大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- オリジナルBLちょっとH?な続編です2(完)
- 日時: 2015/12/30 00:23
- 名前: ハル
ハルです。
BLGL……から移転しました。
なので、続きになってしまいます……申し訳ありません(>_<)
「オリジナルBLちょっとH?な続編です」と、書き方の違う最初の作品「サクラサク」の続きになりますので、初めての方には、読みづらいかと思います。
本当に、申し訳ありません(;>_<;)
ただ、作品への愛情だけで書いてます(汗)
読んで下さったら、光栄です。
よろしくお願い致します(T^T)
現在までの登場人物
*颯(そう)……皆から愛されている、超美形の高校生。世界的に有名な神崎グループの御曹司の一人。頭も良く、仲間への想いは人一倍強い。
*海(かい)……颯のいとこ。颯を溺愛する、IQ180の天才。颯に似てかなりの美形だが、性格は颯以外には冷徹。同じ歳だが、既にグループの事業に関わり、大きな存在感を出している。飛び級で、今は大学院生。
*大和(やまと)……関西を拠点とする、全国でも随一の組織、竜童会組長を父親に持ち、自分も若頭を名乗る極道者。組長の指示で関東へ乗り込み、親父としての指示で高校だけは卒業する為に、颯のいる高校へ転入。颯に一目惚れする。いつも真っ直ぐな大和に颯は翻弄される。
*淳(じゅん)……颯とは古い付き合い。ずっと、密かに颯を想っていた。大和が現れて、少しずつ変化していく。生徒会をしたり、サッカー部でもエースで、優しく人望も厚い。
*翔太(しょうた)……中学からの同級生達に、ずっと弄ばれていた。颯が、そんな翔太を助ける。翔太も、颯には頭が上がらないが、心の底では淳が好き……?
*田城一真(たしろかずま)……淳と同じ生徒会、サッカー部。淳が好きで気持ちは伝えている。颯の事が好きでも、支えてやりたいと思っている。
*早川拓実(はやかわたくみ)……神崎グループに次ぐ巨大財閥早川グループ御曹司。颯達の先輩。一見人当たりは良いが、内面はプライドが高く、負けず嫌い。自分より優秀な海に敵対心?がある。
「…………はぁ……」
西校舎の屋上、お気に入りの場所に颯はいた。
給水塔のコンクリートの土台に座り、一人、深い溜め息をつき、空を見上げる。
「駄目だな………最近、溜め息ばかりだ……」
そう呟き、遠くを見つめる姿もまた、艶やかで美しかった。颯自身、気付いてはいないが、海達のような周囲から羨望の眼差しを受ける男達に愛され、求められている事が、颯をますます綺麗で色香漂う人間へと成長させていた。
「ホンマやで。ここんとこ、俺が見つけた時は、溜め息しか出てへんやん」
「大和………っ」
いつからいたのか、給水塔の鉄柱に寄りかかり、笑顔を見せる大和が立っていた。
「……………久し振りやな、この場所。初めて……ここでお前を見た時は、向こうの山に桜が咲いとって、お前の姿と桜の色がホンマようマッチして綺麗やったっけ………。思わず、見とれたの今でも覚えとるわ」
大和は懐かしそうに、向かいの山に目を向け颯に語りかけた。
制服をいい感じに着崩し、シルバーのリングやブレスをオシャレに付けた大和は、一見すると背中に彫り物をした極道者だとは思えない、格好いい男子校生にしか見えなかった。
「ま…今の颯は、桜なんかのうても、十分過ぎる程綺麗やけど」
「な……なに言ってんだよっ。ホントにお前は、そう言う事を平気で言う………っ」
満面の笑みを向ける大和に、颯は顔を赤くして目を反らした。
「だって、綺麗なもんは綺麗なんやから仕方がないやん。美人は3日で飽きる言うけど、アレ嘘やで。1分、1秒でも会う度に惚れていくねんから」
「ば…………」
馬鹿か!?……と、叫びそうになったのを、颯は飲み込んだ。大和のこんな所に、いつも調子を狂わされる。
颯は、立ち上がりながら、再び小さな溜め息をついた。
その溜め息が終わらないうちに、大和は颯の腕を引っ張り、抱き寄せた。
「やま………と!?…」
一瞬の事に、颯は身動きが取れなかった。
自分より、少し背の高い大和の胸の中に、吸い込まれるように入ってしまった。
「……………その、溜め息の原因の一つは、俺か?………溜め息ばかりついとったら、俺が食べてまうで」
「………大和…………」
さっきまでの大和とは、明らかに声のトーンが変わっていた。
颯の身体に、緊張が走る。
「………前にも言うたやろ。誰も、お前を責める気なんかないて。俺達が、勝手にお前に惚れとんねん。お前が苦しむ必要ないんや」
大和の、静かに話す言葉が、颯の中に染み込んでいくようだった。
「……んな………そんな訳にはいかないよ。淳も……お前も、皆………凄くモテて、人としても素敵なのに、俺一人がハッキリしないせいで、皆を留めてしまってる……。皆の……これからを台無しにしている気がするんだ。………欲張りで、卑劣で、絶対に許されない……………」
大和の胸の中で、颯は顔を埋め、苦しそうに心の内にあるものを吐き出した。
「アホ………。お前より、ええ女がおらんのやからしゃーないやん。俺らは、お前やないとあかんねん。お前やないと、何も楽しゅうない。焦って結論出さんでええから、頼むから………自分を責めんでくれや」
「大和………」
