大人二次小説(BLGL・二次15禁)

文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も
日時: 2020/05/19 16:56
名前: 皇 翡翠

文ストの乱歩受けを中心に書いていきますっ!攻めも多分書くかと、
語彙力はあるかわかりません、拙く駄文ではあると思いますがそれでもよければ楽しんでってくださいね。
乱歩受けが好きになってくれると良いなぁ
・BL中心、たまにNLGLあるかも
・殆ど乱歩さん
・似非かも
・いろんな性格、設定、女体化、獣化、パロディ有
・シリアス、儚め、モブ有
・長編、短編

主に太宰×乱歩、福沢×乱歩、ポオ×乱歩、中也×乱歩
コメ、リクエスト一応受付ますが雑談の方で。

目次
 short                     
>>1-2甘酸っぱいlemoncandy(太乱)  ・>>5-7-8氷砂糖と岩塩(太中)
・江戸川乱歩は大人であるードライな乱歩さんー(乱歩総受け)
 福乱>>16 国乱>>17 太乱>>18 中乱>>19 ポオ乱>>20
・確かに恋だった(太乱)>>29
・rainyseason
 灰色の空(太乱)>>34-35 みずたまり(中乱)>>36-37
・黒白遊戯 マフィア太宰/太乱>>44-45
・こどものどれい モブ中/太中>>46-47
・ In the light 太中>>48
・一度で良いから 中乱 R18 >>51
・なんて不毛な、それでも恋(福←乱←太)>>52
・初恋は実らない、ジンクスさえも憎い 福乱>>53
・悪あがきとキス 太中>>54
・聖者の餞別 記憶喪失太宰の小噺>>56
・偽りはいらない ポオ乱>>57
・新たな教育方針(福乱)R18>>58
・たまごかけごはん>>59
・合言葉は「にゃん」である/太乱>>60
・ドラマみたいに/国乱>>61
・宇宙ウサギは月に還る>>64
・風が死を吹くとき(太乱)/微シリアス>>71
・ひきこもり人生(ポオ乱)/濡れ場あり>>72
・賭/太(→)中>>73
・百年の恋をも冷めさせてほしい(太乱)>>74
・水底の朝>>75
・せめて隣が、あなたじゃなければ(太乱+国)>>76
・なんて無謀な恋をする人>>77

long
・青から赤へ 太宰×乱歩
「好きです」>>3-4-10 変わらない目をして>>22-23 酔いで転んで>>38-39 青か赤か>>55 無意識な答え>>65

・拐かされて1>>11-12 拐かわされて2>>13-14-15 拐かわされて3>>24-25 打ち切り
・KISS FRIEND (乱歩総受け)
PLAYBOY(甲)(乙)(丙) 太宰×乱歩+モブ女性 (甲)>>31 (乙)>>42-43 (丙)>>66
・六日の朝と七日の指先 福乱 >>49-50>>62-63
・待ち人探し(乱歩さん誕生日)/福乱>>67-69

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Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.62 )
日時: 2019/09/08 20:57
名前: 皇 翡翠

六日の朝と七日の指先 福乱



「また奇妙な病に引っかかったもんだねェ、」

二十代半ばの女性にしては物言いがはっきりしているのが与謝野晶子の美点だ。大学病院での連続不審死という不吉な巨塔が脳裏を掠めるような事件で出会った女医を呼び出せば、無骨な黒いトランク一つ引っ提げてその日の午後にはやって来た。聞けば、医局を辞めて闇医者紛いの商売をしているらしい。凄惨な事件のことが思い起こされてその身を案じずにはいられぬが、凛と澄んだ双眸を見て当時より生き生きとした口調を聞けば、杞憂であるとすぐにわかった。望んで咲く場所を変えた花に無粋な口出しはすまい。江戸川を拾って以来緩んだままの人情の手綱を締め直して、福沢は自身の問題に集中した。応接室のソファに聴診器やら精神分析表やらを広げた与謝野女医は、問診票と江戸川を見比べて溜息をついた。件の名探偵は不服そうに足をぶらつかせてそれに耐えている。観察の対象に下るのは性に合わないらしい。

