大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- FINAL FANTASYでぐだぐだ書く。
- 日時: 2017/01/20 22:08
- 名前: 月音
こんにちは、月音です。
今回はFFのBL小説を投稿させて頂きます。
ただ……一つ断っておきたい事がございます。
私、今のところ、FFのゲームをプレイした事が残念ながらありません。
シアトリズムのみです。
いえ、小説も攻略本も読みましたし、ストーリーもあらかた存じています。
DVDも見ました、CDも全部聞きました。
ただ時間が無く……プレイ出来ずにおります。
おまけに守備範囲がひどく狭いです。
ですので、設定がおかしかったり、口調が違ったりしてしまうかも知れません。
広いお心で読んで下されば、これ以上の幸福はございません。
……そうでした。
私はFFのストーリーやキャラクターも大好きですが、
それと同じくらいに曲が大好きです。
なので、曲に勝手に歌詞をつけています。
それも投稿していきたいと思います。
では、どうぞよろしくお願いいたします。
- Re: FINAL FANTASYでぐだぐだ書く。 ( No.10 )
- 日時: 2017/01/26 21:20
- 名前: 月音
しかし。
あの事件から二年が経った頃、レノからの依頼を受けてヒーリンに行った俺は、唐突に彼と再会した。
レノ、ルードに襲いかかられ、それを軽くいなし、車椅子に座って出て来たルーファウスに気を取られていたら、もう一人刺客が襲いかかってきた。
「甘い」
「なッ……ぅぐあ!」
ぎりぎり受け止め、背負い投げる。さらりと流れた茶髪から溢れた匂いに、どこか悲しい気持ちになる。どうしてか考えていたら、ルーファウスの斜め後ろに立ったそいつが問うた。
「……クラウド?」
「なっ……」
そいつは、ニブルヘイムで手紙を残して消えた彼奴だった。
「知り合いか?」
レノが問う。
「はい……昔も昔、私がとても幼い頃に少し面識がありまして。でも、変わった……」
彼が答える。あの頃とは違う、滑らかな喋り方。落ち着いた声。キモノではなく神羅のスーツ。何もかも変わったのはそっちの方なのに、変わったなんて悲しそうに言うから、少し苛立つ。
「……あんたこそ、もっと無口だった筈だ」
「クラウド、もっと、笑ってた」
どうして、そんな事を言うんだ。時間が、長過ぎた。あの頃より背も伸びたし、沢山の事を知った。沢山のものを失った。もっと早く、会えていれば、また違ったかも知れないのに。胸が詰まる。どうにかして話題を変えなければ。
「何でこんな所にいるんだ。何時から神羅で働いてる」
「……数週間前」
「あんたも災難だな」
「二人とも、話は後にしてくれ」
いいタイミングでルードが遮る。ルーファウスとの交渉は、あまり頭に入らなかった。考えなければいけない事が多すぎる。
その後は、彼奴との事や、ルーファウスからの依頼や、星痕症候群の事や、カダージュ達の事やらで頭が一杯だった。更に、教会跡で倒れたティファを見つけ、自分まで倒れてしまう。目が覚めたら、もう夕方。
レノ達から話を聞く。マリンも、デンゼルもいないらしい。ティファはまだ目覚めない。不安と、苛立ちが募る。しかし、俺にはどうすることも出来ない。
「じれったいぞ、と」
二人は出ていった。きっと捜索に行ってくれたのだろう。また。俺に関わった所為で、人に迷惑をかけてしまう。
「あの……」
こいつも。
「さっきは、ごめん……クラウドだと、知らなくて」
「別に。あんなに昔の事なんて、忘れても仕方ない。俺だって忘れてた」
「…………」
「いくら『ずっと忘れない』なんて思っていても、人は変わる」
我ながらひどい言い方だ。それに、未だに接し方が分からない。昔みたいに、きみ、なんて呼べないから。
「クラウド……」
「何だ」
「……手合わせ、願いたい」
ぎこちなく微笑んで言う。突然の事だったので、驚く。いきなり手合わせとは……。
「駄目?……無理は、しないで」
「いや……興味あるね」
彼には悪いが、今、俺は苛立っている。それをぶつけさせて貰う。店を出て、広いが人気の少ない道路へ出た。
「覚えてる?」
やはり小さく、彼が呟く。
「昔、こうして三人で……それぞれ手合わせして、いつも一番は、クラウドだったね」
さっきより滑らかに喋る。確かにその事は覚えているが、忘れた振りをして、強がった。
「そうだったか」
「そう。……クラウドは、強い。更に、強くなってる。だから、私が勝てる筈、ないんだ」
「何が言いたい」
「考えて。答えは、後で」
スッと刀を抜く。俺もバスターソードを構える。息を詰め、互いの緊張感が高まり合うのを感じ、それが最大まで大きくなった瞬間──弾けたッ!
