大人二次小説(BLGL・二次15禁)

【文スト】太中R18*中也受け 他
日時: 2021/03/15 14:08
名前: 枕木

おはようございます。
…お久しぶりです。


ようこそ、初めまして。

此方は文ストのBL二次創作になります。色々書いてます。
R18、時々ぶっこみます。
涙脆すぎる中也とやたら微笑む太宰と可愛くない敦と芥川がいます。

ともかく、何でも許せる広大な心の方は、どうぞごゆっくり。

リクエスト・感想・アドバイス随時受け付けております。良かったら下さい。お願いします。
リクエストに関しては、扱っているcpのものならシチュとかR指定とか何でもokです(`・ω・´)

ご案内

◆太中(太宰治×中原中也)
*>>37…今朝、私が死んだようです
*>>39-43…お薬でにょた化。あまあまとろとろ、コミカル太中※R18
*>>47>>50-54…ぬこ耳中也の付き合って半年の甘々カップル※R18
*>>56…やけに喉の渇く土曜日だった。
>>61…閲覧1000記念、人生初の太中を起こしてみました。
*>>64-65…セックスレスの危機!?最終的にバカップルのエロ太中※R18
*>>72-85…17の、“相棒”である二人が10センチの手錠で繋がれる話。もどかしい思春期の行方は…※R18
*>>98…お祭りの夜の雰囲気って、なんとなく現実離れした雰囲気がありますよね
*>>102…疲れきって自宅のドアを開けるとき、真っ先に思い浮かんだ人が一番大切な人ですよ。
*>>116…『なみだ、あふれるな』『汚れつちまつた悲しみに…』
*>>119…ぐちゃぐちゃ、どろどろ ※他サイトより自身過去作転載、許可有
>>130…百年後、空に青鯖が浮かんだなら。
*>>140…雨の音、君の声、恋の温度。雨ノ日太中小噺※雰囲気R18
*>>147-153>>158-161…鳥籠の中で美しく鳴く鳥は紅葉の舞う小さな世界をみつめるばかり…さしのべられた手は、包帯に巻かれていた※遊郭パロR18
*>>167-168…ホワイトクリスマスの奇跡に、君へ愛を贈ろう。
*>>173…君へのキモチのかくれんぼ
*>>174…中也はさ、雨と晴れ、どっちが好き?
>>198…全部、この日が悪いんだ。中原中也生誕記念
*>>199…空っぽの心臓

【太中家族計画シリーズ】
*>>1…太宰さんが中也にプロポーズする話。ちょっと女々しい中也くんがいます。
*>>6-9…プロポーズ(>>1)のちょっと前の話。複雑な関係になった二人の馴れ初め。
*>>11-12…中原中也誕生日6日前。プロポーズ(>>1)の直後。甘くて優しい初夜の話。※R18
*>>14-15…中原中也誕生日5日前。初夜(↑)の翌朝。初めて迎えた、愛しい朝の話。
*>>16-19…中原中也誕生日4日前。素直になれない中也がちょっとこじらせちゃった甘い話。※R18
*>>22-26…中原中也誕生日2日前。手前の愛に触れさせろよ。真逆の修羅場!?※R18
*>>28-29…中原中也誕生日1日前。更に家族になった二人の幸せな話。
*>>34-35…妊娠初期の中也くんと心配性の太宰さんの話。つわり表現があります
>>60>>62-63>>67-70…太宰さん誕生日おめでとう。
*>>112…家族になっていく、幸せの話。
*>>144,>>163…早く君に会いたいよ。まだ二人の日々の1ページ。
*>>172…来年も再来年も、末永くよろしく。年越しの太宰家
>>192-196…生まれてきてくれてありがとう。幸せのフィナーレです。

◆太乱(太宰治×江戸川乱歩)
*>>2-4…ツンデレ名探偵と太宰さんの相思相愛。お互いの好きな所ってなあに?※フェラ有
*>>36…疲れて泣いちゃった乱歩さんを太宰さんが慰める話。甘いだけ。
*>>169…いつも怠け者の太宰も、働くときがある。それってどんなとき?

