大人二次小説(BLGL・二次15禁)
- 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も
- 日時: 2020/05/19 16:56
- 名前: 皇 翡翠
文ストの乱歩受けを中心に書いていきますっ!攻めも多分書くかと、
語彙力はあるかわかりません、拙く駄文ではあると思いますがそれでもよければ楽しんでってくださいね。
乱歩受けが好きになってくれると良いなぁ
・BL中心、たまにNLGLあるかも
・殆ど乱歩さん
・似非かも
・いろんな性格、設定、女体化、獣化、パロディ有
・シリアス、儚め、モブ有
・長編、短編
主に太宰×乱歩、福沢×乱歩、ポオ×乱歩、中也×乱歩
コメ、リクエスト一応受付ますが雑談の方で。
目次
short
・>>1-2甘酸っぱいlemoncandy(太乱) ・>>5-7-8氷砂糖と岩塩(太中)
・江戸川乱歩は大人であるードライな乱歩さんー(乱歩総受け)
福乱>>16 国乱>>17 太乱>>18 中乱>>19 ポオ乱>>20
・確かに恋だった(太乱)>>29
・rainyseason
灰色の空(太乱)>>34-35 みずたまり(中乱)>>36-37
・黒白遊戯 マフィア太宰/太乱>>44-45
・こどものどれい モブ中/太中>>46-47
・ In the light 太中>>48
・一度で良いから 中乱 R18 >>51
・なんて不毛な、それでも恋(福←乱←太)>>52
・初恋は実らない、ジンクスさえも憎い 福乱>>53
・悪あがきとキス 太中>>54
・聖者の餞別 記憶喪失太宰の小噺>>56
・偽りはいらない ポオ乱>>57
・新たな教育方針(福乱)R18>>58
・たまごかけごはん>>59
・合言葉は「にゃん」である/太乱>>60
・ドラマみたいに/国乱>>61
・宇宙ウサギは月に還る>>64
・風が死を吹くとき(太乱)/微シリアス>>71
・ひきこもり人生(ポオ乱)/濡れ場あり>>72
・賭/太(→)中>>73
・百年の恋をも冷めさせてほしい(太乱)>>74
・水底の朝>>75
・せめて隣が、あなたじゃなければ(太乱+国)>>76
・なんて無謀な恋をする人>>77
long
・青から赤へ 太宰×乱歩
「好きです」>>3-4-10 変わらない目をして>>22-23 酔いで転んで>>38-39 青か赤か>>55 無意識な答え>>65
・拐かされて1>>11-12 拐かわされて2>>13-14-15 拐かわされて3>>24-25 打ち切り
・KISS FRIEND (乱歩総受け)
PLAYBOY(甲)(乙)(丙) 太宰×乱歩+モブ女性 (甲)>>31 (乙)>>42-43 (丙)>>66
・六日の朝と七日の指先 福乱 >>49-50,>>62-63
・待ち人探し(乱歩さん誕生日)/福乱>>67-69
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- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.14 )
- 日時: 2018/05/23 19:52
- 名前: 皇 翡翠
* * *
「……乱歩さん。傷、ありませんか?」
「大丈夫……まぁ彼が僕を生かす目的は元々これなんだろうね」
朝になり、男は去った。
風呂から出た僕らは、奴に乱された。
その際、僕は乱歩さんを殺すと脅され虎化して暴れることを封じられたのだ。
首元にナイフを突きつけられた乱歩さんを思い出すだけでゾッとする。
「ぅ……腰痛いです」
「激しかったもんね~あーあ僕、穢れちゃった……よ……」
疲労が溜まっていたらしい乱歩さんは、小さく寝息をたて始めた。
あんな事されたのに良く眠れるな……
髪を掻き上げたいが、生憎僕の手首には頑丈な手錠が嵌まっている。
これも自分の異能を警戒されてであろう。