スピードは彼奴の方が早い、が、単純な攻撃力で言えば俺の方が高い。まず一合目。彼奴は軽く打ち合うと、すぐ切り返し隙を狙う。それを読み、バスターソードで受け止め、上へ大きく払う。それすらも自身の跳躍力に変え、高く高く飛び上がり、速度をあげて刀を降り下ろす。また受ける。至近距離で睨み合う俺達。強くなった。俺も、彼も、あの頃とは全く違う。それなのに、彼はどうしてこうも生き生きしている?俺は──
「甘いッ!」
「何!?くッ」
縦に回転し、俺の剣を弾く。そのまま真っ直ぐ突きの体勢に入った。早い!牽制のために剣を薙ぎ払い、跳ぶ。俺を通り越した彼奴も下から切り上げてくる。勿論上の俺の方が強く、彼奴ごと落ちていく。と、剣から抜け出した。地面に突き刺さる。剣を抜き取り、また対峙。
「どうしたの?手加減なんて、いらない」
「強くなったな」
「……クラウドは、何も分かってない」
「そうかもな。……分からない事が、多すぎる」
「……次で決める」
「ああ」
ぴりぴりとした感覚を肌で感じながら、俺はどうしようもない虚脱感に襲われていた。最初に有った苛立ちも、倦怠感に変わった。そんな俺が、勝てる訳がなかった。
一瞬で間合いを詰めて来た彼奴の刀が俺の首筋に当てられる。
「勝負、あった」
「俺の負けだ」
力が抜け、その場に座り込んでしまう。初めて俺に勝った筈の彼は、その顔を泣きそうに歪め、腕を力無く下ろした。
「星の怒りは雲を貫き、空を焼いた……けれど、星痕を言い訳には、しないよね」
「………!」
腕が鈍く痛む。俺は、黒い何かが俺を蝕んでいくのを知っていた。いつしか生きるのを諦めようとしたのも気付いていた。彼は気付いていたのだろうか。改めて突き付けられる現実に、耳を塞ぎたくなった。
「迷いがある。何も分からなくなってる。私が強くなったんじゃなくて、クラウドが弱くなった」
「……そうだ。俺は、弱い。誰か一人を守ることすら出来ない」
「クラウド……重たい?」
「…………」
か細く、辛そうに、必死にそれを覆い隠すように、彼が問う。俺は答えない。
「もし、重たくて、重たくて、荷物を全部放り出したくなったら……その時はどうすればいいか、知ってる?」
「…………」
「全部、運命だ、って、思えばいい」
「………!」
今、彼はどんな顔をしてこんな話をしているのだろう。声色からは何も読み取れなくなった。
「私と、君が出会ったのも、運命。ここでまた会えたのも、運命」
「だったら……何なんだ」
運命論者ではないけれど、たまに運命を恨む俺は問う。彼は冷たく事実だけを口にした。
「あの日誰かを殺したのも運命。あの日誰かを失ったのも運命。全部全部、運命のまま生きてきた。自分で選んだ事なんて何一つなかった。自分で掴み取った筈の幸せな事も運命で決められていたし、自分を恨んだ不幸な結末も運命で決められていた」
ぐっ、と胸が締め付けられる感じがした。全てを運命という不確定な存在に丸投げし、喜びも悲しみも、全て運命の所為にして、自分は運命に巻き込まれた悲劇の主人公気取りでのうのうと生きて行く。それがどれだけ味気なく、情けなく、生きる意味すら無くしてしまう選択なのか、俺には痛い程分かった。
そんな俺を放って置いて、彼は身を翻した。
「これも、一つの選択肢。選んだ人も、いるんだよ」
「選んだら……どうなるんだ」
「……一つ言えるのは……私は……諦め切れなかった……だから、抗うの。……決めるのは、クラウドだから」
そう言い切ってから、一人歩いて行った。彼の悲しそうな声音と昔の笑顔だけが、脳裏から離れてくれない。夕焼けに染まる雲が寂しそうに流れていた。