◆中乱(中原中也×江戸川乱歩)
*>>10…中原中也誕生日7日前。甘い誕生日プレゼントの話。

*>>125-127…お誕生日おめでとう乱歩さん(太→乱←中)

◆敦中(中島敦×中原中也)
*>>20…中原中也誕生日3日前。大人と子供のほのぼのカップルです。
*>>58…手前が俺の生きる意味なんだよ。怯えた敦くんと男前中也
*>>205…傷心の子供には、恋人の優しい愛を。

◆芥中(芥川龍之介×中原中也)
*>>55…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!紳士やつがれくん
*>>87-93…鈍感な樋口ちゃんが、芥川先輩が恋人と待ち合わせしているのをみつけて…!?甘めの芥中※R18

◆鴎中(森鴎外×中原中也)
*>>121…7年前、少年はポートマフィアに加入した。首領に与えられたのは、古ぼけた黒帽子と……

◆中也愛され
>>31…中原中也誕生日0日前。相手は貴方におまかせします
*>>32…皆にひたすら愛される中也くんのお誕生日会のお話。
*>>45…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!(鴎中&敦中)


'19 4/20 設立
(閲覧100ごと) 4/25、4/29、5/ 3、5/ 8、5/18、5/22、5/30、6/2、6/7
祝6/10 閲覧数1000 thanks!
祝7/27 閲覧数2000 thanks!!
祝8/20 レス100達成!!
祝9/6 閲覧数3000 thanks!!!
祝10/7 閲覧数4000 thanks!!!!
祝10/26 閲覧数5000 thanks!!!!!
祝11/14 閲覧数6000 thanks!!!!!!
祝12/6 閲覧数7000 thanks!!!!!!!
祝12/30 閲覧数8000 thanks!!!!!!!!
'20
祝1/28 閲覧数9000thanks!!!!!!!!!

2月22日 閲覧数10000突破
本当にありがとう。

4月20日 一周年ありがとう。

7月24日 閲覧数20000突破
これからもよろしくね。

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Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.174 )
日時: 2020/01/05 23:21
名前: 枕木

「いいかい?」
「無理に決まってんだろ。手前みたいな奴が世界で一番嫌いなんだよ」
「知ってるよ」

「もういいかい?」
「駄目に決まってんだろ。相棒だろ俺達。仕事に支障が出る」
「判ってるよ」

「もういいよ」
「そうかよ。あーあ、清々したぜ。あ? 嬉しいに決まってんだろ」
「……………」


「「…………………」」


「もうだめかい?」
「そうだな。俺は手前を殺さなきゃならねェからな」
「判ってたよ」

「「………!………」」

「まだ居るかい?」
「嗚呼、居るぜ」
「まだ有るかい?」
「嗚呼、有るぜ」
「まだいいかい?」
「手前次第だな」

「「…!…!…!…」」

「もういいかい?」
「待ちくたびれた」

「「!!!!!!!」」

「まだいいかい?」
「もう訊くなよ莫迦」

ずっと、此処に居るから

「もういいよ」

もう、訊かなくて、いいよ。
もう、待たなくて、いいよ。


えんど

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.175 )
日時: 2020/01/13 08:39
名前: 枕木

「中也ってさあ、雨と晴れ、どっちが好き?」
「……それは、人が仕事してる目の前でゲームしながらする質問か?」
「うん。君にする真面目な質問なんてないよ」
「下らないって自覚してしてんのか殺すぞ」
「だって暇なんだもの。中也は薄月給の所為でゲーム買えなくて対戦相手になってくれないし」
「幹部サマじゃなくてもゲームくらい買えるぜコラ。まあ、買う心算なんて全くねェけど」
「えー、なんで? 私には絶対勝てないから? わあ、すっごく賢明な判断だと思うよ!」
「ちっげェよ呆け。んなことに費やす時間なんてねェんだよ手前と違って暇じゃねェからな」
「あっそう。じゃあ真面目な構成員君は退屈をもて余した幹部様の質問に答えて仕事に戻りなよ。先刻から私のこと受け流してるふりして二十六文字しか進んでないよ?」
「ッせェな、先刻から手前が足絡ましてくるからだろ気持ち悪ィんだよ! 退けろ!」
「だから暇なんだってば。答えてくれたら退いてあげる」
「……………………あめ」
「ふうん、理由は? 嗚呼、これには答えなくていいよ。どうせ人の活動が消極的になって面倒事が起きにくくなるから、でしょ? 本当に君って仕事のことしか考えないよねえ。何時からマフィアの犬になったの? 君は私のなのだけれど」
「……未だ云ってんのかよ、それ」
「勿論。何時までも云うよ? 中原中也は私の犬なんですってね、君が死ぬまでずっと」
「はぁ……つーか、先に死ぬの手前だろ。そうしたら俺は目出たく手前の犬解放って訳か」
「は? そんな訳ないでしょ。ご主人様が死んでも犬は犬だよ。お墓と遺産を守るのさ。そして、誰かに貰われそうになったら『太宰治の犬だから誰のものにもなれない』って断って、私のお墓の前で独り死んでいくのだよ」
「安心しろ、手前がどんな死に方しても死体は粉砕して川に流してやっから。墓も遺産も残らねェよ」
「残念、私はもう既に遺してある」
「は? 何をだよ」
「其処に」
「あ? ……俺の胸? に、何を……」
「想い」
「……は」
「私への、想い。それは、私が死んでも遺るものでしょ」
「………………は!? ふっざけんな、何妙なこと抜かしてやがる、手前への想いなんて微塵もねェよ!!」
「逆に」
「おいコラ聞け……」
「そう。私の胸、触ってみて」
「っ……何もねェけど」
「何もなくて悪かったねえ。君は巨乳趣味だったか。まあ一生あれに触れることはないと思うけどね。でもさ、ねえ、判るでしょ?」
「……」
「ふふ。ね? 君も、もう私に遺してあるのだよ。だからね、君が私より先に死んでも、私は一生君だけの御主人様でいてあげる。こんなに手のかかる犬がいるんだもの、一人で手一杯さ」
「…………知るか、手前の勝手だろそんなの。自分が俺だけにするから俺も自分だけにしろ、なんて理屈にはなんねェよ」
「おや、犬にそんな権利があると思っているのかい? 何人も御主人様のいる犬が何処にいるのさ」
「ッ、オイ!!」
「あーあ、全く、莫迦な飼い犬をもつと大変だよ」
「ッ〜〜〜〜……ッチ、手前なんかにもう付き合ってられっかよ。俺はこれ終わらせるからな、もう話しかけてくんなよ」
「はいはい。私もそろそろラスボスだからね」
「会話しながらずっと続けてたのかよ……はーあ……」
「ふふふん♪ ……嗚呼そうだ中也。君と同じだなんて癪だけど、私もね、雨が好きだよ」
「……理由は」
「雨の日は任務があること少なくて、君とこうして二人きりになれるから」
「!!!」
「ふふっ。雨っていいよね、中也」

