大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18【完結】
- 日時: 2019/03/12 15:54
- 名前: 無冬
初めまして、ようこそいらっしゃいました。
初投稿です!
ここでは【黒子のバスケ】のキャラクター黄瀬涼太とオリジナルキャラクターをくっつけます。
タイトルにもあるように黄瀬攻めで、主人公(受け)は白城 洸流(しらき ひかる)です。
※暴力あり(いじめ、殴る蹴る)
(無理矢理行為に及ぶモノは無し)
物語は原作に沿っているつもりですが、少々粗がございます……
物語中、
* * *
↑があったら物語内で時間経ちます。
* SIDE――○○―― *
↑があったら視点変わります。
白城洸流は黄瀬涼太と幼馴染で高校は別。中学はバスケ部所属。
黄瀬涼太、身長189cm。白城洸流、身長170cm。
【本編】
プロローグ>>1 第一話>>2-5 >>8-12
第二話>>13-14 第三話>>15
第四話>>16 第五話>>17
第六話>>18-25 第七話>>26-44
エピローグ>>45【終】
【その後的なもの】
『雪の日』>>47『デート』>>48-49
『花見』>>57-61
『渡さない-邂逅編-』>>62-72
『渡さない-接近編-』>>73-86
『渡さない-決着編-』>>87-90
【もしもの話】
『ウサギ編』>>50-55
※5/3 最後のご挨拶 >>91
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- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.14 )
- 日時: 2017/09/20 12:43
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
(side:洸流)続き
いつものように練習が始まった。
違和感さえなければ、と思ったけど、やはり微妙にタイミングがズレている。
一秒未満ではあるものの、ズレはズレ。
このズレに赤司君が気付かない訳がない。
「…………」
顔が、怒ってる。
僕を見ないでほしい。
顔を逸らして他の部員達を見る。
怪我をしている者はいないが、あちこちで一年生がへばっている。
皆筋肉痛だ。
「白城」
大事な"キセキ"達にはマイナス面での変化はなく、安心していると不機嫌な声で赤司君に呼ばれた。
「っ……」
急に後ろから呼ばれて驚き、体が跳ねた。
「…………」
無言の威圧。視線を逸らすと余計怖くなるから恐る恐るその眼を覗く。
「知っている事があるなら話せ」
赤司君の肩越しにはあの先輩が見える。
こっちを見て、これまた威圧してきている。
「えっと……」
二人からの威圧。
精神的に怖いのはもちろん赤司君。
でも、肉体的にも精神的にも影響があるのは先輩。
僕のせいで試合に影響が出たら困るのも事実で。
「西野(にしの)先輩が……右、膝を……」
僕は、それしか言わなかった。
赤司君は一度溜め息を吐いて踵を返す。
恐らく、あの先輩の許へ行く。
僕は目を逸らして、これから起こるであろう事からも目を逸らす。
また、人が増える。
でも、僕の仕事は少しでも余裕で勝つための支援。
それしか、ない。
一度視線を戻した時、あの先輩に殺意の籠った目で睨まれた。
その時、本当に殺されるんじゃないかと思った。
初めてではないその感覚。
もう慣れつつあるその感覚。
そして、今日もまた。
やはり人数は増えていた。
五人だったのが八人になっていた。
これから先もっと増えるのかと、恐怖に体が震えた。
また殴られて、蹴られて、罵られて。
先輩たちのストレスを受け取らされる。
痛い。
苦しい。
煩い。
聞きたくない。
逃げたい。
逃げられない。
泣きたくても泣く事さえ許されなくて。
部活がある程度終わるとレギュラーメンバー以外解散となる。そしてその後僕は先輩達に人気のない屋上近くにある階段の踊り場でストレス発散を受けていた。
それでも、帰る時はいつもと変わらない。
先輩たちが満足した後、僕は歩くのすら辛いなか、平静を装いながら教室に荷物を取りに来ていた。
「ひーかーるっ!」
不意に後ろから抱きつかれ、全身に痛みが走った。
「っ……」
何事かと振り返る事も出来ない。
「えっ? そんなに勢い良かったっスか?!」