- Re: FINAL FANTASYでぐだぐだ書く。 ( No.11 )
- 日時: 2017/01/27 21:36
- 名前: 月音
その後、店に帰ると、彼はどこへ行ったのかいなかった。やがてティファが目覚めた。マリンとデンゼルがいない事と彼と会った事を伝える。彼に何と言われたかは言わなかった。彼女は彼と同じ事を言った。
「このまま死んでもいい、なんて思ってる?」
「でもデンゼルは戦ってるよね。一緒に戦おうよ!」
「ズルズルズルズル。ほんっとズルズルズルズル!」
「いつまで引き摺ってるんだ、と」
彼女の口撃にそろそろ耐えられなくなりそうだった頃、レノ達が帰って来た。
「見つからないの?」
「奴らが連れて行った。目撃者がいたぞと」
「行き先は?」
「忘らるる都。アジトだ」
「頼む」
またティファが止める。この幼馴染みは俺に容赦ない。心に刺さる。
「重い?だって重いんだもん、仕方ないよ」
「一人ぼっちは嫌なんでしょ?出ないくせに電話は手離さないもんね」
心の柔らかい所をばかり突いてくる。俺としても言い返せない。膠着状態に陥っていた俺達を止めたのはレノだった。
「アジト。お前が行けよ、と」
三人は出ていく。
本当に、重いものばかりだ、と。
そして俺は忘らるる都に向かい、カダージュ達と戦い、ヴィンセントに助けられ、マリンに答えの手がかりを貰い、広場へ戻り、大型召喚獣と戦い、破壊し、ヤズーとロッズを倒し、カダージュと戦う中で星痕が消え、リユニオンしたセフィロスを倒し、カダージュを看取り、ヤズー達にトドメを刺し、教会跡で答えを得た。
激動の一日だった。
彼とティファのお陰で、俺は答えを得られたのだ。照れくさくて、まだ感謝は伝えられていないが、心底感謝している。
あの日から数日。
もうかつての落ち着きを半分は取り戻したこの町を、土砂降りの雨が覆っている。つい先程、唐突に振り出した雨に気分も沈む。たまたま今日は店番だったので良かった。ぼうっと本を読んでいると、ドアがノックされた。
「……ません。すみません!」
急いでドアを開く。そこにはびしょ濡れの可愛らしい少女がいた。
「あ、雨宿りを……させて下さい」
「あ、ああ」
店に招き入れる。長い茶髪を頭の両端の高い位置でくくって、白いレースのついた服を着ている。持ち物は小さなバッグ一つ。少し派手な化粧が雨で崩れかけていた。かなり寒そうで、小刻みに震えている。俺が適当にタオルを渡してやると、明るく微笑んだ。
「急にごめん。……っくしゅん!……何読んでるの?」
馴れ馴れしい子だ。だが、別に嫌ではない。何故か、許せてしまう。
「伝記……です。ティファ……知り合いに借りたから、よくは知らないけど」
「……わざわざ知り合いなんて、言い直さなくても。それに、敬語?」
少女は訝しげに言う。
「もしかして……分かってない?」
「はい?」
「ああ……なるほど」
おもむろに髪──ぐっしょりと濡れて重たそうだ──をほどき、軽く首を振る。そして、
「机、借りても?」
バッグからコンパクトを取り出し、化粧を落とし始めた。しばらくして、すっぴんを見ると、俺は驚きで動けなくなった。
「おま……お前なのか」
「うん。……意外?」
「意外も何も……似合い過ぎだ」
照れ笑いしながらも事情を話してくれた。何でも、路上ライブをしていたところ、スコールに見舞われたらしい。取り合えず雨宿りをとこの店に入って来た。路上ライブは神羅の奴らには内緒らしく、少し居させて欲しいとの事だった。
「この格好、見られたら、変態だと思われるから……困る」
苦笑いしながら言う。
「俺ならいいのか」
