大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- 【文スト】太中R18*中也受け 他
- 日時: 2021/03/15 14:08
- 名前: 枕木
おはようございます。
…お久しぶりです。
ようこそ、初めまして。
此方は文ストのBL二次創作になります。色々書いてます。
R18、時々ぶっこみます。
涙脆すぎる中也とやたら微笑む太宰と可愛くない敦と芥川がいます。
ともかく、何でも許せる広大な心の方は、どうぞごゆっくり。
リクエスト・感想・アドバイス随時受け付けております。良かったら下さい。お願いします。
リクエストに関しては、扱っているcpのものならシチュとかR指定とか何でもokです(`・ω・´)
ご案内
◆太中(太宰治×中原中也)
*>>37…今朝、私が死んだようです
*>>39-43…お薬でにょた化。あまあまとろとろ、コミカル太中※R18
*>>47>>50-54…ぬこ耳中也の付き合って半年の甘々カップル※R18
*>>56…やけに喉の渇く土曜日だった。
*>>61…閲覧1000記念、人生初の太中を起こしてみました。
*>>64-65…セックスレスの危機!?最終的にバカップルのエロ太中※R18
*>>72-85…17の、“相棒”である二人が10センチの手錠で繋がれる話。もどかしい思春期の行方は…※R18
*>>98…お祭りの夜の雰囲気って、なんとなく現実離れした雰囲気がありますよね
*>>102…疲れきって自宅のドアを開けるとき、真っ先に思い浮かんだ人が一番大切な人ですよ。
*>>116…『なみだ、あふれるな』『汚れつちまつた悲しみに…』
*>>119…ぐちゃぐちゃ、どろどろ ※他サイトより自身過去作転載、許可有
*>>130…百年後、空に青鯖が浮かんだなら。
*>>140…雨の音、君の声、恋の温度。雨ノ日太中小噺※雰囲気R18
*>>147-153>>158-161…鳥籠の中で美しく鳴く鳥は紅葉の舞う小さな世界をみつめるばかり…さしのべられた手は、包帯に巻かれていた※遊郭パロR18
*>>167-168…ホワイトクリスマスの奇跡に、君へ愛を贈ろう。
*>>173…君へのキモチのかくれんぼ
*>>174…中也はさ、雨と晴れ、どっちが好き?
*>>198…全部、この日が悪いんだ。中原中也生誕記念
*>>199…空っぽの心臓
【太中家族計画シリーズ】
*>>1…太宰さんが中也にプロポーズする話。ちょっと女々しい中也くんがいます。
*>>6-9…プロポーズ(>>1)のちょっと前の話。複雑な関係になった二人の馴れ初め。
*>>11-12…中原中也誕生日6日前。プロポーズ(>>1)の直後。甘くて優しい初夜の話。※R18
*>>14-15…中原中也誕生日5日前。初夜(↑)の翌朝。初めて迎えた、愛しい朝の話。
*>>16-19…中原中也誕生日4日前。素直になれない中也がちょっとこじらせちゃった甘い話。※R18
*>>22-26…中原中也誕生日2日前。手前の愛に触れさせろよ。真逆の修羅場!?※R18
*>>28-29…中原中也誕生日1日前。更に家族になった二人の幸せな話。
*>>34-35…妊娠初期の中也くんと心配性の太宰さんの話。つわり表現があります
*>>60>>62-63>>67-70…太宰さん誕生日おめでとう。
*>>112…家族になっていく、幸せの話。
*>>144,>>163…早く君に会いたいよ。まだ二人の日々の1ページ。
*>>172…来年も再来年も、末永くよろしく。年越しの太宰家
*>>192-196…生まれてきてくれてありがとう。幸せのフィナーレです。
◆太乱(太宰治×江戸川乱歩)
*>>2-4…ツンデレ名探偵と太宰さんの相思相愛。お互いの好きな所ってなあに?※フェラ有
*>>36…疲れて泣いちゃった乱歩さんを太宰さんが慰める話。甘いだけ。
*>>169…いつも怠け者の太宰も、働くときがある。それってどんなとき?
