大人オリジナル小説

触れられなくなった君へ……【R18・BL】
日時: 2019/08/16 16:25
名前: 椛 ◆kGPnsPzdKU

どうも、椛(もみじ)と言います。
普段は違う名前で活動してます。(トリップ付けてるので分かると思いますが)
今回、初めて個人で小説を書きます。
至らぬ点があると思いますが、宜しくお願いします。

今回のお話は一途な男子高校性×ある事がきっかけでトラウマから人に触れられる事が無理になる恋人です。
最後まで読んで頂けたら幸いです。

※感想を貰えたら嬉しいです。感想を送る際はこのスレではなく、雑談掲示板の方でスレを立てるのでそちらにお願いします。

※更新が不定期かもしれません。すみません。

※R18です。

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Re: 触れられなくなった君へ……【R18・BL】 ( No.9 )
日時: 2019/08/21 18:29
名前: 椛 ◆kGPnsPzdKU


「はい、母さん。これでしょ」

「あー!それそれ!ありがとー!」

その頃皐月は母に言われた資料を届けに言っていた。
事務職をしている母にこのように資料を届けるのは、今までにも何回かあった。
そのため、この事務所の人とは顔見知りになってしまった。
大袈裟に感謝を述べる母を見て、周りの人たちは笑みを浮かべていた。

「皐月くん、いつも偉いわねぇ。そうだ、良かったらこれ、貰ってくれる?」

そう女性職員が皐月に言い渡したのは、クッキーだ。
小分けされている色々なクッキーが袋に無造作に詰められている。
皐月はその袋を受け取り、「ありがとうございます」と言う。
それから母に「仕事頑張ってね」というと皐月は事務所を後にした。
事務所を出ると皐月はスマホを確認する。
先程、尚人にLINEを送ったのだ。
返信は来ていない。それどころか既読すら付いていなかった。
どうしたのかな、と不思議に思ったが気付いていないのかもしれないと気にしない事にした。
家に着く頃にはもう20時を過ぎていた。
夕飯の支度をしよう。いや、その前に風呂の準備だ。
そう思い、脱衣場へ向かっている途中、プルルルと家に置いてある固定電話が鳴る。
こんな時間に誰だろうか、そう思いながらも出てみる。

「はい、上村です」

「あ、皐月くん?」

その声は尚人、ではなく彼の母親だ。
こんな時間にどうしたのだろうと思いながらも「はい、そうです」と返事をする。
母親は何処か落ち着かない様子で言葉を口にした。

「尚人、尚人を知らない?」

「え?尚人ですか?……18時30分ぐらいに帰りましたけど……」

此方がそう返せば、相手が動揺したのが分かる。
何だろう、嫌な予感がする。
その予感は外れてほしかったが、こういう時だけ、予感は当たってしまう。

「尚人、まだ帰ってきてないの。電話にも出なくて……」

「え……?」

母親の声は震えていた。
最初は冗談、だと思ったが母親が此方に冗談なんて言うはずない。
なら、尚人が帰っていないというのは本当の事だ。
皐月は慌ててスマホを取り出し、彼に電話をかける。
お願いだ、出てくれ。
そう願いながら掛けてみたが、幾ら待っても彼の声は聞こえず、呼び出し音のみが響く。
此方の連絡にも出ない。皐月は額に汗を滲ませる。

「こっちの電話にも、出ないです……」

「ッ……ど、どうしましょう……」

彼の母親は戸惑っていた。
それもそうだ。尚人がこんな時間まで家に帰らないという事は今までに一度もないのだから。
あったとしても此方の家に泊まるときだけだ。

「落ち着いてください。とりあえず、警察に連絡お願いします。俺の方でも探してみますので……!」

皐月がそう言うと、母親は「分かったわ」と言って電話を切った。
電話が終わると、皐月は急いで家を出た。
尚人、尚人……!
先程から皐月の頭の中には嫌な事しか思い浮かばない。
それと同時に、後悔が生まれる。
あのとき、ちゃんと送っていけば、こんな事には。
今更後悔しても、もう遅いのだ。
皐月は必死に、彼の名前を呼びながら、夜道を走った。

* * *

あれから数時間後。
尚人が見つかった。
警察が見つけてくれたらしい。
発見場所は駅から近い路地裏で、服は着ていない状態だったらしい。
身体の状態から、何をされたかは一目瞭然だ。
慌てて皐月が現場に来たときには、彼は救急車に運ばれる所だった。
警察が駆けつけた時には意識は無かったらしい。
現場には彼の両親と、兄がいた。
母親の方は泣き崩れ、それを父と兄が支えている状態だった。
彼が救急車に運ばれていく、少しだけ見えた彼の表情は何処か苦しそうに見えた気がした。
そんな光景を見て、皐月は立ち竦んでいた。
彼に駆け寄る事も、しなかった。
頭の中には後悔しかなかった。
何度も心の中で謝罪を述べても、その後悔は消えることはなかった。

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