官能小説(オリジナル18禁小説)
- 僕の彼女【10/23更新!】
- 日時: 2016/10/23 21:04
- 名前: ねむねむ
〜prologue〜
僕の彼女が死んだのは、クリスマスがほど近い、12月のことだった。
テレビでニュース速報が流れていた。
某駅内にて、女性が人身事故______
それを呆然と眺めていると、警察からの電話があった。
ニュースの女性は、僕の彼女だった。
もう、息がなかったという。
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- Re: 僕の彼女【7/17更新!】 ( No.8 )
- 日時: 2016/07/18 12:52
- 名前: ねむねむ
〜お知らせと謝罪〜
更新時に小説が1番上に上がらなかった事について、誠に申し訳なく思っております。私の誤作動により、1番上に上げる機能を切ってしまっていました。
誠にすみませんでした。これからも、小説をよろしくお願い致します。
- Re: 僕の彼女【7/17更新!】 ( No.9 )
- 日時: 2016/07/31 21:19
- 名前: ねむねむ
3、美沙とお出かけ
「っと、本屋本屋……」
「ほんヤ?」
「ちょっ、馬鹿。声出すな。」
デパート内の電工案内板を前に、僕は目を凝らしていた。こういった大きな店に来るのは本当に久しぶりで、ことさらに僕は人混みが大嫌いなのだ。自分から駅前に行くことなんて、今まで無かった。
「暖房効き過ぎだろ……ったく……」
ぶつくさ文句を漏らしながら、さらに人ごみに揉まれながらやっと本屋にたどり着いた頃には、もう11時を回っていた。昼食を買えるほど懐も温かくない今、早く絵本でもなんでも買って早く帰りたい気分だ。
「美沙、着いたぞ。」
小声でリュックのチャックを少しだけ開けると、そこから美沙が無理矢理に顔を出した。
「だいジョーぶ?」
美沙は涼しい顔をして、僕を見ていた。暑さを感じないことが、こんなにも羨ましく感じるとは、一時の感情に振り回される人間が浅ましいと、切実に思う。
「で、絵本は何にするんだ?」
「んー……」
それからの美沙は、あっちへ連れていけ、こっちへ連れていけと、とてもうるさかった。周りから変な人と思われそうで、何度も僕は辺りを見回した。そうしてやっと美沙は、買いたいと思える本を見つけた。
「最近の絵本って高いのな……結構な痛手なんだけど…」
「2さツ!」
「へいへい。」
美沙は、当然のように後ろから僕を突っつく。美沙はいつの間にか、顔をすっかり出してしまっていた。
「こら。隠れてなきゃダメっつったろ?」
美沙は「つまんナいのっ」と言いながら頭を引っ込めて、チャックを開けては閉め、開けては閉めを繰り返していた。
***
「そろそろ帰るか。」
「えー?」
文句ばかりの美沙は、また僕の首を突っついた。絵本だけでは飽き足らず、もう少しぶらつこうとねだる美沙に、僕が折れてしまった。
「仕方ないなぁ……じゃあ、せめてデパートから出てからな。」
「うんっ!」
今日限りだと、自分に何度も言い聞かせながらATMでお金を下ろしてしまった。普段、お金は無駄に使わないだけに貯金は馬鹿みたいにあった。しばらく口座すら確認していなかったせいで、いつの間にこんなに貯まったのかと逆に不安になる。
「さてと。どこ行きたいの?」
「んっと、あソコ!」
美沙がリュックから手を伸ばした先は、アダルトグッズを取り扱う店だった。全国展開しているまあまあ有名な店で、僕も何度かお世話になった。が、しかし
「却下。」
即答した。美沙の健全を保つために、そんな店に入るわけにはいかない。それに、アダルトグッズを買うために僕はお金を下ろしたわけじゃない。
「イヤ!行く!キラキラ見たイ!」
美沙はアダルトショップ特有の派手な電球装飾に惹かれたようで、駄々を捏ねてリュックを揺さぶった。紫とピンクに点滅する看板が「いかにも」な雰囲気で、僕はため息を吐いた。
「もう、見るだけな?」
