官能小説(オリジナル18禁小説)
- 生命の樹〜少女愛者の苦悩
- 日時: 2015/08/12 10:27
- 名前: 斎藤ロベール
緑川巧人(みどりかわ たくと)は仕事を終えた電車での帰途にあって、すでに帰ってから飲むべき酒の種類と、今晩見るべきインターネットのサイトとについて、頭の中で物色していた。今日は少し早い帰宅だったから、読経をすぐして風呂に入ればゆっくり飲めるだろうと思った。緑川は毎朝神に祈り、毎晩読経する習慣だった。先祖や家族や同僚の社員、また知人の幸福を祈らなければ、何か相手に対し自分が悪く思われるとともに、そうしないことは不安でもあった。
緑川は嘘をつかぬよう努め、人の悪意に善意を返すことを日々の心得としていた。カバンには必ず何かの宗教書を入れていた。三十過ぎでまだ独身だった。郊外のアパートを借りて住んでいた。
電車内の吊り広告がふと目に留まった。雑誌の広告で、見出しの一つに、「小学生女児、全裸で保護」とあった。疲れていた緑川は感情を痛く刺激された。そしてそんな場面に出くわしたいものだと思った。雑誌の名前を確かめて、あとからコンビニで見てみようと思った。
座っている緑川の前に、塾帰りらしい女子高校生の一団が乗ってきて立った。初夏のことで、薄着に短いスカート、脚や二の腕の肌がまぶしかった。いろいろなにおいが鼻をかすめた。美しいが、重いと緑川は思った。
いくつかの駅が過ぎて、車内は空いてきた。停車中、今日も昨日と同じワインにしようと緑川は決めた。降りるまであと三駅であった。
電車がまさに出ようとするとき、女の子供が駆け込んできて緑川の隣に座った。汗を随分かいて、息が切れていた。長く走ってきたらしい。外国人だった。どこの出身かわからない混血の顔をしていた。小学校の五年生くらいだろう。緑川には、この思いがけない出来事が天の恩寵と感じられた。そしてワインのことをすぐに忘れた。子供はスカートのポケットからハンカチを取り出して、額や首、わきなどの汗を拭き始めた。息はまだ切れていた。前かがみになって頭を垂れたので、緑川はその背中から子供を観察することができた。シャツの背中に浮き出た背骨が亀の甲羅を思わせた。子供の体の軽やかさは、緑川の気持ちをも明るくさせ、仕事の疲れをも忘れさせた。
その子は、緑川の降りるひとつ前の駅で降りた。やはり走って出て行った。その時子供はハンカチを落としていったが、声をかける間もなかった。緑川は拾ってハンカチを自分の背広のポケットに入れた。それは湿って重いほどだった。
帰宅した緑川はすぐそのハンカチを出して嗅いでみた。濃い汗とわきがのにおいに脳天を射られる思いがした。ワインも読経もあとにして、緑川は高ぶる自分をまず慰めた。
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.2 )
- 日時: 2015/08/15 07:41
- 名前: 斎藤ロベール
緑川が目を覚ましたのは朝の六時頃だった。まだ早いと思ってまた目を閉じた。外は晴れか曇りらしく、雨音はしていない。きのう抱いた二人の女との会話を思い出し、触れた左手の指を、まどろんだまま緑川は口に当ててみた。それが新鮮に強くにおったとき、緑川は少女のことを初めて思い出した。頭痛と酔いの残っているはっきりしない意識で、緑川は少女のいないことと、その衣服が布団の横に置いてあることとを知った。少女を裸にした、その先が思い出せなかった。最後には布団に入れて眠ったはずだった。
緑川は体を起こした。卓袱台に紙切れがあり、それに、ありがとうございました、服を借りていきますと書いてあった。名前も住所もなかった。そうしてみると、少女は帰ったのだ。緑川は念のため、投げてあった財布を調べてみたが、金はなくなっていなかった。尤も、盗られていても構わないと思うのだった。押し入れのティーシャツと短パンとが一つなくなっていたから、それを着ていったのに違いない。布団の横の少女の服は、靴下からスカート、下着、全てあった。髪飾りまであった。
