大人二次小説(BLGL・二次15禁)

【文スト】太中R18*中也受け 他
日時: 2021/03/15 14:08
名前: 枕木

おはようございます。
…お久しぶりです。


ようこそ、初めまして。

此方は文ストのBL二次創作になります。色々書いてます。
R18、時々ぶっこみます。
涙脆すぎる中也とやたら微笑む太宰と可愛くない敦と芥川がいます。

ともかく、何でも許せる広大な心の方は、どうぞごゆっくり。

リクエスト・感想・アドバイス随時受け付けております。良かったら下さい。お願いします。
リクエストに関しては、扱っているcpのものならシチュとかR指定とか何でもokです(`・ω・´)

ご案内

◆太中(太宰治×中原中也)
*>>37…今朝、私が死んだようです
*>>39-43…お薬でにょた化。あまあまとろとろ、コミカル太中※R18
*>>47>>50-54…ぬこ耳中也の付き合って半年の甘々カップル※R18
*>>56…やけに喉の渇く土曜日だった。
>>61…閲覧1000記念、人生初の太中を起こしてみました。
*>>64-65…セックスレスの危機!?最終的にバカップルのエロ太中※R18
*>>72-85…17の、“相棒”である二人が10センチの手錠で繋がれる話。もどかしい思春期の行方は…※R18
*>>98…お祭りの夜の雰囲気って、なんとなく現実離れした雰囲気がありますよね
*>>102…疲れきって自宅のドアを開けるとき、真っ先に思い浮かんだ人が一番大切な人ですよ。
*>>116…『なみだ、あふれるな』『汚れつちまつた悲しみに…』
*>>119…ぐちゃぐちゃ、どろどろ ※他サイトより自身過去作転載、許可有
>>130…百年後、空に青鯖が浮かんだなら。
*>>140…雨の音、君の声、恋の温度。雨ノ日太中小噺※雰囲気R18
*>>147-153>>158-161…鳥籠の中で美しく鳴く鳥は紅葉の舞う小さな世界をみつめるばかり…さしのべられた手は、包帯に巻かれていた※遊郭パロR18
*>>167-168…ホワイトクリスマスの奇跡に、君へ愛を贈ろう。
*>>173…君へのキモチのかくれんぼ
*>>174…中也はさ、雨と晴れ、どっちが好き?
>>198…全部、この日が悪いんだ。中原中也生誕記念
*>>199…空っぽの心臓

【太中家族計画シリーズ】
*>>1…太宰さんが中也にプロポーズする話。ちょっと女々しい中也くんがいます。
*>>6-9…プロポーズ(>>1)のちょっと前の話。複雑な関係になった二人の馴れ初め。
*>>11-12…中原中也誕生日6日前。プロポーズ(>>1)の直後。甘くて優しい初夜の話。※R18
*>>14-15…中原中也誕生日5日前。初夜(↑)の翌朝。初めて迎えた、愛しい朝の話。
*>>16-19…中原中也誕生日4日前。素直になれない中也がちょっとこじらせちゃった甘い話。※R18
*>>22-26…中原中也誕生日2日前。手前の愛に触れさせろよ。真逆の修羅場!?※R18
*>>28-29…中原中也誕生日1日前。更に家族になった二人の幸せな話。
*>>34-35…妊娠初期の中也くんと心配性の太宰さんの話。つわり表現があります
>>60>>62-63>>67-70…太宰さん誕生日おめでとう。
*>>112…家族になっていく、幸せの話。
*>>144,>>163…早く君に会いたいよ。まだ二人の日々の1ページ。
*>>172…来年も再来年も、末永くよろしく。年越しの太宰家
>>192-196…生まれてきてくれてありがとう。幸せのフィナーレです。

◆太乱(太宰治×江戸川乱歩)
*>>2-4…ツンデレ名探偵と太宰さんの相思相愛。お互いの好きな所ってなあに?※フェラ有
*>>36…疲れて泣いちゃった乱歩さんを太宰さんが慰める話。甘いだけ。
*>>169…いつも怠け者の太宰も、働くときがある。それってどんなとき?