どっちが先に死ぬとか遺すとか、そういう長い恋にしよう。


雨が好きな理由/終

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.176 )
日時: 2020/02/01 20:52
名前: 枕木

“それ”に気づいたのは、何時だっただろう。

気付いたその瞬間まで、ずっと信じていた。自分のことを。自分の力を。過信でもなく事実としてこの強大な力を持った俺が、真逆。そんな、考えたこともなかった。確かに、身長が低くそれなりの格好をしていれば女として敵の拠点へ忍び込むこともできた。多少気にしてはいたが、それらが“それ”特有のものだと思ったことはなかった。

“これ”に気づいたのは、何時だっただろう。

一時の気の迷いだと思っていた。相棒として終始隣に居て、気づけばテムポ良く軽口を叩き合いながら歩いていた。嫌いな奴だ、という第一印象からそれが変わることは無かったし、容姿や性格に魅力など微塵も感じたことはない。けれど命を預け合うこの関係を、何かが勘違いしてしまっただけだと。

しかし、今では覚えていないある日、気づいてしまったのだ。

雨の降る朝だった。着信音で目が覚めた。こんな朝っぱらから……嫌がらせかよ……と顔をしかめながら携帯電話を取り上げて。そのディスプレイを見てみると『青鯖』と表示されていて、俺はそのまま携帯電話を伏せた。マジもんの嫌がらせかよ……無視だ無視無視。その後何度かコールが鳴ったあと諦めたのかぷつりと切れて、俺は安堵の息を吐いた。しかし少しだけ気になって、携帯電話をひっくり返してみた。すると、昨日の夜中に一本メールがきたらしく、通知がきていた。その差出人を見て俺は全身が粟立つような感覚を覚えた。

それは、とある病院の名前だった。マフィアの傘下にあり、大分優遇されてた。だからこそ、こんなに早く、それもメールで教えてくれたのだろう。……それは勿論、結果を。

メールを開こうとして、指先が震えているのに気がついた。思わず舌打ちをする。大丈夫、万が一にも、そんなことはねえよ。ねえ。絶対に。……絶対に?

息を吸い込み、吐き出す。そして、必要以上に強くタップしてメールを開いた。そして、下へ読み進める。万が一にも、そんなことは有り得ない。でも、心臓は嫌な予感に早鐘を打ち、血管が波打つように動いていた。そんな、わけない。真逆……真逆。

とうとうたどり着いた、その言葉。[結果は____]



その記号が目に入った瞬間、俺の目の前は真っ暗になった。ちかちかと光が瞬き、視界が戻ってきたが大きく脈打つ心臓で震えている携帯電話のディスプレイに映っているのは、紛れもなく。

どうして、どうして。どうして。

どうして? 頭の中がぐちゃぐちゃで、思考回路が機能していない。何度も何度もその部分を読み返したが、一字一句、読み間違えた箇所はなかった。詰まりは……これが、現実?