携帯電話が転がっていた。出した記憶は何もなかった。緑川は中を確認して驚いた。実に百枚以上、昨晩の緑川の奇行と痴態とが記録されていたのである。少女の体のありとあらゆる部分、例えばつむじや爪の一つ一つまでが執拗に写され、後半が動画になっていた。
緑川は自分を悪魔だと思った。激しい恐怖が襲い、犯罪者に成り下がった自分におののいた。冷蔵庫に走ってビールを開けると一気に飲んだ。一体、自分はどうなるのか。緑川は少女の服をまとめてごみ袋に入れた。そのとき落ちた下着を見た。緑がかったような薄茶色に汚れていて、焦げ茶色の染みもあった。緑川はそれを手に取り、鼻に当て、それから丸めてごみ袋に投げ込んだ。ごみ袋は押し入れに放り、戸を閉めた。
ビールを数缶飲んだ緑川は、苦しい眠りに落ちていった。
呼び鈴が鳴った。目を覚ました緑川は、回覧板ですとの内容に応じる気はまるでなかったが、それが声でズザンナだと分かると、吸い寄せられるように出ていった。
戸が開いて緑川を見たズザンナははっとした。下着姿の緑川のトランクスの前が高く盛り上がっていた。ズザンナは首まで真っ赤になった。しかし、緑川の様子がおかしいことに気づいたズザンナは、気持ちをそこに向けるまいと心に決めた。
「おじさん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。酔いがひどくって。」
ズザンナは、緑川の部屋のいつもと違う臭気が気になった。そして、どこかで嗅いだにおいだとは思ったが、思い当たっていよいよ恥ずかしくなった。男の人もこんなにおいがするのだろうか。しかし、きっとごみか何かが偶然そうなっているのだろうとズザンナは判断した。
緑川は泥酔甚だしい様子だった。立っているのもやっとであるらしい。
「おじさん、あたしがお掃除してあげる。」
とズザンナは自分から上がり、緑川を支えた。大人の男の体の大きさをズザンナは肌で感じて、また赤くなった。緑川は、ズザンナに触れた喜びより安心が先に立って、意識が遠のいた。横になった緑川はすぐに寝息を立て始めた。
掃除機をかけ、ごみをまとめたズザンナが緑川を見ると、布団は跳ね上げられ、腹を出していた。暑いのかしらと思って行ってみた。しゃがんでズザンナが布団を直そうとしたとき、緑川が片脚を立て、ゆるいトランクスの付け根の口から、もはや力の抜けた男のものがこぼれ出た。見て、しまわなければと慌てたズザンナは、咄嗟に両手を出してそれを包んだまま、手が離せなくなった。そうしてむしろ全部包み込んだ。男子が呼んでいる通りのものを手のひらに感じ、指先に当たってくる重みと危なげなやわらかさとに驚いた。しばらくそのままでいたズザンナの心はなぜかしかし落ち着いてきた。そして自分が正しいことをしているように思われてきた。ズザンナは包んでいた両手を開き、そこへ恐れずに目を向けた。ズザンナは男の人を分かった気がした。それは見かけと違う弱いものだと思った。ズザンナは、両手に掬うように、そこへ心のこもった口づけをした。力の戻った緑川が、ズザンナには母親のように愛おしかった。
その晩、ベッドの中のズザンナは、自分が女であることを初めて体で意識し、知った。
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.3 )
- 日時: 2015/08/17 19:55
- 名前: 斎藤ロベール
日曜日、緑川は普通に目を覚ました。特になにも恐れていたことは起こらない。少し落ち着きを取り戻した緑川は、今から真面目に生きればいいと考えつつあった。その考えのまま、顔を洗ったあと少女の下着を嗅いだ。
九時半にはズザンナが教会に誘いに来るはずだった。それが、今日に限って来なかった。両親の出かけるらしい音と声とが聞こえたので、緑川は出て尋ねてみた。両親は、年頃ですからねと笑った。
Chu shi eble havas iun problemon?(もしかして何かあったんですか。)
