大人二次小説(BLGL・二次15禁)

【文スト】太中R18*中也受け 他
日時: 2021/03/15 14:08
名前: 枕木

おはようございます。
…お久しぶりです。


ようこそ、初めまして。

此方は文ストのBL二次創作になります。色々書いてます。
R18、時々ぶっこみます。
涙脆すぎる中也とやたら微笑む太宰と可愛くない敦と芥川がいます。

ともかく、何でも許せる広大な心の方は、どうぞごゆっくり。

リクエスト・感想・アドバイス随時受け付けております。良かったら下さい。お願いします。
リクエストに関しては、扱っているcpのものならシチュとかR指定とか何でもokです(`・ω・´)

ご案内

◆太中(太宰治×中原中也)
*>>37…今朝、私が死んだようです
*>>39-43…お薬でにょた化。あまあまとろとろ、コミカル太中※R18
*>>47>>50-54…ぬこ耳中也の付き合って半年の甘々カップル※R18
*>>56…やけに喉の渇く土曜日だった。
>>61…閲覧1000記念、人生初の太中を起こしてみました。
*>>64-65…セックスレスの危機!?最終的にバカップルのエロ太中※R18
*>>72-85…17の、“相棒”である二人が10センチの手錠で繋がれる話。もどかしい思春期の行方は…※R18
*>>98…お祭りの夜の雰囲気って、なんとなく現実離れした雰囲気がありますよね
*>>102…疲れきって自宅のドアを開けるとき、真っ先に思い浮かんだ人が一番大切な人ですよ。
*>>116…『なみだ、あふれるな』『汚れつちまつた悲しみに…』
*>>119…ぐちゃぐちゃ、どろどろ ※他サイトより自身過去作転載、許可有
>>130…百年後、空に青鯖が浮かんだなら。
*>>140…雨の音、君の声、恋の温度。雨ノ日太中小噺※雰囲気R18
*>>147-153>>158-161…鳥籠の中で美しく鳴く鳥は紅葉の舞う小さな世界をみつめるばかり…さしのべられた手は、包帯に巻かれていた※遊郭パロR18
*>>167-168…ホワイトクリスマスの奇跡に、君へ愛を贈ろう。
*>>173…君へのキモチのかくれんぼ
*>>174…中也はさ、雨と晴れ、どっちが好き?
>>198…全部、この日が悪いんだ。中原中也生誕記念
*>>199…空っぽの心臓

【太中家族計画シリーズ】
*>>1…太宰さんが中也にプロポーズする話。ちょっと女々しい中也くんがいます。
*>>6-9…プロポーズ(>>1)のちょっと前の話。複雑な関係になった二人の馴れ初め。
*>>11-12…中原中也誕生日6日前。プロポーズ(>>1)の直後。甘くて優しい初夜の話。※R18
*>>14-15…中原中也誕生日5日前。初夜(↑)の翌朝。初めて迎えた、愛しい朝の話。
*>>16-19…中原中也誕生日4日前。素直になれない中也がちょっとこじらせちゃった甘い話。※R18
*>>22-26…中原中也誕生日2日前。手前の愛に触れさせろよ。真逆の修羅場!?※R18
*>>28-29…中原中也誕生日1日前。更に家族になった二人の幸せな話。
*>>34-35…妊娠初期の中也くんと心配性の太宰さんの話。つわり表現があります
>>60>>62-63>>67-70…太宰さん誕生日おめでとう。
*>>112…家族になっていく、幸せの話。
*>>144,>>163…早く君に会いたいよ。まだ二人の日々の1ページ。
*>>172…来年も再来年も、末永くよろしく。年越しの太宰家
>>192-196…生まれてきてくれてありがとう。幸せのフィナーレです。

◆太乱(太宰治×江戸川乱歩)
*>>2-4…ツンデレ名探偵と太宰さんの相思相愛。お互いの好きな所ってなあに?※フェラ有
*>>36…疲れて泣いちゃった乱歩さんを太宰さんが慰める話。甘いだけ。
*>>169…いつも怠け者の太宰も、働くときがある。それってどんなとき?