◆中乱(中原中也×江戸川乱歩)
*>>10…中原中也誕生日7日前。甘い誕生日プレゼントの話。

*>>125-127…お誕生日おめでとう乱歩さん(太→乱←中)

◆敦中(中島敦×中原中也)
*>>20…中原中也誕生日3日前。大人と子供のほのぼのカップルです。
*>>58…手前が俺の生きる意味なんだよ。怯えた敦くんと男前中也
*>>205…傷心の子供には、恋人の優しい愛を。

◆芥中(芥川龍之介×中原中也)
*>>55…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!紳士やつがれくん
*>>87-93…鈍感な樋口ちゃんが、芥川先輩が恋人と待ち合わせしているのをみつけて…!?甘めの芥中※R18

◆鴎中(森鴎外×中原中也)
*>>121…7年前、少年はポートマフィアに加入した。首領に与えられたのは、古ぼけた黒帽子と……

◆中也愛され
>>31…中原中也誕生日0日前。相手は貴方におまかせします
*>>32…皆にひたすら愛される中也くんのお誕生日会のお話。
*>>45…中也くんに壁ドンして告白してみたよ!(鴎中&敦中)


'19 4/20 設立
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祝6/10 閲覧数1000 thanks!
祝7/27 閲覧数2000 thanks!!
祝8/20 レス100達成!!
祝9/6 閲覧数3000 thanks!!!
祝10/7 閲覧数4000 thanks!!!!
祝10/26 閲覧数5000 thanks!!!!!
祝11/14 閲覧数6000 thanks!!!!!!
祝12/6 閲覧数7000 thanks!!!!!!!
祝12/30 閲覧数8000 thanks!!!!!!!!
'20
祝1/28 閲覧数9000thanks!!!!!!!!!

2月22日 閲覧数10000突破
本当にありがとう。

4月20日 一周年ありがとう。

7月24日 閲覧数20000突破
これからもよろしくね。

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Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.170 )
日時: 2019/12/29 19:37
名前: 枕木

太宰×乱歩


太宰治が働くとき。
それは、とても稀だが、あるにはある。それも、働くに至る条件がある。それは極めて特殊で、ある1つに絞られる。しかし、時刻は大体決まっているが、日付はまちまち。1週間空くこともあれば、4日連続で発生することもある。そして、太宰が働くことで何かを得られる人は、条件を起こしたそれに限る。

が、一言に云ってしまえばそれは非常に判りやすい。この上なく単純明快。

「あー、これでお菓子最後だなあ……ねえ太宰お願い。僕がこのスナック菓子食べ終わるまでにこのメモに書いてある洋菓子全部買ってきて?」
「了解です♪ 行ってきますね♪♪」

そう。ただの彼氏莫迦、略してカレバカである。

太宰が働く条件はただ1つ。

それは、江戸川乱歩の「ねえお願い」である。

*  *  *

乱歩から買ってくるもののリストを貰った太宰は、いまだかつて無い程の速さで扉を出ていった。何時もの喋る粗大ごみっぷりは遠く宇宙の彼方まで飛んでいってしまったようだった。

事務所内にいた国木田は嬉々として太宰が出ていった扉を眺め溜め息をつき、敦はそんな国木田を見て、あは……と苦笑いした。乱歩は平然と机の上でスナック菓子を食べている。

「何時もあの行動力を自らの仕事へ回していれば何れだけ此方が助かるか知れないな……」

キーボードを打つ手は休めずにぼやく国木田の前に資料を積み、それらを整頓しながら、敦は笑った。

「それじゃあ、乱歩さんに頼んで貰って仕事して貰いましょうよ。きっと凄い早さで仕上がりますよ」
「ねえ〜、だざい〜! おしごとして〜♪」

乱歩がノリ良く裏声で云うと、敦は噴き出し、国木田の眼鏡はずり下がった。乱歩はにやっと笑って、くわえたスナック菓子を口の中に引き込んだ。

「あはは、絶対効きますよ、それ! 太宰さん帰ってきたらやってみて下さいよ」
「ま、まあ、それで本当に効果があるか試すだけなら、やって頂いても……」
「ふふん。まあ、考えてあげてもいいよ? 社の為だと思えばね」
「す、凄い、乱歩さん、ちゃんと探偵社のことを考えて……」
「だって、太宰が僕の分まで働いてくれたら僕が楽になるじゃない」

