大人二次小説(BLGL・二次15禁)

オリジナルBLちょっとH?な続編です2(完)
日時: 2015/12/30 00:23
名前: ハル

ハルです。

BLGL……から移転しました。
なので、続きになってしまいます……申し訳ありません(>_<)
「オリジナルBLちょっとH?な続編です」と、書き方の違う最初の作品「サクラサク」の続きになりますので、初めての方には、読みづらいかと思います。
本当に、申し訳ありません(;>_<;)

ただ、作品への愛情だけで書いてます(汗)
読んで下さったら、光栄です。
よろしくお願い致します(T^T)


現在までの登場人物
*颯(そう)……皆から愛されている、超美形の高校生。世界的に有名な神崎グループの御曹司の一人。頭も良く、仲間への想いは人一倍強い。
*海(かい)……颯のいとこ。颯を溺愛する、IQ180の天才。颯に似てかなりの美形だが、性格は颯以外には冷徹。同じ歳だが、既にグループの事業に関わり、大きな存在感を出している。飛び級で、今は大学院生。
*大和(やまと)……関西を拠点とする、全国でも随一の組織、竜童会組長を父親に持ち、自分も若頭を名乗る極道者。組長の指示で関東へ乗り込み、親父としての指示で高校だけは卒業する為に、颯のいる高校へ転入。颯に一目惚れする。いつも真っ直ぐな大和に颯は翻弄される。
*淳(じゅん)……颯とは古い付き合い。ずっと、密かに颯を想っていた。大和が現れて、少しずつ変化していく。生徒会をしたり、サッカー部でもエースで、優しく人望も厚い。
*翔太(しょうた)……中学からの同級生達に、ずっと弄ばれていた。颯が、そんな翔太を助ける。翔太も、颯には頭が上がらないが、心の底では淳が好き……?
*田城一真(たしろかずま)……淳と同じ生徒会、サッカー部。淳が好きで気持ちは伝えている。颯の事が好きでも、支えてやりたいと思っている。
*早川拓実(はやかわたくみ)……神崎グループに次ぐ巨大財閥早川グループ御曹司。颯達の先輩。一見人当たりは良いが、内面はプライドが高く、負けず嫌い。自分より優秀な海に敵対心?がある。




「…………はぁ……」
西校舎の屋上、お気に入りの場所に颯はいた。
給水塔のコンクリートの土台に座り、一人、深い溜め息をつき、空を見上げる。
「駄目だな………最近、溜め息ばかりだ……」
そう呟き、遠くを見つめる姿もまた、艶やかで美しかった。颯自身、気付いてはいないが、海達のような周囲から羨望の眼差しを受ける男達に愛され、求められている事が、颯をますます綺麗で色香漂う人間へと成長させていた。
「ホンマやで。ここんとこ、俺が見つけた時は、溜め息しか出てへんやん」
「大和………っ」
いつからいたのか、給水塔の鉄柱に寄りかかり、笑顔を見せる大和が立っていた。
「……………久し振りやな、この場所。初めて……ここでお前を見た時は、向こうの山に桜が咲いとって、お前の姿と桜の色がホンマようマッチして綺麗やったっけ………。思わず、見とれたの今でも覚えとるわ」
大和は懐かしそうに、向かいの山に目を向け颯に語りかけた。
制服をいい感じに着崩し、シルバーのリングやブレスをオシャレに付けた大和は、一見すると背中に彫り物をした極道者だとは思えない、格好いい男子校生にしか見えなかった。
「ま…今の颯は、桜なんかのうても、十分過ぎる程綺麗やけど」
「な……なに言ってんだよっ。ホントにお前は、そう言う事を平気で言う………っ」
満面の笑みを向ける大和に、颯は顔を赤くして目を反らした。
「だって、綺麗なもんは綺麗なんやから仕方がないやん。美人は3日で飽きる言うけど、アレ嘘やで。1分、1秒でも会う度に惚れていくねんから」
「ば…………」
馬鹿か!?……と、叫びそうになったのを、颯は飲み込んだ。大和のこんな所に、いつも調子を狂わされる。
颯は、立ち上がりながら、再び小さな溜め息をついた。
その溜め息が終わらないうちに、大和は颯の腕を引っ張り、抱き寄せた。
「やま………と!?…」
一瞬の事に、颯は身動きが取れなかった。
自分より、少し背の高い大和の胸の中に、吸い込まれるように入ってしまった。
「……………その、溜め息の原因の一つは、俺か?………溜め息ばかりついとったら、俺が食べてまうで」
「………大和…………」
さっきまでの大和とは、明らかに声のトーンが変わっていた。
颯の身体に、緊張が走る。
「………前にも言うたやろ。誰も、お前を責める気なんかないて。俺達が、勝手にお前に惚れとんねん。お前が苦しむ必要ないんや」
大和の、静かに話す言葉が、颯の中に染み込んでいくようだった。
「……んな………そんな訳にはいかないよ。淳も……お前も、皆………凄くモテて、人としても素敵なのに、俺一人がハッキリしないせいで、皆を留めてしまってる……。皆の……これからを台無しにしている気がするんだ。………欲張りで、卑劣で、絶対に許されない……………」
大和の胸の中で、颯は顔を埋め、苦しそうに心の内にあるものを吐き出した。
「アホ………。お前より、ええ女がおらんのやからしゃーないやん。俺らは、お前やないとあかんねん。お前やないと、何も楽しゅうない。焦って結論出さんでええから、頼むから………自分を責めんでくれや」
「大和………」
いつからだろうか……気付いたら、苦しい時にはいつも大和が現れていた。大和流な優しさが、何度自分を暖めてくれただろうか………颯は、海の前でしか泣いた事がなかった目が、潤んでいる事にハッとした。
「…………ご……めん………」
絞り出す颯の声に、大和は胸が熱くなった。
「しつこいで。お前は、悪くない。…………悪いんは、お前に惚れてもうた……俺らや。いや、ベタ惚れした俺か?」
冗談っぽく、大和が颯に笑いかける。そんないつもの大和の冗談が、颯に笑みを呼ぶ。
「…………ばか………」
照れくさそうに言う颯を、大和は愛しい目で見つめる。
「………馬鹿や……お前に、全部持ってかれてしもうた、大馬鹿野郎や………。…………かんにんな………お前に惚れてもうて」
大和の手が、颯の手を優しく握りしめた。
「大和……………。………海と………海と、同じような事言うんだな…………」
颯の中で、海から言われた愛の言葉が、今の大和の言葉と重なっているように思えた。
「………え………」
颯の話に、大和の表情が一変した。
「海に…………海に、惚れてるって言われたんか……?」
心臓が、嫌な高鳴りを呼び起こすのがわかった。
颯を握る手に、自然と力が入っていた。
「……あ……………いや……」
大和の様子に、颯も不安を募らせる。
言ってはいけない事を、言ったのかもしれない…………。
「正直に言えや。海が、お前に惚れてるって言うたんやな!?」
「大和………痛い…………」
今まで、自分の感情を隠していた海が、颯に気持ちを伝えた?………一番警戒して、一番ライバルにしたくなかった奴が、ついに動き始めた………!?
大和の奥深くで、今まで以上に強い感情が沸き上がろうとしていた。