◆中乱(中原中也×江戸川乱歩)
*>>10…中原中也誕生日7日前。甘い誕生日プレゼントの話。

*>>125-127…お誕生日おめでとう乱歩さん(太→乱←中)

◆敦中(中島敦×中原中也)
*>>20…中原中也誕生日3日前。大人と子供のほのぼのカップルです。
*>>58…手前が俺の生きる意味なんだよ。怯えた敦くんと男前中也
*>>205…傷心の子供には、恋人の優しい愛を。

◆芥中(芥川龍之介×中原中也)
*>>55…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!紳士やつがれくん
*>>87-93…鈍感な樋口ちゃんが、芥川先輩が恋人と待ち合わせしているのをみつけて…!?甘めの芥中※R18

◆鴎中(森鴎外×中原中也)
*>>121…7年前、少年はポートマフィアに加入した。首領に与えられたのは、古ぼけた黒帽子と……

◆中也愛され
>>31…中原中也誕生日0日前。相手は貴方におまかせします
*>>32…皆にひたすら愛される中也くんのお誕生日会のお話。
*>>45…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!(鴎中&敦中)


'19 4/20 設立
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祝6/10 閲覧数1000 thanks!
祝7/27 閲覧数2000 thanks!!
祝8/20 レス100達成!!
祝9/6 閲覧数3000 thanks!!!
祝10/7 閲覧数4000 thanks!!!!
祝10/26 閲覧数5000 thanks!!!!!
祝11/14 閲覧数6000 thanks!!!!!!
祝12/6 閲覧数7000 thanks!!!!!!!
祝12/30 閲覧数8000 thanks!!!!!!!!
'20
祝1/28 閲覧数9000thanks!!!!!!!!!

2月22日 閲覧数10000突破
本当にありがとう。

4月20日 一周年ありがとう。

7月24日 閲覧数20000突破
これからもよろしくね。

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Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.186 )
日時: 2020/02/25 00:39
名前: 枕木

「は……?」

呟いた声は掠れていて、続けようとした罵声は喉元でつっかえた。息苦しくて飲み込んだのは、きっと罵声だけじゃないだろう。

「やあ。久しぶりだね」

顔に巻かれた包帯はなくなって、濁っていた鳶色は幾分か澄んでいて、黒外套は砂色に変わって、あの頃は隠していなかった、底無しの絶望と破滅願望の危うさは、飄々とした笑顔で隠して。そして、片手を挙げて、軽々と奴はそう云った。

確かに久しぶりだ。

こうして、首領の部屋の扉の前で会うのは。

「ど、して……手前が……」

太宰の顔から目を逸らすことができずに呆然と問うと、太宰は「やれやれ」と呆れた仕草で溜め息をついた。

「聞いている筈だよ? 今回はうち[武装探偵社]とそっち[ポートマフィア]との共同作業になるって」

確かに聞いている。でも、太宰と組になるとは聞いていない。俺は……

「谷崎君と、だったよ、確かにね」

太宰が先回りをして云う。今更思考を読まれていることをどうとも思わないが……それなら、俺の疑問も判ってるんじゃねェのか。

そう思って太宰の瞳をみつめていたが、太宰はふいに目を逸らし、ふう、と力を抜き切るように息を吐いた。

「せっかちだなあ。それはこれから判ることだよ」

まあ……そうか。俺は、『緊急事態が発生したから至急私の部屋へ来てくれ給え』って呼び出されたんだもんなァ。その緊急事態ってのが、今隣に太宰がいるこの事態ってことか。

