大人オリジナル小説
- 黒猫の思惑(BLスピオフ)完結
- 日時: 2021/12/31 23:38
- 名前: 白楼雪
※こちらは小説『黒猫の誘惑』のスピンオフ作品です。
※小説『黒猫の誘惑』はR18作品でしたが、スピンオフ作品の『黒猫の思惑』は冬木と関わる以前の桜夜の事。
あの日冬木と関わる前の桜夜の心情を綴った話ですので、年齢制限の必要なシーンはありません。
※更新は相も変わらず亀更新となるかと思います。
それでは、黒猫の思惑始めさせていただきます。
2021/12/31 年の終わりに、黒猫の誘惑のスピンオフ「黒猫の思惑」完結しました。
- Re: 黒猫の思惑(BLスピオフ) ( No.1 )
- 日時: 2021/08/25 08:37
- 名前: 白楼雪
零夜 黒猫の思惑
夜の闇の中。木々の隙間を縫うように、黒い獣が走り抜ける。
都会の街にも、緑樹の多い場は少なからずあるものだ。
「はぁ…はぁ…」
人の手で植えられた幾つもの木々。その根に足を捕られぬように、駆け抜ける黒猫がいた。
「探せ!奴を必ず捕まえろ!」
遠くに聴こえる声に、黒猫の獣人は薄い笑みを浮かべ林を抜けた。
「はぁ…、まったく、鬱陶しいなぁ」
公園の林を抜けた黒猫、桜夜(さくや)は付近のビルに逃げ込み、屋上へ続く階段を駆け上がる。
築年数を重ねた古いビルの二階に辿り着くと、桜夜の歩調が穏やかなものに変わった。
埃の溜まったフロア。曇り汚れた窓から先程の公園を見ると、林の中に小さな明かりが幾つも明滅していた。
「本当に、馬鹿だよな。あんな物持って追いかけ回すとか、自分達の場所をわざわざ教えているようなもんだろう」
呆れと嘲笑を混ぜ合わせた声で呟くと、桜夜は自身の上着であるパーカーのポケットから、小さな長方形の小物を取り出す。
指先で摘まむそれには、ある情報が記録されており、桜夜はそのメモリーを研究所から盗んできたのだった。
桜夜は裏の仕事を生業として日々生きている。
暗殺や窃盗、破壊工作。時には情報の売買も行う。
そんな仕事をしているのだから、恨まれ命を狙われるのも日常茶飯事である。
それでも桜夜がこの仕事を続けているのは、やはり性に合っているからだろう。
身体を動かす事も、悪知恵も桜夜の場合は強い武器として備わっている。
人を殺める事、法に反する事に抵抗がない。
そして何よりも、桜夜は自身以外は何者も信じていないのだ。
そんな自身に、表の仕事は合わない。裏の仕事の方が居心地が良いと感じていた。
「そろそろ行くか」
小休憩として壁に背を預け様子を窺っていたが、林の向こうは未だに明かりの明滅が続いている。
今ならばいつもの店に移動できるだろう。
その後依頼人と繋いで貰い、この情報媒体を渡して金を貰えば、桜夜の仕事は終わりとなる。
壁から離れ、階段へと歩を向けながら、桜夜は黒い猫耳を小さく動かした。
聴こえるのは外を走る自動車の走行音。遊歩道を歩く人々の声と幾つもの足音。それに柔らかに吹き抜ける風に揺られた草木の音色。