屈託なく笑ってさらりと云う乱歩に、敦は、ですよね〜と口の端をひきつらせた。乱歩は不敵な笑みを浮かべ、自分の頭を指さす。

「で、僕のこの天才的頭脳を休ませる時間が増えれば、事件解決も早くなる。非常に合理的だよね」

国木田は乱歩さんらしいな、と顔を綻ばせ画面に集中し直そうとしたが、ふと気がついたように手を止め、乱歩を振り返った。

「そういえば乱歩さん、以前一度だけ太宰が乱歩さんの頼みを聞かないことがあったって仰っていましたよね」

乱歩は僅かに糸目を開き国木田を見ると、サク、と小気味の良い音をたててスナック菓子を食べた。乱歩は国木田に云われ思い出すように宙に視線をさ迷わせたが、勿論乱歩の記憶力は絶対的なもの。乱歩にしては珍しく、どう話そうか考える時間稼ぎだった。そしてその焦点を国木田に合わせ乱歩が云った台詞は、「そういえばそんなこともあったね」だ。敦は首をかしげた。

「どうして太宰さん、聞かなかったんですか?」
「どうしてだと思う?」

敦の質問は予想してたとばかりに乱歩が直ぐ様聞き返す。敦はばらばらになっている資料を順番に重ね直してホチキスで留めながら、少し考え込み、あ、と声をあげた。

「乱歩さんの頼み事が、もう女性を口説くなっていうものだったから、とか」
「残念。前に面白半分で云ってみたことがあるけれど、彼は快く承諾したからね」
「違うんですか……? え、乱歩さんは太宰さんのああいう行為に嫉妬したりとか……」
「するわけないでしょ。僕はそういうのには全く興味がないからね」

と切り捨てた乱歩だったが、内心赤面していた。いや、内心ではなく、頬がほんのり紅く染まっている。
以前乱歩は、暇潰しを探していて太宰を見つけて、丁度いいとばかりに云ってみたのだ。「ねえお願い、太宰。もう女性を口説くのはやめてよ」反応を見てみたかっただけだった。しかし太宰は予想に反して、驚いた顔もせずにっこり笑い、

「乱歩さんがそう望むのなら、仰せのままに」

と返した。その笑顔と台詞に驚き硬直してしまった乱歩だったが、直ぐにハッとし、慌てて「莫迦だ君は。冗談だよ」と取り繕ったが、太宰は意味ありげに微笑んでいた。

しかし、それなら、そんな頼みも聞き入れる太宰が断った乱歩の頼み事とは何なのか。益々気になった敦は、乱歩に詰め寄り身を乗り出して云った。

「答え、お願いします乱歩さん!」

敦の純粋な目に当てられ、乱歩は1つ息をつくと、袋を高く持ち上げ袋を逆さにし、大きく開けた口の中にスナック菓子の残りかすを全て入れた。それをもぐもぐ動かし、敦に一寸待って、と片手をつきつけた。しかしそれは、ただの手のひらではない。五本指だ。広げられた指が、折り曲げられていく。国木田はいぶかしげに目を細め、敦は首をかしげたが、何かに気づいたようで後ろ……扉の方を振り向いた。虎の敏感な五感である。

5、4、3、2、1。

バアン!
ゴクンッ

事務所の扉が勢い良く開くのと乱歩がスナック菓子を飲み下すのは、全く同じタイミングだった。

「はぁ、はぁ、はぁ……ま、にあいました、よね、らん、ぽさん……」

本当に珍しいことに、太宰が扉に手をついて躰を支え、激しく肩で息をしていた。もう片方の手で小脇に大きな紙袋をかかえている。乱歩は空になったスナック菓子の袋をごみ箱に放り、ケタケタと笑った。

「おお、ご苦労だったねぇ。中々できるようになったじゃないか。間に合ってはないけどね」
「ええ〜? 絶対私の方が早かったですよ〜?」

唇は尖らせながらも、声は全く尖っていない、どころか、間延びして、甘くて、でれでれだ。乱歩に叱咤されることに快楽を感じるマゾのようにも見える。それならかなり危険である。

