大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- 【文スト】太中R18*中也受け 他
- 日時: 2021/03/15 14:08
- 名前: 枕木
おはようございます。
…お久しぶりです。
ようこそ、初めまして。
此方は文ストのBL二次創作になります。色々書いてます。
R18、時々ぶっこみます。
涙脆すぎる中也とやたら微笑む太宰と可愛くない敦と芥川がいます。
ともかく、何でも許せる広大な心の方は、どうぞごゆっくり。
リクエスト・感想・アドバイス随時受け付けております。良かったら下さい。お願いします。
リクエストに関しては、扱っているcpのものならシチュとかR指定とか何でもokです(`・ω・´)
ご案内
◆太中(太宰治×中原中也)
*>>37…今朝、私が死んだようです
*>>39-43…お薬でにょた化。あまあまとろとろ、コミカル太中※R18
*>>47>>50-54…ぬこ耳中也の付き合って半年の甘々カップル※R18
*>>56…やけに喉の渇く土曜日だった。
*>>61…閲覧1000記念、人生初の太中を起こしてみました。
*>>64-65…セックスレスの危機!?最終的にバカップルのエロ太中※R18
*>>72-85…17の、“相棒”である二人が10センチの手錠で繋がれる話。もどかしい思春期の行方は…※R18
*>>98…お祭りの夜の雰囲気って、なんとなく現実離れした雰囲気がありますよね
*>>102…疲れきって自宅のドアを開けるとき、真っ先に思い浮かんだ人が一番大切な人ですよ。
*>>116…『なみだ、あふれるな』『汚れつちまつた悲しみに…』
*>>119…ぐちゃぐちゃ、どろどろ ※他サイトより自身過去作転載、許可有
*>>130…百年後、空に青鯖が浮かんだなら。
*>>140…雨の音、君の声、恋の温度。雨ノ日太中小噺※雰囲気R18
*>>147-153>>158-161…鳥籠の中で美しく鳴く鳥は紅葉の舞う小さな世界をみつめるばかり…さしのべられた手は、包帯に巻かれていた※遊郭パロR18
*>>167-168…ホワイトクリスマスの奇跡に、君へ愛を贈ろう。
*>>173…君へのキモチのかくれんぼ
*>>174…中也はさ、雨と晴れ、どっちが好き?
*>>198…全部、この日が悪いんだ。中原中也生誕記念
*>>199…空っぽの心臓
【太中家族計画シリーズ】
*>>1…太宰さんが中也にプロポーズする話。ちょっと女々しい中也くんがいます。
*>>6-9…プロポーズ(>>1)のちょっと前の話。複雑な関係になった二人の馴れ初め。
*>>11-12…中原中也誕生日6日前。プロポーズ(>>1)の直後。甘くて優しい初夜の話。※R18
*>>14-15…中原中也誕生日5日前。初夜(↑)の翌朝。初めて迎えた、愛しい朝の話。
*>>16-19…中原中也誕生日4日前。素直になれない中也がちょっとこじらせちゃった甘い話。※R18
*>>22-26…中原中也誕生日2日前。手前の愛に触れさせろよ。真逆の修羅場!?※R18
*>>28-29…中原中也誕生日1日前。更に家族になった二人の幸せな話。
*>>34-35…妊娠初期の中也くんと心配性の太宰さんの話。つわり表現があります
*>>60>>62-63>>67-70…太宰さん誕生日おめでとう。
*>>112…家族になっていく、幸せの話。
*>>144,>>163…早く君に会いたいよ。まだ二人の日々の1ページ。
*>>172…来年も再来年も、末永くよろしく。年越しの太宰家
*>>192-196…生まれてきてくれてありがとう。幸せのフィナーレです。
◆太乱(太宰治×江戸川乱歩)
*>>2-4…ツンデレ名探偵と太宰さんの相思相愛。お互いの好きな所ってなあに?※フェラ有
*>>36…疲れて泣いちゃった乱歩さんを太宰さんが慰める話。甘いだけ。
*>>169…いつも怠け者の太宰も、働くときがある。それってどんなとき?