いつからだろうか……気付いたら、苦しい時にはいつも大和が現れていた。大和流な優しさが、何度自分を暖めてくれただろうか………颯は、海の前でしか泣いた事がなかった目が、潤んでいる事にハッとした。
「…………ご……めん………」
絞り出す颯の声に、大和は胸が熱くなった。
「しつこいで。お前は、悪くない。…………悪いんは、お前に惚れてもうた……俺らや。いや、ベタ惚れした俺か?」
冗談っぽく、大和が颯に笑いかける。そんないつもの大和の冗談が、颯に笑みを呼ぶ。
「…………ばか………」
照れくさそうに言う颯を、大和は愛しい目で見つめる。
「………馬鹿や……お前に、全部持ってかれてしもうた、大馬鹿野郎や………。…………かんにんな………お前に惚れてもうて」
大和の手が、颯の手を優しく握りしめた。
「大和……………。………海と………海と、同じような事言うんだな…………」
颯の中で、海から言われた愛の言葉が、今の大和の言葉と重なっているように思えた。
「………え………」
颯の話に、大和の表情が一変した。
「海に…………海に、惚れてるって言われたんか……?」
心臓が、嫌な高鳴りを呼び起こすのがわかった。
颯を握る手に、自然と力が入っていた。
「……あ……………いや……」
大和の様子に、颯も不安を募らせる。
言ってはいけない事を、言ったのかもしれない…………。
「正直に言えや。海が、お前に惚れてるって言うたんやな!?」
「大和………痛い…………」
今まで、自分の感情を隠していた海が、颯に気持ちを伝えた?………一番警戒して、一番ライバルにしたくなかった奴が、ついに動き始めた………!?
大和の奥深くで、今まで以上に強い感情が沸き上がろうとしていた。
続く………
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- Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.31 )
- 日時: 2015/06/18 08:46
- 名前: ハル
「あー、もう着いてしもうたな………」
日が傾き、マンションのエントランスの照明に灯りがつけられた前で、制服姿の大和が大きな溜め息をついた。
「少し、上がって行く?大和」
自分のマンションまで送ってくれた大和に、颯は顔を覗き込みながら訊ねた。
「う〜寄りたい!まだまだ、お前とおりたい……………でも、今日はあかんねん」
「何か…………あるの?」
腕を組み、俯き残念がる大和を見て、颯は自然とその腕に触れて聞き返す。
「………悪い。今夜、久し振りに組の連中と会うんや。あいつら、俺が高校行きだしてから、変な気ィ使うて会いに来よらへん。電話で報告ばっかりしよるから、メシ奢るさかい顔出せ言うてんねや」
大和はそう言うと、颯の手を握り締め、キスをした。
「大和…………っ」
「折角、颯が誘ってくれてんのに、かんにんな。明日は、もっと時間作るさかい………待っとって」
大和の優しく囁く言い方に、颯はささやかな幸せを噛み締める。
「ううん……………大和は、竜童会の大事な若頭だもんね。仕方がないよ……………それに、そんな大和の気遣い………好きだな」
「颯………………お前、俺を帰さへんつもりやろ?俺のツボ、刺激し過ぎ」
「え…………あっんっ………」
颯が何気に発した一言に、大和は嬉しさのあまり颯を抱き寄せて、さっきよりも熱く唇を重ねる。
「…………はぁんっ………まとっ………人が来ちゃう……………っ」
「……………もう少し、味わいたい…………明日まで、お預けやし……」
大和の唇に顔を赤らめる颯を、大和は一段と舌を絡め入れて舐め回した。
「ぁんっ………だ……め…………俺が……んんっぁ………耐えられなくなる……ぁあ」
自分の中を刺激する大和に、たまらず颯は大和のシャツを掴み身体を支えた。
「ほな……………明日は、俺のウチ直行や。帰りに、あそこのたい焼き買うて、おやつにしよな」
「たい焼き……………」
「………………糖分取らなあかん位、疲れさしたるわ」
「大和っ…………」
笑顔で言う大和に、颯は疼く身体を抑えるのが精一杯だった。
「…………気を付けて、行って来てね…………美味しいもの、沢山食べて」
そんな身体を我慢し、颯は自ら大和に抱きつき、呟いた。
「ま、俺の金ですけど。……………たまには、若頭の仕事して来るわ」
大和は、最後に颯を強く抱きしめ返すと、笑みを浮かべ、颯のマンションを後にした。
「若、ホンマにええんですか?こないなトコ、学校の人間に見られましたら洒落になりませんで」
夜の繁華街の一角、賑やかな人々が行き交う中に、一際目立つ黒系のスーツを身に纏う十数人の集団が立っていた。
「ホンマですよ?今の学校は、偶々親父の同級生の方が理事長をされてはる関係で、若の正体をバラさへん言うんを条件に転入させてもろうとるんです。あまり我々とおられん方がええんと違いますか?」
「そうですよ。こっちの仕事は、ワシらに任せてもろうたら、報告はキチンと入れますさかい…………」
「うっさいわ!さっきからゴチャゴチャ抜かしおって…………俺の奢るメシが食えへん言うんか!?」
いかにもイカつい、一目でその世界の人間だとわかる男達に囲まれ、宥められている中心で、細身の黒スーツに少し光沢を帯びた濃いグレーのシャツの釦を2、3個開けて着た、大和がうっとうしそうに叫んだ。
「いや、若……っ………」
「お前らが、そうやって妙な気ィ回すさかい、こっちから動いてやっとるやないか。黙って俺に付いて来い!ボケッ!」