「助けは、あるかな……?」
無心で窓から見える木々を眺めた。
人里離れていることが一瞬で分かる。
カチャリ
部屋の扉が開き、例の男が入って来た。
眠っている乱歩さんを庇うように、前に出て睨み付ける。
「おや、乱歩君は眠ったのか。それにしても懐かないねぇ」
檻を開け、僕だけを乱暴に出して絨毯に押し付ける。
昨夜のように前をはだけさせた。
「このっ変態」
「口が悪いよ。仕置きをきつくしたいのかな?」
あまり騒いで乱歩さんを起こしたくない。
僕は言葉を呑み込み、瞳を鋭くさせる。
「まぁ今はそのつもりは無いんだ。ご飯を持って来たから」
男が手を叩くと、扉から台車を押した男性が入った。
死んでいると勘違いするほど感情の無い目だ。
そいつは荷物だけ置いて直ぐに去って行く。
「敦君は手が不自由だから俺が食べさせるから安心してね」
耳を疑った。
怪我でもないのに食べさせてもらうなんて、しかも嫌いな相手に。
「な、な……嫌に決まってるだろ!それだったら乱歩さんにっん」
男は冷たい顔で僕の唇に喰らい付いた。
舌が割って入って口内を犯し、嫌悪感が生まれる。
「敦君。俺はね、乱歩君は殺しても良いんだよ?」
「くっ……」
解放され、袖で口を拭った。
あどけない表情を見せる、小学生のような乱歩さん。
僕は……男が差し出す匙を受け入れた。
「良く出来ました」
死んだ方がマシとは思えないが、自尊心が打ち砕かれた音がする。
孤児院で折檻された時と比べたくないが、気持ちの問題では今の方がキツイかもしれない。
「じゃあ俺は仕事に行くから。乱歩君が起きたら此れ渡しといて」
男はそう云って僕に注射を打ち込んだ。
身体の自由が効かなくなり、絨毯に倒れ込む。
「其処の扉が手洗いだから、這って行ってね」
彼は僕の頭を撫でて、手錠を外して消えた。
「……何の為の、異能なんだ」
せめて、乱歩さんだけでも護りたいのに。
床に顔を伏せ、やって来た眠気に身を委ねた。
* * *
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.15 )
- 日時: 2018/05/27 11:15
- 名前: 皇 翡翠
* * *
「ふぁあ……寝ちゃったのか。あれ?扉開いてる……って、敦君」
目を覚まし、僕は檻の傍で倒れている敦君を見つけて焦る。
彼は服装が乱れていた。
「敦君!大丈夫?またやられたの」
彼を介抱するため、体を持ち上げた。
「す、少し触られただけなので大丈夫です。あとこれ、乱歩さんの分」
また薬を打たれたようだ。
食事の入った盆を指差す表情は隠せていないため、無理して笑っているようにしか見えない。
「敦君」
僕は彼の両肩を掴んだ。
「奴は僕らの情報を知っていた。つまり調べる際に何処かに足跡は遺してる」
彼をキツく抱き締める。
「だから、社員を信じるんだ」
「……ぅ」
敦君は小さく鳴咽を漏らした。
顔を伏せ、見えないように涙を流す。
太宰、国木田……早くしないと、君達の愛しの敦君が壊れるぞ。
僕は泣く事を止めない新人を撫で続けた。
「全く、泣き虫だなぁ」
「探偵社の皆には云わないで下さいよ?」
顔色は戻った。
あと一晩か二晩くらい乗り越える必要があるだろう。
僕は食事を始めたのだった。
「乱歩さん、ありがとうございます」
「僕は本当の事を云ったまでだよ。……それより敦君」
唐突に真剣な顔になった自分に、小さく首を傾げる。
恐らく、此れを云ったら取り乱すだろうが隠しても意味は無いのだ。
「今夜、僕は酷い折檻を受ける。成るべく感情を高ぶらせない様にね」
「はぃ……?」
敦君の表情が一気に抜け落ちた気がした。
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.16 )
- 日時: 2018/05/26 13:05
- 名前: 皇 翡翠
江戸川乱歩は大人である 福乱
乱歩は子供っぽい反面、大人びて見える時が多々ある。
