大人オリジナル小説
- どこへも行けない
- 日時: 2012/05/20 01:01
- 名前: かな
はじめまして
スレ立て失礼します
社会問題提起系の短い話を幾つか書いて行きたいと思います。
一話一話はそれぞれ独立しており。完結しています。
よろしくお願いします。
「テーマ別索引」
いじめ >>1
障害者 >>3
認知症 >>4
いじめ2 >>9
リストカット >>13
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- Re: どこへも行けない ( No.15 )
- 日時: 2012/05/25 22:39
- 名前: かな
6つめ
「悪口」
私は中学一年の頃、すこし不登校になったことがあります。
4月の後半で、私はどこのグループにも入りそこねていて、焦っていました。
安藤さんという人が前の席にいました。プリントを配るときに顔を合わす程度でしたが、時々休み時間に私に話しかけてくれるようになりました。
安藤さんは制服を着崩していて、髪に軽く茶を入れていたいわゆるギャルの人でした。
どうして私に話しかけるんだろうと疑問に思いながら、安藤さんが気まぐれなお喋りに付き合っていました。
後で思うと、安藤さんもクラスで浮いていたのかもしれません。クラスの女子の中で派手で明るい子はいても安藤さんのような不良が入ったギャル系の子はいませんでした。
お喋りはとてもほっとする行為でした。みんながざわついてる空間で一人黙りつづけているのは苦行です。丸1日声を出さずにいると、言葉が出口を塞がれたまま死に絶えていきました。溜まった言いたいことの死骸でいつも胸がつっかえました。安藤さんと先生のことや、テレビドラマについて話すとそういう類の息苦しさがなくなりました。
ある日、女子トイレにいって個室で用を足していると、何人かの女子がトイレに入ってきました。安藤さんの声が聞こえました、他の女子は違うクラスの人のようでした。
「安藤、お前のクラスどーよ。」
「最悪、あんたんとこ編入したいし。」
「あー加藤とか浅野とかだっさいのしかいないもんね。」
「でさ、後ろの席に佐藤ってデブがいんだけど前テレビに出てた豚にめっさ似ててあさ。」
「安藤ひっでー。実際似てんの?」
「なんか豚が豚小屋から脱走してるし!レベル。」
「写メって見せろよ!」
「こっちに遊びにこいよ!」
「やだよなんか実物臭そうじゃん。」
「あ、確かに臭いけど我慢してよー。」
胸が苦しくて、どこにもいけなくて、誰も助けてくれなくて、涙がだらだらと流れました。
確かに私は安藤さんの言うとうり太っていました。けれどお風呂は毎日はいっているし、わきがでも無いので決して豚程臭くはありません。
安藤さんたちはトイレにいつまでもいて、笑っていました。笑い声を聞きたくなくて指で耳を塞ぎました。声を出さないように口の中を歯で噛んで泣きました。
泣いたって誰もあんたなんて助けねーよ。安藤さんのせせら笑いが聞こえるような気がしました。
みんなが私を馬鹿にしているように見えました。私は私の存在が恥ずかしくて、消えたい。と思いました。
泣きながらずっと目をつむり、安藤さんたちが消えるのを待ち続けていました。
チャイムがなりはじめると、ドアを開ける音がして、
私の心臓を刺すような笑い声は消えていました。私はやっとトイレの個室から出ることが出来ました。洗面台で顔を洗って教室に向かいました。涙の跡は誰にも気付かれませんでした。私は誰からも見られていなかったからです。
学校から帰ると、ずっと胸がむかついていて、その日言われた言葉がずっと頭に響いていました。
お風呂に入る時も安藤さんたちに監視されているようでした。体重計に乗るとまた涙が出ました。
自分の部屋のベッドに横たわると吐きそうになりました。吐く代わりに声を出して泣きました。家族に聞こえないように枕に顔をうずめて私は豚じゃないと叫びました。
翌朝、本当にお腹が痛くなり学校を休みました。何回も下し、吐きました。とても苦しくて痛かったですが、元気に学校へ登校するより何百倍も幸福でした。