美沙は嬉しそうに目を輝かせながら、可愛らしく「やったっ」と声を上げた。
- Re: 僕の彼女【7/31更新!】 ( No.10 )
- 日時: 2016/08/08 01:17
- 名前: ねむねむ
4、美沙への気付き
もう何度目のため息だろう。美沙はアダルトショップの電光装飾に目を輝かせながら、見惚れたような声を漏らしていた。
「ネっ、あっちかラ見タいっ!」
「ちょっ、何言ってんだ、それじゃあほとんど店の中に入ってるようなもんじゃん……ダメ。絶対。」
「ケチー!」
「ケチで構いませーん。ほら、帰るぞ。」
美沙はしぶとく駄々をこねたり、リュックの中で揺れたり、僕の髪を引っ張ったりしたが、僕はその全てを無視した。そして拗ねてしまった美沙は、リュックの中で引きこもりになってしまった。
「おーい。美沙ー?電車乗るぞ?電車見るの好きだろ?」
ご機嫌取りもいいところだが、仕方ない。だが、どうしたことか声をかけたのに、美沙からはなんの返答もなかった。まだへそを曲げているのか、まったく子供だなと言いたいのを堪えて、チャックを開けた。
「っ!?」
リュックの中はもぬけの殻だった。
「あ……あいつ〜……!!!!」
妙に静かだと思ったら、知らぬ間に抜け出していたのだ。チャックをもっと閉めておくべきだったのだ。美沙の細い腕なら簡単にチャックを開けて、中から出られる。しかし一体全体いつの間に____
そして最悪の事態が頭をよぎった。興味を持った人間が誘拐、実験、そして廃棄____
「大丈夫だ。」
そう言うしかなかった。僕のすぐ後方には、電車が到着していた。
「早めに帰ろうって思ってたのになぁ……」
僕は本日何度目か分からないため息を吐いて、アダルトショップに向けてあるきだした。
***
「ったく!どこだ!?」
叫んでも平気な路地裏。ゴミ箱だってなんだって調べているのに、美沙は見つからない。手がかりすらない。もしかしたら、美沙はもう誰かに連れていかれたのではと、縁起でもない不安がよぎった。
「美沙……やっぱ『あの店』入っちゃったかなぁ……」
道を覚えるなんてことが今の美沙に出来るかは分からなかったが、でも可能性はそれしかないのだ。仕方なく、一度来た道をまた戻ることにした。
本日二度目のアダルトショップ入店。さすがに店員さんも、「商品も買わないくせにまた来た」みたいな顔をしていた。美沙の興味を引きそうなところ以外も探そうと、勇気を出して女性向けグッズの売り場にも足を踏み入れた。幸い女性客は1人もいなかったが、店員さんは僕を怪しがっていた。
「くそ……ここは行きたくなかったけど……」
最後に訪れたのは二階にある高値商品の売り場だった。もう後はない。階段を登ると僕をお出迎えしてくれたのは、美沙と同じようなラブドールだった。しかし美沙より遥かに大きい。下にはネームプレートがあって、「あなた専用メイド♡高梨 菜月」と、丸っこい文字で書かれていた。
目をそらしかけたその時____
「美沙っ!」
「あ………………」
美沙は「しまった」という顔で固まっていた。ウィンドウに手をかけたその姿は、ウィンドウショッピングを楽しむ女の子と何も変わらなかった。
「ダメだろ?1人でうろうろしたら!」
「ごめンなサい……」
美沙は僕の怒った姿に驚いたのか、一瞬にしてしょんぼりした顔になった。こうなると僕も罪悪感が湧いて、怒れなくなってしまった。きっと初めての外で、美沙は美沙で色々な所に興味を持っていたのかもしれない。なのに、僕は「リュックから出るな」だの「却下」だのと、全く美沙を考えていなかった。
「いいよ、美沙。もう謝らなくていいから。」
「え……?」
「見たい所、まだいっぱいあるんじゃないか?だったら、今から行こう。」
美沙はうんうんと頷いて、嬉しそうな笑顔を見せた。そういえば美沙は、僕の家に来た頃より、ずっと人間らしさが増した。
平仮名から始まり、挨拶や感情の表現、さらにさっき僕が怒った時は、黙って「空気を読んだ」。
美沙にも人間的成長はあるのだろうか。人形は合成樹脂だが、成長するのだろうか。