◆中乱(中原中也×江戸川乱歩)
*>>10…中原中也誕生日7日前。甘い誕生日プレゼントの話。
*>>125-127…お誕生日おめでとう乱歩さん(太→乱←中)
◆敦中(中島敦×中原中也)
*>>20…中原中也誕生日3日前。大人と子供のほのぼのカップルです。
*>>58…手前が俺の生きる意味なんだよ。怯えた敦くんと男前中也
*>>205…傷心の子供には、恋人の優しい愛を。
◆芥中(芥川龍之介×中原中也)
*>>55…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!紳士やつがれくん
*>>87-93…鈍感な樋口ちゃんが、芥川先輩が恋人と待ち合わせしているのをみつけて…!?甘めの芥中※R18
◆鴎中(森鴎外×中原中也)
*>>121…7年前、少年はポートマフィアに加入した。首領に与えられたのは、古ぼけた黒帽子と……
◆中也愛され
*>>31…中原中也誕生日0日前。相手は貴方におまかせします
*>>32…皆にひたすら愛される中也くんのお誕生日会のお話。
*>>45…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!(鴎中&敦中)
'19 4/20 設立
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本当にありがとう。
4月20日 一周年ありがとう。
7月24日 閲覧数20000突破
これからもよろしくね。
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- Re: 【文スト休止中】弱虫ペダル 東堂受け ※一定期間のみ ( No.165 )
- 日時: 2019/12/22 20:52
- 名前: 枕木
あっ、ヤベェ。
そう気づいたのは、コール音が3回と少し鳴って、それがぷつっと途切れて。
『オレに掛けてくるなど珍しいな。遅刻の言い訳か?』
そう聞こえて、自分が掛けた筈のない人物の、その気に入らない声に驚いて、
「東堂ォ……?」
と掠れた声で呟いてしまった後だった。
驚いたのは向こうも同じだったようで、直ぐに返事は来なかった。だからオレは、通話を切るボタンを押した。
ディスプレイを凝視する。
オレは、部活を休むときの鉄則として、部長である福チャンに電話をしたつもりだった。しかし、今は今しがた起こったことの衝撃で覚醒している意識が高熱で朦朧としていたのだ、送信する人を間違えてしまったらしい。
【東堂尽八】
そう表示されたディスプレイと、17秒という通話時間が嘘であってくれと、願うばかりだった。
心臓がバクバクと煩かった。
オレは、スマホを探しながら、考えていた。電話しねェと。誰に? 部活、休むってことを……
一番、大切な人に。
勿論、大切というのは部活で、という意味で、部長である福チャンのことを指す。
しかし、あろうことかオレは何時も煩くて喧しいダサカチューシャの副部長に電話をしてしまった。全くの無意識だった。意識をして掛けたのならまだその時オレはどうかしていたのだと誤魔化せる。しかし、無意識だった。完全に無意識で、福チャンの名前を押そうとして滑ったわけでもない。電話帳は登録順で並べてあるから、福チャンと東堂は大分離れている。だからオレは、オレの本心は、意図して押したのだ。『一番大切な人』の名前を。
「ッ……バカかよ……」
歯を食い縛った。それでも、否応なく想像してしまう。オレの電話を受けて、東堂はどうしているだろうか。
アイツのことだから、今頃パニックになっておろおろして、兎にも角にもと福チャンや新開のところへ走っていっているのだろう。きっと、「アイツ死ぬんじゃないか!?」なんて大騒ぎしているのだろう。
嗚呼そうか、オレ、結局何にも伝えてないもんな……。我ながら本当にバカだ。