数十年も共に過ごしていれば、それなりに乱歩の事も判るようになる。
単純な事から些細な仕草まで、すっかり覚えてしまうくらいには。
出逢った頃はまだ幼い子供だった乱歩も、もう成人になり心身共にそれなりの成長を遂げた。それでもまだまだ子供の様に振る舞う、天真爛漫、天衣無縫な性格は昔から変わらないのだが。
そんな乱歩だが、福沢と共に過ごして影響を受けたのか、子供らしい反面誰よりも大人びて見える時がある。
例えば事件解決の依頼の時、自らの才能を異能と勘違いして自らを異能者だと名乗る乱歩は妥協をしない。
「犯人は捕まえる」「迷宮入りは認めない」「事件は解決されるもの」「救える命は救うべし」と、自らが“名探偵”である事に絶対的なプライドを持っている。
それ故に、乱歩は事件解決等の仕事で私情を挟むことはなく、相手にどんな事情があろうとも無慈悲にただ仕事をこなすようにしているのだ。
仕事以外でもそうだ。乱歩は興味の無い事、どうでもいい事には冷めている。
その上妙に頑固で冷静。以前新入りが誘拐された時も、「彼は守られる為に探偵社に入ったわけじゃないから助ける必要はない」と見捨てようとした。
要するに、子供らしく見えて意外とドライなのだ。
子供のようで誰よりも大人らしいのだ。
何時も通り各自仕事をこなしている昼時、警察関係者が探偵社に訪れた。
探偵社に依頼された事件に関する資料をわざわざ届けてくれたのだ。
切って貼ってを得意とする探偵社は警察、特に市警とは関わりが深く、共に互いの顔を覚えてしまうくらいには馴染みのものとなっている。
資料を運んできた市警の者に対し、探偵社も温かく迎え入れる。
「こんにちは、資料をお持ちしました」
「嗚呼どうも。わざわざすいません」
市警の女性が笑顔で資料を渡す。国木田が資料を受け取り、その背後ではナオミが茶菓子を用意していた。
「連絡くれたら妾達が自分で取りに行くッてのに」
「とんでもない!探偵社の方々には色々とお世話になってますので、このくらい!」
市警の男性の方が手を左右に振って笑う。何時もありがとうございます、とお礼を云われて与謝野は「妾じゃなくて、国木田とか乱歩さんに言いなよ」とからから笑い返した。乱歩は市警の二人には興味がないようで、挨拶もそこそこに市警が運んできた資料から興味のある事件を探し漁っている。
その間に太宰が女性市警に「素敵な方だ…是非共に心中して頂けないでしょうか?」と言い寄り、国木田に投げ飛ばされていた。
調査員が挨拶をしたのに、社長である福沢が顔を出さないわけにはいかない。
市警の二人に声をかければ、女性が真っ先に反応を見せた。その頬はほんのりと紅潮している。
「あら、福沢さん。お邪魔しております」
「御手数を御掛けした。感謝する」
「いえ!福沢さんのような方のお役に立てるなんて光栄ですわ」
少し恥じらうように頬に手を当てて女性が福沢を見つめる。福沢に気があるのが丸わかりだ。女性の少し後ろで居心地の悪そうに男性が苦笑している。福沢はそれとなく女性の言葉を流しながら対応をする。少し離れた処で、太宰達が此方をチラチラ見ていた。
「あー…あれは確実に下心あるねェ」
「全く、仕事に私情を挟むなど市警は弛んでいるんじゃないのか?」
「えぇ?あれくらい普通じゃない。国木田君だって女性に前に…」
「黙れ貴様!その首へし折るぞ!」
「まぁまぁ国木田さん…でも、社長ッて意外と隅に置けませんね。あんなに女性にアプローチされてる姿見るの初めてです」
「そうだな……俺も初めて見る。というか女性が社長に言い寄っている光景を見た事がない」
「社長はモテないわけじゃないんだけどねェ、近寄り難い雰囲気があるから話しかけられないだけだよ」
「嗚呼、残念だなぁ。一緒に心中できそうな素敵な女性なのに」
ふと太宰が、机に両足を乗せて資料を読み漁っていた乱歩を見やる。どれもこれも興味がないようで、机の上には資料が散らばって放置されたままだ。太宰が乱歩に声をかける。