それならさっさと、と手を出し、その重厚な扉をノックしかけた俺の視界に、突然細長い指が伸びた。

どくん、と心臓が大きく脈打った。

な、にを……

その指先は、硬直した俺の前髪に触れた。前髪を一房ふわりと摘まみ、左の脇へするりと避けた。耳に掛けたとき、耳朶に指先が触れてぞくりと何かが駆け抜けた。

太宰に……触れられた。

「中也、まさかその跳ねてる髪のまま入る積りじゃあなかったよね? 寝癖? この前髪。監理出来ないなら切ったら?」

太宰が、呆れた吐息混じりに云った。そこで俺はようやく我に返って、慌てて前髪を抑え、三歩下がって太宰から離れた。

吃驚した吃驚した吃驚した吃驚した吃驚した吃驚した!!

何しやがんだコイツいきなり……!

「余計なお世話なんだよバカヤロウ!!」

そう怒鳴るのが精一杯だった。太宰は、俺に触れていたままの姿勢で、じっと俺をみつめている。ばくばく高鳴る心臓の音が五月蝿い。ああ、やっべえ。ここ暫く落ち着いてたのに。落ち着こうとして、はあ……と気づかれないように細く吐いた積りの息が熱くて、おまけに情けなく震えていて、泣きたくなった。

太宰はそんな俺の内心を知ってか知らずが急激に冷めた表情になり、手をひらひらと振って、「あっそ」と感情無く云った。

まだ五月蝿い心臓を宥めようと呼吸を繰り返しながら、再度手をあげて、扉を三度ノックして、「どうぞ」という声のあと扉を開けながら、ふっと気が付いた。気が付いた瞬間、深い絶望感に襲われて、目眩がしそうになった。

嗚呼、恨むぞ。恨むからな。

「呼び出して悪いねえ。__察したと思うけれど……」

恨むぞ、幻像の異能者。


「今夜、双黒を復活させる」


いや、恨んでんのは、俺自身だ。

「____折角の復活だ。旧友の証に握手でもしたらどうだい?」
「それ、本気で仰ってますか?」
「勿論」

そういえば、今日は朝から雨だった。

「よろしくね、中也」

差し出された掌が、巻かれた包帯の白さが、あの頃何度も俺の掌に吐き出された濁った白色と妙に重なった。

「……嗚呼、よろしくな、太宰」

そっと指先でその掌に触れた瞬間、びりっと何かが電流のように走ってきて。全ての神経が集まったような指先を、何うじうじやってんの早くしてよ、と舌打ちした太宰が強引に握る。その瞬間、下着が濡れたのを感じた。

「じゃあ、頑張ってねえ」

首領の部屋を後にすると、俺は一言「地下駐車場で待ってろ」と顔を一切見ずに告げ足早に廊下を歩いた。そしてトイレにつくと個室に閉じ籠り、パンツの中に震える手を入れ、下着のゴムを引っ張った。霞んだ視界で、それを確認して、目の奥が熱くなった。

嗚呼、なんだよ、これ。

ぼんやりと熱に浮かされた頭が、もう痛いくらいだ。完全に、やっちまった。


太宰用にと処方された、あの強い抑制剤を飲んでいれば、こんなことにはならなかったのに。


気づいたところで、もう遅い。下着は濡れてしまった。でも、濡らしたのは白いものじゃなくて、透明の液体で。ぐっちょりと汚れているのは前じゃなく後ろの方で。

早く戻らなきゃ、怪しまれる……

ロール紙で下着の汚れを拭きながら、俺は噛み締めた歯の隙間から、堪えきれず嗚咽を漏らしていた。どうして、どうして今更。やっと、やっと俺が手に入れた日常なのに。どうして……


勃起しない男性器の代わりに疼く奥の奥の子宮が、どうしようもなく憎かった。


個室を出て手を洗いながら鏡を見ると、確かに前髪が跳ねていた。

確かに、もうそろそろ切ってもいいかもな。

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.187 )
日時: 2020/03/14 10:57
名前: 枕木