俺は病院で、“性別検査”をしていた。
この世界において性別はカーストを決める大切なものなのだ。普通は誕生時に判明するが、生憎俺はその機会を逃していて、マフィアに入り医療機関と関わるまでその存在さえ知らなかった。勿論俺も最高ランクであるα(アルファ)だと信じて疑わなかった。いや、信じるまでもなくそうだと知っている積りだった。

けれど、そのとき床に落とした携帯に表示されていたのは、それとは違う結果で。

何時だったかは忘れた。けれど、確かに、気づいてしまったのだ。知ってしまったのだ。自分の本当のことを。

中原中也22歳。
性別……

[結果は、Ω(オメガ)です]

そして、俺は気づいてる。
俺は、“彼奴”を……正真正銘αの太宰治を……

Ωとして、求めてしまっていた。

Ωとαには互いに『運命の番』というものがあり、それに近づくと本能的に互いを求め合うらしい。

その感情は、俺が太宰に向ける感情と同じものだったのだ。

ポートマフィア幹部、中原中也、22歳。性別、Ω。


運命の相手…………
武装探偵社員、太宰治、22歳。性別、α。

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.177 )
日時: 2020/02/02 22:05
名前: 枕木

ヨコハマを支配するポートマフィアには、どんなに下っ端構成員でも庶民クラスのβ(ベータ)の中でも優れた層に属していて、上層部に至ってはαの中でも優れた人材しか集まっていない。詰まり、マフィアには俺以外にΩはいないし、マフィアは最下層の性別であるΩを必要としていない。それなのに、位は最上位とはいかなくても、首領自らに勧誘されてマフィアに入った俺がΩだと知られたら、どうなるか。それは、考えなくても安易に判ることだろう。

つい先日、マフィアの中のまあまあの位に位置する構成員が夜道を歩くΩのフェロモンにあてられ襲いかかり抵抗したΩにあっさりと殺られて姐さんの部下がその報復に向かったが、その部下が吐き捨てた言葉が「Ωごときに殺られるなんて」だった。
Ωごとき、と卑下される理由は、Ωは常にフェロモンを発してオスを誘うからだ。種を欲し、孕み、βとαの血筋を残すためにある、卑しい人種。それがΩだった。昔は女の役目だったそれは、今は男女関係なく少数のΩが担っている。俺の身体がそれができる身体なのだと思うと、短刀でズタズタにしたいほど嫌悪感が湧いた。しかし、死のうとは思わない。それは、常日頃口癖のように自殺願望を口にしている相棒の所為だろうか。

俺はΩだった。しかし唯一の救いは、それを俺と検査を任せた医師以外誰も知らないということだった。医師には言わずもがな判るだろうと圧力をかけ、何食わぬ顔で出勤することにした。

身支度をしながらガラス窓越しに外を見ると、雨は激しさを増したようだった。これから先の俺の人生を表すかのようにみるみる内に雨は嵐となり、遠くで雷鳴が轟いた。


生まれついたときから俺の身体はΩの体質だったのに、検査が判るまで俺の身体はβとαと同じだった。しかし、Ωだと判明したその日から、徐々にΩの体質は現れてきた。

低身長も顔も変わらない筈だが、周囲から「可愛らしい」と表現されることが多くなった。姐さんには頭を撫でられ「愛いのう、中也は」と娘か妹のように扱われ、首領にはにこにこ顔で「エリスちゃんに買ったお洋服なのだけれど、中也君にあげよう。着て御覧♪」と地獄を味わされた。オスにウケる為の魅力、といったところか。


しかし一番ひやっとしたのは、高鳴る心臓を抑えて、Ωと判ってから初めて太宰と任務を行ったときだった。


太宰が俺の運命の相手だと意識した途端、太宰の傍にいると、身体の奥が疼くような感覚がしていた。隣で相手が入り口から出てくるのをじっと待っている太宰に心臓の音が聞こえていないか心配で心配で仕方がなかった。緊張すればするほど心臓は過剰に動いて、その音に緊張して、を繰り返し、こうやって太宰の隣にいるときだけ感じる太宰のにおいと黒外套の感触にまで反応してしまうようになった。
そうして、息も上がり、疼いて、疼いて、だんだん、我慢が効かなくなって。

欲しい、欲しい。

疼いて堪らない。

太宰に触りたい。太宰に触れて欲しい。
太宰に、
太宰が、


欲しい。


「?……中也、なんだか甘い匂いが……」

ふいに、そう云いながら太宰が振り向いた。思わず「ひぁっ」と声を出した。驚いて声を発しただけなのに、まるで愛撫に声をあげる生娘の嬌声のような声だった。太宰の鳶色の片目が、真ん丸に見開かれる。でも一番驚いたのは俺だろう。思わずぱっと手で口を塞いだが、その行為が余計に俺の奇行を際立たせてしまった。

太宰の瞳が、突然すっと細められる。背筋が凍った。

え? 嘘……だよな……?