太宰が鼻唄を歌いながら、乱歩の前に紙袋から次々に洋菓子の箱を取り出して重ねていくのを見て、敦は恐る恐る訪ねてみた。

「太宰さん……乱歩さんに、幾つお菓子頼まれたんですか?」

太宰は敦に振り向き、さらりと云い放った。

「十四」
「十四!?」
「あ、因みにこのロールケーキとチーズケーキ、カステラはお店指定したよ」
「ええ……」

それをこの短時間でこなしたのだ、見事しか云いようがない。国木田の云う通り、その才能を仕事に活かせば戦争の1つや2つ1日で終わらせられるだろう。

「はい、乱歩さん、これお土産のマカロンです」
「わあ、マカロン!! 気が利くじゃないか太宰」

目を輝かせ紙袋の中を覗き込む乱歩を見て幸せそうに微笑んだあと、太宰は笑顔で後ろを振り返った。

「探偵社全員の分も買ってきたから、社長も連れてきてお茶にしようよ」
「え!? 本当ですか!? やったぁ♪」
「まあ、休憩も悪くはないな。社長を呼んでくる」

そうして、やんややんやとする内に、敦がした質問の答えは出されないままになってしまった。

乱歩はマカロンを頬張りながら、こっそりと太宰を盗み見た。太宰は春野が淹れた紅茶を飲んでいたが、直ぐに気がついて、乱歩に微笑みかけてみせた。乱歩は赤面して、ぷいっと顔を逸らせた。


乱歩が太宰に一度だけ断られた頼み事。
それは、ある年の誕生日、したお願い。

乱歩は以前太宰に渡された指輪を太宰に差し出して、にっこり笑って云った。

「ねえお願い。僕と別れてよ」

僕とこのまま一緒にいたら、待っているのは破滅じゃないか。僕を守れるほど、君は強くないのだから。ねえ太宰。幸せになりたいでしょ? 人間だもの。

そんな心の声さえ聞き取って、太宰は黙り込んだ。じっと、ただ静かにじっと、乱歩をみつめていた。

乱歩はずっと笑顔だった。けれど、その無理矢理引き上げていた口の端が痙攣して、頬がピクリと動いた。
それを合図にして、乱歩は顔を歪めた。八の字に下がった眉、震える唇を噛み締めた口。そして、痙攣していた頬を、涙が伝い落ちた。

太宰が成人した誕生日のことだった。

「……乱歩さん」

嗚咽の止まらないうつ向いた乱歩の頬を、すっと撫でた。乱歩は顔をあげなかったが、ひっく、としゃくりあげた。太宰は泣きそうな顔で笑った。

「その頼みだけは、聞けませんよ」
「……ど、うして? 簡単、だろ」

幸せになってほしい。そんな乱歩の健気な願い事を、太宰は頑として聞き入れない。
何故なら、太宰には働く理由があるから。それがないのなら、決して働かない。そう心に決めていた。

太宰は乱歩の躰を引き寄せて抱き締めた。そして、その耳元で囁いた。

「乱歩さん、私はね____」



幸せそうにマカロンを頬張る敦や、楽しげに漫談しながらお茶を飲む国木田たちを横目に、太宰は乱歩に歩み寄った。その手には黄色のマカロンが摘ままれている。乱歩は無視をきめこんでいたが、「らーんっぽさん」と呼ばれると、渋々振り向いた。太宰はその口に直ぐ様マカロンを押し込んだ。

「ふっ!? ひょ、ふぁふぁい……!」
「ふふふ♪」

にこにこ笑う太宰に吐息をつきつつ、乱歩はマカロンを噛み締める。予想できていたとはいえ口に無理矢理押し込まれたことで不機嫌になっていた顔が、噛む内に綻んでいって、最後には幸せそうに飲み込んだ。満足そうに指をペロリと舐めてから、その様子をにこにこして見ていた太宰にハッとし、「いや、ちが……」と弁解をしようとする。けれど太宰はそれを遮って、云った。

「喜んでくれましたか? 乱歩さん」

乱歩は太宰の顔をじっとみつめて、けれど何も云わずに、あ、と口を開けた。太宰は少し驚いた顔をしたあと嬉しそうに微笑んで、今度は桃色のマカロンをその口に入れた。ほんのり紅く染まった頬をもぐもぐ動かすのをみつめて、太宰は呟いた。

