「ねぇ、桜樹さん。ちょっと来てくれないかしら」
「えっ…………? 」
私、桜樹 叶は弱い人間だ。でも、人間って何だろう。私には分からない。
今そこにいる子たちは、人間なのかな。
そんな冗談めいた考えを頭に浮かべる。でも、そうだな。
(どうしよう………)
私は教室を見回した。彼女を探しているのだ。私を守ってくれる、優しい林檎を。
しかし、幾ら目で追っても林檎は居なかった。
「あー、紅さん? お手洗いに行って来るって、さっき出てったわよぉ」
私はそいつを睨む。恨みがあるわけではない。ただ、睨む。
嫌だ。この子の金色に染められたウェーブの髪。身体中から匂う香水の香り。強調されるようにボタンが開かれた胸元。
全部…………嫌い。
「でもっ! 」
「あっれぇ? もしかしてアレっしょぉ? 林檎だけが私のトモダチなのぉって奴ぅ。絆とか、ダサいんだよねぇ」
嫌味のように笑う。嫌だ。今すぐ、消えて。林檎を、バカにしないで。
絆がダサい? それは、貴女が絆を知らないだけでしょ?
言いたい事は山ほどある。
でも私は、口に出来ない。
「ごめんなさい…………」
い じ め 。
それをやって、貴女に何のメリットがあるのでしょうか。
教室内は氷ってる。皆、悪魔だ。
私を見て微笑んでくれる人なんて居ない。
痛いよ。心も、痛めつけられた体も。全部が。
「っアンタ、それしか言えねぇのかよぉ!!? 」
一際大きく、恐ろしい声だった。
降り下ろされる拳を、避ける事は簡単だ。
でも、避けちゃいけない。もっと挑発してしまう。
そうだ、一度だけ。
一度だけ、やられればいいの。そうすれば後は、林檎が助けてくれる。
………………ガツンっ!!
「 」
あれ? 今、なんて言ったのかな?
自分が発した言葉のはずなのに、耳は捉えていなかった。
でももう、何でもいいや。