緑川が母親にエスペラントで質問した。母のアンナは、エスペラントに堪能で、緑川も話せたから、日本語よりエスペラントが得意なアンナは、緑川とは好んでこの言葉を使っていた。引っ越してきたばかりの頃、ズザンナは、知らない言葉がいきなり母の口から流れ出たのに大層おどろいたものだ。
Ne, ne, tute ne! Shi estas nun simple en tia malfacila jaragho. Morgaw shi forgesos chion.(いいえ、全然。あの子は今ああいう難しい年頃なだけです。明日には全部わすれてしまいますよ。)
アンナはそう答え、両親は出かけていった。
しかし緑川は、教会に行かないズザンナが大変気になった。自分の都合を教会に優先させるような子ではない。あの「王女」にはわけがあるに違いないと思われた。三十男の緑川は、十代始めのズザンナをそれほど敬愛していたのである。生徒が尊敬する先生の家を初めて訪ねる時のように緑川は呼び鈴をかしこまって押した。
目を泣きはらしたズザンナがすぐに戸を開けて、入って下さいと言った。緑川は非常に緊張して上がった。
緑川をテーブルに着かせたズザンナは、お茶を入れて緑川に出し、自分もテーブルに着いた。緑川の瞳をまっすぐに見つめるズザンナの目から、雨の雫のように形のはっきりと丸い涙の粒が止まらなかった。それからズザンナは顔を伏せて泣いた。
緑川は人に感情を向けられることが大変苦手だった。営業職にあるのは人あたりが良いからで、自分としては物を相手にしたいくらいに思っていた。緑川が大人の女性とまともに付き合えない原因も、一つはここにあった。「感情の生き物」とは、人間でも女でもなく、本来動物である。知恵のついた人間の女が見せるむき出しの感情を、動物のそれと異なり、緑川は恐れ嫌った。
ズザンナは、美しい顔を涙と洟とで濡らしながら、きのう自分がしたことを、吐露という言葉のとおりに語った。寝る前のことまでつぶさに語った。そしてもう教会へ行く資格がないと言った。
聞きながら緑川は、強い興奮に内心おそわれた。様子を思い浮かべると甘い喜びすら感じてきた。そして、好奇心からその時のズザンナの気持ちをいちいち尋ねて、言葉を味わいたくなった。
だがズザンナの信頼が緑川を留めていた。こんな立派な人格が、自分を信じて恥を打ち明け、助けを求めてくれている。緑川は自分の「程度」をわきまえているつもりだった。困っている先生を力のない生徒が助けようとすれば、自分を顧みず最善を尽くすよりあるまい。うちに帰れば少女のものもあるのである。ごみのような自分はそこに埋もれていればいいのだ。今は自分の時間ではない。
緑川は親鸞の悪人正機の話をズザンナにした。悪いのは自分で、ズザンナは何も悪くないこと、むしろ思ってもらって嬉しかったこと、悪いと思っているときこそ祈るのが本当だということを緑川は併せて語った。
ズザンナはうつむいて耳を傾けていたが、やがて、落ち着いた喜びをたたえた瞳で緑川を見つめ、おじさんありがとうと言い、緑川の手を取った。
ロザリオを持って教会へ行ったズザンナを見送ったあと、緑川は部屋に帰って一心に読経した。
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.4 )
- 日時: 2015/08/19 17:57
- 名前: 斎藤ロベール
緑川の勤めているのは市内にある小さな出版社である。出版社の書店に対する営業は、どちらかといえば、書店と出版社とのあいだに立つ「取り次ぎ」が握っているとも言えた。出版社の意向より、書店からの「売れ筋」を取り次ぎ会社が統計的に集めて、それをまた書店に知らせることで、書店から出版社への注文が決まってくる。しかし、これに頼りすぎるとどこの書店にも同じ本が並ぶことになり、書店の独自性はなくなっていく。だから、「外回り」の人間の生の声を聞くのを喜ぶ書店もあったし、出張で遠くへ出向いた時など、重宝がってくれるところもあるのだった。けれども、殆どはすでに退職している前任者がおかしなことをしたか何かで、関係を損ねていた場合には、名刺さえ受け取ってくれない書店もあった。そういうところに緑川はまたよく当たった。