今度こそ福チャンに、メッセージを送る。部活を休む旨と、謝罪の言葉。東堂へ電話をかけたことには触れないでおいた。送ってすぐに既読がつき、間もなくして返事がくる。了解したこと、オレの体調を労う言葉。そして最後に、『東堂が心配している』と。
奥歯を噛み締め、スマホを放り投げて布団を頭から被った。
やっちまった。マジで、やっちまった。どうすりゃいい? 次に会ったら、きっと問われる。「何故オレに掛けてきたんだ?」と。アイツ相手に言い逃れはできない。きっと不信に思うだろう。でも、オレは答えられない。どうしても。
嗚呼もういい、忘れちまえ。目を閉じた。どうせ、東堂に会うのは月曜日。明後日だ。それまでに電話でもメッセでも送って、誤送信だったと弁解して……
そんなことを考えながら、眠りに落ちていった。
そして、目が覚めたとき。
窓は朱色に染まっていて、換気に開けた覚えのない窓からゆるやかに入ってくる風がカーテンを揺らしていて、デコにはひんやりとしたシートが貼られていて、高熱を外に逃がすため出た汗の不快感もなくて。
オレが頭を乗せる枕の端に突っ伏して、すやすやと眠る東堂がいた。
目を見開いた。
吹き込んできた風が東堂の髪を揺らし、オレの頬にかかった。ふわりと、シャンプーの匂いがする。寮棟備え付けのものだから同じものを使っているはずなのに、何か、オレとは違った。
「ん〜……」
夢うつつで小さくうめき、オレが起きたのを察したらしい東堂が、顔をあげる。オレは東堂を向いていて、枕はそれほど大きくないのに東堂はその端に突っ伏していて。だから勿論、東堂の顔が目と鼻の先にあった。
東堂の、紫がかった黒目が、オレを捉える。ぱちぱちと何度か瞬きをした。その睫毛の振動さえ感じるような距離で、東堂が言う。
「お早う、荒北」
そして、にこっと笑った。
ざわざわと、胸のなかで何かがうごめく。
何かが始まる、においがする。
でも東堂は何でもない顔で体を起こして、伸びをした。そして振り向いて掛け時計を確認して、「もう4時か!」と驚いたように言った。
ごくりと唾を飲み込み、口を開いた。東堂が「ん?」と振り向いた。
「何時から此処に居んの、お前」
ひどく掠れた、声が出た。
東堂はじいっとオレをみつめ、その後、堪えきれないといった態で、「ブフォッ」と吹き出した。
「何笑ってんだゴラ!!」
笑われたのが恥ずかしくて、怒鳴る。しかしその声も掠れて全く様にならない。東堂は「いひひひ……」と腹を抱えて笑い、そして笑いが収まってくると胡座をかいて、傍らのレジ袋を引き寄せた。
「さてね、覚えとらんよ」
答えはそれだけで、代わりのようにスポーツドリンクのペットボトルを差し出され、「起き上がれるか? 水分を摂れ」と言われた。
オレは無言で上半身を起こし、無言でペットボトルを受け取って、口をつけた。それまで特に喉が渇いたという欲求はなかったが、冷たい飲料が喉を潤していくのが気持ちよく、一気に半分ほど飲んでしまった。
ぷはあっと大きく息をつき、オレがキャップをしめたのを確認すると、東堂は立ち上がった。
「此処にレジ袋を置いておく。薬は食後に必ず飲め。パンと果物が入っているから、無理のない程度で食べろよ」
「は……?」
「何驚いた顔をしているのだ? オレも暇じゃないんだ、ここからは自分でやれよ」
「え……?」
オレはまだ宿題が残っているからな、とむっつりした顔の東堂だが、驚いているのはそこじゃない。
は? てことは、東堂が全部やったのか? 冷えピタも、汗拭きも、換気も。
部活は3時に終了だったはずだ。そこから買い物して帰ってきてなんなりしていれば、到底、さっきまで東堂が傍らで寝ていた、なんて状況にはならない。
それなら、コイツ、部活を抜けてきたのか?
副部長で、エースクライマーで、今日のコースは坂が多いからオレの出番だとウザいくらい張り切っていたはずだ。その東堂が、部活を抜けて、オレの看病をしていた……?