◆中乱(中原中也×江戸川乱歩)
*>>10…中原中也誕生日7日前。甘い誕生日プレゼントの話。
*>>125-127…お誕生日おめでとう乱歩さん(太→乱←中)
◆敦中(中島敦×中原中也)
*>>20…中原中也誕生日3日前。大人と子供のほのぼのカップルです。
*>>58…手前が俺の生きる意味なんだよ。怯えた敦くんと男前中也
*>>205…傷心の子供には、恋人の優しい愛を。
◆芥中(芥川龍之介×中原中也)
*>>55…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!紳士やつがれくん
*>>87-93…鈍感な樋口ちゃんが、芥川先輩が恋人と待ち合わせしているのをみつけて…!?甘めの芥中※R18
◆鴎中(森鴎外×中原中也)
*>>121…7年前、少年はポートマフィアに加入した。首領に与えられたのは、古ぼけた黒帽子と……
◆中也愛され
*>>31…中原中也誕生日0日前。相手は貴方におまかせします
*>>32…皆にひたすら愛される中也くんのお誕生日会のお話。
*>>45…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!(鴎中&敦中)
'19 4/20 設立
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本当にありがとう。
4月20日 一周年ありがとう。
7月24日 閲覧数20000突破
これからもよろしくね。
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- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.194 )
- 日時: 2020/04/20 11:34
- 名前: 枕木
電話を切り、少し時間が流れた。俺も太宰も何も云わなかった。俺は黙って立ち上がり、帽子を手に取った。
「……中也」
そこで、太宰が口を開いた。
「中也」
「ああ」
振り向かずに、首を動かさずに、頷いた。それだけで、俺たちは伝わる。抱き締められた温度で、伝わる。
躰に回された太宰の包帯を辿って、左手に触れた。薬指に、かたい感触。視界の隅で光を放ったそれに安堵して、少しだけ胸の中で目を閉じた。
太宰の意思と、俺のは同じだった。
当たり前といえば、当たり前だった。
表情も姿勢も一切変えずに、薄笑いの首領に口を開いた。
「それは、俺が生んだ損失をこの子で埋めるということですか?」
「そう受け取っても良い。君にはこれから、子を育てるための時間も必要だろう? それを二年あげたとしても、二年半だ。その間、ずっと五大幹部の一席は空いている。ましてや、あの中原中也の席だ。その莫大な空白を埋められる人材が、そう何人もいるとは思えない」
首領からの過大評価も、今は俺を追い詰めた。
受け取ってもいいと仰るが、そう受け取るしかないでしょう?
時間稼ぎの言葉を探していれば、首領が先手を打った。
「それに、君。難産なんだろう?」
思わず息が止まった。首領が口角を更に上げる。
……あの病院は、マフィアの傘下だ。首領に情報がいくのは当然だ。そんなのはいい。
それよりも、首領の笑みを見て一つの可能性に思い当たって、血の気が引いた。否、真逆……
「マフィアが抱える医療部隊[チーム]は、少なくともヨコハマでは最先端の技術をもっている。設備も整っている。残念乍産婦人科という訳ではないけれど、彼らに任せれば安心だろう」
否、真逆。
けれど、俺たちも思わなかった訳じゃねえ。俺と太宰の子だ。出来損ないと云われる子でも善かったが、恐らくそんなことは無いだろう、と。
「それに君、忘れた訳じゃないだろう。君の存在は、荒神を封印する器だ。出産時に何が起こるかも判らない。もしかしたらそれは、赤子の方かもしれない」
もしかしたら、世界を壊す力をもつ子が産まれるんじゃ、と。俺の存在が、正にそれだからだ。
出産には太宰が立ち会うことになっていたが、それも怪しいのかも知れなかった。
