官能小説(オリジナル18禁小説)

生命の樹〜少女愛者の苦悩
日時: 2015/08/12 10:27
名前: 斎藤ロベール

 緑川巧人(みどりかわ たくと)は仕事を終えた電車での帰途にあって、すでに帰ってから飲むべき酒の種類と、今晩見るべきインターネットのサイトとについて、頭の中で物色していた。今日は少し早い帰宅だったから、読経をすぐして風呂に入ればゆっくり飲めるだろうと思った。緑川は毎朝神に祈り、毎晩読経する習慣だった。先祖や家族や同僚の社員、また知人の幸福を祈らなければ、何か相手に対し自分が悪く思われるとともに、そうしないことは不安でもあった。
 緑川は嘘をつかぬよう努め、人の悪意に善意を返すことを日々の心得としていた。カバンには必ず何かの宗教書を入れていた。三十過ぎでまだ独身だった。郊外のアパートを借りて住んでいた。
 電車内の吊り広告がふと目に留まった。雑誌の広告で、見出しの一つに、「小学生女児、全裸で保護」とあった。疲れていた緑川は感情を痛く刺激された。そしてそんな場面に出くわしたいものだと思った。雑誌の名前を確かめて、あとからコンビニで見てみようと思った。
 座っている緑川の前に、塾帰りらしい女子高校生の一団が乗ってきて立った。初夏のことで、薄着に短いスカート、脚や二の腕の肌がまぶしかった。いろいろなにおいが鼻をかすめた。美しいが、重いと緑川は思った。
 いくつかの駅が過ぎて、車内は空いてきた。停車中、今日も昨日と同じワインにしようと緑川は決めた。降りるまであと三駅であった。
 電車がまさに出ようとするとき、女の子供が駆け込んできて緑川の隣に座った。汗を随分かいて、息が切れていた。長く走ってきたらしい。外国人だった。どこの出身かわからない混血の顔をしていた。小学校の五年生くらいだろう。緑川には、この思いがけない出来事が天の恩寵と感じられた。そしてワインのことをすぐに忘れた。子供はスカートのポケットからハンカチを取り出して、額や首、わきなどの汗を拭き始めた。息はまだ切れていた。前かがみになって頭を垂れたので、緑川はその背中から子供を観察することができた。シャツの背中に浮き出た背骨が亀の甲羅を思わせた。子供の体の軽やかさは、緑川の気持ちをも明るくさせ、仕事の疲れをも忘れさせた。 
 その子は、緑川の降りるひとつ前の駅で降りた。やはり走って出て行った。その時子供はハンカチを落としていったが、声をかける間もなかった。緑川は拾ってハンカチを自分の背広のポケットに入れた。それは湿って重いほどだった。
 帰宅した緑川はすぐそのハンカチを出して嗅いでみた。濃い汗とわきがのにおいに脳天を射られる思いがした。ワインも読経もあとにして、緑川は高ぶる自分をまず慰めた。

Page:1 2 3



Re: 生命の樹〜少女愛者の苦悩 ( No.1 )
日時: 2015/08/12 10:48
名前: 斎藤ロベール

 緑川のアパートの隣の部屋には、熱心なカトリック信者である家族が住んでいた。藤原という姓の実業家で、細君はポーランド人だった。ズザンナという娘がひとりいた。
 緑川と藤原とは、四年前の春先、同じときに越してきたこともあり、比較的懇意にしていた。当時小学四年生だった娘のズザンナは人なつこく、ときどき緑川のところへ顔を出した。好意いっぱいの美しいズザンナに緑川はたちまち惚れてしまったが、本当に純心で、緑川が落ち込んでいる日には、きっと神様が何とかしてくれると、緑川の手を握り自分の胸に当てるズザンナに、緑川も劣情を抱くことができないばかりか、こういうズザンナを騎士のように守りたいとさえ思ったほどだった。
 同じ四年前の六月頃、緑川のところに遊びに来たズザンナが大声で騒いだことがあった。小さなベランダに通ずるガラス戸の横にアシナガバチが巣を作っていたのである。巣は握り拳ほどもあり、蜂が大勢その上にいた。緑川は普段と変わらず、当たり前のように
「お隣さんだよ」
と言った。そしてその巣の横に行って洗濯物を取り込んだ。蜂は緑川に全く反応しなかった。
 ズザンナがよく見ると、部屋のあちこちに蜘蛛の巣があったし、床には蟻も歩いていた。そしてそれらがいることに緑川が何も困っていないのを見てとった。
 しかしズザンナは子供らしい愛情から「お隣さん」にうっかり手を出し、二三ヵ所刺されて泣いた。緑川はそのとき、ズザンナを慰めながらも、ズザンナちゃんは大きいんだから、手を出したら怖いじゃないか、でもこれでこの蜂の巣は人間に壊されるだろう、と言った。
 ズザンナは家でこのことを一切言わず、蜂の巣はそのまま保たれた。ズザンナの沈黙は、蜂よりも、緑川の悲しみを感じ取ったからだったけれど、その後毎年やってくる蜂に、ズザンナはいつしか緑川同様の親しみを覚えるようになっていった。
 ズザンナは今、中学一年生である。この緑川の「王女」は、親切で礼儀正しく、夏でも肌を見せることがほとんどなかった。遊びに来ることは少なくなったが、日曜日にはズザンナの方から教会へ誘いに来た。だがこの数年のあいだに酒をずいぶん飲むようになった緑川は、宿酔の自分が恥ずかしく、一度も一緒に行ったことがないのだった。
 
 女を抱いたあとの都会はやさしく見えると緑川はいつも思う。金曜の晩の街は遅くまで賑わっていた。上司と同僚としたたか飲み、別れたあとで安い風俗店に行った緑川は、更に一人でまた飲んだ。今日の相手は一人が十九、もう一人が二十三だと言っていた。おおよそ、そんな体だった。思い出しながら、緑川は二人の女性に感謝してその幸福を祈った。
 店から出ると大雨だった。街が暗く思われた。終電が近いので緑川は急いだ。傘を持っていたがささなかった。幸い席は空いていて、座るとすぐ緑川は眠ってしまった。以前、カバンを盗られたことがあった緑川は、カバンを抱きしめて眠った。
 目を開けたとき、緑川はしまったと思った。車内は人がほとんどおらず、外も暗かった。乗り過ごしたのである。その緑川の横に、全身雨で濡れた例の少女が眠っていた。少女は緑川の肩に頭をもたせかけていびきをかいていた。子供のいる時間ではない。
 力が抜けて脚の開いた少女のスカートは、まくれて下着が見えていた。車両の乗客は五六人、みな離れて眠っていた。それを見た緑川は、少女の下着に大胆に手を入れた。
 この子供が女であることを、緑川は、つい数時間前に若い女にした通りに確かめた。少女は眉間にしわを寄せたが、起きなかった。 
 電車は終点に行き着いた。緑川は少女を起こそうとしたけれども、少女は起きなかった。肩に手をかけて、外に連れ、仕方ないので緑川はタクシーを使って少女を自宅に運んでいった。警察へ連れて行くという考えは、不思議にも思い浮かびさえしなかった。
 少女は体じゅう熱を帯びていた。濡れた服を替えてやるあいだに、緑川は泥酔した頭で積年の思いを遂げ、そのまま眠ってしまった。

Page:1 2 3



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大4000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。