「あれ?なんか美沙でかくなった?」
「しつレー!」
殴られてしまった。なんだか美沙の身体がほんの僅かに重くなっている気もする。いくら人形とはいえ、自分が育てているものが成長すると、気恥ずかしさも混ざった嬉しさがあった。美沙はご飯も食べるし、着替えもする。この前はタオルで即席のワンピースを作ってあげたのだ。
縫い物は得意ではないが、美沙の喜ぶ姿に僕は少なからず嬉しさを覚えていた。
毎日少しずつ変化する美沙は、日本語も流暢になっていくのだろうか。日本語をスラスラ喋る美沙を想像すると、ちょっと可笑しかった。
- Re: 僕の彼女【8/8更新!】 ( No.11 )
- 日時: 2016/08/14 21:09
- 名前: ねむねむ
5、美沙の孤独
「っだ〜〜!またダメかよ……」
「ん?」
稀に見る僕の大声に、美沙は思わずこちらを振り返った。きょとん顔で、「わけが分からない」という視線だ。
「あ……ごめんな?」
「ううん。だイじょーブ。」
『また』だめだった。大学からの成績表を改めて見たが、現状は何一つとして変わらなかった。単位が落ちている。夏の成績もいまいちだったのに、また冬の成績で単位が落ちている。落第寸前とまでは言わないが、ちょっと目に余る成績だ。
「はぁ……」
「?」
「いや、大丈夫だよ。ありがと。」
美沙は美沙で、わけがわからないなりに僕を励まそうと、エロ本を引きずり出してきた。「美沙から見ると僕はこんな程度なのか」と悲しくなるが、でも美沙の行為は嬉しかった。
「それは、今はいいから。……ごめん、美沙。ちょっと僕出かけるから。」
「え?」
「先に寝てな。飯はもう食ったし、大丈夫だろ?」
「でモ。」
それ以上は聞かないように、僕は上着を羽織った。
「どコ、行くの?」
「……まあ、明日にはかえってくるから。」
「いって、らっシャい……」
寂しそうな美沙の声にも振り返らず、僕は少し乱暴にドアを閉めた。
***
お酒でも呑まずにはやっていられない気分だった。でも美沙の前でだらしない姿を晒すのは嫌で、仕方なしに家を出た。僕は人並みにはお酒は飲めるほうだ。むしろ、好きなほうかもしれない。とりあえず、何度か行ったことのある居酒屋ののれんをくぐった。
***
美沙は1人で待っていた。二冊しかない絵本を何度も何度も読み返した。つまらない。退屈だ。どこかに出かけていった彼を、追いかける勇気がなかった。
「もう……」
美沙は絵本をパタンと閉じた。壁掛け時計に目をやって、もう12時を回っていることに、不安を感じた。文字を、時間を理解する術を教えてくれた彼は、あんなにも疲れた顔で出ていった。
「あと、1時間だケ……」
待とう。美沙はドアを睨みつけるように見てから、また絵本に目を落とした。
そして、1時間が経った。彼は、帰ってこなかった。
「……よしっ。」
美沙はスックと立ち上がると、リュックをズルズルと引きずるようにして肩にかけた。それから、台を使って電気を消した。
「火、よし。電気、よし。鍵、よしっ。」
美沙はドアを閉めてから、自らを勇気づけるように自宅の鍵を握りしめた。
何かあったら、帰ってこよう。
すうっと息を吸って、吐いて、そしてアパートの階段を降りた。
- Re: 僕の彼女【8/8更新!】 ( No.12 )
- 日時: 2016/08/19 22:03
- 名前: ねむねむ
私自身のTwitterにて、美沙や『僕』が裏話を呟いています。
※作者の制作裏話なんかも入っているので、温かい目で見守って下さい。また、私のプロフィールを見て、「こんな人とはおもってなかった!」とか「こんな趣味あるんだ、キモッ」とか、もし思っても言わずに心の中にそっと留めておいていただけると嬉しいです。
アカウントは
@nemu201221
です。
ぜひ見つけてみてください。初音ミクとゴジラのアイコンが目印です。
- Re: 僕の彼女【8/19重要お知らせを追加】 ( No.13 )
- 日時: 2016/08/24 20:32