首領がここまで期待するのも、俺らと変わらないということだ。首領が、組織の利益になると感じたのなら。
首領は、あらゆる手を遣ってこの子を組織の人間にするだろう。
マフィアの首領が、傘下の病院に、一人の患者への処置を怠れと云うなんて、林檎にナイフを刺すより簡単なことだ。
首領は依然として微笑んだままだった。一方で俺は、頭の中まで真っ白になって、立っているのもやっとだった。
もうマフィアの手が伸びているのなら、逃げ道はないのか。この子を守る手は残っていないのか。
立ちすくむ俺に更に追い打ちをかけるように、幾分か軽くなった口調で首領は云った。
「将来有望な人材の育成という名目なら、五年間、君に子供を育てる時間をあげよう。子供は母親を求めるものだろう? 五才になったら、一緒に出勤してくれば善い。構成員が責任をもって君の子の面倒を見てくれるだろう。その方が、君も安心できるよねえ」
くらりと目眩がして、堪らず顔を伏せた。
……首領は、俺たちの子を完全にマフィアの犬に育て上げる気だ。マフィアに育てられ、マフィアに恩を感じ、マフィアに尽くす、従順な犬。
もう、崖っぷちまで追い込まれた。
「……俺は」
俺はまだ、何も云えていない。予想が甘かった。相手はマフィアの首領だ。本気で手に入れようとするのなら、俺一人で太刀打ちなど。
俺の子、というより、太宰の子だからか。太宰の代わり、否、それ以上の存在になるのかもしれない、この子が。太宰が手に入らないのなら、この子を。そういう事なんだろう。
……太宰と一緒じゃなくて、本当に善かった。
すう、と息を吸い込む。
御免な、未来を奪っちまって。
「俺は、自分が生んだ損失くらい、自分で埋められます」
「ほう」
首領の目が細められる。
御免な。俺と太宰と、三人で暮らす未来を奪っちまって。
「二年半も、かい?」
「いえ。半年」
御免な。
「半年分、頂く筈だった五年間で埋めます」
首領が満足げに笑みを浮かべた。
遣える“であろう”子供を期待して更に五年を潰すより、遣えると判っている俺を五年ほぼ無償でこき遣う方が、利益が上がる。そういう考えもあるだろう。首領の選択肢にもあった筈だ。
「それで善いのかい? 君は。……太宰君も」
紡ぐ筈だった「はい」が喉につっかえた。太宰の、我が子を映像でみつめていたときの、幸せそうな笑顔が脳裏に甦る。太宰が笑う未来とは、程遠いものになるかもしれない。
それでも善かった。
この子には、光の下で生きて欲しいからなァ。
「だざ」バァーン!!
俺の言葉を遮って、勢いよく扉が開いた。驚いて振り返った俺は、思わず目を見開いた。
どうして。手前は此処までだって、云っただろ。あのとき、決意は固めただろ。なんでだよ。
扉を開け放った男がずかずかと部屋へ入ってきて、俺の隣に並んだ。その目は俺を一切映さず、ただ真っ直ぐ、首領を捉えていた。
「私は納得していません。中也の一人よがりです」
「おや、突然の訪問に随分なご挨拶だねえ」
にこりと笑う顔が、みつめあう。思わず喉が鳴った。
「ねえ、太宰君」
「はい、森さん」
太宰、なんで来たんだよ。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.195 )
- 日時: 2020/04/20 15:00
- 名前: 枕木
穏やかな表情で見つめ合う太宰と首領の間に、静かに火花が散った。もう俺は、それを見守るしかねぇ。
先に口を開いたのは、太宰だった。
「単刀直入に云いましょう。私は、マフィアに入れても善いと思っています」
声を出しそうになって、必死で飲み込んだ。
おいおい、そんなの聞いてねぇよ。
その言葉には、流石の首領も驚いたようだった。
「ほう、意外だねえ」
「中也の考えは私と合致している訳ではない。あくまで中也の意見です。ですから、私の意見としては」
太宰の手が伸びてきて、声を出す間もなく肩を引き寄せられた。なんだよ、いきなり……
顔をあげて、はっとする。
いつになく真剣な顔で、太宰は前を見据えていた。
ああ、そうだった。