自分よりも明らかに年上の、強面な男達を一喝する大和は、昼間見せる姿とは全く違う若頭としての迫力があった。
「若…………ワシらは嬉しいんです。関西におった頃は、ワシらの為に無茶して命張って下さっとった若が、今は楽しそうに学校に通われてはる。親父が、若の顔が知られてへん関東で高校行け言われた意味が、わかったんです。……………若の高校生活の邪魔はしとうないよって…………」
「アホか…………。俺は、背中に彫りもんした時から、竜童会の人間や。どこ行っても、それは消えへん事実やねん。ただの高校生活が送れるワケないやろ。下らん事並べる暇あったら、成果の報告でもせえ」
周囲から見れば、ヤクザを相手に一歩も引かず、言い上げている大和の姿は異様な光景だった。
でも、それが竜童会の連中にとっては、付いて行かずにはいられない若頭、嵩原大和なのだ。
「若………………」
「わかりました。では、店に着くまで少し話しながら、行きますか?詳しい事は、個室に入ってからの方がええでしょう」
「そうやな………ほんなら、今は簡単でええわ。………聞かせろや」
大和の取り巻きの中でも、落ち着いた30代位の端正な顔立ちの男が大和の隣に行き、静かに話を持ちかけた。
男は竜童会が最近動いて来た内容を大和に話し、関東でも傘下に入る可能性のある組織の名前を幾つか上げていた。
「ふーん………まあ、なかなかええ動きしとるやないか。やっぱ、お前らに任せて正解やったな」
竜童会でも大和の率いる連中は、頭がキレ、腕の立つメンバーが揃っているだけあり、その成果は高く評価出来るものだった。
言い替えれば、それだけ………嵩原大和と言う男の器を知らしめる結果でもあった。
「ありがとうございます。………………ただ、一つ少し気になる事が………」
「気になる事……………?」
神妙な顔つきで、大和の耳元で声を殺すように言う男に、大和は立ち止まり、耳を傾けた。
「若も、関西の菱川組が関東進出を目論んどる事は、ご存知やと思いますが……………何でか最近、早川グループの人間と接触しとるようなんです」
「何………………」
『早川』……………その名前に、大和の顔が険しくなる。
その瞬間だった………………『ドスッ……』
大和の身体に何かがぶつかる衝撃が走った。
「若あぁっ…………!!!」
「おんどりゃあっ……何さらしとんじゃっっ!!ワレェ!!」
「きゃあああっっ…………」
「はははは………や、やったで………竜童会若頭や………若頭をやったでっっ………はははは!!」
大和の周辺が、一気に騒然となり、部下達の怒号と通行人の恐怖におののく悲鳴が響き、同時に狂った様な男の叫び声が辺りを覆いつくした。
「な…………………」
「若っっ………大丈夫ですか!!」
大和の脇腹に生暖かい感覚があったかと思うと、途端に全身を激痛が襲った。
「っ………くぅっ………な、なんやこれ……………」
激痛に震える身体で脇腹を触ると、大和の手は血で真っ赤に染まっていた。
「……血…………」
「若っ!あきませんっ…………動かんで下さいっ!!すぐ病院運びますよって!動いたらあきませんっ!!オイッ!車やっ!車を早う持って来んかいっっ!」
「親父にも電話せえ!一大事やっ!若が刺されたっっ!!」
顔を青ざめ、大和に近寄る部下達は、大和の身体を支え、守ろうと取り囲む。
大和は、自分に起きた状況を部下達の動きで感じ取ると、目の前で部下に羽交い締めにされ、道路に叩きつけられるチンピラ風の男に目をやった。
「…………か………あいつが、俺を…………っ……はぁ……さ、刺したんやな…………」
「若…………動いたらあきませんって!!出血が、酷うなります!若……っ」
今にも崩れそうな、震える足で男に近寄ろうとする大和を、部下達は必死に止めに入る。
「…………け………っう……はっ………はあ…………どけや……お前ら……」
激痛を耐え、一歩前に出るだけで、大和の脇腹からは血がボタボタと地面に落ちた。
それでも足を止めない大和に、部下達は懇願するように大和にすがった。
「頼んますっ!頼んますから、止まって下さいっ!」
「………っさいっ!どけ言うとんのがわからんのんかっ!!道をあけんかっっ………」
鬼気迫る大和の気迫に、部下達の手も震えていた。
「………若…………っ」
「……はぁはぁ…………オイ…………」
「…………ひ…………」
大和は血に染まる手で、取り押さえられたチンピラ風の男の胸ぐらを掴み、身体を引きずり起こした。
男の足元には、大和を刺した刃渡り20pは越える刃物が転がっていた。
それを見ただけで、今、大和の傷がどれ程深いか理解が出来た。
「お前………誰の差し金や…………くっ………誰に頼まれたか、言うてみぃ………はぁ……はぁ…………吐かへんと、貴様も腹かっさばくぞ。さっさと、吐けやっっ!!ゴラァッッ!!」
「ひぃぃ…………ば、化けもんや…………」
大和を刺した男は、刺されてもなお、動き迫る大和に恐怖で絶句した。
その時、遠くから通行人が通報したのか、パトカーのサイレンの音が小さく聞こえてきた。
「あかん、サツやっ!若っ、こいつはワシらが必ず吐かせますよって、若は病院行って下さいっ!!今、若に何かあったら………ワシらも生きていかれまへん!!」
「……くっ………」
「若………!早よう、車にっ!お願いしますっっ……」
そう言うと、部下達は素早く何台かの車に分かれて、その場を切り上げた。
「若……………必ず、必ず助けます。もう少し、何とか辛抱して下さい」