息を吸い込み、鏡の中の自分をみつめる。僅かに赤らんだ頬に嫌気が差すが、これで今までやってこれたんだ。アイツにかき乱される日々も終わって、幹部としてここまでやってきた。αの一級品として、組合<ギルド>からも霧からもヨコハマを守ってきたんだよ。ほんの少し、ほんの少し抑えられれば、また平穏な日々が戻ってくる筈だ。とにかく、今夜で片をつけられれば……

「無理だね」

思わず、ぱっと顔を向けて太宰の横顔を凝視した。すると太宰は「赤だよ、前見て」と前を向いたまま素っ気なく云った。特に云うことも無ェから大人しくブレーキを踏み込む。見上げると、真っ暗な背景に赤のライトが点々として、目が痛くなりそうだ。暫く俺のこの車は地下に置きっぱなしだったもんなァ。

しかし、そんなばっさりはっきり否定するくらい、今回は手こずるのか? 俺と太宰が居ても?

「……谷崎君が」

少しの沈黙のあと、太宰が口を開いた。

細雪の餓鬼のことは、車に乗り込み出発する前に聞いた。昨日、眼鏡の長髪野郎の車で移動してるときに事故に遇ったという話だった。そっちの女医が治せばいいんじゃねェのか、と問えば、

「なに、そんなに谷崎君が良かったの? 携帯の番号教えてあげようか?」

とにやにやされた。苛ついて車を急発進させたが、太宰はシートベルトを締めたあとで、「安全運転で頼むよ」と悠々と足を伸ばしてやがった。矢っ張り、無ェな、コイツだけは。心配することも無ェ。

「来られない理由は」

信号が青に変わる。アクセルを踏みながらちらりと隣を見てみて、少し驚く。険しい顔だなァ、オイ。前の車爆破しそうな目だぜ。その実なんの恨みが無くても、な。

「歩けないからだ」
「……女医も役に立たねェな。首領に伝えておかねェと」
「そうじゃない。傷は完治してる。谷崎君だって、来る積りでいた。だって、そっち[ポートマフィア]のボス直々のお願いで今回の共同作業になったんだよ? マフィアに貸しを作るいい機会だもの」
「あ”? 寧ろそっち[武装探偵社]がうち[ポートマフィア]に頼みたかったんだろうがよ。五人も社員襲われといてよく云うぜ。手前の教育が悪いんじゃねェのか」

右折しながら云うと返事がなく、おや、と目を見張った。言い返す言葉がねェってか? ざまァ。

まあ正直、今回の相手にはうちも手こずっていた。殺されたのが57人、負傷者が21人。武器庫に侵入しようとした奴がいると向かわせる度、その数は増えた。後ろから心臓に一突きだ。幾ら下級の構成員でもマフィアだ。こんなに易々と殺されるものなのか、と昨日俺の部下についたばかりだった男の死体をみつめ疑問に思うほど。死体、腕や脚がもがれ気を失っている怪我人、それらは山となっていて、応援要請を受け駆け付けた俺らを呆然とさせるほど。

マフィアが所有する武器や金、莫大な情報を狙っているならまだいい。そんな輩はごまんといる。でも、今回の奴は違う。実際のところ、武器庫からは何も盗まれていない。探偵社も同じく、役人の家から金が盗まれたと呼ばれ遣られたらしいが、女医の異能で助かったらしい。でも、そうはいかないうちは、同じ状況下にある探偵社と共同でそいつをぶっ殺すことにした。芥川や黒とかげ、探偵社の自称名探偵の野郎と人虎らが動いて相手の基地は突き止めたから、主戦力の俺が今夜向かうことになった訳だが……

「じゃあ、何で歩けねェんだよ」

細雪の餓鬼がそんなことにならなけりゃ、今こうして俺が緊張で手を湿らせることも無かった。
もう一度右折する。一方通行の、林の間の細い道だ。大勢が身を隠す基地なら、こういう人里離れた場所の方が都合いいよなァ。手練れを78も一度に遣れるんだから、100はいるか? いや、もっといるかもしれねェな。基地ごと汚濁で潰せばいい話だろ、なんでそんな気難しい顔してやがるんだよ、太宰。

「谷崎君は……行く積りでいた。だから、目が覚めて、傷のない体を確認して、ベッドから降りた。そして、与謝野さんの方へ歩こうとして……転倒した」

眉根をひそめた。視界も見えないが、話も見えない。なんでこんなに溜めてるんだよこいつ。とっとと……

「平衡感覚が無いんだ」

……は?