- 名前: ねむねむ
5、美沙の孤独
僕はまだ居酒屋で飲んでいた。もうそろそろ帰った方がいいと分かってはいるのだが、どうしても腰を上げる気にはなれないのだ。「あと1杯だけ」と言い訳を何度も繰り返している。
「1番アルコール強いの……出して。」
自分に歯止めがかけられないまま、ダラダラと3時間を過ごした。閉店が近づくにつれ、店主が迷惑そうな視線をこちらに向け始めた。そろそろ潮時かと仕方なしに席を立つと、勘定もままならないくらい泥酔していた。「僕は酔っている」と、自覚できるほどに。
お釣りを受け取ったかも分からないまま千鳥足で外に出ると、思わず身震いした。
「あー……寒みぃ……」
ぼんやりとした視界の中、見覚えのある人影が見えた。
「えー……?あ……?」
誘われるように歩を進め、気づけば必死に走っていた。なのに、どうしても追い付かない。なんでだろう、あの人影は歩いているのに。
「まっ……待ってくれっ!!」
「……」
その人影はピタリと、まるで機械のように立ち止まった。僕はいつの間にか、見覚えのない場所に来ていた。
「はぁ、はぁっ……あんた、誰だよ。僕の知り合いっ____」
長い黒髪に、よく身につけていた淡いピンクのニットワンピース、白い肌。そして、僕が「彼女に」プレゼントしたブレスレット。
「まな……み……?」
僕の彼女だ。僕の彼女がいる。
死んだはずの、僕の彼女が。
「真奈美!!!」
真奈美は振り向かない。振り向くどころか、また歩き出した。反射的に僕も駆け出す。
「待って!真奈美!!聞こえないのか!?僕だっ……彼氏の!」
真奈美は今にも暗闇に消えてしまいそうなほど、遠くに行っていた。また、僕の前から消えるのか。あんなに呆気なく、簡単に僕の前から居なくなるのか。
「真奈美っ……真奈美が居なきゃ、僕は!僕はっ……!!!」
***
「……んっ。」
眩しい街灯の光に、目を覚ました。視界には、真奈美の心配そうな顔が映っていた。
「真奈美っ!」
「?」
真奈美に見えていた顔は、美沙だった。酔って寝ぼけていたのか、それとも現実なのか、僕自身には全く分からなかった。
「マナミって、だれー?」
「み……美沙……」
美沙のきょとん顔で、僕はやっと我に帰った。あたりを見渡すと、そこはアパートの前だった。
「僕……」
「とにかく!部屋に戻ろう!」
「うん……」
僕は、なんとも言えないような違和感を残して、階段を上がった。
美沙によれば、僕はアパートの前でパッタリと倒れていたらしい。なかなか帰ってこない僕を心配した美沙は、外に出たところ僕を発見した。アパートに運んだ方が良いと思ったのだが、階段を引きずるわけにもいかず、美沙が付きっきりでそばにいた。
「なるほど……そんで、僕の目が覚めて現在に至る、と……」
「うん。」
美沙は、背が伸びていた。日本語もスラスラと話している。僕のいない間に、美沙に何があったんだろう。そんな疑問もどうでもよくなるほどに、頭痛が僕を襲った。
「いっ……!?」
「え!?」
美沙はびっくりしたように、何故か立ち上がった。
「いや、大丈夫……飲みすぎだから……」
「お酒?」
とりあえずこくんと軽く頷いて、僕は風呂に入った。服どころか、自分が酒臭い。
「美沙のやつ、家でるなって行ってたのに……」
でも今回は、すごくありがたかった。それともう一つ、僕の前に現れた、僕の元彼女、「真奈美」。なんで、急に現れたんだろう。いつから僕は夢を見ていたのだろう。真奈美は、僕を恨んでいるのだろうか。真奈美の苦しみに気付けなかった僕を。
「…………」
もういい。今日はもういい。考えることすら、疲れてしまった。
「ごめん、真奈美……」
そうやって、独り言を零した。
- Re: 僕の彼女【8/19お知らせ8/24更新!】 ( No.14 )
- 日時: 2016/09/07 18:19
- 名前: ねむねむ
番外編〜僕の誕生日〜
美沙は朝からカレンダーを見つめていた。我が家には日めくりのカレンダーが1つあるだけで、後は日付を確認するにはスマホを見るしかない。そんなたった1つだけのカレンダーを、美沙は凝視していた。