「乱歩さん、アレどう思います?」
「は?」
「ほらアレですよ。あの人は社長に気があるようですし、社長も独身ですから。もしかしたら、なんて。」
「おい太宰!」
国木田が少しだけ顔を赤めて太宰を止める。想像したのだろう、チラチラと何度も此方を見てくる。与謝野もニヤニヤと笑っているだけで、特に何も言わない。谷崎はそんな彼等を見て困ったように笑うだけだ。乱歩が資料から漸く顔を上げて云う。
「それ、僕関係ある?」
「へ?」
「あの女性とどうなるかなんて、社長の好きにすればいいじゃん。僕らの問題じゃないんだからどうでもいいでしょ、そんなの」
笑顔すら見せずバッサリと言い捨てた乱歩が椅子から立ち上がる。何処へ、と国木田の問いに乱歩は駄菓子屋、と短く返して出て行ってしまう。その背を見送りながら谷崎が驚いたように云う。
「…なンというか、乱歩さんッて意外とそういう事には冷めてますよね」
「まァあの人はねェ。興味のない事にはとことん興味がないから」
「それより太宰!お前くだらん事を考える暇があるなら仕事しろ!!」
「うわ国木田君、いきなり蹴らないでよ。危ないなぁ」
国木田が太宰に叱責したのをきっかけに、「さぁ仕事だ」とまたそれぞれ仕事に手をつけ始める。福沢はその様子を横目に、未だ福沢に色目を使う女性市警を対応しながら乱歩が出て行った扉を静かに見つめていた。
+ + +
業務も終わり福沢が自宅に帰宅する。既に夕飯も風呂も終え、寝るばかりだ。
布団を敷いて本を読んで過ごしていると、寝室にそうっと乱歩が足を踏み入れる。その表情はどこか暗い。ぺたんと乱歩が福沢の前に正座する。福沢が本を閉じる。
「福沢さん」
「なんだ」
「今から甘えるけど、いいですか」
乱歩の言葉にそっと両手を広げれば、すぐさま乱歩が猫の如く飛び込んで体当たりをしてきた。勿論、日々鍛練を重ね鍛えている福沢には、乱歩程度の体当たりで微動だにせず受け止めることができる。
乱歩が福沢の背に腕を回し、力強く抱きしめながら福沢の胸に頭をぐりぐりと押し付ける。まるで猫の習性だ。
「あ〜〜〜…福沢さん…好き…大好きぃ…!」
「知っている」
「知ってても言いたいの!」
倖せいっぱいな恍惚とした表情で乱歩が福沢を抱きしめる。何度も福沢の名を呼び、何度も好きだと言葉にする。福沢はその度に律儀に頭を撫でて言葉を返す。そしてまた乱歩が倖せそうに笑って、その繰り返し。
探偵社ではこの関係は公にしないと決めたのは、意外にも乱歩だった。
「後輩の前ではそれなりに先輩らしく居たい」という乱歩の意向によるものだ。なんとなく判らない気もしないが、それなら子供らしい仕草から直せばいいのに、と思う。然しそれでは乱歩らしくもないかと思うので口にはしない。その為、探偵社の面々には秘密にしているのだが、その反動なのか何なのか、乱歩は家に帰ると毎回昼間の分だけ甘えだす。人目がない家で、二人だけでたっぷりと甘えたいのだそうだ。悪い気はしない。
漸く顔をあげた乱歩だが福沢から離れようとはせず、今度は頬を膨らませて不貞腐れ始めた。
「昼間の市警!なんなのあのおばさん、すっごい社長に色目使っちゃってさ!」
「何だ、気にしていたのか」
「当たり前じゃん!だってあんな下心丸出しでさ、見てるこっちが恥ずかしくなるんだもん!」
ぷんぷんと怒る乱歩に、あの時突然駄菓子屋に出掛けたのは逃げる為かと理解した。面倒な事や嫌な事からさらっとすぐ逃げ出すのはこの子の得意技だ。だが同時に福沢は昼間の乱歩の言葉も思い出した。
「…なら、あの時の言葉は」
「ん?…あ、昼間の?」
「そうだ」
探偵社では隠すとはいえ、流石に意中の相手に「どうでもいい」と云われるのは多少気にする。乱歩もそれを察したのか、素直にごめんなさいと謝った。福沢は小さく溜め息をついて乱歩の髪を撫でた。乱歩が福沢の顔色を伺うように見てくる。怒られたばかりの子供のようで、福沢はそっと口付けを落とす。