続く………





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Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.27 )
日時: 2015/06/07 10:19
名前: ハル

「昨日は………悪かったな」
月曜日の夕方、結局あのまま学校を休み、二人の時間を過ごした颯と大和は、颯のマンションへと向かう道をゆっくりと歩いていた。
「……………昨日……?」
颯の隣で、前を見ながらおもむろに口を開いた大和に、颯は不思議な顔で訊ねた。
「…………………早川の事……………」
「……え…………」
足を止め、颯へ真剣な眼差しを向ける大和の言葉が、颯の心を微かに動揺させる。
消したくても、抱きしめられた感覚やキスをされた感触、言われた台詞は消せるものではなく、颯の脳裏にこびりついていた。
そんな颯の胸の内を悟るかの様に、大和は優しく颯の身体を包み込む。
「………やま…………と…………?」
颯は戸惑いつつも、大和の温もりに身体を沈めた。
「お前の側から離れてしもうた自分に、一番腹が立つ。お前が不安になっとる時に、すぐにいてやれなんだ自分に、一番ムカついてたまらんわ。……………ホンマ、かんにんな……………かんにんやで、颯……………」
守りたい颯を、一瞬でも守ってやれなかった自分を、大和はずっと許せないでいた。
同じ店に偶然早川がいたなんて………誰もわかる筈もない事だとしても、そんな事は、颯を不安にさせた自分を許す理由の一つにもならなかった。
「……………大和……………」
大和の想いの深さに、颯は全身が溶けてしまいそうな程、熱くなった。
いつも、どんな時も、自分の想像を超える愛で支えようとしてくれる大和に、全てが奪われていく気がした。
「………………いいの?こんなに、俺幸せで…………」
顔を見上げ、颯は大和に問い掛ける。
少し茶色かかった透き通る瞳が、夕焼けの茜色と重なり、美しさを増していた。
「アホ…………お前が、俺を幸せにしてくれてんねん」
はにかむように微笑み、颯を真っ直ぐに見つめる大和は、誰よりも格好良く、魅力的な男に思えた。