「働いた甲斐がありましたよ」

乱歩はしばらく何も喋らなかったが、やがて、ぽつりと云った。

「……いい仕事したんじゃないの、太宰」
「ッ♪♪ ありがとうございます♪♪」

嬉しそうに乱歩の足にかじりつく姿は、まるで主人に誉められてはしゃぐ犬のようだった。敦や国木田は、顔を見合わせ苦笑した。そして、「乱歩さん、もう一ついかがですか?」と箱を持って駆け寄っていった。


今日も賑やかな探偵社。かつて一人ぼっちだった少年はもうどこにもいない。

ねえ乱歩さん。私はね、

あなたを幸せにしたいんですよ。
私も幸せになれるから。

だから乱歩さん、泣かないでください。あなたの願いは、私が叶えてあげるから。だから乱歩さん、私からのお願いです。

「うーん、水色も捨てがたいねえ……」
「緑色も美味しかったですよ!」
「俺は赤だな」
「よし決めた、全部!」
「「ええええ〜〜!?」」

悪戯っ子のように笑う乱歩に、太宰は心の中で呟いた。


お願いです。
どうか、笑っていてください。


太宰は優しく微笑んで、青色のマカロンを口に放り込んだ。


太宰が働く理由はただ一つ。

それは、恋人が喜んでくれるから。

愛する人の笑顔を、守るため。
太宰は今日も、ヨコハマを駆け回るのだった。



えんど

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.171 )
日時: 2020/01/18 17:36
名前: 枕木

午後三時。万年筆を走らせる手が丁度疲れてきたので、一度休憩するか、と伸びをしたとき。机の角に置いた携帯が振動した。電源をつけてみて、驚いた。

『相談したいことが有ります故、つきましては本日午後八時下記の飲食店へ来てくださりますよう、お願い申し上げます』

やけに丁寧な文面でメールを送ってきたのは、黒獣を操る生意気な後輩だった。

珍しいな、彼奴がメールなんて……否、それ以上に相談があるとか食事に誘ってくるとか、何の前兆だこれ? つうか、食事に誘うくらい口で云えよ! 同じ職場なんだからよ〜……

否、と携帯を閉じて、組んだ両手の上に顎を乗せ机に肘をついた。考え事をするときはこれが落ち着く。

それくらい、芥川にとっちゃ云いにくい、深刻な相談ってことかもしれねェ。それも、太宰じゃなくて俺に……。ん? もしかして、太宰のことで相談か……? 有り得る……よなァ。彼奴、俺のことを太宰の何だと思ってんのか知んねェけどたまーに太宰のことについて訊いてくるもんな。太宰の友好関係とか経歴とかそういうやつ。俺が知るかっての!ついでみたいに「では中也さんは如何なのですか」って莫迦にしてんのか彼奴……!!

なーんか腹立ってきたな……太宰の話題だったら直ぐ帰ってやる。もしそういうことになったら、芥川が指定してきた店じゃ勿体ねェよな……。

よし、と呟いて、携帯電話を手に取った。どうせ明日は休日だ。緊急事態で呼び出されることも有り得るから、なるべく早く帰って寝てェし、いいよな。

『判った。いいぜ。だが、手前の指定した店は性に合わねェ。つーことで、俺の家来い。六時には此処出るから、地下駐車場で待っとけ』

二人きりの方が腹割って話し易いし、帰り車乗せてきゃいい話だし、これで解決だな。

俺はそのまま送信して、携帯電話を伏せた。んじゃ、早くこの書類書き終わらせらせねえとな。万年筆を手に取り、作業を再開した。


……うん、云うな、云うな。判ってる。判ってんだって。このときの俺がどれだけ軽率だったか、この選択が後の人生をどれだけ変えたか、なんてよ……

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.172 )
日時: 2019/12/31 19:53
名前: 枕木

ドアがノックされる音で、ぷつっと集中力が切れた。机の上を見てみれば、ほぼ無心でやっていたからか、積み重なっていた書類が粗方終わっている。少なくとも、今日提出する分はとっくに終わっていた。我ながらすげェな、何時間やってたんだ?

「あの……中原幹部?」

ああ、六時に書類取りに来いって云ってあったもんな。時間通り……って、は!? 八時!?
携帯電話のディスプレイに表示された時刻を見て唖然としていると、失礼します、と部下が入ってきた。なぁに平然としてんだよ!