大和の身体を支え、車に乗せたのは、あの30代位の側近だった。
男は悔しさを露にしながら、息絶え絶えの大和を抱きしめる。
「はぁ………くそ……たい焼き……………お預けやな……………」
大量の出血が、気丈な大和の意識を少しずつ奪っていった。
- Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.32 )
- 日時: 2015/06/22 17:09
- 名前: ハル
「颯、本当に大丈夫なのか?俺の仕事、手伝って…………」
高級マンションの一室、海の部屋で颯を気遣う声が聞こえて来る。
部屋の中では、デスクに沢山の書類を並べ、椅子に座らせた颯の後ろから、海が身を屈め颯の顔を見つめていた。
「大丈夫。もう少ししたら、俺は大学受験がある。大学に入れば経済学を学ぶし、海の仕事をもっと手伝える。その前に、少しでも知識を入れておきたいんだ。……………海の、力になりたいから…………」
自分を心配そうに見つめる海に、颯は笑顔で答える。
早川拓実との過去を知り、海を助けたいと言う想いを伝えた颯の表情は、どことなくスッキリした様に見えた。
颯以外、自分に受け入れる事の出来ない海にとって、自分しか支えになれないと言う事実が、颯の心を一段と強くさせていた。
「…………そうか。わかった…………でも、一つ約束な。まだ、お前は高校生だ。高校生活優先だからな?」
「わかってる…………無理はしない」
颯の気持ちを海も素直に聞き入れると、優しく肩を抱いて、高校生である颯の立場を気遣った。
「……………じゃあ…………今日は簡単に説明するよ?今、俺が進めているプロジェクトだけど…………」
『ブーッブーッ……』
海が書類を手に取り、颯に抱えている仕事の説明をしようとした時だった…………デスクの脇に置いていた、海のスマホがバイブで揺れた。
「………中西…………」
「中西さん…………?家に掛けてくるなんて…………すぐ出た方がいいよ……」
着信の相手は、海の秘書の中では完璧な実力を誇る、第一秘書の中西からであった。
颯自身も、昔から中西の仕事の素晴らしさは、海の目を通してよく見ていた分、海が自宅にいる際に掛けてくる電話の重要性は理解していた。
「中西?どうした、こんな時間に…………うちの病院が、どうかしたのか?」
うちの病院…………神崎グループは、海が仕事を手伝うようになり、医療にも力を入れていた。去年、巨額の損失を抱えていた総合病院を海の指示で買収をし、わずか一年足らずで、名実共に名高い大病院へと改革したばかりだった。
「ヤクザ………?どこの組だ…………何……………」
『ヤクザ』と言う言葉と、中西からの電話を受ける海の表情がみるみる険しくなっていく様子に、颯もどこか胸騒ぎを感じずにはいられなかった。
「…………海……?…」
「絶対に助けろ…………何人医者を使ってもいいっ……絶対に死なすな!俺もすぐ行く………っ……いいな!必ず、救い出せっ!!」
怒鳴るように電話を切ると、海はソファに投げていたジャケットを急いで掴み、不安そうに目を向ける颯を抱きしめた。
「海…………な……何なの?ヤクザって………ヤクザって………何があったの………」
海の胸の中で、嫌な予感が拭えない颯は、動揺で声が震えていた。
「…………颯………………とが………大和が、刺された……………」
「……………え……………」
海に抱きしめてもらってなければ、崩れ落ちる身体を一人で支える事が出来ない程の、信じ難い言葉だった。
あまりの衝撃に、思考回路が停止した様に時間が止まった気がした。
「え………?言っている意味が……………意味が、わかんないよ…………何言ってるの………海……………」
颯は顔を手で覆い、俯きながら全身を強張らせる。
「……………今夜、うちの救急に路上で組の幹部が刺されたと、部下が運び込んで来たらしい。今、緊急オペ中だが、病院から中西に今後の対応も含めて連絡が入って、駆け付けたら俺達の知り合いである大和だとわかったから、急いで俺に電話をしてきたって訳だ………」
颯の両腕を握り締め、動揺で息を荒くする颯に、海は中西から聞かされた話を冷静に説明した。
「嫌だ…………大和は、組の人達と夕食を共にするって言ってた…………そんなの信じない……………嫌だよ…………嫌だったらっ!!」
海の手を振り払い、颯は一気に溢れ出す涙を震える手で拭いながら、倒れるようにその場に膝まづいた。
「颯…………っ!!しっかりしろ!………お前が好きになったのは、そう言う世界に生きている人間なんだ!ましてや大和は、全国でも最大規模を誇る組織の若頭だろ!?いつ命が狙われてもおかしくない。特にあいつは、将来必ず大物になる…………それだけのものを持っている。そんな奴は、周りから疎ましく思われる事も少なくないんだ。……………この現実を受け止められないなら、好きになんかなるな!!」
「海……………っ」
自分に重ね合わせた様な海の、強い叱咤に、颯は涙で濡れる顔で海を見上げた。
「あいつは…………死んだりなんかしない。こんなに愛しいお前を残して、死ぬわけないだろう…………………お前が、あいつの今を受け止めてやらなくて、どうする?………………俺が、支えてやるから……………お前が、俺を支えてくれるように…………俺が、嵩原大和を好きなお前も、全部………全力で支えてやるから………………行こう、病院へ……………」