「ねえねえ、さっきから何なの。僕は頗る健康だって言っているじゃない。何かあるならはっきり言ってよ。」

手にはいつの間にかラムネ菓子を握っている。

「乱歩さんに隠し事をしようとは思わないよ、」

与謝野は心を決めたようにバインダーを脇へやった。

「感情性健忘症だね。」

江戸川の眉がきゅうっと寄って、ハの字に曲がる。

「通常の健忘、つまり記憶喪失と違って、感情記憶だけが失われる突発性の病気だよ。」

福沢は唇を噛んで俯いた。病名こそ聞いたこともなかったが、数日の違和感の蓄積から予想していた内容だった。

与謝野の話では、脳の自衛機能の過剰反応で起こるらしい。負の記憶を消去しようとする未解の脳内物質が過剰に分泌された結果、健忘レベルの感情記憶の薄化が症状として現れる。脳のメカニズムが解明されていない以上自然治癒を待つしかない、云々。睡眠時に働きが強くなるため、一日単位で記憶の喪失が起こると聞けば、全ての辻褄が合った。

陳腐な同情の言葉を一切挟まぬ与謝野の説明は端的で、福沢はただそうか、と答える。表情を崩さぬ武人の拳はしかし、関節が白むほど強く握りこまれていた。一通りの説明を終えた与謝野はふと息をついて、未だ何の反応もない江戸川の方へ向き直った。

「随分冷静じゃないか。」

「別に、」

江戸川はふいと顔を背ける。

「通常の記憶自体には影響はないんでしょう?」

「ああ。」

「それなら問題ないんじゃない?名探偵は健在だ。」

「乱歩!」

よっと声を発して江戸川がソファから足を下ろす。

「大丈夫だよ、福沢さん。感情がなくなったわけでも、記憶がなくなったわけでもない。逆に、どうしてそんなに慌てているのか僕には―」

事無げに語る江戸川の声が萎んでいく。

福沢は奥歯を噛みしめて米神を押さえた。わからないんだけど、と口の中で溶かすようにひとりごちた江戸川の腕を、ぐいと掴まれた。それから、すがるような格好で頭を下げる。

「済まない、乱歩。」

「何で福沢さんのせいになるの、」

「切欠は私との口論だろう。」

江戸川が溜息をつく。

「あの時どう思ったのかなんて覚えてないんだから。」

福沢は何も言わない。少し意地悪な返事だったかも知れぬと江戸川は肩を竦めた。

「余分なものを引きずらなければ福沢さんが言っていたように人と接することができるかもしれないじゃない?」

「乱歩、」

福沢が打ちひしがれたような、怖い声を出した。凄まれても、江戸川には何もできない。絶望的な沈黙が応接室を支配した。
与謝野の静かな声がそれを破る。

「乱歩さん、妾は自然治癒すると言っただろう。未だきちんとした治療法は見つかっていないが、」

黒い鞄に、ひとつひとつ診察道具を仕舞っていく。与謝野の瞳が再び江戸川に向けられた時、そこには真摯な光が宿っていた。

「一つだけ、信憑性の高い統計があってね。感情への執着が症状を改善させるらしい。」

治すんだよ、と静かに言いつけて、女医は帰って行った。

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.63 )
日時: 2019/12/03 21:09
名前: 皇 翡翠



晩冬すら終わりにさしかかっていた。

福沢の卓上の梅はついぞ散り、今は名前も知らない花の寄せ集めがちょこんと机を飾っている。元々花には疎かった。黄色い小さな花弁もいつかは枯れてしまうのだろうと思うと、塞いだ気持が一層沈んだ。花を愛でてこんなことを思わされたのは初めてだった。福沢は湿っぽい溜息を飲み込んで、重い万年筆を滑らせた。美しく微笑みかける癖に萎んで残らないのは江戸川の感情のようで、どうにも耐えがたい。

