大人オリジナル小説

黒猫の思惑(BLスピオフ)完結
日時: 2021/12/31 23:38
名前: 白楼雪

※こちらは小説『黒猫の誘惑』のスピンオフ作品です。

※小説『黒猫の誘惑』はR18作品でしたが、スピンオフ作品の『黒猫の思惑』は冬木と関わる以前の桜夜の事。
 あの日冬木と関わる前の桜夜の心情を綴った話ですので、年齢制限の必要なシーンはありません。
 
※更新は相も変わらず亀更新となるかと思います。



 それでは、黒猫の思惑始めさせていただきます。




2021/12/31 年の終わりに、黒猫の誘惑のスピンオフ「黒猫の思惑」完結しました。
        

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Re: 黒猫の思惑(BLスピオフ) ( No.4 )
日時: 2021/09/06 15:06
名前: 白楼雪

扉から現れたのは茶色い犬の獣人だった。身長も体格も桜夜より少し大きいだろうか。
彼の纏う雰囲気は渇いた木の葉のようで、まるで日々に飽き飽きしているようにも見えた。
「ねえ、あれ知ってる?」
隣のテーブル席で雑談を交わしている仕事仲間に問う。
「ああ、桜夜と冬木は会った事ないのか」
「彼奴なら数年前から時々店に来てるけどな。タイミング合わなくて擦れ違ってたんだろ?」
苦笑を混じらせながらも情報をくれる仕事仲間の話は、桜夜にとっての暇潰しにはちょうど良いものだ。
聞けばあの茶色い犬は冬木という名の同業者らしい。
桜夜は知らなかったのだが、裏の業界では『狂犬』と呼ばれる程に、えげつない仕事も顔色一つ変えずに行う、なかなか優秀な男らしい。
「狂犬か。俺にはそう見えないけどな」
再び椅子に身体を預け、桜夜がぽつりと声を溢す。
視線の先には、カウンターに座り店員と何やら話している冬木の背中が写る。
桜夜もそうだが、獣人は感情が耳や尾に出やすい種族だ。
その分身体能力は常人よりも優れている者が多いが、感情が表れやすいのは時に弱点ともなる。
それを克服するため、桜夜もかなりの苦労と時間を掛けて耳や尾の反応を抑えられるようになったのだが、どうやら冬木という人物もその努力を忘れなかったようだ。
先程から冬木の犬耳と尾は落ち着きを維持しており、彼の感情は読み取れそうもない。
読み取れはしないが、ただ一つ感じられるものはあった。
冬木の纏う雰囲気は変わらずに空虚に見える。
まるで最近の桜夜と似たような、日々の生活に面白味を感じられないような、そんな空気だ。
自身は猫、彼は犬だがいつか縁があれば話の一つでもしてみたいと思う程度には興味を惹かれる。
「まあ、縁があればだけど」
グラスの中の琥珀を飲み終え、桜夜がカウンターに近づく。
「ごちそうさま」
氷だけが残されたグラスといつもの代金だけをテーブルに乗せ、店員に声をかける。
店員も小さく頷き、グラスと代金を手に片付けていく。
その店員から冬木の横顔へと視線を流し、さりげなく冬木の表情を確認してみた。
桜夜と目が合うと、冬木は人の良さそうな微笑みを向けてくるが、その微笑みが純粋なものではない事が桜夜には簡単に察せられた。
この微笑みを桜夜は良く知っているからだ。
桜夜も普段使っている、心の内に幾つもの思惑を忍ばせた紫煙をたゆたせるような喰えない微笑みだったのだ。

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