誰にも真似の出来ない、世界でたった一つの…………無償の愛に、颯の心は苦しみも悲しみも、全てが暖かく包まれていくようだった。
『神崎海』に守られている事程、心強く、幸せな事はないかもしれない……………颯は海の手を握り、しがみつきながら立ち上がった。
「……………ぃ…………海…………」
「ああ……………心配ない。うちの救命救急は、名医を揃えている…………問題ないよ。ほら、涙拭いて……………大和以外の前では、神崎グループの神崎颯でいなきゃ駄目だぞ。お前は、俺の大事な右腕なんだからな…………」
颯の頬を伝う涙を指で触れ、普段よりももっと優しく言ってくれる海の姿が、颯の震えを和らげる。
「………ん………………うん……………頑張るよ………海………」
そんな海の指にキスをして、颯はとても深く深呼吸をした。
「よし………………」
強くなる為に……………颯は赤い瞳を擦り、海を見た。
そんな颯の頭を、海は微笑んで軽く撫でると、手早く車の手配をして出掛ける準備を終わらせた。
その数十分後だろうか……………二人が病院へ向かう車の中で、まだ予断は許されないが、かろうじて大和が一命は取り止めたと、一報が入って来たのは…………。
「……………あれが、嵩原大和か…………」
大量の血痕だけが残る現場で、沢山の人だかりと、何台ものパトカーが停まる現場を、遠くから見つめる早川拓実が呟く。
黒塗りの車を街角に停車し、少し開いた窓から先程の惨事を一部始終見ていた早川拓実は、大和の刺されても相手に向かって行く姿に、多少なり圧倒されている自分に気付いていた。
「せやから、我々が躊躇する理由がおわかりでしょう?アレは、十代や思うてナメたらあきませんよ。我々が関東に来ても、ことごとく圧をかけて来よるんです。しかも、アレを囲む部下も、他の組では確実に幹部になれるような者ばかりです。…………足がつくんも、時間の問題かも知れませんね…………手は貸しましたけど、私らもまだ竜童会と全面抗争は勘弁したいさかい、手ぇ引かせてもらいますよって」
先日、早川拓実と密会をしていた男が、隣に座り静かに口を開いて語った。
「………フン……………相変わらず、弱気だな。それで関東進出が、聞いて呆れる…………」
窓の外を見て、男の話を聞いていた早川拓実は、親指の爪を噛みながら、少し苛立つ様子を見せた。
「どうとでも言うて下さい。冷徹で、末恐ろしいと評判の神崎グループ御曹司、神崎海だけやなく、あの若頭をも敵に回したら、どうなるか…………責任取れまへん。結構な深手やったさかい、命はわかりませんけど………………」
男が冷静な分析を言い終えた時、男側のドアが開き、厳つい男が声を掛けた。
「若頭、パトカーが周辺を巡回し出しました、そろそろ行きませんと………」
「そうやな……………。ほな、早川さん……………せいぜい気張って下さい」
そう言い残すと、男は早川拓実の車を後にした。
「チッ…………どいつもこいつも使えない奴ばかりだな…………。車出せ……………帰るぞ」
『ガンッ………』
早川拓実は自分の前のシートを思い切り蹴ると、おさまらない感情を覗かせた。
- Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.33 )
- 日時: 2015/06/25 15:00
- 名前: ハル
「中西っっ………!」
海が経営を任されている総合病院の救命救急に、急いで駆け付けた海の声が響いた。
「海様っ!………颯様も……ご無沙汰しております」
「こ、今晩は…………中西さん………」
入口で二人を待っていた秘書の中西が、緊張した様に出迎えた。
顔を青ざめ、海の後ろに隠れる颯は、やっとの事で声を絞り出す。
「それで………どうなんだ?大和の容態は………」
不安を必死で堪える颯の手を引き、海は中へ足を運びながら中西へ質問をぶつける。
「はい。とりあえず、手術は成功しております。ただ………出血の量が酷く、傷もかなり深かった為、まだ安心は出来ないかと…………今、ICUの個室へ入られております。………………それから……部下の方々も数名、ずっと待たれてまして………」
中西は、海からの問い掛けに迅速に答えると、大和の部下の話を少し濁すように伝えた。
「……………そうか、わかった。俺が、話をする」
「申し訳ございません………」
中西の言葉の意味を悟り、海は上の者として、その対応を理解した。
「………………大和…………」
そんな二人の会話が、颯にはとても小さく聞こえる程、まだ頭の中が整理出来てはいなかった。何度も、無意識に大和の名を呟くのが精一杯で…………。
「神崎さん…………っ」
ICUに近付いた時、海は男の影に呼び止められた。
海と颯が振り向くと、いかにも………と言える、中西が話していた大和の部下らしき男達が立っていた。
「海…………………っ」
「……………ああ…………」
初めて見る大和の部下達の姿より、颯が何よりも動揺したのは、先頭に立っていた例の30代位の側近の手やスーツに付いた血の量だった。
大和を抱える様に運んで来た男には、大量の血が付いており、大和の傷の酷さが伺え知れた。
「秘書の方からお伺いしました…………この度は、神崎グループの病院やとは知らず、緊急でお願いさせて頂いた上、若のお命を救って下さいまして………本当に有難うございました。何とお礼を申し上げてええか…………」