「………海、帰ってる…………」
マンションの扉を開け、海の靴を目にした颯が呟いた。
「今日、珍しく早い………」
「あ、今………ちょっと嬉しそうやなかった?………妬けるわ………」
まだ夕方と言う早い時間帯に海が帰宅している事に、微かに頬を緩ませた颯を見て、大和は戸口に手を突き、少し意地悪っぽく言った。
「え………あ、いや…………ごめん………そんなつもりじゃ………」
大和の言葉に、つかさず颯は困ったように大和の方へ振り向いた。
「最近、海とはあまり話もろくに出来てなくて…………その………」
戸惑いながら、大和のジャケットの端を掴み、話す颯がまた可愛らしくて、大和は頬にキスをした。
「大和…………っ」
「冗談やて。わかっとるよ…………今日は一杯話し。海も忙しいさかい、ゆっくり出来ひんもんな……………。でも…………その前に、俺も海に謝っとこかな…………」
「謝る……………?」
後ろから颯の腰を抱き寄せ、囁く大和に、颯は大和の手と自分の手を重ねて握り締めると、聞き返した。
「昨日から外泊させた上に、今日は学校休ませとるさかいな、謝っとかんとあかんやろ?一応、海はお前の保護者みたいなもんやし………。二度と会わさへん言われたら、俺泣くわ」
「クス…………大和が泣くって…………」
わざとらしく言う大和の言い方が可笑しくて、颯は大和に寄りかかり笑った。
「ホンマやで?…………お前の事は大事にしたいさかい、海にもちゃんとしたいんや」
「……………大和……」
「部屋におるよな?…………ちょっと、行って来るわ………」
大和は、優しく颯に口付けをすると、先に玄関を上がった。
「お……奥の部屋だから…………」
颯は海の部屋を教えて、大和の後ろ姿を見つめた。
手を上げて返事をした大和の顔には、何故か笑みはなかった。
『コンコン………』
静かな長い廊下に、ドアをノックする音が響く。
「はい」
中から、小さく落ち着いた海の声が聞こえた。
「悪い………大和やけど、少しええか…………?」
「……………大和?…………どうぞ」
突然の大和の訪問に、若干の沈黙の後、海は大和を受け入れた。
ガチャ………大和が中へ入ると、きちんと整理された部屋で、海はソファへ座りパソコンを叩いていた。
「……………何だ?颯は無事に帰してくれたんだろうな?」
ドアを閉め、海に近付く大和に対して、海はいつも通りの表情一つ崩さず問いかけた。
帰って来たばかりなのか、スーツのジャケットをソファの背もたれにかけ、ネクタイを緩めて座る姿は、いつ見ても、颯に負けず劣らず美しく惹き付けられるものがあった。
「もしかして、颯が心配で早よう帰って来たとか?颯、喜ぶな………それ。………まあ、言われんでも無事帰しましたけど」
相変わらず、愛想一つない海に呆れつつ、大和は海の前のソファへ腰を下ろした。
「…………はぁ…………お前達の付き合い方にとやかく言うつもりはないが、外泊するなら週末にしろよ。学校を無駄に休ませるな」
「何や、大人やな…………もっと怒っとるかと思ったわ………。てか………今朝は、颯も身体動かせへんかったさかいな………しゃーないと言うか………」
「は………?」
颯の身体の話に、海の目が一瞬大和を睨み付けた。
綺麗な黒髪の隙間から覗かせる、長い睫毛に覆われた漆黒の瞳に睨まれると、その見た目が美し過ぎるあまり、冷たく怖さが際立った。
「…………う、嘘やて……………いややな、冗談通じんて………」
……ホンマやけど…………海の迫力に、洒落を言おうとした大和も目を反らして苦笑いした。
「……………っとに、颯とこんだけ似て美人なくせして、ここまで雰囲気違うのも、ある意味凄いな。…………颯とおる時は、別人なんやろうけど」
目の前にいる、うっとりする様な美少年をマジマジと見て、大和が溜め息をつく。
「………………お前、何しに来たんだ?颯が待ってるんじゃないのか」
自分の顔をじろじろ見て来る大和を鬱陶しがるように、海が立ち上がりデスクへ向きを変える。
「……ああ…………そこな……」
海の問い掛けに言葉を濁す大和に、海は手に持っていた書類をデスクに置いた。
「何か、あったのか…………?」
大和の目付きが、さっきまでの冗談を言っていた時とは明らかに変わった。
大和もソファから腰を上げ、海に目を向ける。
「………………颯が…………早川に会うてしもうたわ」
「……………何だって…………?」
大和の一言が、海の表情をみるみる強張らせていく。
「俺もうかつやった。まさか、偶々行った店におるとは思いもせえへんかった…………。俺が少し離れとる隙に、二人は接触してしもうとったわ」
「それで、颯は…………」
海は、颯に対する心配で動揺する身体を必死に堪えた。
常に強く、常に冷徹に………颯の為にある自分を、大和の前で決して乱さぬよう、心に言い聞かせて………。
「詳しい事は言わへんけど、お前の話が出たんやないかと思う。後で、お前の心配しとったさかい…………」
「早川…………」
側にいる大和にも、海の内に溜め込まれた怒りが伝わってきた。
それだけ、この問題が大きな事だとわかっていたからこそ、大和も海に伝えなければと思い、ここへ顔を出した。
「…………それだけか?他にも早川は颯に何かしたのか?」
「………………した」
「え?…………」
海は眉をひそめ、大和を見つめる。
「あいつは、颯に…………強引に、キスをしとった………」
その瞬間、海の手が大和の胸ぐらを掴んだ。
「大和…………お前、颯を守るって俺に言ったんじゃないのか………っ。竜童会若頭が笑わせるな!何の為に、颯の側にいる事を許していると思っているっ……」
竜童会若頭………普通は誰もが腰の引ける相手かもしれない。でも海には、そんな肩書きなど颯を守る為の道具の一つでしかなかった。
同時に、大和にとっても、今まで颯を守ってきた海の言葉は、何よりも痛く響いた。
「…………っとる…………わかっとるわ。今回の件は、全部俺の責任や」
そう言うと、大和は自分の胸ぐらを掴む海の手を握り、海を睨み返した。
「せやから、早川を俺に潰させてくれ。お前は、神崎の名前があるんやから、ヘタな真似は出来ひんやろ。汚れ役は、俺で充分や。俺は、あいつが許せへん」
颯を傷付けた早川に対する怒りは、大和にも勿論ある。颯の前では平静を装っていても、その怒りがおさまる事など、大和にはない。
大和の想いに、海は手を離し、小さく息を吐いた。
「…………馬鹿か?そんな事をしたら、俺がお前を殺す羽目になるだろう………。お前は、お前をどんどん好きになっている颯を捨てられるのか?」
「それは……………」
「颯を…………泣かす様な真似をするな。お前は、颯を守ってくれたらそれでいい。…………早川は、俺が仕事でカタをつける。その為に、今準備をしているんだ………」
「海……………」
颯を想うが故の、海の大和に対する思いやりだった。
「…………お前が、どれ程颯を想っているか…………お前に惹かれていく颯を見ていたらわかる。………………感謝している」
思ってもいなかった海の台詞に、大和の胸は張り裂けそうな程嬉しさが込み上げてきた。
「…………あかん……………泣く………。海…………胸貸して………」
「ふざけるな………っ。気持ち悪いっ………」
海の胸にすがろうとする大和を、海は本気で嫌がりながら突き放した。



