大人オリジナル小説

黒猫の思惑(BLスピオフ)完結
日時: 2021/12/31 23:38
名前: 白楼雪

※こちらは小説『黒猫の誘惑』のスピンオフ作品です。

※小説『黒猫の誘惑』はR18作品でしたが、スピンオフ作品の『黒猫の思惑』は冬木と関わる以前の桜夜の事。
 あの日冬木と関わる前の桜夜の心情を綴った話ですので、年齢制限の必要なシーンはありません。
 
※更新は相も変わらず亀更新となるかと思います。



 それでは、黒猫の思惑始めさせていただきます。




2021/12/31 年の終わりに、黒猫の誘惑のスピンオフ「黒猫の思惑」完結しました。
        

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Re: 黒猫の思惑(BLスピオフ) ( No.3 )
日時: 2021/08/31 05:26
名前: 白楼雪

桜夜の様子を流し見ながら、再び店員が口を開く。
「また新しいお使いでもいかがですか?」
新たな依頼の紹介を仄めかす店員の言葉に、桜夜は首を横に振り苦笑を浮かべた。
「しばらくはいいよ。働き過ぎは良くないと思うからね」
安酒のグラスには、半分程の琥珀色の液体が残り店内の薄暗い照明を映す。
そのグラスを手に、桜夜はカウンターを離れ奥のテーブル席に移る事とした。
桜夜の向かうテーブル席は入り口の扉からも、カウンターからも離れた空席だったが、その他のテーブル付近にはちらほらと顔見知りの仕事仲間も目に入る。
「よう、生きてたか」
「今度また勝負してくれよ」
互いに深入りをしない。余計な事を聞かなければ、彼等と話すのもそれなりに楽しめたりはする。
「いいよ。次に勝負する時はこの店の一番高い酒を賭けよう」
ひらひらと手を振り、桜夜も軽口を返す。
この店で彼等とたしなむ勝負とはいつもカードゲームなのだが、こんな仕事をしている者同士の遊びである。真っ当な物なわけがない。
お互いカードに細工をするのはもちろん、騙し合いの摩り替えも有りなろくでもないカードゲームである。
この店での、あるいは他の場でも、騙されたり細工をされた事に気がつかなくては追及もできないだろうし、自身も摩り替え等を行っているのならば、対戦相手がどれ程悪質な手を使っていたとしても責められない。
それを承知で彼等も桜夜自身も楽しんでいるのだ。普通に遊ぶなど面白味がない。少しの刺激を足すから深味がますのだ。
空席に腰を下ろし、桜夜はグラスを手に琥珀色を口元に寄せる。
この店の中ではお世辞にも高価とは言えない酒だが、桜夜はこの酒が好きだった。
確かに高級な酒は旨いと思う。だが、あれは時々味わうから旨く思えるわけであって、毎日呑んでしまえばいずれ飽きる。そんなものだ。
それに比べ、この安酒は良い。
ノンアルコールで言うならば、この酒は水やお茶のように気軽に飲めて、深味も感じない。
深味がなければ、特筆した味わいもないという事だ。癖らしいものも無く、飽きずに呑めると桜夜は思っている。
琥珀の液体を舌で転がし、喉を潤す。木製の古びた椅子に身を委ね寛いでいると、店の外へと続く入り口の扉が、呼び鈴を鳴らしながら開かれた。

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