「どした?今日は何もないだろ?」
途端に美沙は驚くべき速さでこちらに振り向いた。
「え?」
まるで、『本日世界は終わります』と告げられたような顔だった。
「え……?今日、何もない……よな?」
なんだか僕まで焦ってしまい、再び美沙に確認をしてしまった。
「……別に。」
まるで、昔流行った某女優の台詞のように、そっぽを向かれてしまった。
「えぇ……?」
僕には意味不明だった。
「何か手伝う!」
唐突な美沙の声に、僕は唖然とした。
「は?」
開いた口が塞がらないとは、本当にこの事だ。美沙は謎のドヤ顔で、「なにか手伝わせろ」と言わんばかりの視線をぶつけてくる。
「いや……手伝いって言われても……うーん……」
僕が答えに困っていると、美沙はみるみるうちに顔を曇らせはじめる。なんて分かりやすいんだ。
「何にもないの……?」
「いや、ちょっと待ってって……」
頭をひねっていると、はたと思いつくことがあった。
「よし、じゃあご飯炊くの手伝って。」
「うん!」
美沙の笑顔は輝いていた。
「いつも美沙が食べてる、このお米。」
「うん。」
「このお米は準備をしないと、固すぎて食べられない。」
「うん。」
「だから、食べられる状態にすることを『炊く』って言うんだ。」
「おぉ〜。」
反応が随分とおざなりだ。こう言った説明を聞くことにおいて、美沙はめっぽう弱かった。
「まず、お米を水につけて…美沙、水は平気だった…よな?やってみるか?」
「うん!」
美沙は専用の踏み台から身を乗り出し、釜に手を伸ばした。基本的に美沙は、御託を聞くより実践的なことをするのが好きな子だ。
「よし……いい感じ、いい感じ。」
横で見守っていると、まるで保護者のような気分だ。手ほどきをしただけだが、美沙は吸収がかなり早かった。
「ん、もう大丈夫。」
「えー。」
名残惜しそうな美沙をよそに、釜を炊飯器にセットする。
「じゃあ次は、ついにお米を炊く。」
「炊く!」
美沙は常に元気だ。何故か釜の中に手を伸ばそうとして
「どうやって炊くの?」
と、こっちを見た。わからないのに、なぜ行動したのか。
「その中に手は入れなくていいよ。ここのボタンを押すんだ。」
「……」
漢字だらけのボタンを前に、美沙は黙り込んだ。
「よ、読めなくてもいいんだ……な?」
「読めなくてもいいの?」
「うんうん、この文字は難しくて僕に読めないからさ。」
もちろん、嘘である。
「じゃあ読まない!」
美沙は潔くて、素直だった。
「まずは、ピンクのこのボタン。それから、この緑のボタン。そんで最後に黄色のボタン。1回やって見る?」
「うん!」
美沙はポチポチと迷いながらも、ピンク、緑、黄色の順にボタンを押した。やはり美沙は賢い。
「合ってる?」
「合ってるよ。」
偉い偉いと頭を撫でてやると、これまた美沙は嬉しそうな顔をするのだった。
「今日、何の日かわかる?」
「へ?」
「今日!何の日か分からないの?」
また唐突だった。今日が何の日かなんて、わからない。ただの休日ではないのか。
「もう!」
しびれを切らした美沙に、カレンダーを突きつけられた。9月7日をピッと指さしていた。
「9月……7日……」
「分かった!?」
「えっと……僕の、誕生日……?」
美沙はニッと笑ったかと思えば、僕の方にもたれてきた。
「ちょ、ちょっとっ……」
「おたんじょーび、おめでとうっ。」
僕を見上げる可愛らしい顔に、思わず鼓動が早まる。いや、ダメだ。留まるんだ、僕の理性。
「ん、ありがとう。」
「うん!」
美沙のこの笑顔に、僕は酷く弱い。
まるで真奈美に微笑まれたかのような、そんな錯覚に陥るのだ。
美沙と真奈美は、別人なのに。
僕はふと、好奇心でこんなことを尋ねる。
「美沙は誕生日、いつなの?」
「んー?それはねぇ……」
美沙は、ほんの一瞬だけ顔を曇らせて、それから
「内緒。」
と笑った。
- Re: 僕の彼女【9/7番外編更新!】 ( No.15 )