続く……………。













Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.28 )
日時: 2015/06/09 16:51
名前: ハル

「大和、帰ったのか………?」
大和をマンションの下まで見送りに行っていた颯が戻ると、海が部屋から出て来て立っていた。
「あ………うん…………。……………海、大和に何か言ったの?なんだか……大和、少し嬉しそうだったから…………」
まさか海が、大和に対して感謝の気持ちを伝えたなんて思いもしない颯は、つい笑顔が溢れてしまっていた大和が、不思議でならなかった。
「……………いや、別に。……………それより…………」
海は、颯の話に微かに笑みを浮かべ否定すると、颯に近寄り身体を抱き寄せた。
「海……………」
「おかえり……………颯。まずは、これが最初の儀式」
少し驚く颯を、海の優しい声が包む。
颯だけに見せる海の姿に、颯も安心感に満たされる瞬間だった。
「ご……ごめん……………ただいま、海……」
自然と、颯も海の背中に腕を回し、首元に顔を埋めた。
親子よりも、兄弟よりも、大切な家族。そんな絆が、二人を心地よい関係へと深めていた。
「……………海……」
「…………ん?……………」
「拓実さんに、会ったんだ…………」
「ああ…………大和から聞いた………」
海の胸の中で、颯はずっと気になっていた事を話題に出した。
何も動じてないかの様に、海が落ち着いて答える。
「何か………あるの?海と、拓実さん…………。もしかして、俺…………気付かないうちに、海に迷惑かけたんじゃ……………」
颯は、怖くて海の顔が見られなかった。
早川拓実に言われた、『あの時』と言う一言がなければ、自分は何も知らないままだったかもしれない。でも、それは海があえて隠している事だとしたら、触れてはいけない事を聞いている……………颯は、海の反応に怯える様に俯いた。
「…………心配しなくていい。何を言われた知らないが、たいした事じゃない。ただ、お互い周囲から比べられて、ライバル関係みたいになっているだけだ」
海は颯の身体を離すと、微笑みながら気まずそうに俯く颯を見つめた。
「…………ホント?でも、拓実さんは…………」
『あの時』って………………そう言いたい気持ちを、颯は飲み込んだ。
やっぱり、海は自分には何も言ってくれない……………自分の頼りなさが、颯には情けなく思えた。
「………………シャワー、浴びてくる………」
海から後退りし、颯が呟く。
「颯…………今日、多岐さんいないんだ。夕食、俺が作るから………」
「わかった…………」
いつもと変わらない海が、颯には切なかった。