「クラウドは、私の事、分かってるから」
こいつ、無自覚だろうがかなり可愛い。そんじょそこらの女子なら負ける。言動も、変に意識していないから、何気に誘ってるように思える。ふと思い付いた様に言われた。
「ここには女装に必要な何かがある。俺には分かるんだ」
「なっ!?」
「クラウド、女装似合いそう、だよね」
「女装?……興味ないね……」
「ふうん。まあ、クラウドは鍛えてるから体つき、男らしいし。少し、骨太のおなごになりそう」
「もう止めてくれ……トラウマが……」
こいつは何を知っているんだ。頭を抱えて項垂れると、面白そうに笑われた。珍しい事だ。
「ふふっ……まあ確かに、女装似合うって言われても、そんなに、嬉しくないか。私も、男らしくないって、言われてるみたいで、少し辛いし」
悲し気にそう呟く姿すら、美少女に見えて仕方が無い。何とか表情を保ち、返す。
「お前はお前でいいと思うけど」
「でも……やっぱり、気持ち悪い?」
「何でだ」
「顔、何だか引き攣ってるから……」
気遣わしげに顔を覗き込まれる。これは引き攣っているのではない。どんな顔をすればいいのか分からないのだ。それ程までに彼は女らしく、昔、性別を知らなかった時に覚えた気持ちを思い起こさせた。
「……俺は、お前を嫌いだなんて思った事はない」
「有り難う。嬉しいよ、何よりも」
「何故だろう……俺は、お前が愛しくて堪らないらしい……分かってる、全部分かってるけど、それでも……お前をこの腕の中に閉じ込めたくなってしまうんだ」
真っ直ぐ、思いの丈をぶつけてしまった。俺とした事が、感情を抑え切れなかった。彼奴は複雑な顔をする。彼奴の濡れたままの髪に手をやる。あの日のように。
「クラウド……ごめん……」
謝られた。これは、つまり、俺の事を愛してはいないという事だろう。
「……本当にクラウドが大切だし、私が私ではなかったら、本当に……ごめん……」
「謝るな……そんなに辛そうな顔をしないでくれ」
「ごめん……私はまだ誰も、愛せない……」
「愛せない……?」
その言葉が心に引っ掛かる。
「私は、《読み裁く者》であり、《読み取る者》であり、《黄泉残される者》──『リーダー』だから……」
リーダーとは。様々な意味が交差する。
「私が誰かを愛したら、その人は死んでしまうから……あの人も、そう……」
「どういう事だ?」
「分からないよね……分からないでいい。お願い……私は誰も失いたくない」
「お前があの時言っていた、運命っていうのは、これの事なのか」
「そう……愛した人を失う事を、諦め切れなかった。だから抗う。運命を変えてみせる」
確固とした意思が伝わって来る。彼の声には今までとは全く違う、強い響きが含まれていた。
「抜け道がある。裏技でも反則ぎりぎりでもいい、私は、運命を変えてみせる」
その時、分かった。彼は、あの日の俺と同じか、それ以上の覚悟を決めていたのだ。ならば、俺は邪魔をしない。昔、あんなに小さくて弱々しかった彼奴が、こんなに強く、毅くなった事を単純に嬉しいと感じた。更に惹かれた。けれど。
「俺に答えをくれたのはお前だ。だから、もう迷わない。今度はお前が、答えを得られたらいいな」
俺はもう言わなかった。それでいい。きっと伝わっている筈だ。彼奴は泣き笑いみたいな表情をして、それでも清々しく言った。
「うん。もう、大丈夫。私は、一人じゃないから」
友情でいい。俺達は、永遠に『トモダチ』でありたい。それだけで、俺は十分幸せだ。
雨上がりの空に、虹がうっすらと光って見えた。
END
- Re: FINAL FANTASYでぐだぐだ書く。 ( No.12 )