「なんで……」
思わず呟くと、東堂は眉をひそめた。
「なんで、だと? お前なあ……」
大きく溜め息をつき、東堂はぐいっと屈んで俺に人差し指をつきつけた。
「電話するだけしておいて特に何も言わず切るなど、来てくれと言っているようなものだろう」
目を見開き、当然だとばかりに息を吐く東堂をみつめた。東堂は身を起こしつつ、
「まあ、思ったより元気そうだからな。或いは、ただの構ってちゃんか? 野獣も風邪で寂しくなることはあるのだな」
と、腰に手を当てニヤッと笑った。かあっとして、怒鳴り返す。
「ッセ! んなわけあるかさっさと出てけバァカ!!」
「ムッ、バカではないな! バカはお前だろうが、冬に風邪で寝込むなど小学生か?」
「アア!? 移してやろうか、風邪!」
東堂は笑顔をひきつらせ、一歩後退した。
「いや、遠慮しておこう」
「ならさっさと出てけヨ」
「うむ、そうしよう」
東堂は頷き、ドアへ歩いていった。そしてドアノブに手をかけ、思い留まったように止まり、そしてくるっと振り返ると、ビシッと俺に人差し指を向けた。
「早く治せよ、荒北。野獣に風邪など笑いしかとれん」
「……わーってんよ、ッセェな」
ワンテンポ遅れて返事をして、しっしっと手で追い払う仕草をした。東堂は呆れたように笑い、そして「お休み」と出ていった。
……そういやあ、言ってなかったな。
「ありがと」
って。
あーあ、あーあ、あーあ。
もう知らね。どうでもいい、あんなヤツのこと。さっさと飯食って寝る……
レジ袋に手を伸ばし、中を覗きこんでみる。
中には、クリームパンとバナナとリンゴと、それからプリンが入っていた。
暫く静止して、それから、深い溜め息を吐いた。
「あのバカチューシャ……」
呟いて、乱暴にクリームパンの袋を開け、かぶりついた。ああもう、マジでムカつくんだよアイツ。次の練習は覚えとけよ! 還付なきまでに叩き潰してやる。その前にこの風邪治して……ああでも、マジでアイツムカつく。
顔が熱ィんだよ、さっきから。
絶対ェ熱上がったじゃねェか、どうしてくれんだよ、東堂。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ…………」
オレは、荒北の部屋を出ると、そのままずるずると座りこんだ。
やってしまった。どうしよう。取り返しのつかないことをしてしまった。
さっき、オレは自然に笑っていただろうか? 普通に会話出来ていただろうか? 全く自信がなかった。
寝込みにキスしてしまった友人に、普通に接していられたか、なんて。
オレが部屋に入ったとき、彼奴があまりに苦しそうに息をしていたから。何とかしてやりたい、と思ったのは本当で。しかしなぜ、唇を。
口元に手をやり、そしてその手で顔を覆った。
隠さなければ。決して、バレてはいけない。月曜の部活も、オレはいつも通り、荒北と、競いあって。……できる、だろうか。
いや、やってみせる。大丈夫だ。今まで、ずっとできていたじゃないか。大丈夫。できる。……できる。
いやあしかし、参ったな。
すっくと立ち上がって、頬に触れて、溜め息をついた。
参ったな。頬が熱い。頭も、体も。
荒北の風邪が、移ってしまったようだ。
えんど
おまけ
Q.尽八おめさん、どうやって靖友の汗拭いたんだ?
A.……ま、まあ、お、オレは、天才だからな! 起こさずに服を脱がすなど動作もないさ……(デクレシェンド)
- Re:【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.167 )
- 日時: 2019/12/24 21:17
- 名前: 枕木
「あー、かったりぃ」
そうぼやきつつ、首をゴキゴキと鳴らした。靴音を鳴らしながら、彼はひっそりとした暗い廊下を歩く。くああ、と大きく欠伸をした。ポートマフィアの“最小”幹部様、中原中也である。