『キイィ………』
バスルームの硝子扉を開け、濡れた身体を颯はバスタオルで拭きながら、鏡に写る自分に目をやった。
「はあ…………海と、顔は似てるのにな…………俺には、海を守れないの?」
高い鼻筋に、ハッキリとした二重の綺麗な瞳、潤いのある紅い唇…………誰もが見とれる鏡の中の美しい顔に手を突き、颯は守りたい人を守れない苦しさで、表情を曇らせる。
「…………いつも、守られてばかりは嫌だよ…………海………」
ほどよく引き締まり、筋肉の付いた身体に雫をたらし、悩む姿は、少年から大人に近付く颯の色気を一層と強く引き出していた。
『トントン』…………ガチャ……。
「颯、もう出た?俺も、シャワー浴びとこうと思って……」
ノックと共に扉が開き、服を着かけてた颯に、ネクタイを外しながら海が声をかけた。
「え………うん、出たよ。どうぞ」
「クス……………颯、髪に泡が付いてる。ちょっと、こっち向いて」
紺色のスウェットパンツを履き、上にジップアップの同じスウェットを羽織りかけた颯に目をとめ、海はシャツを脱ぎかけていたのを止めて、タオルを手にした。
「ちゃんと流さないと………」
「ご、ごめん…………考え事してたから…………」
目の前に、海の大きく開いたシャツから覗く鍛えられた胸板と、形の整った淡い桜色の唇が迫り、その艶っぽさに思わず颯は目のやり場に戸惑った。
おまけに、自分の髪に触れる海の指先が、とても気持ち良く、胸を高鳴らせる。
「これで拭けたかな…………。…………颯、少し待ってて。今、ビーフシチュー煮込んでるから、出たら仕上げるね。好きだろ?ビーフシチュー」
「………………ん………ありがとう…………」
海にとっては、いつもと何一つ変わらない颯への愛情が、颯の身体を火照らせていく。
バタン………
「『少し待ってて』……………シチューの事だよね、勿論。………………なに、期待してるんだろ……………俺………」
扉にもたれ、颯は海の身体を意識する自分を宥めるように、溜め息をついた。
「もう……………大和がエロ過ぎて、俺も頭おかしくなっちゃったんじゃないかな………」
大和との時間を思い出し、颯は苦笑いをしてリビングへ足を向けた。
「いい匂い…………」
キッチンの横を通ると、海が仕掛けたシチューの香りが漂ってきた。
颯が顔を覗かせると、弱火にかけられた鍋の横に、彩り豊かなサラダも用意されていた。
「スゴい……………海って、本当になにやらせても完璧だな。逆に、俺に料理させてもらえない筈だわ……………俺、目玉焼きは出来たっけ?」
キレイに片付けられたキッチンと、作り上げられた料理を目にして、颯は海のそつのなさを感心する。
「……………食器くらいは、出しておこうかな………」
颯は海の好みを考えつつ、食器を準備し始めた。
「なんか………………今更だけど、夫婦みたい…………。ん?奥さんって、どっちだろう………………。と言うか、海も…………いつか結婚するんだよな…………大事な跡取りだし……………………………俺、その時………どうするのかな………」
海にとてつもなく依存している自分が、颯は平静でいられるとは思えなかった。
「駄目だ………………海は、俺の…………」
ガタッ…ブワッ…………
何かを言いかけた颯の後ろで、突然鍋が沸騰して吹き零れだした。
「うわっ………えっ!?あ………ど、どうしよ………とにかく、何?蓋取るの?ええっ………」
料理のしない颯には、対処がわけわからず、ただ慌てて鍋蓋に手を伸ばしてしまった。
「あつっ…………!!」
ガシャンッッ………その瞬間、熱くなった鍋蓋に触れ、颯はたまらず熱さで鍋蓋を床に落とした。
「颯…………っ!?」
颯の叫び声と、大きな物音に、海が慌てて駆けつける。
まだ水滴が残る髪を揺らし、颯と色違いの黒いスウェットスーツを着て、海は颯の手を掴んだ。
「大丈夫か!?火傷?早く冷やさないとっ……」
颯の後ろから手を伸ばし、海の手が颯の手を冷水に触れさせる。
「冷た…………」
「我慢して……………ごめんな、火加減が悪かったな。本当にごめん………ごめん、颯…………」
後ろから抱きしめる様に手を冷やしてくれる海からは、当たり前に、自分と同じシャンプーの香りがして、火傷の事以上に颯をドキドキさせた。
「だ、大丈夫だよ…………ほんのちょっとだから、気にしないで」
「馬鹿…………そんな訳にはいかない。…………お前は、大切な人なんだから」
海はそう言うと、颯の火傷した指を加え舐めた。
「海………………」
「……………愛してるって、言っただろう?お前が、誰に恋して………誰と愛し合おうと、俺は………誰よりもお前を愛してる………。例え少しの傷でも、俺の胸は痛い…………」
全く欠点のない、大好きな海の綺麗な顔が、唇が………自分の指に触れている事に、颯は膝から崩れ落ちそうな程、力が抜けていくようだった。
その上、こんな愛の言葉……………海に言われて、不快に思う人間なんかいるのだろうか?颯は、自分だけにしか見せないとわかっているからこそ、その価値を思い知る。
「……………出来ない」
「え……………」
「我慢出来ない………………」
颯の手が、海の頬を捉え、吸い込まれる様に唇を重ねた。
「……………っ…………颯……………」
「海………………今日は、俺に海を抱かせて………。……………海の身体が、欲しい…………」
「お前が……………俺を…………」
驚く海に、颯はさらに唇を絡めて、海の上着のファスナーを徐々に下ろしていく。
「嫌?…………海が、あまりにも色っぽいから………抱きたくなっちゃった………」
「………………いいよ。お前になら、何されてもいい…………」
颯の甘える言い方に、海の頬が優しく緩んだ。
「抱いて………………颯………」
「………海……………」
キッチンに寄りかかり、颯は海の上着を脱がせた。
どんなに見慣れていても、海の身体はとても美しく、颯を欲情させる。
「…………大和にいっぱい抱かれたのに、海を欲しがる俺って………異常だな…………」
「それを言うなら、『俺達』が…………異常なんだよ………」
誰にも立ち入る事の出来ない、二人にしかない繋がりが、颯と海を一段と淫らにしていく。
美しく、気高い遺伝子に導かれるように……………。



続く………………。







Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.29 )
日時: 2015/06/11 18:49
名前: ハル