慌てて僕から離れたその声に、一瞬で痛みを意識から切り離す。
「なんちゃって」
へらへら笑って振り返ると、慌てる涼太が目に入る。
「ちょっ……も〜、なんなんスか〜!」
安心したように笑う涼太を見て、僕も安心する。
大丈夫、バレてない。
「急に抱き付いてくるからだよ」
不意打ちは卑怯だよ。
バスケでもね。
まあ、この学校なら何にも言われないかもしれないけど。
「酷いっス……」
「酷くないし」
なんて遣り取りをしながら二人、ほぼ同じ帰り道を歩く。
途中まで他の"キセキ"のメンバーも一緒だったけど、最後は二人で歩いてる。
「洸流、また明日っスね」
いつもそうやって僕達は途中で道を別れていた。
「うん。また明日――――」
* * *
家に着いて直ぐベッドに横になる。
昔の事を思い出して、気分が悪くなっていた。
今でも体中に痣が残ってて、それから目を背ける事の出来ないお風呂が憂鬱で仕方がない。
誰かに相談していれば、何か違ったのかもしれない。
でも、みんなに迷惑はかけたくなかった。
僕が我慢すればいいだけだった。
だったのに。
我慢できなかった。
残り一年の、我慢が。
元々僕が中学に上がる時、父は単身赴任で引っ越していた。
でも、僕が中三に上がる時、丁度二人が小学校を卒業するから引っ越そうと、僕から言った。
母さんは「あと一年なのに大丈夫?」と心配してきたが、大丈夫じゃないから引越したいなど言えなくて、大丈夫と答えた。
隣の県に引っ越す事、灯里も輝哉も反対はしなかったけど、二人は結構鋭いから僕の事を心配してた。まあ、大丈夫で押し通したけど。
隣の県に移住して、でも都内の高校受けた方が良いって言われて、今は高校の近くに一人暮らし。
中学最後の一年は暴力に怯える事なく過ごす事は出来た。
でも、やっぱりずっと涼太にさよならは言うべきだったかと考えていた。
そしたら理由を訊かれそうで、怖かった。
「っ…………!」
急に、身体に痛みが走った。
誰にも殴られてないのに。
誰にも蹴られてないのに。
体が、痛い。
怖い。
嫌だ。
誰か、助けて。
もう、終わったのに。
「りょ、うた……」
気付けば、僕は泣きながら涼太の名前を呼んでいた。
助けになんか来ないのに。
痛みなんて幻覚なのに。
苦しいよ。
会いたい。
会えない。
会いに行きたい。
会う資格なんてない。
つらい。
全部幻覚。
そんな事判ってる。
でも、怖い。
もう怖い事なんて無いのに。
――――プツッ
そこで、僕が意識を手放していた。
第二話『逃げた理由』完
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.15 )
- 日時: 2017/05/03 18:20
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
第三話
『ひとりの理由』
(side:洸流)
「あー……」
地を這うような声で溜め息と共に声が漏れた。
今日は、朝九時から一時間の休憩ありで夜七時までアルバイト。
本が好きで、あまり人とかかわらずに済むからという理由で選んだ書店。
昨日、あのまま寝てしまって朝から長風呂して空腹を満たしたのにも拘らず、まだ朝の七時。
いつか、つらい思いなんてせずに涼太を思い出す事が出来るのだろうか。
人が一番居ない時でも見える範囲にお客様が四、五人は居るという全国にも何百という支店のある本屋は、今日も相変わらずだった。
平日や週末に関係無くお客さんが絶えない場所。
僕はそこで棚に本を補充すると言うのをメインに働いている。
違う場所に本が来ていたら元の場所に戻したり、時々お客様に応待したり。
「おにーちゃん、あそんで……?」
けど、なぜか僕は良く小さな子供にこうやって声を掛けられる。
「えっと……迷子かな?」
子供の目線に合わせて屈むと、話し掛けて来た女の子ははにかむだけで応えてくれない。
「一人なのかな?」
笑顔で訊いてあげる。
でも、えへへって笑うだけ。
うーん……。
「お名前は?」
マイクを握るような仕草をしてそれを女の子に向けて質問する。
「えりちゃん」
あ、返ってきた。
「えりちゃんか。可愛い名前だね」
女の子は照れながらも嬉しそうに笑う。
「ママがね、つけてくれたの」
お母さんと一緒の可能性が高いかな。
「じゃあさ、えりちゃん。お兄さんと、えりちゃん、どっちがママを見つけるのが早いか競争しようか」