「いや……………大和は、うちの人間と同じ高校に通っている関係で、よく知っている仲だ。逆に、ここに運んでくれて良かったと思っている」
丁寧に礼を言う男に、海も神崎グループの責任者としての顔を見せた。
「そうやったんですか……………若は、やはり楽しく高校生活過ごされとったんですね……………。我々は、とにかく若のお命を救いたくて、現場より近くて腕のええ病院をと、必死でした……………。そう言って頂けて、ホンマ良かったです………」
男は、海の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべると、心から安堵した。
その様子を海の影に隠れて見ていた颯にも、大和がどれ程側近達に慕われているか、充分伝わってきた。
「…………で………なんだが…………」
「はい、何でしょう………?」
ヤクザとは言え、きちんとした対応をする男に、海が話を切り出す。
「うちは、一般の患者が、毎日大勢来院する病院だ。あなた方の様なヤクザに何人も出入りされては困る。大和の見舞いは、一人にして欲しい。勿論、大和の方は責任を持って治療させてもらうし、警備も強化する。それから、申し訳ないが…………治療費や入院費も支払って貰わなくて結構だ」
「…………はい…………病院への出入りは理解出来ます…………是非、そうさせて頂きます。ですが、治療費などは………かなりの金額になりますし…………」
「失礼かと思うが、ヤクザの金は受け取れない。でも、大和に掛かる費用は、全額俺に、個人的に負担させて欲しい」
「な………………」
思いがけない海の持ち掛けに、部下達だけでなく、さすがに颯自身も驚いて海を見つめた。
「…………海…………?」
「……………それだけ、大和には身内が世話になっている。俺なりの、感謝の気持ちを示したい」
「え………………」
海の、颯を想う気持ちから出た一言に、颯の胸は熱くなった。
「…………宜しいんですか?そないな事………」
「二言はない。…………それより、その血まみれの服装と、組員達を何とかしてもらえないか?一般人ばかりの中で、目立ち過ぎる」
「も、申し訳ありません。すぐに着替えて、とりあえず私が一人で出直します。……………おい、若は大丈夫や。これ以上は、ご迷惑がかかる。一旦引くで」
「は………はいっ」
夜の救急病棟とは言え、人の出入りもある中、海に促されて部下達は大和を思いながらも、深々とお辞儀をし、病院を後にした。
「……………海、ありがとう…………」
大和の部下達が病棟を出て行くのを見ながら、颯は海の手を握り、小さく喜びを口にした。
「…………何が?………お前を大切にしてくれてるんだ、当然だろ?……………さあ、大和に会いに行こう…………」
颯の手を握り返し、優しく微笑むと、海は手を引いて大和の眠る個室へと足を向けた。
「海様…………っ!今、嵩原様の意識が…………!」
二人が大和のもとへ行こうとした途端、中西が慌てた様子で呼びに走って来た。
「大和が………………」
颯の心が、一気に激しく鼓動する。
会いたい気持ちと、今の大和の状態を見る怖さが入り交じり、颯は海の手をより強く握り締めた。
「行くぞっ………颯!」
そんな颯の気持ちを打ち消すかのように、海は颯の手を引っ張った。
二人が駆け付けた部屋には、ベッドの両脇に何台もの機材を配置し、点滴やいくつかの管を付け、酸素マスクをした大和が、医師や看護師に手を施してもらいながら横になっていた。
「……………まと………っ」
その痛々しい姿に、颯は思わず足がすくむ。
そんな動けない颯の横で、海が医師に話をし、会話をする許可を少しだけ取った。
「大和……………わかるか?俺だ………海だ」
「はぁ…………はぁ………か……い………?」
マスクの下で、息を途絶え途絶えに海の名を呼び、大和はしんどそうに目を向けた。
「何で…………お前が………はぁ…………」
「ここは、俺が経営を任されている病院だ。お前の部下達が、偶然俺の病院へお前を運び込んだんだ」
「……なんや………はぁ………お前、病院もやっとんのか…………はぁ…はぁ…………どんだけ稼ぐねん……………」
「そんな減らず口が言えてるなら、心配ないな………。……………ところで、お前をヤった奴の関係はわかっているのか?」
大和の突っ込みに、海は顔を緩めると、限られた時間の中で気になっていた事を訊ねた。
「いや……多分………うちの連中が……はぁ……調べとるわ…………でも………」
「…………でも?でも、何だ?」
「はぁ…………刺される前………気になる事、聞いた…………それで、油断してしもうた……はぁ」
「気になる事…………?」
大和の言葉に、海は神経を集中させる。
大和の部下達とは別に、海は海で考えがあった。
「早川が………関西で、うちと敵対する………はぁ………菱川組に接触しとる言う話や………」
「なに……………」
大企業がヤクザと………その話に、海は素早く反応すると、中西を指で近くに呼びつけた。
「聞いたな?今の………」
「はい」
「直ぐに調べろ。どんな手を使っても、どれだけ金を使ってもいい。もし、仮に今回の事に関わっていたら、俺の責任だ。事を急ぐ必要がある。それから、警察には知らせるな。大和が高校にいられなくなる。病院へも、強く口止めしておけ」
「承知致しました」
海は怖い顔で中西に指示を出すと、そのまま行動に移させた。
「海…………はぁ……それは違うで……もし、ホンマに早川が関係しとっても………俺も、早川には喧嘩売る様な事言うとるんや…………はぁ……責任感じなや………」
