花霧 翼side
ゆっくり、震える手で上履きを受け取り、そっと自分の足元に置く空菜。
「あ、ありがとう、ございます・・・。」
何故だかその言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが満たされた。
なんだかわからないけど、自己満足、だと思う。
いつも読んでいた小説みたいな展開。
ワクワク、ドキドキする。
「あ、あの・・・」
「履いてもいいよ。というか履いてよ。」
察してほしいのだろうか、いつも微妙な間をあけて話してくる空菜。
きっと遠慮がちな性格なのだろう。
次から意識して話せば、少しは心を許してくれるんじゃないだろうか。
「は、はいっ」と少し嬉しそうに上履きを履き替える空菜の顔をじっと見つめてみる。
確かに、その辺の奴が言っている通り、人形みたいだ。
長いまつげ、健康的に白い肌、大きな目、痛んでない髪、肌荒れなんて言葉知らないんじゃないかと思うほど綺麗な肌。
すべてが、異常なくらいに整っていた。
パッと足元に目を向ければ、上履きはもう履き換えた様で。
「・・・ちょっと大きい?」
「い、いえ。ぜんぜ、ん平気です。」
ぎこちなくもちゃんと答えてくれる空菜をみると、やっぱり人形なんかじゃない、と思えた。
それでも、笑った顔など見たことないから、やっぱり・・・と思う自分もいた。
「・・・笑ったこと、ないの?」
「・・・・まぁ、あるといえば、あります・・・・よ。」
あぁ、昔からいじめられていたのかもしれない。
無邪気な幼いころはいいが、思春期に入ったらやはり、いじめの対象になるだろうし。
それは・・・
「辛かった、よね。」
きっと、すごく、だろう。
空菜の顔を見れば、すごく驚いた表情をしていて、一瞬だけ、穏やかな顔をした後、次々に涙がこぼれてきていた。
あぁ、なんか、悪いことしたな。
と反射的に思った。
多分だが、今まで友達なんてあんまりいなくて、いきなり優しい言葉をかけられたんだろうから
疑わしくても、それはあったかいんだろう。
でも、私には泣きだした彼女をどう扱えばいいのかなんてわからない。
自分の事しか考えていない馬鹿が、慣れない事なんてするんじゃなかったかな。
「・・・ごめん。」
とりあえず、謝罪しておく事にした。