遊んでほしいなら、やるって言うはずなんだけど……。
「うん!」
やった。
先輩に一言声を掛け、サービスカウンターに女の子を誘導する。
「あっ、ママだ!」
「エリカっ」
サービスカウンターには女性が既にいて女の子の声に反応して振り返った。
「やった。えりちゃんのかちだねっ!」
母親に抱き上げられながら女の子は笑ってそう言った。
「お兄さん負けちゃった。でも、もう次はこの遊びしちゃだめだよ?」
そう声を掛けると、女の子は「はぁい」と応えてくれた。
その間、お母さんは僕に謝りつつ女の子を叱っていた。
「あ、お帰りなさい」
「ただ今戻りました……」
月一で子供に話し掛けられるのはちょっと……、そう苦笑を漏らしながら元の仕事に戻る。
子供はとても無邪気で、元気だ。
そして、とても素直。
「小っちゃい子、嫌いだっけ? いらっしゃいませー……」
先輩はこそこそと話しつつ、あまり大きくならない程度の声でお客さんにも挨拶をする。
「いらっしゃいませ。なんていうか……無垢な目で見られると、胸に刺さります」
僕もそれに応え、お客様にもしっかりとご挨拶をする。
「あ〜……あの目は、うん。確かに」
あの純粋な無垢な目で見られると、責められているような錯覚に陥るから。
土曜日という事もあり、そこそこに人がいて少し人に酔いそうになりながらあと十五分ほどで休憩に入る頃まで来た。
雑誌類のコーナーの整列、補充を行っていると印象的な金髪が視界の端に映った。
気のせいかと思い、そちらの方を盗み見ると、気のせいではなかった。
この辺ではあまり見ない制服を着ている、ピアスを付けた長身の――――、
「…………涼、太……」
見間違いなんて、するはずがない。
最後に会った時より、身長が伸びていて、顔も大人びていた。
それでも、判る。
心臓が痛いくらいに跳ねている。
「――――あの、すみません」
お客様からの声でハッとした。
思わずじっと見つめていた涼太から視線を外し、笑顔で「はい、どうなさいました?」と応える。
欲しい雑誌の在庫があるかどうかという事で、下の引き出しを開けると残り五冊だけ残っていた。
「こちらでよろしいでしょうか?」
その雑誌の表紙を飾っていたのは、涼太で、また心臓が跳ねた。
でも、笑顔はちゃんと保ってそれを手渡しし、時計を確認する。
あと、十分。
涼太と会わずに休憩に入れるのか、それとも。
「ぁ、っ……」
ふと、視線を感じてそちらを向くと、涼太と目が合った。
声が出なくて、そっぽを向いて足早にその場を去る。
あと十分も残っているから流石にバックに戻るわけにいかず、取り敢えずトイレへ向かう。
足早に、誰ともぶつからないように人の合間を縫っていく。
トイレが見えて、少し足を早める。
心臓が破裂しそうな程、胸を叩き続けてる。
――――カシャンッ
個室に入り、鍵を閉めて一つ溜め息を吐く。
「洸流」
壁を挟んですぐそこに、涼太の息遣いを感じる。
ずっと聞きたかった声だ。
ずっと会いたかった人が居る。
「洸流……そこに、いるんスよね?」
涼太の声は、少しだけ震えてる。
顔が見えない分、余計に声に集中してしまう。
応えられない。
涼太、ごめん。僕は、君に会える資格は無いから。
「っ…………十二月、二十七日に試合やるんス、来て、欲しいっス……!」
胸が痛い。涼太……。
「りょ、う……た……」
鍵を開ければ、触れられる。
そしたら、謝罪だって。
涙が止まらなくて、その場にしゃがみ込む。
「会いたいんスよ……洸流に……」
こんな、僕に。
「ご、めん……」
ごめん。ずっと、ずっと。
でも、開けられない。
僕は、君にふさわしくないから。
「待ってる、から……」
その言葉を最後に、涼太の気配はなくなってしまった。
第三話『ひとりの理由』完
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.16 )
- 日時: 2017/09/20 12:44
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
第四話
『やっと見つけた』
(side:黄瀬)
夏休み前、バスケを再会した黒子っちとバスケをした。
その時、話題に少しだけ洸流が上がって、黒子っちは洸流と最近会ったのかと思ったら、そうじゃないらしく、落胆した。
でも、インターハイ予選の時、再会した黒子っちに、
「黄瀬君、少しいいですか?」
黒子っちから話し掛けてくるとは!