今日は朝早くからヨコハマにヤクを流通させようとしていた雑魚共をぶっ潰して回り、その始末書を提出しようと首領のところへ行ったらエリス嬢の買い物の護衛につかされた。今日は街全体が妙に浮かれていて、色んなものが何やらキラキラしていた。何時もの倍以上の数の人間が、それも、赤い帽子を被ったり、動物の角を頭に生やしたりした人間が、そのキラキラしたものたちを見ては歓声をあげ、この寒い中身を寄せ合い楽しげにしていた。塵のようにいる人々の間を潜り抜け、何時よりはしゃいでいるエリス嬢について店を回るだけでも疲れるし、街がそんな雰囲気で終始苛ついていて、「リンタロウに洋菓子[ケエキ]を買えたわ!」とご機嫌なエリスを首領の元へ膨大な買い物袋とともに送り届けた後の現在、中也はただただ疲れていた。
なんで今日は皆こんな浮かれてんだ……? と溜め息をつきつつ、何気なく窓の外を見た。そして、お、と小さく声をあげる。
「雪か」
窓の外で、白く冷たいものが降ってきていた。今まで意識していなかったが、恐らく初雪。まあ、言うて年末だ。特に珍しいことじゃない……
そこで、彼ははた、と立ち止まった。
とある記憶が、甦ってきたのだ。
何年前だろうか。覚えていなかったが、未だ、彼らが子供だった頃。年末に、ふっと窓の外を見たら雪が降っていて。中也はさして興味を示さず、雪か、と呟いた後拳銃の手入れを再開したが、同じ部屋にいた同僚は違って。
彼は、わあ、と歓声をあげ、藁人形にくくりつけるための髪の毛を採取していた中也の帽子を放り投げると、窓に駆け寄った。そして、輝いた片目で静かに降るそれをみつめ、中也を振り返り、笑顔を弾けさせて、云った。
『ホワイトクリスマスだね』
中也はそのとき、クリスマス、という日を知らなかった。
だから、何だよそれ、と訊いた。すると彼は目を真ん丸にし、考え込む顔になって。そして、中也に気づかれないようにニヤリと笑って、クリスマスっていうのはね…… と中也に話して聞かせた。
そうか。今日は、クリスマス前夜。クリスマスイブ。そういえばそうだったな。日付感覚のない彼は今日何故あんなに浮かれた雰囲気だったのかを納得し、じっと窓の外をみつめた。
あれ以来、確か、あの場所には行っていなかった筈だ。ヨコハマには余り雪が降らない。
中也は、カツン、と靴音を響かせた。
* * *
「あっ、雪だ」
寒い寒いと云いながら空調の温度を調節していた敦が、窓の外を見て歓声をあげた。途端に、事務所中がざわざわする。
「まあ、クリスマスイブに雪だなんて。ロマンチックですわね、お兄様♪」
「そうだね。きっと明日はホワイトクリスマスだ」
「うーん、僕の推理だとこれは積もるねえ……ということは、明日は雪遊びだ!」
「わあい! 僕、雪合戦したいです〜!」
「け、賢治君が雪合戦なんかしたら死人が出るんじゃ……」
「……雪兎……」
「コォラ、持ち場を離れるな! クリスマスは浮かれた莫迦共が事件を起こし易い。休む暇などないぞ!」
「まあまあ、いいじゃないか。雪合戦? 結構だよ。怪我したら直ぐに妾ンとこ来ればいいさ。ねえ?」
「「ヒィッ!!」」
相変わらず賑やかな武装探偵社事務所内。しかし、その賑やかな輪から一人外れて、じっと窓の外をみつめる男が一人居た。何時もなら真っ先に話に入り斬新な発言で周りを引かせているところである。敦もそれに気がついて、雪だるまとかまくらどちらを作るかで議論を始めた輪から外れて、彼に近寄った。
「太宰さん、どうかしましたか?」
彼は振り返らず、窓の外をみつめたまま、ふっ、と微笑んだ。
「いや。……少し、クリスマスイブと雪で、懐かしい思い出を思い出してね」
「? ……どんな思い出ですか?」
敦が訊くと、太宰はふふっと笑い、くるりと振り返った。