「オイコラ手前ェ……」
「は、はいっ!」

地を這うような声で云えば、部下はびくっとした。そんなんでマフィアやってけるかってんだよ!!

「俺は六時に取りに来いって云ったよなァ……?」
「え、ええ、最初は」
「いま何時だと思ってやが……ん? ……最初は?」

ひっかかった言葉を聞き返すと、部下は不思議そうな顔で瞬きした。

「六時に此方へ伺った時、中原幹部はあと二時間やらせろって……」

……は?
俺が? 云った? あと二時間待てって?
云われてみて嫌な予感がし、記憶をまさぐる。そこで、ぴんとくるものがあって、背中を冷や汗が流れた。

……嗚呼、そういや云ったな。あと五枚くらいやれば八割方終わるところだったから、もう少しやりてェなって……

俺は、部下の肩にぽん、と手を置いた。部下は少し膝を曲げて屈み、俺と目線を揃えた。……変なところで気ィ遣うんじゃねェよバーカ!!
けれど殴りたい衝動はぐっと抑え、苦々しく口を開いた。

「ッ……わ、るかった」
「いえ」

部下はすっと無表情になり云う。頬がぴくっと動くのが判った。こめかみに血管が浮き上がるのを感じた。

「笑ってんじゃねェぞコラ……」
「す、すみません……っ。書類を頂きますね……っ」

笑いを堪えつつ書類を束ねる部下の背中に、飛び蹴りをかましてやった。
部下の肩に手置こうとして背伸びする上司を莫迦にするとか許さねェからな!!


「では、届けておきますね」
「おう」
「嗚呼、そういえば、芥川さんから託けを預かっています」
「芥川ァ?」

何も考えずに聞き返すと、部下は苦笑した。

「中原幹部が仰ったんですよ。『あと二時間待ってろって、芥川にも伝えとけ』と」

あー、そういや云ったなー。
つかその無駄に上手い物真似やめろな。

「それで、芥川はなんだって?」
「『車の前で待たせてもらいます』と」

そこで消え去っていた今日一日の記憶が蘇った。サッと血の気が引くのを感じたあと、吃驚した顔の部下の頭上を飛び越えて廊下に出て、全速力で地下駐車場へ向かった。

*  *  *

階段を飛びとばして、駆け降りる。否、普通帰るだろ。二時間だぞ? でも……彼奴、変に生真面目っつうか。確認だけだ、確認だけ……そう云い聞かせながらも、芥川は待ってる、この寒ィ中俺の車の前で直立不動で待ってる、という確信があった。だからこそ、こんなに必死で走ってんだよ。
警備についていた構成員の、俺の勢いに気圧されたような「ぅお疲れ様です……」を押し退け、地下駐車場への扉を開け放った。そして、つい十七日前に駐車した自分の車の元へ走る。柱の角を出て……嗚呼。

「芥川!!」

堪らず叫ぶと、黒外套に身を包み、俺の車をじっと見つめるようにして片手で口元を覆う形で立っていた男が、顔だけ振り向いた。相変わらず顔色悪ィ無表情だなァ……って、否寒ィのか。
芥川の真正面までくると、勢いを弱めて息を整えた。芥川は、息を切らす先輩を不思議そうにみつめているようだった。あー、そういや何で俺こんな必死なんだか。

「わ、りィ、芥川……待たせちまって……」
「否、事前に聞いていました故……」
「そういう問題じゃねェだろ! 手前何時から待って」
「十六時からですが」
「はぁ!?」

四時間かよ……

余りの長さに声を出せないでいると、芥川は首をかしげた。

「貴方がそこまで責任を感じる必要は皆無です。太宰さんに上司と待ち合わせをするときは約束の二時間前にその場所にいろと教わりました故」

なに教えてんだ彼奴……
あの憎ったらしい笑顔がちらつき、苛つくより先に、この当然だろうとばかりに平然と立つ男が哀れに思われ、溜め息が出た。

「あー……おう。そうか。……まあ、とにかく車乗れ。家までそんなかからねェから」

パンツのポケットから車のキーを出しつつ云うと、芥川は黙って頷いた。

*  *  *

「そういや、自分の車に誰か乗せたの初めてだな」

芥川と二人きりというのは珍しいことでもないから、この沈黙の空間が気まずくなることはない。けれど、ふっと思い付いた瞬間、口に出していた。ちらっと助手席を盗み見ると、芥川は俺から顔を逸らすようにして窓の外を見ていた。苦笑して、前を向き直す。そりゃそうだよなァ。男に云われて嬉しい台詞でもねェ。なあに云ってんだか、俺。