「どーしたんスか?」
嬉しくてついにやけながら訊いた。
黒子っちはやけに真剣でそれが余計おかしくて。
「白城君と、会いました」
その言葉を聞いた瞬間、思わず黒子っちの肩を掴んでいた。
「いつっスか! 元気にしてるんスか?!」
必死に訊いたら、黒子っちに冷静に「痛いです」と言われ、はっとして手を離す。
「……ボクから見た限りでは、あまり元気とは言えませんね」
オレの反応を窺う様に横目でこっちを見ながら黒子っちは答えてくれた。
元気じゃないって……?
「……白城君は寂しそうでした。今まで、見た事が無いくらいに」
何で、そんなに……。
「多分、君に会えないからだと思います。インターハイを見に来てくださいとは、言ったんですが……」
その感じだと、見に来てくれない感じっスね。
オレの事が嫌で離れていったんだと、オレはそう思ってる。
でも、
「黄瀬君の名前を出した時、泣きそうな顔をしてたんです。後悔、みたいな」
黒子っちの観察眼はすごい。外れた事が無い。
だから、オレ、自惚れようと思う。
きっと、何かやむを得ない事情があって引っ越したんだって。
最後に何も言えなくて、合わせる顔が無いって、そう思う事にする。
「白城君とは誠凛の近くで会ったので、多分学校もこっちなんじゃないかと思います」
じゃあ、定期的にそっちに行けばいつか、会えるかも。
「黒子っち……また、洸流に会った時、連絡欲しいっス。せめて、元気かどうかだけでも」
オレが少し震えた声で言うと、黒子っちは静かに頷いてくれた。
あれから、三ヶ月ほどした頃、黒子っちからメールがあった。
『白城君と、また会う事が出来ました。
彼はどうやら、自分は君に会う資格が無いと、そう思ってるらしいです。
ウィンターカップの話をして、また誘っては見たんですが……。
多分、君に会えば……きっと来てくれます』
「……絶対、来てほしいっス」
もう一度、話がしたい。
ちゃんと、話して洸流の誤解を解きたい。
そう思って、部活が無い時に洸流を探しに街に出た。
* * *
土曜日で、撮影の合間の暇つぶしにオレは書店に入った。
それで何となく雑誌コーナーに視線を向ける。
そしたら、
「洸流――――」
洸流が居て、目が合った。
でもすぐに視線を逸らされて、逃げて行ってしまう。
オレは必死に洸流の後を追いかけて、見失わないように目を凝らす。
人が多くて洸流を見失いかけた時、トイレに入るのが辛うじて見えた。
「っ――――」
ようやくトイレに入れた時、もう洸流は個室に入って鍵を閉めていた。
「洸流……そこに、いるんスよね?」
声を掛けても応えはない。
「っ……」
でも、壁越しに洸流の息遣いとか、存在を感じる。
本音は、今すぐここを開けて欲しかった。
今すぐ抱き締めたかった。
もう、二度と離したくないから。
「っ…………十二月、二十七日に試合やるんス、来て、欲しいっス……!」
必死に訴える。
聞いて欲しい。応えて欲しい。
でもやっぱり、応えは無くて。
その代わり、すすり泣く声が聞こえて来た。
「りょ、う……た……」
オレの名前を洸流は泣きながら呼んだ。
オレはここに居るっスよ。お願いだから、開けて欲しいんス。
「会いたいんスよ……洸流に……」
もう一度触れたい。抱き締めたい。
洸流に、応えて欲しい。
オレは、洸流じゃなきゃ、駄目なんス。
「ごめ、ん……」
それは、何に対する謝罪なのか。
オレに会ってくれないんスか?