こいつは一度、俺から離れていった男だ。自分の意志でマフィアを抜けた、元最少年幹部。
こいつは、行くべき先を示した友が在れども、その道を自分で切り開いた。そう、俺が生きる深い闇の底から、光の下へと。
そんな男が父親なら。……それなら、この子の未来は。
我が子をそっと抱き締めた。
「己の道は、己で決めるべきだ」
静かに、太宰はそう云った。
光の下で生きて欲しいという俺の……母親の願いを断ち切って、太宰は……父親は、ただ先を見据えていた。
太宰が俺に回していた手を下ろし、歩を進めた。そして、俺の前に立ち、外套のポケットに両手を入れた。
「十五歳」
太宰は、云い放った。
ただ、その背中をみつめた。
「十五歳になったら、決断させます。己の道を。ポートマフィアに入ると決めたのなら、中也が生んだ損失の倍の利益を生むマフィアに、私と中也が育てます」
「ほう。では、それ以外の道を選んだ場合はどうする気かな?」
「その時は……」
なあ、お前の父親の背中、ひょろくて大分頼りねぇな。
だけど、その分、何もかも見通すような気味悪い眼で、お前のことをきちんと見てるみてぇだから。
「中也と私で、利益を出します。社長にはもう話はつきました」
ポケットから携帯電話を出し、その手をひらりと振った。薬指で輝きがあった。首領は満足げに目を閉じた。
そしてその目を開けたとき、我が子の未来は守られた。
「善いだろう。中也君、育児休暇は?」
「三年、お願いします」
「うん、そうだね。子供が十五歳になるまでは色々融通を効かせたいだろうしねえ」
「はい。有り難う御座います」
太宰の隣に進み出て頭を下げる。下げながら、腹をそっと撫でた。
父親の分も、俺が躰張って守ってやるから。
だから、安心して生まれて来いよ。
話は終わった。もう云うこともねぇ。
「では、これで……」
「あと一つ、森さんに云いたいことが」
驚いて、隣の男の横顔をみつめた。
太宰は、口元に笑みさえ浮かべ首領を見ていた。
他に云うことって、手前、何を……?
「何かな」
「貴方が、何か云ったのでしょう? だから、困ったことになっていましてね」
「何の話だい?」
とぼける態度は、明らかに太宰を面白がっていた。
俺だってそのくらいは判る。積り、通っている病院の話だろ? 俺が今、まだ子供を産めていないのは、何か治療が行き届いていないから。この子をマフィアに入れる為に脅す材料にするから。でもそれなら、話は着いたんだからもう言及する必要も無い筈だ。困ることって、それじゃあ、他に?
「医院長と上の人たちが細工をして、医師には全く伝えられていないのでしょうね。だから私も気付きませんでしたよ」
「ふふ、そうかい」
首領は意味ありげに笑うだけだ。一方で太宰の笑みは少しも笑っていない。否、全く判らない。一体、何が……
戸惑って太宰の横顔をみつめ口を開いた瞬間。
太宰が、云い放った。
「あのエコー写真も診断書も、全て偽物ですね」
…………は?
偽物?
順調に大きくなっていることがわかるエコー写真。元気に育っていますよ、と渡された診断書。男だと書かれていて喜んだ。
じゃあ、あれも全部嘘か?
困ったことって、何だよ。
おい、ふざけんなよ。
「……首領、それは事実ですか」
やっと出た言葉は案外平然としていて、ただ空虚で、何も考えちゃいなかった。
ふいに浮かんだ意味ありげな笑顔が、俺を絶望へと突き落とした。
「さて、どうかな。私では無いかもしれないよ」
嫌な予感は、これだったのかもしれない。首領に我が子の未来を定められる恐怖よりも、その全てが偽りだったという絶望。
いる筈の我が子を抱き締めた。とんとん、と蹴り返す微かな痛みが、唯一の救いだった。
……例え嘘だったとしても、ここに在る。
滅茶苦茶に蹴られる感覚で、やっと立っていられた。少し落ち着いて、太宰の声が耳に入ってきた。
「……ら、本当に困るんですよ」
「そうかい? そんなに困ることかな」
「はい。なんて云ったって……」
続いた言葉に、耳を疑った。
「ベビー服を、全てお揃いで二着ずつ揃えなくてはいけない。もう買ってあるんですよ、どうしてくれるんですか」
…………は?