- 日時: 2016/09/20 14:58
- 名前: ねむねむ
6、償い
目を覚ますともう正午を廻っていた。まだまだ寝ていたい気持ちと、もう起きなくては流石にいけない、という気持ちが混ざって、僕は頭を掻いた。
「美沙〜……エアコンのリモコンを……」
寝ぼけ眼で部屋を見渡すと、美沙は何故か台所にいた。あそこには包丁やら何やら、危ないものが山ほどあるというのに。
「み、美沙!」
「へ?」
美沙は「何がいけないんだ」と言わんばかりの顔でこちらを見た。その手には、フライパンが握り締められていた。
「そ、そこ!台所!」
「え?うん、だからご飯!」
美沙はニッと笑った。寝起きの僕には、眩しすぎた。
「これが卵焼き。こっちがお味噌汁!」
テーブルに並べられた品々を、事細かに美沙は説明してくれる。だが、その品々の違いを、僕はどうしても感じ取れないった。
「んー……まあ、頑張ったんだな。」
美沙が作ったという「それら」は、もはや原形を留めていなかったのだ。卵焼きとは思えぬ灰色の塊や、味噌汁とは思えぬ謎の紫色の液体。
だが以前に教えたご飯の炊き方は、上手くいったのか美味しそうに見えた。
「……」
とりあえず頭を撫でる。それをした所でご飯を食べなくてはならないという事実は変わらない。僕は1度、深呼吸する。
「いただきます……!」
覚悟を決めた。昼まで寝ていた僕のために、美沙が作ってくれたのだ。これを食べられないなんて、男ではない。意気込んで箸を取り、卵焼きを一口。
「っ……!」
想像を絶する焦げ臭さと苦味に一瞬うめいたが、白飯を頬張ってそれを緩和させる。
「う、うまいよ……すごく!」
「ほんと!?」
その輝かしい笑顔に、もう「不味い」とは言えない。僕は振り子玉のように「ウンウン」と何度も頷いた。次の難関は味噌汁だ。なんだか味噌汁とは思えないドロドロ具合だ。いったい何を入れたのかと箸を伸ばすと、茄子が大量に入っていた。この異様な紫色の味噌汁は、茄子の皮のせいなのだ。そしてドロドロの理由は、茄子が溶けだしたせいなのだ。
「な、なるほど……なら、食べられないものじゃないな。」
「食べられない?」
しまった、と思った時には遅かった。つい本音が漏れてしまったのだ。
「いや!食べる!美味そうだしな!」
「そっか!」
味噌汁を啜ると、これもまた変な味だった。茄子のアピールが強すぎて、口内では味噌との大喧嘩が繰り広げられる。だがこれも白飯で乗り切った。
「う、美味かった……全部、美味しかった!」
戦いを終えた後のような倦怠感が、ずっしりと付き纏う。
「じゃあ、また作るね!」
美沙は、意地悪だとかそういうのではなく、純粋にそう言っている。それは分かる。分かっている。だが、断りたい。
「うん……楽しみに、しとく。」
でも美沙は、不安定だった僕の心に、いつもの日常をまた教えてくれた。
それだけで僕は充分なのだ。
「ありがと、美沙。」
「うん!」
僕はもう忘れてしまっていたのだ。美沙がラブドールだということに。
- Re: 僕の彼女 ( No.16 )
- 日時: 2016/10/10 10:02
- 名前: ねむねむ
6、償い
「あのね。」
美沙は改まった様子で、こちらを見た。
「ん?どうした。」
上機嫌な僕を放ったらかしで、美沙はいつも自分勝手だった。
「私が何なのか、覚えてる?」
「何って……美沙は美沙で____」
「そうじゃなくて!」
複雑そうな顔で、美沙はこちらを見ていた。自分からは言いづらいから、僕に聞くことで「何か」を打ち明けようとしている。
「……ラブドール、ってこと……?」
「……」
美沙はこくんと頷くだけで、それ以上は何も言わなかった。
「それがなんだよ。別に僕は気にしてないっていうか……」
なんだ、この重苦しい空気は。僕も美沙も、さっきまで楽しかったのに。
「美沙のこと……どこかで見たことない?」
「え?」
「だ、だから……美沙のこと、昔見たことない?」
「昔……」
皆目見当もつかないと思っていたが、そうでもなかった。美沙を再び見ると、懐かしい記憶が弾かれたように蘇った。