「谷崎君も、国木田君も、平衡感覚を失ってて、歩けない。今病院で検査を受けているけれど、多分異常は見つからない。恐らく、私たちが今向かっている人たちの異能だ。遣られた人たちも、平衡感覚を奪われたんだ。だから反撃も抵抗も出来なかった。突然立っていられなくなって、平然としていられる人なんてごく僅かだろうからね」
「じゃあ……体の機能を狂わせる異能遣いがいるのか」
「恐らく。でも、殺したいなら心臓でも肺でも止めればいい話だ。多分、ごく一部の機能を狂わせることしかできない。それも、指定の距離の中で。けれど厄介なのは、私の異能無効化が通用しないことだ。体内を、ピンポイントで狙って発動できるんだろうね」

思わず詰めていた息を吐き出した。こりゃ、思ってたより厄介だな。

「組織の中の誰がその異能遣いかは、判らねェんだな?」
「そういうこと。100人潰したって、核を突かなきゃ意味が無い。逃げられたらそれで終わりだし、只でさえ汚濁を発動している間は理性の無い中也が接触されたら重要戦力を削ぐことになる。一応選択肢には入れているけれど……どうする?」

太宰がこちらを見ているのが判った。
選択肢にはって……手前と俺がいて、他に幾つ選択肢があんだよ。

「やる。復讐と報復の為に」
「まあそうだよね。特大の頼むよ」

軽い返事をするなり、太宰はふわあ、と大きな欠伸をすると、着いたら起こしてね、と目を閉じてしまった。呑気かよ、阿呆か。つーか、基地までそんなに距離無ェし……と文句を云えば、太宰は無言で外套のポケットから耳栓を取り出し両耳にはめ、微動だにしなくなった。舌打ちをして、前方だけに集中することにする。嗚呼、ここ、少し登りになってんだな。耳が詰まるような感覚がある。標高が高くなってきている。これなら、多少なりとも暴れても大丈夫だろ。

何も、心配することは無ェ。一晩で片はつく。そうだろ、なあ。

……けれど、隣で本当に寝始めた男の寝息に反応して疼く腹の奥や、太宰の隣に乗ったときから感じている湿った下着の感覚は無視できなくて、不安は募るばかりだった。

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.188 )
日時: 2020/03/14 12:43
名前: 枕木

不安に揺れる気持ちを押し殺せと無心で走らせていると、突然林が開けた。お、と声をあげブレーキをかける。此処だな。所有時間も自称名探偵の野郎に云われたのと同じくらい……否、ぴったりかよ……なんか腹立つな彼奴。

暗いがヘッドライトを点ける訳にもいかない。が、闇夜を支配するポートマフィアだ。夜目は利く。じゃなきゃ此処まで運転とかできねェし。だがそれでも、Ωやβより大分身体機能も高いαの……太宰の視界とは違うのだろうなと思うと、何故か切なくて、けれど判りやすく悔しかった。

そんな俺の目を凝らして、どうやら木造の小屋らしいと見る。随分小さい。開けているとはいっても、これまた狭い。木々の間に隠れるように建っていて、上空から見ても気がつかないかも知れねェな。