外回りが臨時注文と顔つなぎとを主としていれば、営業職のその時々の責任も水商売的で、注文が取れなければ上司に苦い顔をされるものの、多く取っても大して褒められるわけでもなかったから、知人の薬剤関係の営業に比べ、楽なものではあった。それでも緑川は、人間関係がいかに大切なものか身にしみていた。具体的に、相手との関係が数字に反映される。互いに個人としての本心でなく、利害を絡めた約束付きの、表面的な付き合いなのに、何かあれば本気で謝り、また感謝もする。自分とは何者なのか、また何のために日を送っているのか、それを思うと緑川は虚しくなるのだったが、誠実さを欠くつもりはなかった。そしてその誠実さで、断られても幾日かあとには相手に名刺を受け取らせ、高い注文を得たものだった。
勝ち抜く戦国武将などにではなく、義の奴隷として働いた殉教者たちに緑川は自分を近づけたく思った。しかし緑川は命を求め、仕事からそれを得ることはできなかった。会社の意向を自分の意志とするのも辛いことだった。そもそも、いつからか緑川にとって、生きていること自体がなにか重苦しいのだった。いのち、それは青空であり、自由に躍動する明るい元気さであるはずだった。
人生の重みが表れた大人の体をした女より、軽々とした少女の心身に緑川が憧れたのは当然だったろう。そしてズザンナは緑川の矛盾する理想をまるごと体現した少女だった。
ただ、日々の緑川の具体的な慰めとなったのは、例の少女が残した「においのする物」だった。嗅覚や味覚・触覚は、視覚や聴覚より直接人間の感覚に働きかける。実際、くだんの携帯電話の画像など、緑川はごくたまに見返す程度で、すぐに飽きた。しかし、少女のハンカチや下着・靴下は手放せないで、持ち歩いた。これまで生きてきた世の中に、これ以上緑川の心を慰めるものはまるでなかった。
知らない少女の体臭に頼り、知っているズザンナから充分な愛情を得られぬことに緑川は悩んだけれども、風俗に通い、読経をして、泥酔することのうちに、全てをないまぜにしてごまかした。だが、この数日に膨れ上がった自分の犯罪者意識は確実に緑川を蝕んでいた。
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.5 )
- 日時: 2015/08/21 10:45
- 名前: 斎藤ロベール
一人で本を読みながら過ごした飲み屋ですでに泥酔していた緑川は、電車内に人がまばらなのを見て、背広の内ポケットからあたかもハンカチを取り出すように、少女の下着を取り出して嗅いだ。女の汚れはもう乾いた焼き菓子のように変わっていた。
朦朧とする頭でそれを鼻に押し付けていたところへ、例の少女が乗ってきて、緑川を認め、となりに腰掛けた。日はまだ沈みきっていなかった。少女は手提げ袋を持っていた。緑川は、気づかれたと思ったが、少女がにこやかに緑川を見つめていることから、ハンカチとごまかせることを確信し、それをポケットに戻した。
降りるはずの駅で少女は降りず、緑川の下車する駅まで付き添い、一緒に降りて歩いた。何を話したかは忘れてしまったが、少女の深い緑の瞳が心を打った。少女の顔色はよくなく、ときどき腹を押さえていた。
駅から緑川のアパートまでは二十分くらいであった。その途中、少女が激しい腹痛を訴えた。トイレに行きたいと言い、額に脂汗が浮かんでいた。緑川は少女とともに夢のような意識の中で走った。そしてアパートのドアを開けた。
入るとすぐ、急に立ち尽くした少女のいやという声がして、少女は手で顔を覆った。緑川は台所のタオルを手に取った。
トイレで少女の腹痛が収まるまで、緑川は間近に世話し、風呂場で少女を洗ってやったようだが、意識がはっきりした時に外はもう明るくなっていた。緑川は背中から少女を抱く形で横向きに寝ていた。