江戸川の病状は一向に回復せず、むしろ患者自身が病との共生に乗り気であることが目下最大の問題となっていた。曰く、負の感情がぐずぐず居残るよりは楽で良いらしい。福沢はふざけるなと叫びかけたが、そう仕向けたのは半分以上己の言葉であって、つい口を閉ざしてしまう。口元をきゅっと結んだ雇い主の顔をみつめて、江戸川は何事か呟きかけたが、読めない表情のまま執務室を離れた。発病してから、彼の心情がちっとも察せないのはなぜだろう。肩を落とした福沢に三月の風は冷たかった。   
現場での江戸川は相変わらずの言いたい放題であったが、一時的な苛立ちに駆られて挑発的な物言いをすることはぴたりとなくなった。どうせ消えうせるとわかっているものに振り回される必要もないのだろう。歪な形で大人になろうとする養い子の笑顔が、ここ数日の福沢には毒だった。
窓からの西日が、ぴょんぴょんと跳ねた髪を柔らかく照らす。
「乱歩、」
「なあに、社長。終わった?」
「ああ。」
執務室に設えた小ぶりの応接セットにどんと腰を下した江戸川が、手にした小説を放り出して駆け寄る。福沢は最後の書類に筆を走らせ、万年筆を置くと立ち上がった。薄手の外套を肩にかける。江戸川は気に入りのジャケットを、常の通りだらしなく気ままに羽織っていた。
月末は三寒四温の言葉通り、ころころと天気に振り回される日が続いていた。一週間前からの約束通り二人揃って午後休を取り、近くを流れる川沿いの道をゆっくりと歩いた。何か布のようなものがぷかりぷかりと流れていった気がしたが、福沢は気にせず歩を進めた。背後からついてくる江戸川は楽しそうで、立ち寄る甘味処の選定を始めていた。
「社長、というか、福沢さん。」
わざわざ呼び直して江戸川が切り出す。
「何か話があって誘い出したのでしょう。」
「何故わかる。」
「そりゃあ、何故って、忙しい季節にわざわざ休みを合せようだなんて、社長らしくない。」
江戸川が数歩駆け出して、福沢の肩に追いついた。
「世の父親が突然息子を誘いに行くのとおんなじだよ。」
「そんなに突飛な行動に思えたのか。」
「だって、」
江戸川はぷいと顔を背ける。これで成人を控えた青年男子なのかと思うと頭が痛んだが、
「福沢さんは僕が誘っても五回に一回しか遊びに行ってくれないじゃない。」
そう言われてしまえば苦言も呈しづらい。二人はとぷとぷと流れる春の川沿いを、宛てもなく歩いた。卓上の花瓶で見るより、花々は生き生きと、それでいて凡庸に見えた。江戸川はそれに目もくれない。福沢もまた、前を歩く彼の気まぐれに跳ねた髪の毛ばかり眼で追っていた。
「僕は世界も驚く名探偵だけど、時々嫌になるくらい何もわからなくなるよ。」
やがて、つぼみの膨らみ始めた桜を見ようと立ち止まった折にぽつぽつと話し始める。江戸川がこんな風に真面目に話を切り出すのは珍しいから、聞き返さずに先を待つ。春先の陽光のように柔らかな声音には、いつぞやの険はちっとも残っていなかった。
「福沢さんは優しいけど、きっとその優しさの前に正しさを置いちゃう人なんだよね。僕にとって福沢さんは、父上と母上を失った僕に世界をくれた人だから…正しさなんて及びもしないんだけど。」
目に焼き付くほど、寂しそうで大人びた笑みを浮かべる。話しをしに連れ出したのは福沢だったが、すっかり主導権を奪われていた。暫し沈黙して、やがて、
「買い被りだ。」
低い声で呟く。江戸川が弾かれたように顔を上げた。
「お前が絡むと、私はいつも迷って、迷った挙句に主義も理屈も曲げてしまう。私が正しくあろうとするのは、ただお前にそうあってほしいと、願うからだ。」
本当はむしろ正反対だ。正しさは普遍でなく、また一つでもない。酷く多義的で、見る者を欺く蜃気楼なものだと福沢は思い知っていた。例えば、自らの剣を振るった先とか。―ほの暗い記憶が首をもたげて、慌てて頭を振った。
「お前は純真で、聡明で無垢だ。この二つが共存しているところを、乱歩、お前に初めて見つけたんだ。その爛漫さが、刃物になってはいけないと、そればかり考えていた。何故だかわかるか。」
江戸川はじいっと見つめる。
「やがて、お前を傷つけるからだ。大切な人に、傷ついてほしくないという、失敗者のエゴなんだ。」
福沢が静かに告げる。江戸川はぱちくりと数度瞬いて、表情を崩した。泣き出しそうな、困ったような顔している。
「乱歩、私はお前のことが好きだ。好きな人間に、共有した気持ちを覚えていてほしいと思ってはいけないだろうか。」
江戸川が細い眼をいっぱいに見開いて見上げる。適当に羽織った外套から伸びた腕を持ち上げて、手の甲でぐしぐしと頬を拭う。その仕草は初めて出会った時から変わらない。酷く子供じみた動作。
「福沢さんが好きって言ったの、初めて…」
朱色に色づいた目元に、長い睫毛を落とす。
「ずるいなあ…」
江戸川が呟いた。真冬の厳しい冷たさを失って、漸く膨らみ始めた桜のつぼみが見守るように二人を見下ろしている。福沢の濃灰色の着物にするりと腕を通して、江戸川は歩き出した。引っ張られるようにして川沿いの道をずんずん歩いて行く。
「どうした、急に。」
福沢がろうばいして尋ねる。江戸川は顔を見せまいと半歩前を急ぐ。ぐいぐい引っ張る腕が、ほんのり暖かかった。
「名探偵はクールでいなくちゃいけないからね。」
不貞腐れたように言った。春はすぐそこまで来ている。福沢は少し笑って、彼に好きにさせることにした。
それから、江戸川が小さな秘密を打ち明けるような声で、
「うん、忘れたくないよ。こんな気持ち。」
眼のふちまでせりあがった気持ちを溢さないように、澄んだスカイブルーの空を見上げて気持ち良く言った。

