様は、雨の中、ダンボールの中で震えている捨てられた犬だ。
「……分かった」
「え!」
「善逸、食器あるのか?」
「うん! 食器はあるよ!」
 ニコニコと嬉しそうに笑って、彼は棚から食器を取り出してくるくると舞う。
「食器割らないようにな!」
 本当に犬みたいだ。善逸が犬なら、俺は飼い主かな。そんな下らないことを考えていたら、俺も笑ってしまった。

「いただきます!」
 手を合わせてから、まずは菜の花のごまマヨあえを箸で摘む。
「ん……」
 口に入れると、まず、菜の花の苦味が広がる。しかし、マヨネーズで中和されているから、まろやかな味わいになり、食べやすい。ごまと共に香るわさびは、鼻の奥をツンと刺すが、良いアクセントになっている。
 さっぱりとしたもの、こってりとしたもの、それらがバランス良く混ざり合っていた。
「うん、美味しい」
「美味しい!」
 俺の声と、善逸の声が重なる。前を見たら、善逸が肉じゃがを口に入れながら、くふくふと笑っていた。
「たんじろぉ! この肉じゃがすっごい美味い!」
「そうか……? 良かった」
 じゃがいもを食べてみたら、甘くてしょっぱい優しい味がした。
 善逸のは早めに鍋から出してタッパーに詰めてしまったし、少々出来が不安だったけど……、味はよく染み込んでいる。
「じゃあ、お味噌汁も飲もうか」
「ひゃー! 緊張するなぁ」
 善逸は大根を切って、味噌を溶かしたくらいなのに、どうして緊張するんだ。と聞いたら怒られそうな気がしたから聞くことはやめて、黙ってお味噌汁を啜る。
「……うん」
「うん?」
「優しい味がする」
 胸の辺りが、ぽかぽかと温まる。
 お味噌汁を飲むと、なんだか安心できるのは何でだろうなぁ。昔からよく飲んでいるし、慣れ親しんでいる味だから、安心できるのは当たり前だけど……。
「美味しいね、炭治郎」
 でも、お味噌汁を啜って、幸せそうに笑っている善逸を見たら、自分の些細な疑問なんてどうでも良くなった。
 俺は善逸に「そうだな」と答えてから、善逸が切ったであろう大根を箸で摘み上げる。他の大根よりも分厚くて、少し笑ってしまった。
「何、笑ってんの?」
「んん、何でもない」
 善逸は「そう?」と言って、お味噌汁を一口啜ってから、言葉を続けた。
「それにしてもさ、炭治郎はすごいね、俺料理したの中学の家庭科以来だったよ」
「そんなことあるか? まあそんな気はしたが……」
「うーん、作っても目玉焼きとか? あとチャーハンとかは作ったけど」
「なんだ……、一応料理してるじゃないか」
 ほっと息を吐くと、善逸は机の上に並べられた料理を見て「これを見ちゃうとね……」と頬を引きつらせる。
「まあ、善逸にこんなに沢山作れとは言わないが、野菜くらいはちゃんと食べてくれ」
「うー……」
「善逸」
 じっとりと見つめれば、善逸は小さく唸り、バツが悪そうに目を逸らす。
「取り敢えずは俺が持っていくから問題無いが……、善逸も料理をした方が良い」
「そんなこと言われてもさぁ、俺炭治郎と違って不器用だもん、できっこないよう……」
 彼は弱々しい声で俺に訴える。
「じゃあ、俺が善逸に料理を教えてやるから!」
「えぇ!? 何その流れ!?」
 善逸の声が裏返っている。相当驚いたんだろう。
「別に、毎日じゃないぞ?」
「当たり前だよ!」
「お前も料理を覚えないまま菓子パンばっかり食べていたら身体を壊してしまうぞ!」
「あー耳が痛い! なら炭治郎が一生俺にご飯作ってよぉ!」
 ぴたり、と俺の箸が止まる。
 ……一生、ご飯を作ってくれって。
「あ、炭治郎!? 違う! 今のは違うんだ! 別にプロポーズとかじゃなくってぇ!」
 善逸は顔を真っ赤にさせて何やらべらべらと捲し立てている。
 別に俺は、プロポーズみたいだな、とは言ってない。いや、少し思ったけど。
「……まあ、善逸が望むなら」
 そう言ったら、善逸の忙しなく動いていた口が閉じた。
 暫しの静寂。静寂を壊す為に落とされたものは、善逸の言葉だった。
「たんじろ……、さぁ……」
 はぁー、と深い深いため息を吐かれた。……何だ? 怒らせてしまったんだろうか? 善逸の考えていることが分からない。首を傾げれば、顔を真っ赤にさせた善逸が俺を見た。
「簡単に言わないでよね、そんなこと……」
「え、何?」
「もういいよぉ! あーあ! 肉じゃがおいし!」
 肉に齧り付く善逸を見ながら、俺は未来、その予想図を頭に思い浮かべる。
 一生、善逸にご飯を作る。善逸が望むなら出来る限り頑張りたいけど、実際難しいんだろうな。
 だって、数年後、善逸の前でご飯を食べて笑っているのは多分俺じゃない。可愛い女の子だろうから。
「ちゃんと、野菜も食べろよ」
 善逸に言いながらも菜の花を口に含むと、舌の上で苦味がじんわりと広がる。
 何故だか分からないけど、最初に一口食べたときよりも、ずっと苦く感じた。

終わり

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