花霧 翼side
「ほら、入ってくれないかな?」
少し暗い教材室に入った私は、すぐに荷物を下ろした。
柚宮空菜は、暫く俯き、何かを考えている様だったが、「ごめんなさい」と呟きながら、教材室に入ってきた。
「鍵閉めてもらえる?」
私がしゃべるたびにビクビクとする柚宮空菜に不快感を覚えた。
それが何故なのかはわからないが、急に気持ち悪いと感じたのだ。
ゆっくりと扉と鍵を閉める。と、それとほぼ同時にチャイムが鳴り響いた。
教材室には放送されないが、扉越しに少し籠った様に聞こえてくる。
「悪いね、遅刻扱いされちゃう。」
「い、い・・・・ぇ・・・・」
消え入りそうな声が耳に入ったのを確認して、床に置いた袋から中の物を取り出す。
「ちょっと埃っぽいけど、座って?」
できるだけ優しく言ったつもりだが、相変わらず肩を揺らす柚宮空菜を見て、軽くショックを受けるが、きっと誰に対してもこうなんだろうと自己解釈し、納得した。
スカートを気にしながら座った柚宮空菜を確認し、自分自身も腰を下ろす。
「ほらこれ。」
正面に座った柚宮空菜に、袋から取り出した上履きを突き出す。
もちろんそれは新品。驚きの白さだ。
一方上履きを差し出された柚宮空菜は、訳が分からない、といった顔で上履きだけを見つめていた。
それはそうだろう。私ならまずこんなとこに入らず逃げるだろうし。
「柚宮空菜、今度から空菜って呼んでもいいよね?私の事も、ね?」
「え・・・・」
「空菜。」
別に、ただ思ったことをやっただけ。
でも、こんなに驚かれるとは思わなかった。
「ねぇ、私の名前。知らないの?」
声のトーンを変えず、そう聞くと、小さな声で私の名前が呼ばれた。
「つ、翼、さん。」
「私の名前にさんなんてついてないよ。」
本当に、ただの興味本位。
「・・・い、いいんですか?
・・・・・・・・・・・・・つ、ばさ。」
「ん、合格。足のサイズ、23でよかった?」
本当に、本当に。
「な、なんで・・・・・」
「空菜の上履き、いつもボロボロだから。」
最近見た小説と同じ様な状況になってみたかっただけなのに。
「・・・、い、・・・いいんですか・・・?」
「だって、私の足のサイズ22.5だし。」
退屈だったから、なのに。
________後々、あんなに苦しくなるなんて、想定外だった。