洸流。オレ、
「待ってる、から……」
待ってるから。ずっと。
そう、決めたんスよ。
第四話『やっと見つけた』完
- Re: 【黒バス】腐向け 黄瀬×(オリキャラ) R18 ( No.17 )
- 日時: 2017/09/20 12:45
- 名前: 無冬 ◆vczVbPqLLA
第五話
『流れた時間』
(side:洸流)
少し前に二学期が始まったはずだった。
感覚では、だけど。
あっという間に流れた時間。
だってもう、今日は二学期最後の日。
冬休みの比較的短い期間の休みでも短期のアルバイトを入れる予定だったのに、少し前に親から「体を壊すから止めなさい!」と言われてしまい、あの書店だけになってしまった。
校長先生の長くて眠くなってしまいそうな話でさえ、僕はそんな素振りも見せずに真面目っぽく聞く事が出来る。
本当は、話なんて頭に入って来てないし。ずっと違う事を考えているから。
天皇誕生日前日の終業式。
涼太の試合まで、あと一週間もない。
まだ、行くかどうか迷ってた。
二ヶ月前に涼太と再会した時、僕は気付いてしまったんだ。
涼太に嫌われたくないと言いながら避け続けて、それでも想ってくれてる事が嬉しくて。繋ぎ止めたくて。しかも、涼太と――――あの出来事とちゃんと向き合う事を避けているだけだって事に。
本当の話をしたら、引っ越した理由を話したら、涼太は何て言うのかな。
あれは、仕方がない事だってずっと自分に言い聞かせてたから。
僕のせいでレギュラーを降ろされる先輩が何人もいたのも事実だし、そのせいで引退試合にちゃんと出る事さえ叶わなかった人も、たくさん。
やっと終業式が終わって、家に帰った。
これからの休みの日、何かしらの予定を入れないとずっとマイナスな思考で埋め尽くされてしまう。
「………………」
僕一人の部屋で、何度も涼太の名前を呼びそうになるのをぐっと堪える。
呼べば呼ぶほど会いたくなる。
僕の名前を呼んでほしい。
涼太の声が聴きたい。
「っ、あ〜……もう……」
ずっと、涼太の事しか考えていない。
「散歩でもしよう」
制服から着替えて何も考えたくなくて外へ出た。
* * *
ふらふらと何となく気の向くままに歩いて小さめの児童公園に行き着いた。
子供がちらほらとは遊んでいるが、子供達は皆ランドセルを遊具の傍に放置して遊びに集中していた。
純真無垢。
その言葉が似合うのは子供の内だけ。
でも、子供にも似合わなくなる時期は来る。
子供はいつまで経っても子供のままじゃないかもしれないから。
「あれ? 洸流じゃん」
ベンチに座って家に居る時と大差ない思考の中に居たら急に声を掛けられ、徐に顔を上げる。
「あ……伊崎君」
夏休み以来の再会。
あの時とは違う荒れ方をしている僕の心に、彼の存在は響かなかった。
少しボーっとしながら名前を呼んだものの、彼からの返事はない。
「何か悩んでるわけ?」
悩んでる。でも、相談してどうにかなるものでもないし。
特に、伊崎君に相談しても、ね……。
「……別に……」
冷たくそう応えて背凭れに寄りかかる。
涼太に来てほしいと、会いたいと言われた。
僕は本当に会いに行ってもいいのだろうか。
「…………また虐められてるとか?」
僕の隣に座り、静かな声でそう訊いて来た。
僕を虐めていた人達以外で、僕が虐められていた事を――――僕の秘密を知る唯一知る人物。
「違う。今は、もう……」
虐められてないんてない。
今は平和に、退屈に過ごしてる。
「じゃあ、どしたの?」
あんまり何回も訊かれたら言ってしまいそう。
僕は、結構単純だから。