また暫く沈黙が続く。目的地が近くなり、芥川でも飲める酒あったか? と考え始めた頃、隣で口を開く気配がした。お、来るか? と覚悟してから一拍置いて、息が吐かれる。

「太宰さんを、この車に乗せた事は無いのですか」
「はぁ? 太宰ィ?」

予想外の質問に、すっとんきょうな声が出た。ハンドルを切りそうになったほどだ。まあしねェけど? 前の車で後部座席からいきなり“ピッ”って爆弾爆発までのカウントダウン始まっても事故らないで対処した俺だからなァ……二回目にはやられたが。

「否、無ェけど。手前が初めてだって先刻云ったろ?」
「……そうですか」

それっきり、目的地で車を止めるまで、否、俺が自宅の扉を開け玄関に招き入れるまで、芥川は押し黙ったままだった。芥川が太宰の名を出した意味も、判ることはなかった。

Re: 【文スト】太中R18*中也受け 他 ( No.173 )
日時: 2020/01/01 00:00
名前: 枕木

〜大晦日の太中〜

炬燵にもぐり込みごろごろしていた太宰が、急に此方をバッと見る気配がした。うわ、早ェな、流石。「中也!?」と鳶色の目を輝かせ起き上がるいい大人の姿に、餓鬼みてェだな、とくすくす笑った。

「なんか、私の大好きな匂いがする……!」
「ん〜? そりゃ、俺の事かァ?」

にやっと笑い云ってみれば、太宰はにやっと笑い返し、「それもあるねえ」と炬燵から這い出して台所へやってきた。
菜箸を持ち鍋をみつめる俺の背後に立ち、首と胸に腕を回してぎゅっと抱きついてくる。今まで炬燵に入っていた温もりを背中全面に感じて、温かくてほっと息を吐いた。

「中也、一寸冷えちゃったね」

うなじに口づけをしながら、太宰が云う。くすぐってェ、と少し身を捩ると、ふふっと笑うのが判った。

「そうかァ?」

自分では余り寒さを感じなかった。我が家に炬燵以外の暖房器具はないが、こうやって湯気のたつ鍋の前に立っていると割と温かい。けれど、太宰はうなじに顔を埋めたまま頷いた。

「うん、冷えてるよ。平熱より0.6度くらい低い」
「くらいって割には細けェな」
「まあ、誤差はプラスマイナス0.04度ってとこかな」
「うわ〜……」

ま、口でそう云っても、今更そんなんでどん引きなんかしないがな。

んー、でも太宰がそう云うってことは、躰冷えたんだな。今って冷えやすいけど冷やしちゃいけねェ時期だし、気をつけねェと。

少し反省しながら、菜箸を置き、鍋に蓋をする。その次の瞬間、「ふー……」と耳に湿った息が吹き掛けられ、思わずびくっとした。こら、と振り返ると、待ってましたとばかりに口づけられる。呼吸を遮られ、目を見開いた。

「ん〜!! んぅ、んっ……ぷはっ! こら、だざい……」
「ふふっ。温めてあげようと思って」
「ッ〜〜……」

至近距離で悪気なく笑う太宰に叱る気にもなれず、ふん、と不機嫌に息を吐いた。でも、なんだか無性に愉快な気持ちになって、すぐ吹き出した。太宰も同じだったようで、ふふっ、と笑いながら、こつん、と額を合わせた。

すぐ目の前に太宰の顔がある、大晦日の深夜。少し寒いのが気にならなくなるくらい。抱き締められて、吐かれた息を感じて。目を閉じると、口づけされる。誰が予想できたかってな。