宿酔の緑川は、布団をはねあげて立ち、少女を見た。枕の向こうに少女の吐いた跡があった。緑川の無理な大人の行為のせいだろう。緑川は少女を足で仰向けに転がした。大の字になった少女の平たい下腹を踏んでみると、眉にしわを寄せた少女はああと声を上げた。温かなものが緑川の足にかかった。
この時、緑川の自我は涼風のような自由を感じ、生きている喜びに溢れかえった。
次に目が覚めたとき、少女のその生きている印の中に横たわった緑川は、動かぬ体を一点の意識で動かし、欠勤の電話を入れた。その時に少女のいないのを認識することすらできなかった。
「お母さんが来るから帰ります。おふとんごめんなさい。今度、何かします。また洋服を借りていきます。レナータ」
昼ごろようやく起きた緑川がこんな置き手紙を見つけた。卓袱台の上にビールの缶が四つと、ワインのびんが一本転がって、そこにそれはあった。グラスが二つあり、ともに使った跡が残っていた。
まるで記憶にないことだった。少女も酒を飲んでいたことになる。
少女が持ってきた手提げ袋があった。中には、この前着ていった緑川の服が入っていた。
緑川は布団の汚れたシーツを外し、捨てようかと思って丸めはしたものの、惜しい気がしてそうできず、いつもの所へ放っておいた。少女の髪もたくさん抜けて落ちていた。残っている酔いからくる気分の悪さも手伝って、少女のにおいに食傷気味になっていたが、その髪を一本一本丁寧に拾い集めた。
したことの記憶がないとは一体どういう心の働きだろうか。それよりも、酒を飲んでいるとき、自分の行為をまともだと思っているのに、覚めてみると明らかに狂っているのはなぜなのだろうか。
ふと会社のことが気になった。しかし、確かに連絡したのを思い出して、緑川はシャワーを浴びに行った。自分の下着を脱いだとき、そこに少女の跡を見つけた。男にはない色だった。それを眺めつつ、少女は緑川のしたことに気づいているのだろうかと疑った。置き手紙にも、なんの非難の言葉もない。「今度」と先のことまで書いてある。少女の腰はまだ狭く、女の重さを備えていない。少女にふさわしい行為であるはずがなかった。
体を拭いた緑川は、そのまま部屋を掃除し、少女のものは全てごみ袋にまとめ、口を縛った。それから、少しフランス語の本を読んだのだが、結局ワインの栓を開け、休みを文字通り休むことにした。
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.6 )
- 日時: 2015/08/21 11:04
- 名前: もな
うわ〜
本当に本で販売されてそうな感じで
すごい文字が凝縮されてて、
私こういうの好きです!
これからも頑張ってください!
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.7 )
- 日時: 2015/08/27 18:58
- 名前: 斎藤ロベール
もな様
コメントどうもありがとうございました。とても嬉しく思います。
これからも楽しんでいただけたら幸いです。よろしくお願い申し上げます。
斎藤ロベール
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.8 )
- 日時: 2015/08/27 19:06
- 名前: 斎藤ロベール
翌日、もはや何ともなく健康な朝を迎えた緑川は、「あすは必ず行くけれども大事をとって」もう一日会社を休んだ。
少女は今晩の電車に乗ってくるだろうか。そもそも、少女はどこへ行っていてあの時間に乗ってくるのか。緑川はしらふで少女と話したことがなかったから、実際には何をしていても思い出しか残っていないのだった。確かにあるのは少女の汚れた服やいろいろな残り香だ。いつも持ち歩いている少女の下着も、全てほとんどにおわなくなってしまった。緑川は思い立ち、少女の下着を穿いてみた。不快に締め付けられて吐き気を催しそうになった。