「…………颯、キス上手くなったね……」
キッチンで互いの唇を絡め合い、漏れる吐息の隙間から、海が呟いた。
「大和に、鍛えられたかな…………大和、上手いから……………。……………でも…………俺のはまだ、海には敵わないよ…………」
颯は初めて海にキスをされ、忘れられなくなる程堕ちてしまった時の事を思い出し、一層と海の中へ舌を求め入れた。
「………ん…………あ……そんな事……………凄く……気持ちいいよ………颯……………」
「本当………?…………感じてる海の声も、凄く興奮する…………」
そう言うと、颯は海の首筋を舐めながら、自分の上着を脱ぎ捨て、海の身体に肌を密着させる。
「そ…………う…………ベッド……ぁあ………行く?………」
「……………いや………海を抱くなら、あそこがいい…………」
「あそこ…………?」
聞き返す海の顔を見つめ、颯は嬉しそうに微笑むと、海の手を引いてリビングの方へ歩きだした。
「…………え…………」
リビングのバルコニーに面した、大きな窓の前まで海を連れて行くと、颯は毛足の長い柔らかいラグの上に、海の身体を押し倒した。
「ここ…………?」
「うん、ここ……………。…………だって…………月明かりで、海の姿が一段と綺麗に見えるから……………」
不思議がる海を見下ろし、颯は薄暗いリビングで、唯一月明かりが照らす海の美しさに見とれながら、再び唇を重ねた。
「綺麗……………海…………ん………はぁ………綺麗だよ………」
「颯……………っ………あぁ………えも………お前も、綺麗だ…………」
月の光だけを頼りに、同じ血の流れる、よく似た美少年同士の絡む姿は、とてつもなく妖艶で淫らな雰囲気を漂わせていた。
そんな二人は、美しく絡み合いながら、颯の手が、海のスウェットパンツの中へ滑り込み、颯の身体に反応する半身を捉える。
「んっ………あぁぁっ………颯っ………」
自分の半身を握り、ゆっくりと上下に動かす颯の手つきに、海はたまらず声を上げ、颯にしがみつく。
「ああ………海……………海の、その顔たまんない。もっと………もっと、悶えて…………」
颯は海の身体を離し、スウェットパンツと下着を脱がせると、艶やかに潤う唇で海の大きく反りたつ半身を加え込んだ。
「はぁっ…………あっぁあっ……んっああ……そっ………」
「ジュパ……………いい?………いいの?海…………じゃあ、いっぱいイッて………」
いやらしい音をたてながら、颯は海の半身を下から唇を滑らすように舐め回し、何度も口に含んで唾液で包み込む。
そんな颯を高揚した海の顔が、ますます淫らな気分にさせていく。
「ホント……………たまんない…………俺だけに見せる、海……………変態になりそう…………」
「………あ……んっ………颯っ………颯ぉ…………っ……」
海の半身から、いやらしく糸を引きながら口を離すと、颯は海を抱きしめて、海の下半身に指を一気に飲み込ませた。
「うっ……ぁっ…………ああっ…はぁぁあっ」
「海の性感帯………この辺?…………それとも、ここ………?」
自分の中に入り、指を奥まで突っ込み、まさぐる様に動かす颯に、海は息を荒くし、颯の身体を求める。
「颯っ………そ……こ……………ぁあ………ダメだ………っ……」
「あぁ………海…………じゃあ、もっと攻めてあげる…………キスして………海………」
「…………颯………っ………んっんぁあっ……」
颯は、自分にしがみつく海にキスをねだると、唾液を垂らす程の激しいキスで海を攻め、海の脚を上げて、興奮する自分の半身を海の下半身に埋め込ませる様に沈めた。
「ああぁぁっっ………そっ………うぁああっ……い、いいっ………颯ぉっっ……いいよっっ…」
「はぁぁあっ…………海……っ……………締めるっ……ヤバい………あぁっ……気持ちいいっ……」
海の中に入り込んだ半身の締め付け具合と、互いに腰を動かし擦れる感覚のあまりの気持ち良さに、颯も下半身が痺れて酔いしれた。
「やっぱり…………遺伝子、最強かも………はぁっ……はっ…………海から離れたくな……いっ…………あぁ………相性良すぎ………………っ」
「んっはぁっ……颯…………っ……………イク………イキそう……あぁっ」
顔を歪め、颯の唇を求める海は、それだけでも美しくて、颯の欲情した身体を満たした。
「俺も………俺もイク……あぁんっ……………ぁあっあっ………海…っ…………」
二人は互いの手を絡め合い、握りしめて唇を重ねると、激しく身体を揺らし、絶頂へとその綺麗な姿を熱く求めた。
「颯っ………颯………っ……ああぁっ………んっああぁぁっ……イクッ…はああっっ…」
「あぁっっ…………海っ……離したくなぃっ……あああぁぁっ……いっ………ああぁっっ」
大きくなる喘ぎ声と共に、二人の身体に電気が走ったかの様な感覚に襲われ、颯は海の胸の中へ波打つ身体を沈めた。
海の身体に、颯の体液が奥深くへと飲み込まれ、その快感を味わいながら、颯は海の腹筋を流れる、海の体液を手で拭い取ると、自分の口へ運び舐めた。
「はぁ………はぁ……海の味…………美味しい……」
「…………ああ………颯………っ」
颯の唇からいやらしく垂れる自分の体液を、海は舌で拭うと、そのまま颯の唇を舐めるように舌を挿入した。
「んっ…あぁっ…………か……ぃっ……」
「颯………上手かったよ…………これ、ご褒美……」
まだ火照る颯の身体を抱き寄せ、海は優しく颯の舌を絡ませる。
「や……あんっ……んっんぁあ…………海…っ……」
とろける様な海の上手なキスに、颯の身体は再び反応を示す。
「……………可愛い………颯……」
「もっ………やだ………はぁあっんっ……今日は、俺が攻めだよっ……んっんっぁあっ」
「可愛い過ぎる……………」
海の唇が、颯の首筋を滑り、痺れのさめない身体を刺激する。
「ぃや…………海…っ……」
「…………………今日、一人で落ち込んでたな…………俺が、お前に何も言わないから………とか思ってる?」
「あ…………え………」
今度は逆に、海が颯を押し倒し、月に照らされた戸惑う颯の瞳を見つめる。
「お前が………俺を、守れてないと思ってる?」
「海……………」
海の、落ち着いて話す言葉に、颯は何故か自然と涙が溢れていた。
「お前の心は、俺が誰よりも理解しているんだ。言わなくても、わかるよ。……………お前が、俺を守れてないわけないだろう…………」
海を見上げ、涙を流す颯の頬を、海の手がそっと撫でる。
「でも、海…………俺………何も…………」
「守れているよ。ずっと、昔から…………お前は俺を守ってくれてる。幼い時から、俺の後を付いてきて、いつも一人だった俺に寄り添ってくれた。家庭教師や家政婦ばかりに囲まれて、孤独で感情も何も持たなかった俺に、お前だけが………心をくれた。…………お前がいる事で、俺は俺を保っていられる。何もしてないなんて、思わなくていい……………お前の存在に、俺は生かされているんだから………」
「………海…………」
静かな海の声が、颯の心に染み渡っていく。
子供の頃から、海が大好きだった。両親が忙しくて、海同様いつも一人だった颯にとっては、頭も良く綺麗な海に憧れていた。
颯自身も、海の側にいる事で自分でいられた。
「……………だって…………俺だって………海に生かされてるよ…………。そんなの一緒だろ…………。俺は、助けたい。神崎の名前を既に背負っている海を………忙しくて寝る間もない海を………。……………拓実さんの事だって………ちゃんと知りたい…………」
「…………颯…………」
颯は自分の頬を撫でる海の手を握り、海に訴えかける。
「『あの時』って…………何………。拓実さんは、そう言った。…………昔、拓実さんと何があったか………知りたいんだ…………」
「………あの……時…………」
その言葉に、海は颯から目を反らし、遠くを見るように身体を起こした。