「は?」
先刻から立て続けで目が回って、処理が追い付かなかった。
どういうことだ、それ。
太宰が、ふっと気が付いたように、嗚呼、と俺を見た。そして、顔をしかめて、親指で首領を指した。
「信じられる? あの人、中也に子供をマフィアに入れるって約束させて、二人ともゲットする積りだったんだよ。一人渡す、じゃなくて、子供を渡す、と云っただろうって云ってさ」
「……は? 二人って……」
太宰は呆れたように肩をすくめた。
「ね、そうなるでしょ? 私も吃驚したよ。そんなことの為に……
中也のお腹にいるのは一卵双生児だってこと、隠させてたんだよ」
時が止まったように感じた。
何度もその言葉を繰り返した。
一卵双生児。……双子。
この子は……双子。
大きく膨らんだ腹を撫でた。
二人いるのか、此処に。
それなら、悪いことしたなァ。
お前じゃなくて、お前らって呼ぶべきだった。
「ほら、これ。本当のエコー写真、医院長がくれたから」
「太宰君、日本語は正しく遣おうね。くれた、じゃないでしょう。脅したよねえ、君」
首領を嫌そうな顔で無視して、今度は右ポケットから一枚の写真を取り出して、手渡してきた。
その写真に、釘付けになった。
我が子の影が写っている。手足を丸めた人間の形をしている、その子は、その子たちは、確かに二人、俺の腹の中に居た。
「……二人」
「うん」
顔を上げれば、夫の優しい笑顔があった。堪らなくなって、額をその胸につける。
「っ……」
「うん、ねえ、中也」
躰に回された手が、そっと子供たちを撫でた。
「嬉しいね」
「っ……莫迦、二人も育てるの、どれだけ……っ」
「はは、そうだねえ。でも、大丈夫。二人で頑張ろう。大丈夫だよ、二人とも、元気に産まれてきてくれるから。だってさ、何て云ったって、」
左手が重なった。頭上から優しい声が降ってきた。
「私たちの子供たちだもの」
ああ、本当に。
本当に、俺は。
俺は、待ってるからな。
二人揃って、元気に泣いて産まれてこいよ。
「ああ……そうだな」
顔をあげて笑い合った。はっと気が付いて向きを変えれば、首領が呆れたように笑った。っ〜〜……やっちまった……
「お見苦しいところを……」
「まあ、今回は善いよ。確かに傘下の病院が君の診察にあたって細工をしたのは事実だからねえ」
「だから、貴方がやったんでしょう」
「さてさて、それは。ふふ。もう下がりなさい。産まれたら顔を出すよ」
「結構ですけど」
「もう、そんな顔をしないでおくれよ、太宰君〜」
露骨だなァ、太宰も。
と笑っていて。
ふいに、突然、それはきた。
「っ……!?」
ずくん、と躰の内側が大きく脈打つような感覚。目眩がして床に膝をつけば、躰の奥から激痛が走り、声をあげた。
「中也!」
叫ぶ太宰の声。駆け寄ってくる首領の靴音。また、ずくん、と激痛が走った。脂汗が浮かび、躰が冷たくなる。また、ずくん。
嗚呼……そうか。
お前ら、もう、俺の腹の中は厭きたよな。
もう、外に出て暴れてぇよな。
「森さん、医療部隊[チーム]は直ぐに呼べるの」
「問題無いよ。おや、外が……」
「太宰! 遅かったかい!?」
「いえ。今始まったところです。敦君、そのストレッチャーを……嗚呼、芥川君も来たの。じゃあ二人で持って」
「何故こやつと……否、致し方ない」
「そうだよ、お前の大事な先輩だろ! ほら、中也さん、大丈夫ですか……」
「太宰、お湯を持って来られるかい……」
一定時間をおいて何度も来る激痛に霞む意識。その遠くで、沢山の声と足音がした。
お前らのことは、俺が守るからな。
そう誓った俺を、何か沢山のものが守っていた。
今にも飛びそうな意識を何とか保っていられたのは、ふいに浮かんだ名前を、呼び続けていたからだった。
なあ、これがお前らの名前だ。
早く、呼ばせろよ。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.198 )
