『林檎っ! やばいよ、色々と』
ヘッドフォンの向こうから、叶の声が聞こえてきた。かなり慌てた様子だ。
私、紅 林檎は、親友の桜樹 叶と共に【ストーカー狩り】と呼ばれる手法の金儲けをしている。
【ストーカー狩り】は、依頼主が悩みに悩まされているストーカーを私たちで捕まえてお金を貰うという危険な仕事だ。
しかし、私たちがこれをやっているのには訳があるのだ。
「何? もしかして、奴に気付かれちゃった? 」
私は小声でヘッドフォンの向こうの叶に話し掛けた。
今日の仕事は簡単なものだった。「依頼主に付き添い、ストーカーを寄せ付けないようにしてほしい」というだけ。そして報酬は10万。こんなのでそんなに貰ってしまっていいのだろうか。
叶が慌てた声で状況を素早く説明した。どうやら、以上事態のようだ。
『本命の方に、気付かれちゃった・・・・・・みたい』
頭の中が一瞬、消し去られたかのように真っ白になった。
本命に気付かれた? どういうことだ。私のプランは完璧だったはずなのに。
私は大きく息を吸い込んで、怒鳴り散らすように叶に怒りを露にした。
「ふざけんな!! あたしがどーゆー危険な目に合いながらアンタを守ってやってるかも知んない癖に、阿呆抜かすんじゃねぇ!! 」
キーーーーン、と電子音に紛れて響いた私の声は、自分でも失笑してしまうような怒声だった。
叶は暫く経ってから、小さく一言呟いた。
『ごめんなさい』
本命、とは叶のストーカーの事だ。元々ストーカー狩りは、叶を助ける為に始めたモノだ。しかし段々とエスカレートしてきた為に、今は誰しもが頼ってくる万屋になってしまった。
とはいえ、原因はきっと叶の容姿なのだろう。あんな綺麗な黒髪をなびかせるスタイル抜群、運動OK、勉強OKならば、誰しも魅力的に思うだろう。
正直それのせいで、あまり私も側にはいたくない。
「ごめんじゃねぇよ。で、どう? いなくなった? 」
『うん。ビックリしてコンビニに行ったよ』
良かった、と私は安堵の息を溢した。
下手したら、叶の命が危なかったから。
「そっか、良かった」
『あのね、林檎』
「ん? 何」
叶はフフッと笑った後、恥ずかしそうに小さく言った。
『ありがとう』