天気がいいので表を少し歩こうと思った緑川がドアを開けて出たとたん、ズザンナが目に入った。ズザンナは自分の部屋のドアの両側にある植木鉢に水をやっていた。薄黄色の半袖のシャツに真っ白な長いスカートをはき、はだしのサンダル姿をしたズザンナは爽やかながら、その顔に疲れがあった。挨拶のあと、今日は創立記念日でお休みなのと自分で言い、どうぞとドアを開けてにっこりと緑川を招いた。この「どうぞ」が唐突だったので緑川は面食らった。しかし、散歩の方を優先させる理由など、もちろん無いに決まっていた。
ズザンナの部屋は赤やオレンジの小物が多く、明るい女の子らしい部屋だと緑川は思った。ポスターの類がない代わりに、十字架が壁にかかっていた。机の上にも聖家族の絵があった。暗く陰気な感じのする自分の部屋とはなんて違うのだろうと緑川は感嘆した。そして女の「善さ」を予感しもした。
ズザンナの両親は共働きなので、今日はズザンナだけであった。食事はどうするのかと緑川は聞いてみた。一緒に作って食べませんかとズザンナが答えた。人と食事をするのも好きでない緑川は、この言葉がとても暖かく胸にしみるのを不思議だと思った。用意してくれた紅茶を飲みながら、緑川はズザンナが話すままに、よく耳を傾けた。友達の悪口など一言もなかった。疲れて見えるのはなぜかと聞くと、たくさん出た宿題を昨晩全部してしまったのであまり寝ていないのだと言った。それでも朝は起きてお祈りをしたのだと言う。
まだ九時過ぎだった。二人はトランプをしたり、クイズなどをしていたが、緑川の方は不安になって、長くいてもいいのかと尋ねた。ズザンナは、緑川に用がないならずっといても構わないと答えた。この分け隔てのないズザンナの態度が緑川には恐れ多かった。もったいないとか、かたじけないとかいう昔の言葉が分かった気がした。やはり早く帰ろうと緑川は思った。しかし、食事を一緒に作るのに承諾してしまったことが胸にかかり、昼までは帰るべきではあるまいとも考えた。
特に話すこともなくなった二人はそれぞれに本を読み始めた。本棚のポーランド語やエスペラントの本が珍しくて緑川は飽きなかった。ズザンナは推理小説らしい子供の本をベッドに寝転がって読んでいたが、次に緑川が見たときには寝息を立てていた。寝不足の子を起こすわけにもいかない。この章を読んだら帰ろうと緑川は決めた。
立ち上がるとき、下腹部の痛みを緑川は強く感じた。まだ例の少女の下着を穿いたままだったのである。これを思い出すと同時に、ある不安が緑川の胸によぎった。鍵のかかっていないアパートに、眠った子供を一人残していいのだろうか。ドアに手をかけたところで、それが論理的な説得力を伴って緑川に確かなものとなった。緑川は、あまり満足でない感覚を抱きつつも、ズザンナの部屋へ戻った。そして緑川は息を飲んだ。
何度か寝返りを打ったズザンナの長いスカートが腰の上までまくれていた。ズザンナは快活な少女なのに違いない。緑川に背を向け、右腕は頭の方に伸ばしていた。両脚は折り曲げていた。
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.9 )
- 日時: 2015/08/27 19:22
- 名前: 斎藤ロベール
緑川は近寄ってみた。そして、ズザンナの白いはずの下着に、ちょうどそのシャツの色よりは暗いいびつな黄色を見つけた。きのうから服を替えていないのだと緑川は思った。いまの緑川にとって、目の前にあるのはただの綺麗な少女の体だった。緑川はその黄色に発作的に鼻を当てて深く息を吸い込んだ。かき分けるように鼻を沈めた。まだ小さな女の形が口元に細かく辿られた。鼻を後ろにゆっくり動かしていくとにおいも変わっていった。
膝で立っている緑川は、顔を離してズザンナの体を上から眺めた。頭に伸ばした腕の付け根に、半袖のシャツから金色っぽい毛が見えた。そこにも緑川は鼻を付けた。あの少女と同じきついにおいが緑川の脳天を突いた。くすぐったかったのか、ズザンナは緑川の頭を両腕で抱きしめ、体を上に向けた。その腕をやわらかくほどくとき、緑川はズザンナの幼い胸に頬で甘えてみた。