小屋は窓がなく、錆びた青のトタンの屋根の簡素な造りだ。まあ、隠し蓋でもあって地下に潜んでるんだろうなァ。

ちらりと隣を見ると、未だ呑気に寝息をたててやがる。その、微かに上下する胸や僅かに開いている唇を意識してしまうから、それを吹っ切るため、拳を固めた。

「オイ、太宰。いい加減起きねェと殴るぞ」
「……」
「オイ、太宰!!」

安易に大声出せねェのから聞こえていなくて本当に寝てんのか、無視してんのか……否、完璧に後者だろ。

「オイ太宰、起きろって……云ってんだろ!」

右耳をぐいっと引っ張り、勢いよく耳栓を抜き取った。太宰は「いっ……」と声を上げ、右耳を抑えるながら目を開け、恨めしそうに俺を睨めつけた。はっ、手前が悪ィんだよバーカ。

「もう、本当野蛮!」
「知るか。んで、作戦番号<コード>は?」

太宰はまだ不満げにしていたが、はあ、と溜め息を一つつきシートベルトを外しながら、口を開いた。

「番号<コード>も何も……『やっちまえ』。以上」
「……チッ。了解」

……本っ当ムカつく野郎だぜ。

耳栓を太宰の方へ見ずに放り、その苦情を背中に車の扉を開け外へ出た。バタム、と思い切り良く扉を閉めると、軽く肩を回した。

んじゃ、遣るか。

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.189 )
日時: 2020/05/24 11:49
名前: 枕木

溜め息をついて耳栓を拾い、装着する。中也が破壊という行為に快感を感じ叫ぶ声を、あまり聞きたくはない。気色悪いし。

中也が小屋へ向かうのを確認すると、私は助手席から運転席へ移動し、ハンドルを握った。中也の車だからどーなったっていーんだけどねー。まあ、移動手段は一択でも多い方がいい。それに、汚濁遣って寝た中也をトランクに放り込めるし。中也との約束だし。いや、約束なんてどうだっていいけど。

ふう、と溜め息をつき、車をUターンさせた。バックミラー越しに中也が小屋へ消えていくのを確認する。

中也の車を安全地帯まで運んだら、作戦開始ってことになっている。私の計算だと小屋の屋根彼処まで吹っ飛ぶから、車想定よりもうちょい下まで持ってちゃうか……

そういえば、ここの標高って何メートルだったっけ。私はそんなに気にしてなかったけど、中也が耳を気にしているようだった。でも、中也が圧力に負ける訳ないよねえ。中也がそれを支配している訳だし。いや、でも中也なら……

また、溜め息をついた。中也を推し図るのは難しい。私以外を私と同じだと思うことは無いに等しい。それでも、解ってしまうのだから仕方がない。αだからとか、そういうことじゃない。私が仮にβだったとして、一般人にはなれないだろう。そもそも、性別がそこまでを左右する訳ない。どうしてみんなそんなに拘るのだろう。女性という性別が卑下されていたように、人間は自分が優位に立たないと気が済まないのだ。例え、女性がいなければ遺伝子を残すことはできないと、理解していてもだ。

Ωだって、同じなのにね。αはαとΩの間にしか生まれない。Ωが孕みたくないと拒絶するようになればαは減っていき、この世をつくる均等は脆く崩れる。在るべき姿になるようにと在るべき役がちゃんと揃っているのに、どうしてこの世は在るべき姿に収まらないのだろう。理解はできてしまうけれど、うんざりするほど退屈な劇だ。

それでも、一人だけ皆と違う衣装を纏うのが中也だ。決して気付かれたくはない、真の主役。気付かれてしまえば、何かが終わってしまうのだろう。私にそれを止める気はないし、所詮ただの傍観者だ。態々舞台に上がり込むこともないだろう。あれは、彼の舞台なんだ。解れなくても問題はない。