「……………本気ですか?竜童会若頭をヤるなんて」
早川グループが経営する、ホテルの客室の最上階、ごく限られた人数の中、人目にさらせない密会が行われていた。
「関東進出を目論むあんたらにも邪魔だろ?あの若頭は」
夜景の見える、開けた窓辺に立ち、怪しくも笑みを浮かべる早川拓実が口を開く。
「聞けば、こっちに来てる竜童会の連中は、精鋭を集めている分人数は少ないって話じゃないか。カリスマ性のある、若頭を潰せば崩すのもわけないだろ?」
早川拓実は、強面の屈強な男を両脇に立たせた、30代位の黒スーツの男に目を向ける。
「…………まあ、我々も関西ではええようにされてましたからね、竜童会には。ええ機会ではありますけど………。相手は竜童会ですからね、相当な覚悟がいりますわ」
返事を躊躇う男に対して、早川拓実の秘書がアタッシュケースを目の前に差し出した。
「…………資金に使ってくれ………」
出されたアタッシュケースを開けると、びっしりと札束が埋められていた。
早川拓実による、海を潰す為の計画が、本格的に始まろうとしている。
その最初のターゲットが、大和になったと言う事を、後日、嫌でも知る事となった。



ハルです。
長い…………ですね(汗)
本当に、いつもありがとうございます。
最近、流れからシリアス面が増えて、キチンと仕上げたいと思う反面、悩みます………( TДT)
エロいのも好きですが(下手なりに(--;))、コミカルなのも好きなのに………最近重い……………。そんな中、読んで下さってる皆様には、本当に本当に、毎回しつこいですが(すみません(汗))感謝してます!
ああ、すみません。自分自身に愚痴りました。
最後に、こんな〆で申し訳ありません……………。