学校で安藤さんと顔をあわせることを考えると、胃が痛んだので、なるべく安藤さんのことを考えつづけました。そうすれば、お腹は痛くなりつづけて、私はずっと学校を休める。と考えていました。
私は休んだままゴールデンウイークを迎えました。
私の病気のせいで、箱根への家族旅行は中止になりました。普段は働いていて忙しいお母さんが、おかゆやゼリーを作って看病してくれました。
私は家族に申し訳なくなって、休みがあけたら学校に行こうと決意しました。
たびたび泣きそうになりながら通学路を歩いて、安藤さんがこのクラスから消えていたらいいのにと祈りつつ教室のドアを開けました。目を開けると安藤さんはやっぱりいました。
けれど、安藤さんは私の前の席ではなく一番後ろの席に座って男子と楽しそうに喋っていました。
私はどこに座っていいか分からずに隅で立っていると、学級委員の男子が話しかけました。
「あ、佐藤さんが休んでいるあいだに席替わったんで、佐藤さんの席は前から一番目の先生の後ろの席です。」
いつの間にか、席替えが行われていたのでした。私はクラスのみんなが嫌がる、先生に一番近い席に座りました。私はとてもホッとして、ため息をついてから机の上で腕を伸ばしました。
「ね、なんでずっと休んでたの。」
後ろの席にいた女の子が話しかけてきました。
「おなか痛かったの。」
苦し紛れに私はいいました。
「おなか痛かったんだ。」
女の子は素直にその言葉を受け入れて、笑ってくれました。
一時限目の授業が始まりました。英語でした。先生に言われた教科書のページを開くと、暗号が並んでいました。私は授業に遅れていました。
チンプンカンプンな先生の言葉を解読しようとしましたがどうにも上手くいきません。
休み時間、呆然としている私に、後ろの席の女の子が話しかけてきて、
「ノート貸そうか?」と聞いてきました。私は自分が困っていたところを見透かされたような気がして、カッと顔が熱くなりました。
「別に大丈夫だよ。」
そう言い捨てて、そっぽを向きました。あ、これで嫌われちゃった。また悪口言われるな。
後ろの女の子がトイレで「あのデブがさ〜」としゃべっている場面が映像として浮かび怖くなりました。
さっき言った自分の発言を今すぐ取り消したくなりました。違うの、本当はちょっとびっくりして
思わず断っただけなの。そう弁解したくて後ろを向こうとしましたが、首の筋肉が緊張して動きません。
今更、そんな言い訳をしてもその子は一層私を変に思うだけでしょう。そう考えると、目の奥が熱くなって涙が出そうになりました。
トントンと背中を小突かれました。後ろを振り向くとノートが突き出されていました。
「ずっと休んでたのに、ほんとに大丈夫なの?」
女の子は、さっきの私の態度を特に気にしていないようでした。
ごめんねありがとうと、私は一言残して、ふらふらと一人でトイレに向かいました。
トイレの個室の中で私はもう一度泣きました。前、泣いた時とは全く違う質の涙でした。
悪口に負けないくらい強い人間になりたいな。とその時思いました。ほんの些細なことで
怯えたり、みじめになったりはもう嫌でした。自分に自信を持って生きていきたい。
自信を持つということは、ただむやみに威張ることではなく、何らかの過程を経て自分自身をきちんと好きにならなくてはいけません。私は今の自分が大嫌いなので、少しずつ好きな自分を作っていこうと決意しました。
今の自分のままを好きになるのは難しいけれど、そんな自分を変えることは決して不可能ではないと思いました。私の中学生活はまだ始まったばかりだからです。強くなれば、安藤さんのことも怖くなくなるはず。
そう思うと、また涙が出てきました。
教室に戻ると、後ろの席の女の子が心配そうにこっちを見ていました。
「目、赤いけどどうしたの?」
女の子が私に話しかけました。
「トイレでお腹痛くて泣いてた。」と私は笑って答えました。
「大丈夫ー保健室いまからいく?」
「だいじょうぶ、もう治ったから。」
私たちはその後おたがいに自己紹介をしました。
安藤さんとは、その後何回か話をしました。もう、お腹は痛くなりませんでした。
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