いや……まあ、気付いてはいるけれど。気付いてはいるけれど、気付かないふりをしたい。

私も、彼の舞台に不可欠な役者だということ。

私も彼も、気づいてる。けれど、目を逸らし合っている。彼が、それを望むから。だから私も、それが願いだ。

ねえ中也。いつか君の舞台は、悲劇に変わってしまうのかな。それでも私は、君の舞台を見届けるよ。安心しなよ、私は唯の観客だから。でもその代わり、最後の一人になっても君の舞台を見届けるよ。ねえ中也。そうしたら私は、君の舞台の要素に少しでもなれるのかな。観客と主役が見つめ合うだけの悲劇は、さぞや滑稽だろうね。いいよ。私は最後に、君に惜しみ無い拍手を送ってあげるから。観客として。

……一寸近いかな。まあいいや。ここら辺に停めちゃおう。此処ならいい感じにボンネットに飛んできた木で傷がつくし。走れはするから問題なし。

ブレーキを踏み込む。ポケットから無線機を取り出し、中也に繋いだ。耳障りなノイズが混じる。うわあ、不良品? マフィアも、こんなところで経費削減してどうするんだか。
溜め息をつきながら待てば、何とか繋がった。聞こえてきたのは、不機嫌そうな声だった。

『……い……だざい……何だこれ、壊れてんのか?』
「そうみたいだね」
『チッ……』

大きい舌打ちだねえ。幸せが逃げちゃいそう。
まあ、中也の幸せとかどうでもいいけど。

「とりあえず車は運んだよ」
『傷付かないところに置いただろうな?』
「うん、ちゃんと動くだろうから大丈夫」
『は? おい、手前……』
「そんなことどうでもいいからさ、作戦開始」
『チッ、後で覚え……っ』ザー

ん……?
最後雑音入ったけど、なんか、変じゃなかった?

『もう切るぞ。三分以内に片付けるからな』
「はぁい。じゃあね」

矢っ張り雑音かなあ。まあ気にすることでもないか。
無線機を切り、座席に置いた。不良品だって後で森さんに教えなきゃね。


扉を開け、降りる。思わず欠伸が溢れる。木々の間を抜けていけば二分くらいで小屋に着ける。けど登るの面倒だなあ。いやでも、異能力者が逃走するとしたらこの経路だしなあ。
実際見てみて、嗚呼矢っ張りと思った。木々の立ち方からして、地下には小さな部屋がいくもあり、蟻の巣のようになっている。深さも大分ある。しかし収容できる人数は想定より少ない。けれど、抜け穴も多いだろう。中也がそれを追い回すか、滅茶苦茶に打ったのが当たるか。どのみち、地下の部屋は全部潰される。接触するなら、全部潰して見当違いの方向へ打ち始めたときだ。対象が無くなった中也は唯の破壊神と化す。まあ、そのときに異能力者が生きてるかも定かじゃないけど。正直、汚濁については理解できないこともある。これもまた、彼の舞台を展開させる要因なんだろう。

「わ、わあああああああ!!」

はいはい、そんな大きな声を出さなくても大丈夫だよ。

木々の間から現れた片腕のない男が、悲鳴をあげた。恐怖に目を見開いている。突然の破壊神の到来は、そりゃあ怖かっただろうね。安心しなよ、そのトラウマ、引きずらないようにしてあげるから。
懐から銃を取り出す。もう慣れすぎた動作はほぼ無意識で、引き金をひく指が動いた。

弾が、銃口から発射される。空に一筋の道を開き、男の心臓へ真っ直ぐ飛んで行く。……発射された瞬間に鳴る、乾いた音。

それを聞いたのは、男の胸に弾が届いた瞬間だった。

……おかしい。

確かに耳栓はしているけれど、音が遅れるなんてことは有り得ない。私の耳に異常はない筈だ。原因があるとしたら……

耳栓をはずして、目を閉じて……見開いた。

……嗚呼、そういうことか。

私は男の腹を踏みつけた。恐ろしく速く通りすぎてゆく木々と、流れる冷や汗。私いま体温あるかな。

解ったよ。とりあえず、ひとつは。


中也が、危ないってこと。

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