- 日時: 2020/04/20 18:05
- 名前: 枕木
命を育むことのできる器をもっているとはいえ、躰は普通の男だ。生まれて初めての陣痛に耐えられる女の躰は持ち合わせていなかった。
運ばれながら、ただただ激痛に襲われる。繰り返し繰り返し訪れる波の狭間で、幾度も意識が溺れかけた。けれどその度に、頬を叩かれて連れ戻された。
ぼんやりと目を開ければ、それは、
「しっかりするんじゃ、中也! 私はそんなひ弱な男に育てておらぬ!!」
と叱咤しつつも目に涙を浮かべる姐さんだったり、
「頑張んな! 今、アンタの子も一生懸命産まれようとしてンだよ!」
と鬼の形相をする探偵社の女医だったりした。
女は、強ぇな。
否、俺も姐さんに育てて貰ったんだ。強いに決まってる。そして、お前らも俺の子だ。そうだよな、お前らも生きようとしてんだ。俺も。
「中也さん、着きましたよ!」
「おい人虎、揺らすな。中也さんの躰に障るだろう」
消えかける意識を必死で保ちながら目を開ければ、眩い光と、マスクに手袋をつけた女や男が見えた。躰が持ち上げられ、大きな椅子に乗せられる。背もたれがぐっと倒され、天井を見上げた。バタン、と扉の閉まる音がして、突然、周りで聞こえていた声援や足音がなくなり、静寂に包まれた。「失礼しますね」と声がして、下着ごと脱がされる。足を開かされ、けれど寒さも感じられぬほど、痛みは強くなっていた。
「頑張って。もう大分開いていますからね。あともう少しですよ」
痛い、痛い、痛い、痛い。
うめいて、声をあげて、手に触れた肘掛けを必死で掴んだ。手袋の感触が無いと気付けるほど、理性は残っていなかった。息をするのもやっとで、「呼吸して。はい、すぅー……はぁー……」と声をかけられ、必死で呼吸をした。
「ぐっ……あああ……っ!!」
突然一際大きい波がきて、頭痛と共に激痛が走る。
その瞬間、必死に堪えていた一線がぶつりと切れた。掴んでいた右の肘掛けがバキッと嫌な音をさせて、俺の手の中で粉々になった。
「ああ……ぐああ……ああああああ……!!」
「抑えて! っ、堪えて! 頑張って!」
がく、がく、と躰が震える。けれど激痛は収まらなくて、怒りのような感情が燃え上がる。
「開いた! もう、出てきますよ! 頑張って!!」
叫ぶように言う医師の声が、遠ざかる。肘掛けが、左手の中でミシリと軋む。
痛ぇ……終わらせてぇよ。
でも、お前らが俺の元に来ようとしてんだ。
でも、もう。
否、もっと。
今にも押し勝とうとする衝動が、肘掛けを更に軋ませる。
ああ……もう。
嫌な音がして、掴むものの無くなった俺の左手が……
掴まれた。
「中也!!」
見知った声だ。
すうっと燃え上がっていた衝動が落ち着いてゆく。静かな意識で目を開ければ、俺の左手を両手で包み込んだ夫が、泣き出すんじゃねぇかと心配になる顔で、俺を見下ろしていた。
ひゅう、と息を吸い込んで、掠れた声で呼んだ。
「だざい……」
太宰は頷いて、ぎゅっと俺の左手を握り直した。
「中也。もうすぐ会えるよ。頑張ろう」
小さく、首を動かす。太宰は笑みを浮かべた。
ぐいっと更に足を開かされる。足の間に顔を埋めた男の医師が、「見えた!」と叫んだ。
生まれようとする意志が、圧迫感と痛みを伴って、迫ってくるのを感じた。
「頭が出ますよ! いきんで!」
「ひっ、ふっ、ふっ、」
「そう、その調子! 頑張って、もう少し!」
「中也……」
痛みを堪えきれなくて、太宰の手を握り締めた。
嗚呼、いってぇなぁ、コラ。
何時か、この痛みをお前らに伝える日が来るんだろうなァ。
「いきんで! もう少し!」
「ひっ、ひっ……ふぅ、ふ、ああ、あああ! ぐぁあああぁぁぁ……!」
「出た! 頭! もう一踏ん張り!」
ぐっと下半身に力を込める。
「中也……」
「ぎっ……ぐ、あ、う、うぅ、ぐ、う、ひっ」