大和は、麻酔が切れかかった身体の痛みに耐えながら、海を諭した。
「心配するな。………………お前は、颯の事だけ考えてろ」
「…………颯……」
その名前に、大和は全身に愛しさを募らせた。
「………俺が、一人で来ると思うか?」
そう言って海が身体を避けると、二人の会話の邪魔にならないように、少し離れて気持ちを落ち着かせていた颯が、姿を見せた。
「颯……………」
「大和…………っ」
自分を呼ぶような、か細い大和の声に、颯は大和の側に駆け寄った。
今にも泣きそうな颯の顔を間近で見て、大和は目を細め、力の入らない手をゆっくりと、その頬に添えた。
「はぁ………その顔の原因は……俺やな………心配、かけてしもうたな………謝っても……今回ばかりは無理か………」
「………そんな事………生きてて………生きててくれたら、それでいい………大和っ」
自分の頬に添えられた大和の手を両手で覆い、颯は我慢していた涙を止める事が出来なかった。
「颯…………泣くなや………お前が泣いたら、抱きしめとうなるやん……今、抱きしめられへん…………その方が、辛い………」
「…………大和……」
「情けない男やな…………惚れた奴、こないに泣かせて………刺されるより、痛いわ………はぁぁ……颯…………復活したら………たい焼き、買おうな…………」
「………うん………うん………」
一言一言が、やっと言える大和の言葉を、颯は胸に刻み込むように耳を傾けた。
限られた時間の中で、お互いの大切さを、改めて噛み締めながら…………。
- Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.34 )
- 日時: 2015/06/28 18:03
- 名前: ハル
ハルです。
すみません、ネームが同じ方がいて驚いてますが、とりあえず、違います………(汗)
「もう、こんな時間か……………。大和、今日の午後から特別室へ移るって、海が言ってたよな…………今までよりは、ゆっくり話せるかなぁ……………」
放課後の校舎で、颯は腕時計の時間を見ながら、大和の事を考えていた。
大和の事件があってから一週間、医師も驚く早さで、大和は回復に向かっており、海が一般病棟の人々の目に触れにくい特別室への移動を指示したのだ。
「……………結局、拓実さんが関わってたかは、海にも聞けなかったな…………」
あれ以来、海も帰りが遅く、颯自身が仕事を手伝う機会も薄らいでいた。
「拓実様、学校への寄付金ですが………今回はおいくらになさいますか?」
颯が大和や海の事を考えて歩いている反対側の校舎では、奇しくも母校へ寄付をする為に、秘書と訪れている早川拓実の姿があった。
「………ああ…………そうだな、いつもはいくらしてたんだ?今日は会長達の代理だし、同じでいい……………」
祖父達の代理を頼まれて来校した早川は、あまり気乗りしない様子で答えると、廊下の窓からふと見た対面側に、颯が一人で歩いている事に気が付いた。
「悪い……………理事長の所には、お前だけで行ってくれ…………ちょっと、急用が出来た…………」
「は…………?拓実様?……………あの、どちらへ………っ」
早川は、颯から目を離さないように見つめると、秘書を置いて駆け足で颯を追いかけた。
「こんな偶然…………二度も起こるなんてな…………」
慌てる秘書を尻目に、早川の気持ちは、重なる偶然に歓喜するかの如く、高鳴りを抑えずにはいられなかった。
「……………颯っ」
「…………!?………」
ふいに名前を呼ばれ、颯が振り向こうとした瞬間、後ろから抱きしめられる様に身体を押さえられ、折りたたみのサバイバルナイフが頬を捉えた。
「…………な……………」
「偶々、遊びで持ってたナイフが役に立ったな………。動いたら、海が大好きな顔に傷が入るよ?………颯…………」
耳元で囁く、聞き覚えのある声に、颯の全身が緊張で固まった。
「た…………拓実さん!?ど、どうして……………」
「颯に会いに来た………て言ったら格好いいけど、偶然用事があってね。……………それより、ここじゃ人目に付く…………そこの、資料室へ入ろうか?」
「……………っ」
早川は、颯の頬にナイフを向けたまま、会議室の隣に見える資料室を目で合図して、颯を導いた。
『バタンッ…………ガチャ』
二人で薄暗い資料室へ入った途端、早川は素早くドアを閉めると、鍵をかけた。
「何を……………」
突然の事に、颯は激しく動揺しつつも、表面上は冷静さを装った。
「クス…………つれないな…………キスした仲だろう?」
そんな颯に、早川は楽しそうに笑みを浮かべると、顔を近づけて唇を重ねようとした。
「止めて下さい。あれは、拓実さんが無理矢理しただけでしょう………」
颯は、早川からのキスを顔を反らして拒むと、冷たくあしらった。
「そうされると、余計に欲しくなるね……………周りの連中を、虜にしてしまうのがわかるよ…………颯………」
自分を拒否する颯に、早川は腕を回すと、颯のネクタイを強引に外し、シャツを引っ張り、釦を開けようと手を掛ける。
「止めっ………いい加減にして下さいっ!!俺が欲しいのは、海を潰す為じゃないんですか!?中一の時に海にした事………俺は許しませんよっ!!」
『ガタンッ……!』
服を脱がそうとする早川の手を振り払うと、颯は早川を突き飛ばし睨み付ける。
突き飛ばされた早川は、思わず資料室に置かれた椅子に当り、大きな音を立てて椅子が倒れた。