「好きにすればいいと、そう言ったな」
「?、うん…」
「なら、好きにさせて貰うぞ。乱歩」
そう告げてもう一度口付けを落とせば、乱歩が艶っぽく笑みを零した。先程までの子供らしさは消えている。
「ふくざわ、さん」
誘うような甘い声色で名を呼ばれる。
嗚呼、本当に、大人びている。子供なのか大人なのか判らない、不思議な存在だ。だが、福沢からすればどの乱歩も変わり無い。愛しくて仕方ない、大切な存在だ。大人になろうと背伸びする子供のような乱歩を、福沢は愛おしそうに抱きしめた。
* * *
- Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 ( No.17 )
- 日時: 2018/08/04 15:04
- 名前: 皇 翡翠
【国乱】
国木田には江戸川乱歩という人が判らない。
探偵社の先輩で、異能者であり異能『超推理』を――正確には異能なんて現象的なものではなく、非凡的な頭脳による推理なのだが――駆使して、数々の難事件を解決してきた、名探偵と呼ぶに相応しい人物だ。
そこまではいい。だが国木田が理解できないのは、乱歩の人間性である。
天真爛漫、天衣無縫で誰にも靡く事のなく、自身に絶対的な自信とプライドを持つ乱歩。だが妙に子供っぽく、二十歳を越えていると云われると疑ってしまうぐらいだ。その上非凡的な頭脳を持っているにも関わらず、電車の乗り方も知らない世間知らず。
異能者ではあるが、それなりの常識を持ち合わせている国木田には、江戸川乱歩という人は、尊敬に値するが理解しきれない人物であった。
「何ぼんやりしてんの、国木田」
訝しげに顔を覗き込んでくる乱歩に、ぼんやりとしていた国木田の意識が現実に戻ってくる。乗り込んだタクシーは既に目的地に到着しており、乱歩は先に扉を開けて外に出ている。窓から顔を出して、いつまでも降りない国木田を見ていた。
「すいません、少々考え事を…」
「ふぅん。珍しいね、けど仕事中にそういうのやめてよ。お前は何の為に僕に着いてきたの?」
「はい…本当にすいません」
「全く、しっかりしなよ」
乱歩がため息混じりに国木田を叱る。国木田は申し訳なさそうに乱歩に謝罪をし、運転手に金を渡してタクシーを降りた。仕事中に物思いにふけてしまうなんて、何たる失態だ。そもそも今は仕事中なのだから、すべきことをしなければ。
今回の依頼はとある屋敷での殺人事件だ。屋敷の奥方が心臓を突き抜かれて殺害されていた。部屋は窓も扉も開いていたが、関係者には全員アリバイがある。そして、肝心の凶器が屋敷の何処にもないのだという。
「ああ、これはこれは江戸川さん!御足労ありがとうございます!」
「やぁどーも!相変わらず無能だねぇ警察諸君!こんな事件も解決できないなんてね、職務怠慢してない?大丈夫?」
「いやぁ面目ないです、名探偵のお力を借りることになるとは…返す言葉もございません」
「まぁしょーがないよね!僕の異能は超有能だからね!しょーもない警察よりも僕のが頼りになるもんね!僕が来たからには事件はばっちり解決だよ安心してね!」
「よろしくお願いします!」
顔馴染みの市警がすぐに乱歩の対応をする。すっかり慣れきっているせいか、乱歩の無礼な言葉にも寧ろノリ気で返している。殺人事件に合わない楽しげな雰囲気まで伝わってくる。なんとなくその光景を見ていられなくて目を逸らした。目を逸らした先に真っ白な犬小屋がある。傍に置かれた皿に水が入っているから、犬を飼っているようだ。
「関係者は室内に集めてあります、殺害現場は此方です」
案内された一室は、屋敷の二階にある奥方の部屋だった。床にはぱらぱらと血が染み付いている。関係者は奥方の主人、長女、次女、メイド、庭師だ。殺人のあった当日は彼等しか屋敷に居なかったらしい。次女の足元には真っ白な毛並みの大型犬が尻尾を振っていた。
きょろりと乱歩が部屋全体と関係者を見渡す。何かを考え込んで、国木田、と声をかける。