「人形……僕が、子供の時にごみ捨て場から拾った、人形……?」
「……うん。」
美沙はまた頷くだけだ。でも僕は全てを思い出した。ごみ捨て場から拾った人形を。ドロドロの体を綺麗にして、得意の裁縫で服をつくろったことを。
「でも、すぐに母さんに捨てられたんだった……美沙がラブドールって、バレたから……」
「うん……」
美沙は、「あの時」の人形なのだ。また僕の元へ戻ってきてくれたのだ。
「あのね、美沙は不良品だったの。だから、捨てられちゃった。でも、美沙のこと拾ってくれたよね。」
「ありがとう、ゆう君。」
名前を呼ばれたのはいつぶりだろう。彼女が死んで以来じゃないか。
「え?」
僕の心は、一瞬でざわつき始めていた。
「その呼び方……どこで聞いた?その呼び方は、ぼくの彼女しか……」
「ゆう君の彼女から、『もらった』の。」
「もらった……?」
美沙はスッと立ち上がった。同時に、ワンピースがストンと床に落ちる。美沙の体からは球体関節が消えていた。
「体も、意思も、ゆう君の彼女から、もらったの。」
「は……?」
美沙はまるで人形のような無機質な目で、こちらに歩み寄った。その動きは、まさに人間そのものだった。
「あのね、ゆう君。私がね。ゆう君の彼女を突き落としたの。」
美沙の瞳には、僕が映っていた。僕しか、映っていなかった。
- Re: 僕の彼女【10/10更新!】 ( No.17 )
- 日時: 2016/10/23 20:53
- 名前: ねむねむ
6、償い
無くなった球体関節。ガラス玉ではない、潤いを持った艶やかな眼球。もう美沙は人間なのだ。
「あ、ぁ……美沙……美沙……」
「美沙だよ。ゆう君だけの、美沙。」
真っ白になった頭の中に、真奈美の顔が浮かんでは消える。黒い髪も、目元の涙ぼくろも何もかもが、真奈美と同じだった。まるで真奈美をそのまま人形にしたかのような____
「ちがう……美沙は、真奈美じゃないんだ……ちがうんだ……」
「どうして?私は真奈美だよ。真奈美から、貰ったのに。体も声も、もうすぐ真奈美と同じ背の高さになれるのに。」
「違うんだ、そうじゃない……」
「どうして?どうして、真奈美は良くて、私はだめなの?」
美沙の声が怒ったような、悲痛な声に変わっていく。どうして、美沙がそんな顔をするんだ。僕は、美沙は美沙で、真奈美は真奈美だと思っていたいのに。
「ねぇ、じゃあ私のこと一回抱いてよ……真奈美はあれだけ抱いたのに、私じゃダメなんて、そんなことないよね。だって、体は同じなんだから。」
「う……ぁ……」
「真奈美……真奈美真奈美真奈美真奈美……私の方が先にゆう君と出会ってた。大切にされてた時期があった。だから、真奈美が邪魔だったの。邪魔で邪魔で仕方なかったの。」
***
私は、人間になったのだ。邪魔な女を殺して、人になった。ゆう君と同じになった。嫌われるわけがないと思っていた。なのにゆう君は、見たこともないような悲しい顔で、私を見てくれない。こんなにも私は、ゆう君を見ているのに。
「真奈美を抱いてた時みたいに、私を抱いてよ。」
ぎゅっと、ゆう君に抱きつく。人間の、ゆう君の温もりを感じるのは2度目だった。ごみ捨て場から拾われた時、この温かさに私は触れてしまった。
そして、もう1度温もりを感じたいと、欲を抱いてしまった。この欲は、ゆう君にだかれない限りは、どうしても満たされることはないのだ。
すっと、ゆう君の股間に手を伸ばす。
「まだ、固くないね。」
「や…め……」
「酷いね。『真奈美さん』のことは抱いたのに。」
「っ……!」
「私は、『真奈美さん』の手伝いをしただけ。あの人は死にたがってたもん。」
股間を撫でながら、私は優しい口調で語りかけた。そうでもしなくちゃ、ゆう君はきっと話を聞いてくれない。
真奈美さんのことを話さないと、きっとゆう君は私を抱いてくれないのだから。
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