「ねえ、なんだか甘い匂いがしない、中也? どこからするのかな」
「す、るか? そんな、におい」
「え? 判らない? 気の所為かなあ。でも、君なら判るでしょ、ねえ?」

太宰が顔を近づけてくる。動けなかった。

こんな、直ぐにバレるもんなのかよ、これって。

いや、今までαとして普通に振る舞えていたのが可笑しいのかもしれない。俺は、所詮Ωなのだから。

「ねえ、中也?」

太宰の頬が、ほんのり紅く染まっている。甘い匂いとは、俺の、Ωのフェロモンのことだろう。それにあてられて、興奮している。
太宰は、ゆっくりと迫ってくる。なんとかしなければと判っているのに、突き飛ばせない。理由は明確だ。突き飛ばしたくないから。俺の身体が、本能が、太宰を求めているから。太宰に抱かれたら、俺はもうΩとして生きていくしかない。

嫌だ。嫌、いや。

太宰の微笑み整った顔が、目の前に。唇が重なるまで、あと少し。あと1センチ。
あと……

「いや……太宰っ!!」

叫んだ、その瞬間。

パンッ!

銃声と共に、俺が左手をついていた数ミリ左の地面が焦げた。直ぐ様振り向くと、銃を持ち武装した人間が数十人入り口から出てきてこちらに銃口を向けていた。太宰が溜め息をつく。

「あーあ、折角楽しいところだったのに」

太宰は身を起こし、「そこにいるのは判っているんだぞ!」と再び撃ち込んできた弾を右に首を傾けるだけでかわすと、俺をみつめた。真っ直ぐな鳶色の瞳に、恐怖で凍り付いたようだった心臓が高鳴った。
銃弾をかわしながらしばらく見つめあった後、太宰は眉を寄せ、面倒そうにふう、と溜め息を吐き。

「暇だったから、一寸悪巫山戯してみただけでしょ。そんな恐い顔しないでよ」

やれやれ、と首を振り、俺に声を上げさせる前に「うっざ」と舌打ちして声のした方に銃を向けた。何かが倒れる音がして、直ぐに騒がしくなった。暫くその真相の掴めない横顔に見惚れていたが、再び俺に向けて銃声が鳴り響き、反転しながら蹴りあげて反撃して、参戦した。
勿論、任務は成功したわけだが人間の残っていない基地をあとにするときも太宰は一言も喋らず、態々自分の墓穴を掘ることもないから俺も黙っていて、あの時重なろうとした唇のことはうやむやになった。それは、今となっても判らない。


何故なら、それから程なくして太宰はマフィアを去り、武装探偵社員となったからだ。そして俺は、幹部となった。Ωのポートマフィア幹部。笑える身分だ。Ωと知られたときに失うものは、大きくなりすぎた。


太宰と唇が重なりかけた、その日の夜。まだ疼いている身体を繰り返し慰めながら、これがΩ特有の“発情期(ヒート)”なのだと知った。事故でも太宰に触れてしまったり、酷いときには太宰の姿を見ただけで、トイレで太宰の顔や声やにおいや感触を思い出しながら股を濡らす日々が続いた。抑制剤を服用してはいたが、太宰以外には効いても、太宰には全く効かない。太宰が気づいているのかいないのかは微妙だった。しかし、時々その視線を感じることはあった。でも、太宰は何も言わなかったし、仕事に必要な言葉以外を交わすことはなくなった。俺のマフィアとしての生活が脅かされることもなかった。まあ、そんな太宰の視線に気づくだけでも息が上がるようになってしまっていたのだが。


でも、太宰が去り、そんな日々も終わって。発情期も、抑制剤でコントロールできるようになって、マフィア幹部にとっては平穏な日々が続いた。太宰がいなくなった直後は狂おしいほど疼いていた身体も収まって、この日常が普通になりかけていて、それが続くと思っていた。しかし、そうはいかなかったのだ。

あの日の嵐は、昼頃になって弱まったが、夜にまた威力を回復したどころか朝より増し、俺の部屋の窓を粉々に割ったのだから。

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