本当に尊敬している人間に、動物的な性質を、もっと言うなら糞尿などを重ねて見たくはないものだ。子供が女親の股から生まれてくるなどということも、母のイメージにおよそそぐわぬ嫌なものだ。緑川はもう一度ズザンナの同じところを初めから嗅いでみた。そして、思い出のようになっているその高貴さと尊敬の念とがそれに全く影響を受けないことに喜びを覚えた。改めて緑川はズザンナの存在を見上げた。今なら手が届くそこへの思いを積極的に諦めて、緑川はスカートを戻してやり、わざと大きなくしゃみを自分でした。
ズザンナは飛び起きた。緑川の顔を見て、ごめんなさい、寝ちゃったと言った。
昼、二人はスパゲティーを作って食べた。料理はあまりしたことがないとズザンナは言った。ソースはインスタントだった。そのあと緑川は朝しようと思っていた散歩をするためズザンナのもとを出ていった。
この晩、緑川は酒を飲まず、床に入るとズザンナにあたたかく抱かれた気分でよく眠った。
退社後、緑川は遠回りして古本屋に立ち寄った。真面目に勉強がしたい気分だった。何軒か回ってドストエフスキーの昇曙夢による古い訳本を見つけた緑川は、高額なのにもかかわらず喜んで手に入れた。電車に乗るまでの待ち時間に読み、訳者の思い入れも訳文に反映するものだと思いながら、気がついたことがもう一つあった。本の中の人物にズザンナを探していたことである。昨日のことがあってから特に、緑川の心の中でズザンナが大きな位置を占めているのに今、気がついた。それは恋の感覚だった。体のことがあると男は具体的な関係を求めるらしい。尊敬を伴った恋愛の感情を描くドストエフスキーに親しみを覚えたのは当然だったかもしれない。ノヴァーリスがゾフィーに寄せた愛のことも思い出し、自分もそういうことができるだろうかと考えた。乗車して、続けて読み進んだ。
ふと上を見ると、「小学生女児また全裸で保護 同一犯か」という記事が目にとまった。緑川は嫌な気がした。
ズザンナに手紙で思いを告げても大丈夫だろうと緑川は思った。しかし、両親は理解しないに違いない。
突然、ぽんと膝を叩かれて緑川が本から顔を上げると、隣に少女が座っていた。緑川は初めて、はっきりした頭で少女の顔を知った。少女は一瞬とまどったような色を瞳に浮かべた。しらふの緑川を少女も知らなかったからだろう。
少女は緑川に付いてきた。緑川はここで初めて少女にその素性を尋ねた。進学塾に行っていること、母親は夜の仕事で朝にならないと帰らないこと、父親はいないこと、などを少女は語った。緑川のところに来ていることは母親は知らないし、言っても仕方がないとも言った。それから、学校にも友人は特にいない、死にたい人の気持ちがよくわかると加えた。来ている時に緑川が何をしたのか覚えているかとは、聞く勇気が出なかった。
アパートに着いた緑川はまず風呂を沸かし、夕飯を少女の分も作ってやった。少女を先に風呂に入れ、自分はあとから入った。出てみると、少女がワインを出して待っており、緑川が飲むままについでくれた。途中、少女も確かに飲んだ。インターネットを二人で見ながら面白く話し、二本目の瓶を取り出してあけた。もちろん少女はついでくれた。緑川は、夫婦とはこういうものではないかと思った。
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.10 )
- 日時: 2015/08/28 11:30
- 名前: みかん箱
読ませていただきました
普通に世の中には出せないだろうけど、名作ですね。
あまり知識を持っていなかったので興味深いです。
頑張ってください!
みかん
- Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.11 )
- 日時: 2015/08/28 16:33
- 名前: 斎藤ロベール
みかん箱様
どうもありがとうございます。面白く感じていただけたら幸いです。
人生模様のようなところを中心に置きたいと思っています。
コメント、大変嬉しく存じます。
これからもよろしくお願いします。
斎藤ロベール