「もう八ヶ月なんだねえ……」

唇が離れると、太宰が、しみじみと云った。けれどすぐにくすっと笑う。

「まあ、“もう”って感じる日々じゃなかったけど」
「いつの間にか、こんなんなってんだもんなァ」
「本当に。……信じられないことばかりだよ」

太宰は、大きく膨らみもう誰がどう見ても妊娠していると判る、俺の腹をそっと撫でた。その手に自分の手を重ねる。……あー、あったけェな。
太宰の肩に頭を乗せると、太宰は反対の手で俺の頭を撫でた。

妊娠して、半年と数十日。性別を教えてもらわないことにしたのは、太宰と二人で決めたことだった。男か女か判らない我が子は、順調に育っている。今じゃもう俺を移動のときや寝るときに苦しめるまでになった。お陰で毎日大変だぜ、全く。

「有り難う、中也」

耳元で囁かれた。目を見開く。
その、「有り難う」にどれだけの意味が、言葉が詰まっているか。……それは、俺しか判らねェんだよなァ。
だから、俺は笑って、

「どういたしまして」

と云った。太宰は満足そうに息を吐いた。

顔を上げると、太宰はにっこり笑っていた。笑う角には福来るって云うんだっけな。なんか、こいつといるときは何が起こっても笑っちまう。変な奴。知ってたけどな。だから、にっ、と笑い返した。

「んー。じゃあ、そろそろ食うか」
「うんっ!!」

蓋を開けると、旨そうな……太宰の好物の匂いがした。太宰が餓鬼のように両手を握り締める。ははっ、奮発した甲斐があったな。

「よし、年越しそば蟹乗せ、食おうぜ!」
「わあい! 蟹がいっぱい♪」

鍋の中には、程好く茹でられた蕎麦の上に蟹の足の身が並べられた、年越し蕎麦。良く出汁が出てそうなつゆが旨そうだ。

初めて誰かの為に作る、年越し蕎麦だった。


器によそい、炬燵に置く。ふと振り返ると太宰が悪戯っ子のように笑っていて、その両手に持っているものに苦笑した。

「俺今飲めねェんだけど?」
「葡萄ジュースでーす♪ 私は普通にお酒〜」
「嫁が我慢してんだから手前も我慢しろや」
「やだね。太宰さんは大人だからねえ」
「オイコラ……」
「ハイハイ、怒らない怒らない。誰も中也がその身長でお酒飲めるとか(笑)外見子供なのに(笑)とか云ってないよ」

苦情を云おうとした俺を遮るようにして、太宰がグラスに飲み物を注ぐ。俺のグラスには葡萄ジュース、太宰のグラスには氷割りのウイスキー。炬燵に入って飲むのがたまらなくうまいらしい。変わらねェなァ。

ふっ、と笑みがもれて、どうでもよくなった。俺は太宰の正面に座り、腹を庇いながら炬燵に足を入れた。

湯気のたつ二つの年越し蕎麦の器、葡萄酒に見せかけた葡萄ジュースと氷割りのウイスキー。

かつて双つの黒と呼ばれ恐れられた俺らが、今、ここに夫婦として向かい合っている。

人生何があるか判らねェもんだな、本当に。

鳶色の瞳、黒髪、むかつくけど整った顔、無駄に巻いた包帯、白いシャツ。
昔とは違う、けれど確かに此処にいる、ずっと愛してきた男。

誰よりも愛しい、太宰治という男。

「じゃあ、来年もよろしく」

そいつが、微笑み、カラン、と氷の光るグラスを持ち上げた。
俺も、それに葡萄ジュースのグラスで応える。暫く酒は飲めねェな。でも不思議と苦じゃないのは、幸せだからだろう。

堪らなく幸せなんだ。八ヶ月前始まった、この幸せを、噛み締める。これが続くのだろうか。否、続けたい。続いてほしい。

それを願う為の、乾杯だ。

「おう。よろしくな、治?」

顔を見合わせて、いつも通りで行こうよ、と笑った。その耳が少し紅くなってるのに、何だか堪らなくなった。

何時終わるか判らない、この日々。明日の約束もできないこの日々で。それでも、手前との約束くらい、してもいいだろ?
ずっと、ずっと……

「末永くよろしくな、太宰」
「末永くよろしくね、中也」

澄んだ音を響かせてグラスがぶつかるのと___未来への誓いを交わしたのと、新しい年が始まったのは、同じ瞬間だった。


えんど


明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。  枕木

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