手を、思いきり握り締めた。
「いきんで!!」
「中也!」
「ぎっ……ああああぁあぁぁ……!!」
お前らが必死に、生まれて来ようとしている。医師らも額に汗を浮かべて、お前らを助けようとしている。此処まで、沢山の声や手が支えてくれた。
そして、太宰がお前らの未来を躰張って守った。俺が一年間、腹の中で育ててきた。何時もお前らと会える日を、太宰と、全員で過ごす日々を祈って、命をかけて守ってきた。
なあ、絶対ェ守るから。
お前らの未来も、全部。
だから、来い。俺と、治の元に。
「中也、最後だよ。息吸って……いきんで!」
元気に、生まれてこい。
「う、ぐ、あああぁぁぁぁあああぁぁぁ!! 〜〜〜っ、〜〜っ!!」
ずっと腹の中にあった温かさが……消える。代わりに聞こえたのは、手際よく俺との繋がりを切る音が四回。そして、ばしゃばしゃとお湯がかけられる音。
もう親しみさえ感じていた痛みが消え、静寂が訪れる。
その静寂を打ち破ったのは、
「うぅ……」
小さな、うめき声。
そして、間髪入れずに、響く。
「おぎゃぁぁぁあああ!! おぎゃあああぁぁぁ!!!」
「ひっ、うっ……おぎゃぁああ!おぎゃあああぁぁぁぁぁ!!」
それは、二人分の産声だった。
二人が、初めて声をあげた瞬間だった。
「中也……!!」
「お目出度うございます!」
ぼやけていた視界が、頬を熱い雫が伝うと共に、泣きそうに笑う太宰の顔で一杯になった。
「元気な双子の男の子ですよ!」
太宰がそっと身を引いた。もう力の残っていない手を、太宰の手が引く。すると喧しい泣き声が近づいてきて……
目の前に、真っ赤な顔を皺くちゃにして、歯のない口を大きく開けて泣き喚く、赤ん坊が二人、やって来た。
「抱いてあげて。君の子供たちだよ」
太宰が、引いた手をそっと離した。
俺は、微かに震える手を、伸ばした。
両手で二人の頬に触れれば、「えっぐ……」としゃくりあげて、泣き声が止んだ。
柔らかい頬は、林檎のように熟れていて。
その温かさに触れてしまえば、声が掠れているのを、自覚していても。
名前を、呼んだ。
すると、二人はそれに返事をするように、ぱちっと目を開けた。
息を飲むような、澄みきった、
青色と鳶色が、俺をみつめるように開いていた。
涙を呑み込むのに必死な俺の胸に、二人はそっとやってきた。
まだ世界に慣れていない四つの瞳は俺の顔を見上げるように見えて、涙は意地でも呑み込んだ。
もう一度、二人の名前を呟いた。
二人は、それに応えるように、今度は顔を皺くちゃにして、泣き出した。
俺たちにも泣かせろよ、と笑うのは俺と太宰の声で、本当に喧しく、二人の泣き声が響いた。
けれど、その声と胸の中の熱さは、ずっと待っていた、何よりも愛しく大切なもの。
ぎゅうっと抱き締めれば、苦しいと抗議するように、全力で暴れた。太宰が笑い、扉の外で歓声があがった。
頬を伝うそれは、言葉じゃ云い表せねぇ。けれどそれは紛れもなく、お前らに溢れ堕ちた、
母親の涙だった。
- Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.199 )
- 日時: 2020/04/20 18:07
- 名前: 枕木
ありがとな。
生まれてきてくれて。元気で生まれてきてくれて。
ありがとう。
私たちを、親にしてくれて。家族にしてくれて。
一生忘れられねぇよ。
忘れる訳がないでしょ。
それは、一生消えない汚れも浄化され、人間を辞めた人間さえ許されるような、
そんな、輝きに満ちた春の日だった。
治輝、春也。
それが、お前らが生まれた日。
俺たちが、私たちが、
家族になった日だ。
二〇二〇年四月二十日十八時七分
太中家族計画、成功
期間、三百六十五日
応援ありがとうございました。
えんど
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