「とある無知な子供にね、素敵な嘘を教えた思い出だよ」
敦は釈然としない顔で、はあ…… と首をかしげた。
太宰は笑みを浮かべたまま、事務所の扉へと歩いていった。ドアノブに手をかけたところで国木田が気付き、声をかける。
「コラ太宰、未だ仕事は片付いとらんぞ」
太宰はガチャリと音をたてて扉を開け、ひらりと片手を振った。そして一言。
「仕事は片付けたよ」
国木田がハッと太宰の机を見ると、書き上がった書類の束が、綺麗に整頓されて重ねてあった。
「信じられん……」
国木田が、太宰の出ていった扉を呆然とみつめる。
「明日は雪でも降るのではないか」
「もう降ってますよ、国木田さん」
すかさず敦が云う。
「じゃあ槍だな」
「槍ですね」
二人は頷き合った。
「クリスマスの奇跡だね」
乱歩が云ったが、それは太宰のことを云ったのか、雪だるまかまくら戦争が雪兎コンテストをしようという結末で終わったことを云ったのか、判別はできなかった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.168 )
- 日時: 2019/12/27 21:55
- 名前: 枕木
山を少し登ると、鬱蒼とした林が開けて、余り広くはない原っぱになっている。その真ん中に、一本の樅の木が生えていた。何故此処に生えているのかは判らない。けれど大分大きく育っていて、切れば金になるのではないかと思う。しかし、数年経ってもその木は雪で白く染まって堂々と立っていた。
「相変わらずでけぇな」
俺はそれを見上げ、白い息を吐いた。
元々この周辺にはポートマフィアの隠れ家の1つがあって、ヨコハマの外れでの仕事を終えるとこの基地を使うことが度々あった。その頃は『双黒』なんて呼ばれ太宰と一緒に仕事をすることが多かったから、二人でこの基地で夜を明かすこともあった。そんな時間の中で、太宰はいつの間にかこの籾の木を発見していたらしい。
『クリスマスにはね、クリスマスツリーが必須なんだ。樅の木が、それも大きければ大きいほどいい』
そんなでけェ樅の木ここら辺にねェだろ、と云ったら太宰は迷わずこの場所を口にした。そして、その日の内に二人でこの山に登った。その時は今よりもこの木が大きく見えて、すげェな、と声に出した。太宰は満足げに笑って、
『これなら神様に届きそうだね』
と云った。そして、おもむろに黒外套の内ポケットから…………
はあ、ともう一つ白い息を吐いた。
懐かしい思い出だった。まだ俺も太宰も子供で、太宰は俺の『同僚』と呼べた。けれど二人で過ごす時間が積み重なっていくにつれて太宰の瞳は濁っていって、ついに太宰は俺の前から姿を消した。四年という空白の時間。それからはもう、太宰に手が届くことはなくて。きっともう、これからも、太宰に近づくことはない。
太宰のことを考える度、激しい嫌悪感と苛立ちを覚える。それは本当だ。だけど、それと同時に何処かが…胸の内の何処かが、鉛と化したように重たく、鈍く、痛む。
その正体に、きっと俺は気づいてる。
こんなの、莫迦げているかもしれない。
けれど、あのときと同じように、クリスマスイブに雪が降ったんだ。太宰と再会した、その年のクリスマスイブに。
それなら、ホワイトクリスマスの奇跡ってやつを、少しくらい信じてみてもいいだろ?
俺は、喉笛に手をやった。硬い感触がある。マフィアに入って間もない頃、賭けに負けた罰として太宰に差し出されたもの。
『ハイ、これで君は今日から僕の犬だ!』
『なんでそうなるんだよ!!』
そんな言葉と共に着けられた、この首輪。罰を受けると云ったのは俺だから、外せないでいただけだ。……本当は、太宰が包帯をほどいたあの日、外そうと思った。けれど、しなかった。仕方のないことだ。暫く身に付けてりゃあ、多少は愛着湧くだろ?