- 日時: 2017/01/28 20:27
- 名前: 月音
あとがき。
ごめんなさい。オチがね……もうね……次元が違うんで……すみません……。
ただ、クラウドが書きたかったんです。小説読んでたらめっちゃ可愛いんですよ彼。クーデレの鏡ですよ。さらに朴念仁とか最高でしょう?私もって思っただけなんです。でも……そこに彼を入れちゃったから……何でだろ。最近オリキャラにはまったからでしょうか。かなりひどい出来。
考えてたラストは、主人公がレノかクラウドを庇って死ぬ。庇われた方は悲しみ、自責の念に駈られるが、主人公が残したスフィア的なもので主人公の思いを知る。運命を変えるって、これが答えだって。で、泣き崩れるみたいな。無理ですた。
今度はちゃんと真面目なBLもの書きたいです。今度こそ限界を超える!
では。またの機会に。
- Re: FINAL FANTASYでぐだぐだ書く。 ( No.13 )
- 日時: 2017/01/29 21:34
- 名前: 月音
STORE OF DREAM
毎日夜遅く、仕事帰りに本社に忍び込み、私はある人の情報をデータベースから漁っていた。誰にも悟られず、気付かれずに行動するのには骨が折れた。だが、それも今日で終わる。やっと真実に辿り着けたからだ。
「レノ様。私、神羅カンパニーに入社させて頂いて、良かったです」
「急にどうしたんだ、と?」
「本当は断るつもりだったのです。神羅は私の大切な人を、裏切り者として殺しましたから」
「……そいつの名は」
「ザックス・フェア。私の、兄でした」
「…………!」
「でも、実際はレノ様のようないい人も居られました。勿論好きになれないような方もいらっしゃいましたが。それでも、レノ様やルード様や、皆様と出会えた事が、嬉しかったのです」
その日、レノ様とそんな話をした。使命を果たした満足感と達成感の勢いだった。それが意外や意外、幸に転じた。
「お前があの時のザックスの妹か!?」
突然強く肩を揺さぶられ、驚く。レノ様は何故か必死の形相であられた。
「は、はい。弟ですが」
「良かった、ずっと後悔してたんだ……探してたんだぞ、と」
安心されたのか大きくため息を吐き、抱き締められる。柄にもなく照れてしまう。
「な、何でしょうッ……?探していた、とはどういう事なのです?」
「ザックスの死の真相を伝えたかった。それから、謝りたかった。長くなるかも知れないが、聞いてくれるか、と」
私は大きく頷く。大体の予想はついているが、やはりちかしい人からも聞いておきたかった。大切な事だから。
「……そういう訳が、あったのですか」
長い長い、悲しい話を聞き終え、私は涙を堪えるのに必死だった。やはり、お兄ちゃんは悪い人じゃあなかった。それに、約束も果たしてくれていた。
「それにしても……クラウドが、お兄ちゃんと関わっていたなど……存じませんでした」
「手紙には深い事情は書けなかったんだ。情報漏洩の危険があるからな」
「それくらいは当時の私にも分かっていました。ただ、やり場のない怒りが……だからしばらく旅に出ていたのですが」
そこではたと手を打ち、提案する。
「そうだ。私の話も聞いて頂けますか」
「ザックスの昔の話か?」
「はい。私が彼に会い、別れるまでの間の話です。長くなっても構わないのでしたら、是非聞いて頂きたいのですけれど」
レノ様は太陽のように笑い、首を振った。
「勿論だぞ、と」
「では、私と兄との出会いから……」
もう何度もなぞった思い出を思い返す。辛い事があっても、いつだって笑っていたあの人の事を考えるだけで、頑張ろうという気になれた。そんな彼の事を話そう。私の、大切なお兄ちゃんの事を。