「殺害された日って雨降ってた?」
「はい。夕方頃に俄か雨が少々。然し殺害されたのは昼間で、発見が…」
「そこまで訊いてない。必要な事だけ答えてよ」
ぴ、と人指し指を指されてしまう。すいません、と謝るが乱歩は既に国木田を見てもいない。
矢張判らないと国木田は思う。探偵社にいる時や、つい先程も市警と話している時は子供のような風来坊な振る舞いをするのに、仕事の時は誰よりも冷静沈着で大人びている。特に国木田はこの乱歩に圧倒される。普段もあまりないが、妙に大人びた乱歩に国木田は何時も以上に頭が上がらなかった。
乱歩が懐から黒縁眼鏡を取り出す。社長から授かった貴重な品らしい。それを掛けた乱歩が暫し黙する。レンズの奥で細い切れ目が開かれる。
「犯人はこの子だ」
乱歩が指さした先にはーーー一匹の大型犬。
「正確には凶器を隠した犯犬、かな。奥方を殺した凶器は折り畳み傘だよ、床に落ちた血液は明らかに不自然だ。ほとんどが傘に付着して、畳む時に血が落ちたんだよ。だからこんな風に散らばるみたいに残った。それから犯人は窓から木に飛び移って外に出た。で、傘を犬に隠させた。犬の習性に気に入ったものを隠すっていうのがあるよね。それを利用したんだよ。そうだな…犬小屋のすぐ後ろの木の根元。そこ探してよ、掘り返した跡が残ってる筈だから。雨が降ったのは貴方にとって幸運だけど誤算でもあった。木に飛び移った時の足跡が雨で泥濘んで消えるけど、同時にそれは不自然になってしまったんだ。だって…ーーー庭師の貴方が、アリバイの為に他の植物周辺には足跡を残しているのに、奥方の部屋の周辺だけ植物の手入れをしていないなんて、おかしいでしょう」
淡々と語られる事件の真相。誰もが乱歩の推理に耳を傾けて訊いていた。犯人だと云われた庭師でさえ、驚愕しているも言葉を発することすらできない。
圧倒されるのだ。誰もがこの小さな名探偵に。
部屋を飛び出していった市警の一人が傘を抱えて戻ってきた。その傘は血まみれだ。osoraku凶器に使われたという傘だろう。乱歩の推理通り、土の中から見つかったという。それがきっかけだった。庭師が突然懐から刃物を取り出した。その目は狂気が宿っている。刃物の先はーーー乱歩の存在。
拙い、と思うより速く身体が動いていた。
気が付けば庭師は床に伏せ、国木田が刃物を奪い庭師を押さえつけていた。
事態を漸く理解した市警が庭師に手錠をかける。推理を終えた乱歩はとっくに眼鏡を外し、何時もの飄々とした態度でニコニコと笑っていた。殺人事件は、乱歩によって迅速に解決されたのだった。
帰りはタクシーは使わず、歩いて帰ろうと乱歩が云った。特に無駄話をすることなく、黙々と二人で並んで歩く。国木田は今日の反省を頭の中でしていた。
「国木田」
不意に乱歩が国木田の名を呼ぶ。国木田がはいと返事をすれば、乱歩がじっと国木田を見据えていた。
「今日のお前は集中力が欠けてたね」
「はい、申し訳ありません」
「そうだね、仕事には集中しなきゃ。でもさっきの庭師を抑える手際は凄かったね」
「あ、ありがとうございます」
褒められた。なんとなく乱歩に褒められると他の人に褒められるよりも嬉しくなる。乱歩が非凡的な才能の持ち主だからか、それともーーー愛しい存在だからだろうか。
「最後のだけは褒めてあげられる。だから、」
ぽすん、と軽い音がした。国木田の胸の中に、仄かな温もりを感じる。小さな乱歩の身体が、国木田の身体と密着している。乱歩が国木田に抱きついているのだと気付くのに、数秒の時間を有した。
「これはご褒美ね」
するりと国木田の身体から離れた乱歩は、まるで悪戯っ子の様に笑った。国木田は顔に熱が溜まるのを感じながら、それでも思わず言葉を返した。
「こ、…子供扱い、しないでください」
嗚呼この人は…本当に、判らない人だ。
* * *
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