けれど、流石に長すぎた。もう、いいだろう。
俺は、首輪を外した。そして、樅の木の、少し浮いて届くところに輪にしてくくりつけた。
すた、と地面に着地して、かかった雪の所為で目立っている、その黒い首輪をみつめる。
あのとき、確かに神に届いた。それなら、また届くかもしれない。あの日以来神を信じたことはない。けれど、届いてくれ。
どうか、また______
「人から貰ったものを捨てるなんて」
『クリスマスっていうのはね、神様の誕生日なんだ』
背後からの見知った声に、目を見開いた。
『だから、贈呈品を贈らなきゃいけない。それも、見易いように樅の木にくくりつけてね』
すっ、と後ろから手が伸びた。そして、俺が浮いてくくりつけた首輪を、易々と取った。その手には包帯が巻かれていた。砂色の外套も、見知ったものだった。
『でも、神様は優しいからね。見返りをくれる。けれど、その場合ただの贈呈品じゃだめなんだ』
その手が、極自然な動作で後ろから手を回し俺の首に首輪を巻いた。
「だめじゃないか、中也」
ごくっと息を飲み込む。胸をぎゅっと押さえた。深呼吸をして、覚悟を決めた。
ゆっくりと、振り返る。
見知った顔がにっこり笑って、ひらりと手を振った。
「久しぶりだね、中也」
「……未だ死んでなかったのかよ、太宰」
絞り出した声は、掠れていた。
心臓がバクバク鳴る。嫌だ……止めろよ。
「それを、これにくくりつけたってことは」
くるっと、樅の木に向かい直った。知られたくない。……知られたくなかった。
「君は何を願ったのだい?」
『自分の一番大切なものを捧げると、願いが叶うんだ』
「ッ……」
未だ、ずっと、信じてた。何時か、何時か、また、
太宰に、愛される日が来るんじゃないかって。
思い出にすがって、奇跡を信じて。らしくもない。けれど、願えば何時かは叶うんじゃないかと思った。
何度も願った。けれど、太宰の背中は遠ざかるばかりで。でも、今日なら、叶う気がした。
あの日俺は、太宰と手を握って、太宰に手渡され俺が取り付けた樅の木の天辺の星を、じっとみつめていた。
そのとき、太宰に訊いた。あの星が手前の大事なモンじゃねェだろ? 手前は願い事ねェのか、と。
『君こそ、無いの?』
太宰に聞き返されて、俺は少し照れ臭さを感じながら、もう大体叶ってるからな、と答えた。太宰はその返事に嬉しそうに笑って、僕もだよ、と答えた。嗚呼そうだ、それで、此処で口づけした。だが太宰の本当の願いが叶ったのは、ほんの四年前だ。太宰に気を遣われていたとか、気色悪くて鳥肌がたつな。
「ねえ、君は何を願ったの? 教えてよ」
太宰が俺の肩口に顎を乗せ、囁いた。かじかんだ耳が震えた。
「教えたところでどうにもなんねェだろ」
「じゃあ、どうにかなるのなら、教えてくれるの?」
「莫迦か手前。それ本気なら後で後悔するぞ」
声が震えていないか、不安で堪らなかった。
「いいよ。私は、本気だ」
静かな口調に、心臓が高鳴った。
どうにかなるわけない。そんなわけがない。期待するな、信じるな。もう二度と、裏切られたくない。
そう思うのに……俺は、振り向いていた。太宰、と呼んだ。息を吸い込む。太宰の鳶色の瞳に吸い込まれそうだった。けれど堪えて、掠れた声で云った。
四年分の、願い事。
「もう一度、俺を愛してくれ」
太宰は、にっこり笑った。
「やっと云ったね」
「……は?」
中也は、思ってもみなかった反応に目を見開いた。太宰は、硬直した中也をぎゅっと抱き締めた。
混乱して、中也は太宰の胸の中で目を白黒させる。
「だ、ざい……?」
「だって中也、一度もそうやって口に出してくれないんだもの。寂しかったよ、ずっと」
そういえばそうだったか、と中也はハッとした。ずっと隠そうとして、胸の内に秘めていた願い事なのだ。
「まあ、勿論答えはイエスなんだけれどね」
その言葉で、死ぬほど驚く、という感覚を中也は味わった。中也は、大きく躰を震わせた後、太宰のシャツを握り込んだ。
太宰はその背中を擦りながら、この愛しいものに、いつ本当のことを教えようか考えた。中也はきっとクリスマスの奇跡だなんて思っているだろうけど、これは中也の小さな勇気が生み出した、当然の結果なんだから。
まあでも、こんな雪の降るクリスマス、少しくらい、恋人同士でロマンチックに過ごすのも悪くない。
もう少し、真実は隠したままで。このまま抱き締めていよう。太宰は、樅の木を見上げた。
その天辺には、あの日と同じ星が輝いていた。
「メリークリスマス、中也」
太宰はそう囁いて、中也の顔を上げさせると、雪のように溶けそうな、甘い口づけをした。
えんど
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.169 )
- 日時: 2019/12/25 14:06
- 名前: 枕木
サンタさんがね、プレゼントくれたんです。見失ってたもの。これもクリスマスの奇跡かな。
メリークリスマス!
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