大人オリジナル小説
- 黒猫の思惑(BLスピオフ)完結
- 日時: 2021/12/31 23:38
- 名前: 白楼雪
※こちらは小説『黒猫の誘惑』のスピンオフ作品です。
※小説『黒猫の誘惑』はR18作品でしたが、スピンオフ作品の『黒猫の思惑』は冬木と関わる以前の桜夜の事。
あの日冬木と関わる前の桜夜の心情を綴った話ですので、年齢制限の必要なシーンはありません。
※更新は相も変わらず亀更新となるかと思います。
それでは、黒猫の思惑始めさせていただきます。
2021/12/31 年の終わりに、黒猫の誘惑のスピンオフ「黒猫の思惑」完結しました。
- Re: 黒猫の思惑(BLスピオフ) ( No.2 )
- 日時: 2021/08/28 22:04
- 名前: 白楼雪
林の中で聴こえた騒音も今は届かないままだ。
足音は最小限に、視線を遮る手摺に気を締めながら桜夜はビルから出た。
外の空気を深く吸い、緩やかに身体の筋肉を伸ばし、緊張を解す。
「早く終わらせて、お酒が呑みたいな」
くるりと店に続く方角へ振り向く。
この街は表と裏が混ざり合っているというのに、いつも明るくて影を感じさせない。
それは、裏の人間が抗争から掃除。そして清掃まで綺麗にしているからなのだろう。
行き交う人々の群れに慣れたように流され、時に流れに逆らう。
それから十数分。桜夜はこれまた古臭いビルの前に立っていた。
先程の廃ビルとの違いは、このビルにはそれなりのテナントが入っていて、街に馴染む程雰囲気も落ち着いているという事だろうか。
欲を言うならばエレベーターの一つでも付けて欲しいものだが、それを思ったところでどうにもならない。
ビルの地下へと続く階段に、桜夜は足を踏み入れていく。
「こんばんは」
地下に唯一あるバーの扉を開け、黒猫の獣人が入る。
店内は薄暗く、客入りは多くも少なくもないと言ったところだろうか。
一先ずはカウンターの
席に座り、安酒を一杯バーテンダーに注文する。
「お使いは終わったよ」
受け取った酒を一口飲むと、桜夜は雑談のように一言告げた。
「ちゃんと間違えずにできましたか?」
バーテンダーの店員が問い返す。
その言葉に桜夜は微笑を浮かべ、頷いた。
「少し寄り道はしたけど、落としたりもしていない。早く渡したいよ」
ここで彼等が話しているお使いとは依頼の事だ。
間違えずは、模造品やコピーではないという事。寄り道や落とすというのは、追っ手やそれに奪われる事を言っているのだ。
この店は飲食店であり、裏の情報や仲介、品物の売買もしてくれる何でも屋でもある。
「お客様には私達から渡す手筈になっています。お使いのお駄賃は今、お渡ししますよ」
それだけ言うと店員は静かにグラスを磨き始めた。
その仕草を見つめ、桜夜はポケットから長方形の小物を取り出しカウンターに置く。
「これだよ。お使いのメモはないから渡せない。わかってるよね?」
依頼書やファイル類は、読み終えたら直ぐに燃やして処分する。この世界では常識だ。
なので手渡すのはいつも依頼品やその結果の証明品のみとなる。
店員もそれには頷き、小物を手に店の奥へと消えた。
十分は経っただろうか。店員が布の袋を手に奥から戻ってきた。
「確かに受けとりました。これがお駄賃です」
カウンターに乗せられた布の袋を受け取り、桜夜が中身を確認する。
確認を終えると、桜夜はそれを急いで鞄に閉まった。