「関係無いし」
この悩みを打ち明けるのが怖くて、また僕は逃げる。
また行くあてもなくどこかへ散歩に行こう、そう思って立ち上がる。
「ちょい待ち」
不意に腕を掴まれ、カクンッと後ろに引かれて少しバランスを崩す。
そしてバランスを崩した僕を伊崎君が受け止める。
「…………帰る」
腕を振り解こうとしても伊崎君の力に敵わなくて、腕を掴まれたまま睨みつける。
「……黄瀬が原因?」
「っ……」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
解り易く反応してしまったから、伊崎君にはもう気付かれただろう。
「何かされた?」
涼太はそんな人じゃないし。
睨みつけると伊崎は小さく溜め息を吐く。
「話、聞くけど?」
そっか相談じゃなくて、話すだけなら……。
* * *
結局、僕は試合を見に行くかどうか悩んでいるという話をした。
やっぱり、僕は単純だと思う。
「ふーん……じゃあ、やっぱり黄瀬は知らないのか。中学の時の、アレ」
知らない。教えてない。話してない。
だから、僕が急にいなくなった理由も知らない。
「…………はぁ……羨ましい限りだよ、ホント」
伊崎君がしみじみと呟いた言葉の意味が理解出来ず、首を傾げる。
「…………俺が洸流の事好きだって忘れてる?」
「いや、憶えてるけど……」
それが何で羨ましいに繋がるの?
頭にクエスチョンマークを浮かべていると伊崎君に苦笑されてしまった。
「洸流にそんなに想われてて良いな、って言ってんの」
不意にそんな事を言われたら、どう返していいのか解らなくて俯く。
確かに、涼太の事好きだけど……。
「…………でも俺が洸流にそうやって避けられてたら、当然嫌われてるって思うけどね」
その言葉で、不安になる。
でも、そう思われるのは当然。
自業自得なのに。
「自分勝手だよね」
知られたくないから遠ざけて。
でも繋ぎ止めていたくて。
「繋ぎ止めたいなら、気持ちを全部言うべきだと思う。でも、知られたくないなら、拒絶するべきだ」
極端な二択で、どちらかを選ばなければならない。
でも、もし――――、
「これ以上曖昧にしたら確実に嫌われるよ」
「っ……や、だ……」
その可能性を考えた。
曖昧にしたなら、知られないまま繋ぎ止められるかもしれないって。
なのに、伊崎君は僕のその思考に先回りしてその道を断った。
「……なら、答えは一つだと思うけど」
気持ちを全部伝えるって、事。
受け入れて、もらえるのかな。
「黄瀬の事、信じなよ」
――――もし駄目だったら俺が受け止めるからさ。
伊崎君はそう言い残して帰って行った。
* * *
皆が変わっていくのを、僕はただ傍で見ているだけだった。
少しずつ、バラバラの方向へ向かって行っている。
それぞれが孤立して、まとまりが無くなっていく。
それでも監督は、勝てればそれでいいとそう言った。
でも、それじゃ駄目だった。
皆が変わっていく事に、負ける事のない退屈な試合に、皆は呆れて更に変わる。
そうなるのも解ってた。
防ぐ事なんて出来ないけど、それでもあの時、何かすればよかった。
「あと、五日……」
――――黄瀬の事、信じなよ。
――――会いたいんスよ……。
伊崎君の言葉と、涼太の言葉が頭を巡る。
「……いいのかな……」
* * *
それから、一日一日がゆっくりと過ぎて行った。
そして、今日は、運命の日。
何かが変わる、そんな日になると思う。
第五話『流れた時間』完
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