大人オリジナル小説

黒猫の思惑(BLスピオフ)完結
日時: 2021/12/31 23:38
名前: 白楼雪

※こちらは小説『黒猫の誘惑』のスピンオフ作品です。

※小説『黒猫の誘惑』はR18作品でしたが、スピンオフ作品の『黒猫の思惑』は冬木と関わる以前の桜夜の事。
 あの日冬木と関わる前の桜夜の心情を綴った話ですので、年齢制限の必要なシーンはありません。
 
※更新は相も変わらず亀更新となるかと思います。



 それでは、黒猫の思惑始めさせていただきます。




2021/12/31 年の終わりに、黒猫の誘惑のスピンオフ「黒猫の思惑」完結しました。
        

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Re: 黒猫の思惑(BLスピオフ) ( No.8 )
日時: 2021/12/21 03:11
名前: 白楼雪

冷静に彼女の仕草を眺めていれば充分分かるだろうと思うのだが、洞察力等は経験が物をいうものだ。喩え裏の仕事に関わる者が多い店とはいえ、そこには差もあれば得意不得意もあるだろう。
女性店員はカードを一度シャッフルした際、テーブルにカードの束を手のひらで包むように片手で置いていた。
その時カードに触れていないほうの手でスカートの中から数枚カードを取り、カードを配る時に彼女の手札に混ぜているようだった。
テーブルで隠しつつ素早く行っている手際から、彼女は普段からこの技を主に使っているのだろう。
あれならば、桜夜でも巧く遊べるだろう。
「ああ!もう今夜は駄目だ!」
桜夜が冷めた目で眺めていると、不意に負け続けていた男性客が声を上げた。
「こんなの勝てるわけねぇ」
乱暴な仕草で椅子から立ち上がると、男性は店を出ていったようだ。
女性店員は慣れた手つきで掛け金を鞄に片付け、テーブルを片付けていた。
「お姉さん強いね。俺さ、強いお姉さん好きなんだよね。俺とも遊ばない?」
先程まで男性客が座っていた席に、桜夜はふわりと座りテーブルに身を乗り出すような姿勢で女性店員に微笑む。
すると彼女も微笑み、テーブルの脇に片付けられていたカードを手に微笑んだ。
「レートはどうしましょうか?」
慣れた仕草でカードをシャッフルする彼女に、桜夜は鞄から紙幣の束を取り出しテーブルに乗せた。
「俺が負けたらこれを、俺が買ったら…。そうだな、この店で一番高い酒を奢ってよ」
始めから互いの賭け物を同じにしなかったのは、桜夜なりの気遣いと呼べるだろう。
この店の一番高い酒は、今桜夜が乗せた札束でちょうど買えるほどの金額だが、それでは賭けにならないと思ったのだ。
桜夜は仕事上あまり金には困っていないが、人に奢らせた酒の旨さは良く理解していた。
だが、目の前の女性からすれば決まった酒より、同額の金銭の方が応用も利くのでそちらの方がずっと価値がある事だろう。
賭け事というのは、お互いに益があってこそ成り立つものだ。レートの上に乗る気のおきない賭け事など成立しないものなのだから。
「良いわよ。貴方となら、楽しめそうだもの」
女性店員にもその事が好印象だったのだろう。先程の男性客を相手にしていた時に比べ、表情が生き生きとして見える。
彼女がカードをシャッフルする。その際視線はテーブルから離さず、桜夜は予め仕込んでいたカードを下肢を包む衣服の内から、数枚手の内に隠し持つ。隠し持つカードはテーブルの下に、見えないように手のひらで覆う。
彼女がカードを配り始める。まだ桜夜は仕掛けない。
「さあ、どうぞ」
店員が微笑み、彼女が自身の手札を確認した隙に桜夜は手札を取る。そこで隠し持っていたカードと配られたカードを素早く摩り替え、摩り替えたカードは衣服の内に隠す。これで桜夜の勝ちはほぼ確定する。

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