Re: オリジナルBLちょっとH?な続編です。2 ( No.30 )
日時: 2015/06/15 14:16
名前: ハル

「颯………………俺達が中学に入学した時、早川は3年で生徒会長をしていたのを覚えているか?」
月明かりが窓ガラス越しに室内を照らすリビングで、海はキッチンからスウェットの上着を持って来ると、颯に羽織らせながら静かに口を開いた。
「う、うん……………確か、入学式で海が新入生代表を読み上げて、拓実さんが在校生代表として、歓迎の言葉を述べていたよね………?」
海からの問い掛けに、颯は数年前の記憶をたどりつつ、答えた。
「ああ…………………あの時点から、早川は俺の事が気に入らなかったんだ………」
「…………?………どう言う事?海は、拓実さんに何もしてないでしょ?」
海の言う意味が理解出来ない颯は、首を傾げて聞き返す。
「お前は、人当たりの良い、頭脳明晰で優等生の早川拓実しか知らないからわからないだろうけど……………あいつの本性は全く違う。プライドが高く、常に自分が人の中心でないと許されない。且つ、同世代で自分より上が身近にいるなんて、絶対に認めない様な人間だ。……………ある意味、気の毒な程歪んだ性格の持ち主なんだよ」
「…………そんな…………信じられない………」
今まで颯の見る早川拓実は、自分に対してはいつも優しく年上らしい振る舞いしか見せたことのない頼れる先輩だった。
それが、まるで嘘かのような海の言葉に、颯はさすがに戸惑いを隠せなかった。
「………………あいつが本性を見せるのは、本当にごく限られた人間にだけだったからな…………。……………俺のように、無意識とは言え、あいつのプライドを傷付ける真似をした………」
「…………え?それが………入学式から海を気に入らなかったって言う理由になるの?」
「そうだ。……………俺が入学するまで、あいつが入試結果では過去最高得点を取り、学校側の期待と生徒達の羨望の眼差しを自分のものにしていた。でも、俺が入試でオール満点の歴代トップの成績を出し、IQの高さが知られ………おまけに、お前に似た外見と、あいつと同じ財閥の御曹司と言う肩書きが、あいつへの注目をこちらへ向けてしまった……………別に、俺は欲しくもないのにな」
「海……………」
溜め息をつき、颯の髪の毛に触れながら呆れ気味に言う海が、颯にはとても可哀想に感じた。
昔から、自分の思いとは関係なしに、海は否応なしに注目を浴びせられてきたのを、颯は誰よりも見てきた。
「あいつは…………早川は、いつも俺には冷たかった。そのくせ、関わりたくもないのに、絡んで来る。………………見てたんだろうな………………どうやったら、俺を陥れられるか…………あいつは、俺を見て考えたんだろうな…………。俺は、それをあいつの行動で初めて知った………………。ほら、記憶にないか?早川が、お前を一人呼び出して、部活の見学に連れ出したの………」
海の話に、颯は薄れかけてた思い出を、蘇らせる。
「あ………………」
確かに、一度だけ早川拓実に誘われた事があった。でも何故か、途中で気分が悪くなり、気付いたら医務室で横になっていた。
「あの日、何も聞いてなかった俺は、放課後お前を探し回ってた」
「いや…………だけど、拓実さんは『海は後から来るから』って…………え……あれは、じゃあ………嘘…………」
「…………ああ、騙されたんだ……………あいつは、気づいたから………俺の弱点は、お前だって………………」
そう言うと、海は苦しそうに雲に半分隠れかかった月を見上げる。
「海………………もしかして、その時に何か……………」
海の手を握りしめ、颯は心が不安で染まるのを必死で耐えた。
「俺が…………やっと早川を探しだした時、あいつは誰もいない医務室にいた。颯と一緒にバスケ部を見学してたら、颯が気分が悪くなったから連れて来たって…………隣の医療器具や薬の保管庫のソファに寝かせていると、嫌な笑みを浮かべ、倉庫の鍵を俺に見せた。………………気分が悪くなったなんて、嘘だよ。お前に部員達が飲んでるドリンクをあげる振りして睡眠薬を混ぜてたんだ」
「…………そんな………………あのドリンクに………」
海から聞かされる早川拓実の卑劣さに、颯の顔は徐々に青ざめていく。
「あいつは、言った……………『颯を、俺にくれよ。お前が一番大事なもの、欲しくなった』と……………」
「な………………」
「………………怒りで震えた。殺してやろうと思ったよ…………。でも、まずはお前を助けるのが先だ。色々な言葉を並べて、何とか鍵を返してもらおうと………話したくもない奴を目の前に、一生懸命話した。……………………そんな俺を見て、あいつは見下したんだろうな…………俺に近付いて、耳元でいやらしく囁いて来たんだ」
『じゃあ、今日はお前が代わりに、女になれよ』
「う…………そ………………」
耳を疑う、想像を越えた汚ない言葉に、颯の目から涙が溢れ、前に倒れそうになる身体を海にすがり支えた。
「嘘だよね!?まさか、海……………海……………っ…」
「俺に迷いはなかったよ。俺の身体一つで、お前が戻ってくるなら安いものだ。いくらでも、差し出してやろうと思った」
涙で頬を濡らす颯を真っ直ぐに見て、今まで以上に優しい瞳で、海は答えた。
「俺のせい…………俺のせいで………」
「それは違う!……………早川と俺の問題にお前を巻き込んだ、俺の責任だ。お前は、何も悪くない。…………………早川拓実と言う人間を、見抜けなかった俺が悪いんだ」
原因を作った自分を攻めようとする颯に、海は強く否定した。
「………海…ぃ…………か…………ぃっ……」
誰よりも美しく、誰よりも気高い、かけがえのない海の、思いもしない過去に、颯は海に抱きついて泣きじゃくった。
「……………………どれだけ抱かれたか覚えていないけど、やっと身体を解放されて、あいつから鍵を渡された時は、お前の顔を見る事で頭が一杯だった。初めて男に抱かれ、全身が痛む身体を引こずり、まだ薬で眠るお前を見た瞬間の、あの力が抜ける様なほっとした気持ちは忘れない……………忘れられない…………」
自分の胸の中に顔を埋めて泣く颯を、海も抱きしめ返し、愛しそうに呟く。
「颯………………あの日、俺は誓ったんだ。今のままじゃ駄目だ…………お前を守る為には、俺はもっと強くならなきゃいけないって。その為には、神崎の名前も……権力も、財力も…………人脈も、この持って生まれたIQも……………何もかも利用してやろうと……………全ては、お前の為だけに冷徹で強い男になってやろうと…………………颯、俺は傷付いてはない。いい勉強をさせてもらったと思っている」
「…………海……………でも………」
「ほら、お前が俺の分まで傷付くから、言いたくなかった…………」
颯の顔に手を添え、微笑みながら言うと、海は颯の潤う唇をゆっくり自分の唇で塞いだ。
「………ぁんっ…………海……っ……っんあ」
涙が止まらないのに、海のキスは颯の身体を熱くしていく。
「今回も………早川は、俺を潰すつもりで帰国したんだと思う。偶然とは言え、お前に近付いたのもそうだ………………。でも………………次は、負けない。俺は、お前に薬を飲ませ眠らせた復讐を、まだやり遂げてないからな………」
「あっぁあ…………っ………海…っ……………はぁあん…ぁ………」
早川拓実への復讐に胸を燃やし、冷徹な一面を覗かせながら、海の唇は颯の首筋を這い、手は身体を滑らせる。
「…………も……俺も、強くなりたい…………んっあ……海を…………やぁんっ………守りたぃっ……ぁあっ……」
海の想いに、颯も同じように返したかった。
海は、巻き込まれたのは颯の方だと言っていても、颯にとっては自分を守る為に海が身体を犠牲にした事に変わりはない。
真実を知ったからこそ、二度と、完璧な海を崩させたくはなかった。
「……………颯…………俺達は、将来神崎の人間として、早川みたいな人間や、それ以上に悪どい人間とも関わらないといけない時があると思う。目を世界に向けて生きていかなければいけなくなっていく。……………だから、側にいて欲しい」
「海……………」
月夜に照らされ、愛して病まない海の綺麗な顔に、颯の瞳は奪われる。
その美しさに、見つめられたら身体が動かない。
「ずっと……………この先、ずっと……………俺の隣で、俺を支えて欲しい。…………お前が誰を好きになって、誰と結婚しようと構わない。ただ……………一生、お前の笑顔で、俺に力を与えて欲しいんだ…………」
全身が、溶けてしまいそうな…………海の姿と、海の声と、海の…………言葉だった………。
「…………なんだか、プロポーズ…………みたいだよ…………」
海の、自分だけに向けられる愛の深さに、颯自身も強い覚悟を自覚した。
「………………そうかも、しれないね…………」
「海……………っ………」
顔を赤くし、海を見つめる颯に、海は目を細めて言うと、再び唇を絡めて舌を求め入れた。
「あぁっ………んんっぁあ………か…………いっ……」
「早川のキス………………俺が忘れさせてやる…………………愛してるよ…………俺の…………颯…………」
誰も理解出来ない、二人だけの空気を味わうように、海は颯の身体を優しく包んだ。




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