大人オリジナル小説

バディ・ボーイ
日時: 2014/04/17 22:42
名前: TAKE

 シリアス・ダーク板で書いていたのですが、最近こっちの板の存在に初めて気付きまして。社会派の内容が多いので、こちらで書かせて頂こうかと思います。

 20世紀初頭のアメリカで、黒人に育てられた白人ブルースマンの物語です。

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Re: バディ・ボーイ ( No.1 )
日時: 2014/04/17 23:04
名前: TAKE

 1

 1917年、ルイジアナ州――
 リチャード・メイソンと妻のメリルは、2歳になる息子のルイスを連れてテキサスでの観光を楽しみ、自宅があるジョージア州への帰路に着いていた。
「楽しかったな」運転席のリチャードは言った。
「本当。でも帰ったらいつものように、『やっぱり家が一番だ』なんて言うんでしょ?」とメリル。
「違いない。だが、家が好きなんじゃない」
「どういう事?」
 メリルは眉間に皺を寄せた。
「お前とルイスのいる場所が好きなんだ」
「まあ」
 彼女はリチャードの掛けているサングラスを奪った。
「危ないだろ。返せ」

 メリルが彼の言う事を聞き、ふざけてキスさえしなければ、左から迫ってくる列車によって、彼らが車共々スクラップにされる事は無かった。


 畑仕事から帰る途中だったウィリー・ハートは、突然の出来事に一瞬息をするのを忘れ、茫然と立ち尽くした。
 列車が通過した後に残されたT型フォードは木の板をへし折ったように折れ曲がり、傍らに一人血まみれの白人が倒れており、もう一人は車体と線路に挟まれ、ピクリとも動かなかった。
 ウィリーはおそるおそる車に近付き、夫妻の安否を確認した。
「おい……大丈夫か?」
 一人ずつ声をかけてみるが、どちらもその言葉が届いていない事は明らかだった。
 うなだれて首を振ったその時、開けた大地に小さく響く泣き声が聞こえた。
「まさか」
 彼は後部座席の隙間を覗き込んだ。そこには、ブロンドの髪をした白人の赤ん坊が丸まっていた。
(ああ、神よ……)
 ウィリーは選択に迫られた。
 赤ん坊をこのままにしておくわけにはいかない。しかし警察に連れて行きでもしたら、黒人の自分は逮捕される。事実など関係なく、両親を殺害した罪もかぶせられるだろう。
 彼は死に別れた妻の事を思い出した。
 道端で転んだ白人の少年に手を差し伸べ、立たせてやったところを父親が目撃し、保安官に通報したのだ。少年に触れたというだけで彼女は暴行罪に問われ、リンチを受けた。ウィリーの目の前で四人の男に犯され、殴り殺されたその光景を、今でも夢に見てうなされる。

 赤ん坊は泣き続けていた。
 地元の人間はあらかた帰宅し、誰かが来る気配も無い。
(教えてくれ、ベッシー。俺はどうすりゃいい?)
 心の中で妻に問いかけた。
 そういう事は神様に訊きなよ――朗らかな性格をしていた彼女ならそう言うだろう。そんな事を思いながらも、少しの間ウィリーは返事を待った。
“どっちが正しいかなんて、あんたはとっくに決めてるはずだよ?”
 天の彼方から彼の心へ届いたのは、そんな言葉だった。
(そうだな、ベッシー……ありがとう)
 彼は両腕を車の中に伸ばし、赤ん坊を抱き上げた。

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