花霧 翼side
速足で教室へ戻り、自分の鞄から小さめの袋とポーチを取り出す。
ふと机に目をやれば、音楽プレーヤーと白いイヤホンがだらしなく置かれていた。
別にアイツが音楽プレーヤーも持っていくとも考えていないが。
もしなくなってたらどうしようか とも思っていた。
まだ騒がしい教室内で、私に目を向ける人など誰一人となく、さっきまで私の左隣にいた気持ち悪いのも、他の『お友達』と楽しそうに話している。
丁度いい、なんて思いながら柚宮空菜の処へ戻る。
トットットッとクセになる足音が耳に入る。
それと同じで、ある声も聞こえてきた。
「ねぇ、アンタでしょ?いじめられてる奴ってさぁ。」
「噂通り、人形みてぇで不気味。あー怖い怖い。」
目の前には、いつも遠目に見ていた光景。
柚宮空菜が学校指定の黒い鞄を握りしめ、誰かがそれを蔑む。
あー、見てられない。
「あー、ほんっと、怖い怖い。」
私もそれに便乗してみようか、なんて思って、下らない女子2人の間に入る。
「っげ、花霧じゃん。」
まるで面倒なもの____例えば、警察とかを見たような顔で私を見る2人。
私はそんなに有名なのだろうか。
2人はヒソヒソと「行こうか」なんて話しながら、その場を離れて行った。
「あは、柚宮空菜も大変だね。」
小馬鹿にしたような口調でいえば、柚宮空菜は驚いた様な顔を私に向けた。
「何?っていうかちょっと来てみよ。」
私はそれを軽くあしらい、そのままある場所へ足を運んだ。
もちろん柚宮空菜は大人しく後をついてきていた。
ビクビクしている様なので、和らげようと会話を脳内で探すが、見つかりはしない。
本当、生きるのって面倒だ。
さっさと死にたい。死にたくないけど。
どうせ死ぬのなら醤油を1L飲むと本当に死ぬのかとかやってみたい。
そんな馬鹿な事を考えていると、目的地に着く。
教材室。
そのプレートを見ると、柚宮空菜は顔をひきつらせた。
多分、よく連れてこられるんだろう。
もちろん、いじめ目的で。
「・・・君が考えてるような事をしないから。」
得に目も合わせず言って、私は鍵の掛かっていない教材室に入った。