「……………つぅ………。なんだ…………海から聞いたのか………あいつの事だから、お前には言わないと思っていたけどな………」
「あなたは、わかっていない。俺と海の関係を…………」
そう言うと、颯は早川に出来た一瞬の隙をついて、早川のナイフを持った腕を掴むと、手首を捻りナイフを奪った。
「いっ………」
「それに、俺を見くびってる。海や大和といると、弱く見えるかもしれませんが、こう見えて………喧嘩には負けた事ないんです。しかも、こんな女みたいな外見のせいで、襲われる事も少なくなかったので、身を守る術は熟知してます。先日は、大和もいたので、油断し過ぎてましたけど……………」
「………颯………っ」
今までの綺麗なだけの颯のイメージとは違う、男らしく強い姿をさらした颯に、早川は痛む手首を握りながら、驚いた顔でその姿を見つめた。
「海にした事の落とし前、今着けますか?海が、俺にしてくれるように………俺も、海の為なら……………人でも、殺しますよ?…………ましてや、もし、拓実さんが大和の件に関わっているのなら…………余計に」
誰よりも大切な海を慰めものにし、大好きな大和に重傷を負わせた事にまで関わっているとしたのなら…………早川の命を奪う事に、颯自身、何の躊躇いもなかった。
「…………本気か…………お前………」
「あなたから来てくれるなんて、願ってもないチャンスでしょ?俺が欲しいのなら、その命…………俺に下さい」
美しい顔に………美しい笑みを見せ、ナイフを向ける颯は、卑劣な事をしてきた早川でさえ、背筋が凍る気がした。
「それ位にしておけっ!」
緊迫した空気を遮る様に、突然資料室に二人とは違う声が響き渡った。
と同時に、誰かの手が颯のナイフを持つ手を掴んだ。
「お前に、ナイフなんか似合わない」
「………淳………っ!?」
早川と颯の間に入り、颯を止めたのは、颯自身久し振りに会う………淳だった。
「どうして…………」
「この先にある生徒会室にちょっと寄って戻ってたら、大きな音がして…………微かにお前の声までするし、急いで鍵取りに行って来た。……………ったく、駄目だろ?お前がこんな事しちゃ…………海、マジギレするぞ?」
「…………う………」
久し振りに会うとは言え、幼馴染みであり、海と颯をよく知る淳にたしなめられると、さすがの颯も反論する余地はなかった。
「……………で?拓実さん………何の真似ですかね?これは」
颯からナイフを取り上げながら、静かな口調で淳は、早川を睨んだ。
「淳…………なんだ…………今度は、お前が颯を守る番か?」
淳の、意外な登場に、早川は皮肉を込めて言った。
「ふざけないでもらえますか?卒業生が母校へ来て、何をしてるんですかって聞いてるんです。颯を資料室に閉じ込めた理由は、何ですか?…………颯の服を乱して、何考えてるんだよ………あんた」
普段は誰よりも優しく、穏やかな淳の様子が、段々キツくなっていくのを、颯はドキドキしながら見ていた。
「おい…………先輩への口のきき方に気を付けろよ、淳」
早川自身も、淳の口調の変化に、苛立ちを露にした。
「先輩?こんな事するのが、先輩か?笑わせるな。……………これ以上、颯にナメた事するなら……………俺も、黙ってはないからな。海や大和がいないからって、ふざけるなよ」
「………淳…………」
淳が本気で怒っている事に、颯の手は、自然と淳のシャツの背中を握り締める。
「黙ってはない?…………何だ……政治家一族の力を使おうとでも言うのか?」
政治家一族…………それは、淳の父親が現役の大臣と言うだけでなく、祖父は元総理大臣、叔父や叔母も大臣や主要ポスト経験者と言った、淳の家柄は有名な政界のエリート一族であった。
「知らないのか?代々一族が政治家をしていると、嫌でも色々な方面に顔が利くんだよ。例え、あんたが財界を牽引する財閥の御曹司と言えど、容赦はしない。ある意味、海や大和よりも潰しが利く事を忘れるな」
颯の前に立ち、淳は普段見せる事のない一面を、早川に見せつけた。
「………はんっ……………どいつもこいつも、お前の為なら全てを投げ出すんだな、颯…………。本当に、罪作りな奴だよ」
早川は呆れたように、颯に言い放った。
そんな早川の言葉が、颯には重くのし掛かる。
「本気で…………本気で、人を愛せないあんたにはわからないよ、拓実さん」
「…………淳………」
本気で…………それは、淳の気持ちが、まだ颯にある事を示している気がして、颯は淳を見上げる。
淳に抱かれてから、淳が忙しくてちゃんと話も出来ないまま、自分が大和を好きになっていった事に、心が揺れた。
「…………下らない。どうでもいい話だな…………勝手にやってろ………シラケた」
そう言うと、早川は資料室を出て行こうとした。
「拓実さんっ!」
「…………何を言われても、俺は俺のやり方を変えるつもりはない」
淳の呼び止めに、早川は冷めた顔でそう呟くと、振り向きもせず足早に去って行った。
ハルです。
いつも読んで下さる皆様、本当にありがとうございます(T^T)
今回は、淳の新たな一面が出ました(汗)本当に怖いのは誰?(--;)
これから、怒涛?の海や大和らの反撃が始まります。
一段落したらどうしようかと、ずっと考えてます。
また、読んで下さったら光栄です。ありがとうございます。
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