毒林檎と人間。 『prologue』ー終
暑い。太陽がじりじりと照り付ける。肌が焼けるように痛い。そりゃ、今は10月だ。こんな真夏日になるとは、到底予測出来ないだろう。日焼け止めなんて塗ってないのに。
私は紅 林檎。まあ、そんな事はどうでもいい。今はそれ所では無いのだ。
私は、視線の端にいる黒いパーカー、帽子、マスク、サングラス姿の男を見た。今は電柱の影で上手く隠れている。しかしもう直に、そうもいかなくなるだろう。
私は口許を歪ませて笑った。
奴にバレないように、小声で呟いてやった。
「頼んだぞ、叶」
最初に言って置くが、これは断じて独り言などという物ではない。れっきとした会話なのだ。
私は制服のスカートを揺らしながら、早足でその場を離れる。ここは狭い裏路地のような道路だ。見えるのは近隣の住宅の壁のみ。詰まらない路だ。
私は歩いて行き、途中で立ち止まる。
後ろを着いて歩いていた奴も、きまりが悪そうに渋々足を止めた。ストレスの溜め込み過ぎはよくないぞ、と言ってやりたいものだ。
『じゃあ、行くね』
電子音と混じって、聞きなれた叶の声が聞こえた。
【ストーカー狩り、成功】
リストカットは癖になる。
それと同じ原理だ。ストーキングだって、やればやるほど楽しくなる。殺してやりたいほどに、あの子を手に入れたくなってしまう。
またあの子は、ストーカー狩りをしたようだ。でも関係ない。
私はアナタが好きよ。
憎くて、でも大好き。どうしてだろうか、ここまで殺したいと思う程好きになった子は、『あの子』が初めてなんじゃないかな。