大人オリジナル小説
- どこへも行けない
- 日時: 2012/05/20 01:01
- 名前: かな
はじめまして
スレ立て失礼します
社会問題提起系の短い話を幾つか書いて行きたいと思います。
一話一話はそれぞれ独立しており。完結しています。
よろしくお願いします。
「テーマ別索引」
いじめ >>1
障害者 >>3
認知症 >>4
いじめ2 >>9
リストカット >>13
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- Re: どこへも行けない ( No.16 )
- 日時: 2012/05/28 21:05
- 名前: かな
7つめ
「まるちしょうほう」
みんなは山本さんのことを頭おかしい人と噂していたけれど、
私はそうは思えなかった、なぜなら山本さんはバイトのはじめにいつも私におはようと言ってくれるし.目があったときにニッコリと笑ってくれるからだ。
だから私のお財布が無くなったのは決して山本さんのせいじゃないし、職場の外からきた
見知らぬ悪いやつがわたしのロッカーをなにか特殊な方法で開けて盗んでいったのだ。と思う。
山本さんはわたしのお財布が無くなった2日後にバイトをやめた。辞めた理由は山本さんがわたしの財布を盗んだからだという噂が立っている。噂なんてあてにならない。本当の理由は山本さんの夫の転勤だ。一緒についていくわ、
「遠い田舎へ行くの。」
と山本さんは私に言っていた。
「被害届を出しなさい」という店長のいいぶんは正しいけれど、
「山本さんがやったと警察に言え」
なんてあんまりだ。
「問い詰めたらアイツお前の財布とったって吐いたぜ。」
店長はそう言っていたけれど、わたしは信じない。
きっと店長は私と山本さんが嫌いで二人の仲を引き裂こうとしているのだろう。
店長は、自分がコンビニの店長だから、山本さんがコンビニの食べ物を悪く言うのが気に入らないのだ。
店長は私のことが好きじゃない。もっと愛想よくしなさい、とかお前はもうちょっとしっかりしたほうがいいとか、とかいう悪いことしか言わないから。私も店長がきらい。
山本さんは店長と違ってとても優しくて良い人だった。ニコニコと笑って私に話しかけてくれたり、飴をくれたりした。飴ははちみつ百%のとても体にいいもので、山本さんは
「これを食べてから持病のアトピーが見る間に治った」
と言っていた。
「自然のものを摂取しないと人間は心と体が悪くなる。あなたはとてもよい子で健康だけれど、レトルトや出来合のものを食べていると年をとったときに大変なことになるの」
といって私に色々と健康自然食品を薦めてくれた。私は今まで私が働いているコンビニのお惣菜が添加物だらけで体に毒だということも知らなかったので、山本さんがとっても安い値段で譲ってくれたはちみつのカプセルとかうめぼしエキスを沢山飲んだ。
天然の成分を摂れば摂るほど、あなたはもっと良い人間になれるわと言われた、私は山本さんがそう褒めてくれるだけで、まるで自分がとても質がいい人間になったような気がした。
あんな優しい山本さんがわたしの財布を取ったなんてのはデタラメだ。
財布が盗まれる前日に、
「自分のロッカーが壊れたから、あなたのロッカーの中にわたしの荷物を入れたい。鍵を貸してほしい」
と山本さんに頼まれた。私はいうとおりにした。それは本当だ。だからって山本さんがわたしの鍵のコピーをとってロッカーを開けて私の財布をとったなんて、店長が言っていることはただの推測だ。
財布がなくなった翌日に、店長が山本さんを締め上げたら、私が財布を盗みましたと泣きながら言ったらしい。それはおかしい。山本さんがそんなことを言うはずがない。きっと店長がそう言えと強要したのだ。山本さんを犯人と決めつけて自白を強要したのだ。そうに違いない。
「山本さんに夫と子供がいるのも嘘らしい」
、とも店長は言っていた。
確かに山本とお喋りしていると、山本さんの子供が、四人兄弟から二人姉妹になっていたり、3才だった長男さんが成人して結婚してしまっていることがある。矛盾した部分は沢山あるけれど山本さんだって人間なのだ、誰だって記憶違いはある。そういえば山本さんは夫が社長とも言っていた。裕福な生活をしている人が盗みをはたらくはずがない。
じゃあ私のお財布は一体誰が盗んだのだろう。
今私はとても恐ろしいことを考えた。
店長が言っていることは全部嘘なんじゃないのか。
店長がわたしの財布を盗んで、山本さんに濡れ衣を着せようとしているんじゃないのか。だから、山本さんはこのバイトをやめたのだ。濡れ衣をかぶったのだ。店長がこの店を辞めないと殺すぞ、とか怖い事を言ってやめさせたのだ。そうして山本さんが私の財布を盗んだという噂を流して、私に山本さんが泣きながら自白したというデタラメを吹聴したのだ。
店長は私はおろか山本さんまで嫌っているのか、店長という立場を使ってこここまで無実の人間を追い込むなん、そんなひどいことがあるものか。
そう考えるとすべてつじつまが合う。
店長は山本さんのことをあんなインチキ女は早く逮捕されればいいと言っていたけれど、逮捕されるべきなのは、私の財布を盗んだ、店長。お前だ。
ああいやだ、私は今まで店長に騙されていたのだ。憎たらしい。警察で逮捕して欲しいけれど生憎私は店長が財布を盗んだという確かな証拠を持っていない。悔しい悔しい。恨んでやる。
こんな職場になんか働いていられない。そもそも私は普段職場で喋ってくれる人は殆どいなくて、今まで山本さんしか仲良くしてくれる人はいなかったのだ。山本さんがいない職場にいるなんて、苦痛でしかない。
明日店長にバイトを辞めますといってやろう。ああそのときなんて言ってやろう。店長あなたのやっていることは全てお見通しですよ!なんて言ったら店長、震え上がるかしら。ざまあみろだ。
店長に内緒にしていたが、私と山本さんは今でも連絡をとっている。まだいっしょに働いていたとき、山本さんはあんな俗物たちと一緒にいたら体に毒物がたまる、こんな仕事は辞めてわたしは夫と子供といっしょに田舎へ行き大自然のもとで健康的に暮らしたいと言っていた。
山本さんは今、その田舎にいるらしい、そこにはある団体がコミュニティを作っていて山本さんはそこで販売員をしている。
山本さんに私は明日仕事をやめますと電話で伝えたらとても喜んで
「あなたもこっちに来なさい」
と誘ってくれた。
私みたいな清廉で心がピュアな人間が、バイト先のようなところにいたらかわいそうだ。あなたは昔の私を見ているようだ。私のようにこれ以上心が汚れるまえにこちらへ来て汚れを落としなさいといってくれた。私は嬉しくて電話口で泣いてしまった。最後に店長の事を話すと店長の言っていることは全部嘘だから信じるなと強く言われた。私の推理は間違っていなかったのだ。
そうだ、もうこんな所に一刻もいられない。ここは人間が汚い。こんなところにずっといると店長みたいな嘘をついても平気でいられるような奴になってしまう。もともと汚いひとは汚いところに留まっておけばいいが、私みたいな心が綺麗な人間は綺麗な場所にいる方がいいのだ。そういう決まりなのだ。
この職場を辞めて、私は将来山本さんのような良い人間になって幸せになるのだ。
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