このままニブルヘイムにいてはクラウド達を死に引きずり込んでしまう。そう危惧した私は行く宛もなく旅に出た。残念ながら方向感覚は皆無の私、適当にふらふらしている内にここがどこだか分からなくなってしまった。食べ物もなくした。空腹から薄れゆく意識を必死で留めていたが、やがて手放してしまった。
気が付いたら、人の家だった。初めは拐われたのかと思ったが、人拐いがこんなに丁寧に扱ってくれる筈はないと思い直す。ゆっくりと寝台から起き上がり、やはり空腹からふらつく足を鼓舞しながら人を探しに行く。リビングのような所に着くと、人が居た。何と声をかければいいのか分からず、立ち竦んでいると、相手がこちらに気付き振り返った。
「おお!目が覚めたのか!」
元気で大きな声。人懐っこい笑顔。それを一目見て、警戒心は七割彼方へ消え失せた。固そうな質感の黒髪に、高い背、うっすらと日に焼けた肌の持ち主は、続けて私に話しかける。
「良かった、心配したんだぜ?道に倒れてるから死んでるのかと思った。見たとこ怪我とかは無いみたいだな。元気か?」
普段なら警戒して一言も喋らない私だが、お腹が空いて力が出ない。プライドなんて捨てた。
「……何か……食べ物……」
それだけ言うのが精一杯で、またふらりと倒れてしまった。
人の体は、本当に極限まで空腹になると、エネルギーを無駄遣いしないために寝るようになっているようだ。途中で目が覚めたのは、エネルギー補給の必要が出てきたからだろうか。貧血と空腹で二度も気絶した私を起こしたのは、黒髪の彼の美味しそうな料理の匂いだった。
「これ、食べられるか?」
こくこくと頷き、
「いただきます……ッ」
勢い良く口にかきこむ。大きく頬張ると、少しむせかかったが、そんな事が気にならないくらい美味しかった。久々の食事にありつけた私は胃に負荷をかけない程度にお腹一杯美味しい料理を食べた。そんな私を彼は微笑ましそうに見ていた。
「……ごちそうさま、でした」
「お粗末様でした」
ちゃんとお礼を言う。もう体もふらつかないし、視界も霞まない。ばっちりだ。
改めてこれからの事を考える。彼の事は全く分からない。素性や目的。悪い人ではないようだが、どうだろう。怪訝そうな眼差しだったのか、苦笑しながら聞かれる。
「俺、そんな変なやつに見える?」
返事はせず、小首を傾げるだけに止めた。まだ抵抗なくすらすら話すまでにはいかない。何故ならコミュ障だから。
「そういえば、まだ挨拶してなかったな。俺はザックス。ザックス・フェアだ!よろしくな」
陽気な挨拶だ。ザックス・フェア。恐らくかなり人に好かれる人間だろう。思わずふふっと笑ってしまった。それに気を良くしたのか、私の名前を問うてきた。自分の名前は嫌いだ。黙りを決め込んだ。
「困ったな……俺の事、嫌いか?これからどうするのか、考えてるのか?」
「…………」
「あんな所で倒れてたって事は、迷子だよな?お前の家、連れてってやるから、ちょっとでいい、話してくれよ」
な?と手を差し伸べてくる。私は鋭い目付きで睨み返した。彼は悲しそうに微笑んだ。
──その目が、ほんの少しクラウドに似ていたから、胸が苦しくなった。
「……私の名前……」
「教えてくれるのか!?ありがとな!」
たかが自己紹介で大袈裟に喜ばれては、こちらが申し訳無くなる。照れながら名前を言うと、「可愛い名前だな」なんて言うから余計に恥ずかしくなる。
「じゃあ、今日はもう遅いから、泊まっていけ。だ、大丈夫!襲ったりなんてしないって!」
「クスッ……お願い、します」
そうしてあてがわれた部屋に行き、本日三度目になる睡眠をとった。