fin

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.64 )
日時: 2019/12/03 21:50
名前: 皇 翡翠

宇宙ウサギは月に還る

お月見っぽいSFチックなパラレル世界

探偵社はあるけど異能のない世界でしかもケモミミ要素があります。
なんか雰囲気です。
雰囲気で宜しくお願いします。

■□■□

 ある晴れた秋の夜、空を見上げた。満月だった。月ではウサギが餅をついている。ところでこの月に棲むウサギは、欧州ではウサギではなくカニなのだとか。太宰治はぼんやりと「もしもカニだったなら美味しく食べてしまえたのになあ」なんて思った。或いはまだ日本にウサギ食文化が残っていれば、などと考え溜息をつく。

「太宰さん、どうしたんですか?」と後輩である中島敦が訊いた。彼はとても素直な少年であったので、物思いに耽る先輩を見て声をかけたのだ。しかし太宰は「んー……別に…………」などと気の抜けた声を出す。それを聞いてますます中島は心配そうに眉をハの字にさせた。
「そんな、さも思い悩んでるような顔されたら、誰だって波瀾爆笑心配せずにはいられないんですよ。太宰さんって、その…‥綺麗、だから……」
尻すぼみになる言葉に太宰は思わず目を見開いて、それから真っ赤になって「なんてこと言ってるんだ!」と頭を抱える後輩にククッと笑いをもらす。
 実際、物思い耽る太宰は酷く絵になっていた。まるでたった今起きましたとばかりの蓬髪が縁取る横顔が月光を浴びる様であるとか、憂いを帯びた瞳であるとか、長い睫毛がふるりと震えて薄い唇から漏れる溜息であるとか。なるほど、美系というのはこうも満月が似合うのか、と中島は呆けてしまったのだ。

「そうだね、」と太宰はくるりと満月に背を向けて中島に向き直った。
「敦君に心配かけっぱなしというのも、別に私としては知ったこっちゃないのだけれど……」
中島は「なんて先輩だ」と脱力した。
「でも、折角だから、聞いてはくれないかい?」
心配させっぱなしでも知ったこっちゃないと宣言された手前、この先輩の言葉を無視しても良かったのであるが、ふふ、と切なげに笑う太宰の顔が、あまりにも儚く、まるで朝になったら消えてしまうのではないかと思われたので、中島は是と応えたのだった。

 次の夜。
 中島は海辺に立った。ゆうらゆうらと水面に揺れる月を眺めながら、前日に太宰から聞いた話をゆっくりと思い出す。

「敦君は、宇宙ウサギを知っているかい?」
そんな問いから始まった太宰の昔話、荒唐無稽でどこか愛らしい御伽話。嘘が真か中島には分からなかったのだが、きっと事実が隠されているに違いない話だった。

 月に人間が移住してから百年、月で生まれ月で育った宇宙移民が月の独立を宣言してから五十年が経つ。
 当時、月と日本の関係は悪化していた。そんな時に太宰が出逢ったのが【宇宙ウサギ】の中原中也だった。
 宇宙ウサギとは地球で囁かれる眉唾モノの都市伝説であり、存在の確認がされていない【月に棲む原住民】を指す。なんでも【宇宙ウサギ】はウサギの耳と尻尾を持つ半人半兎で重力を操る能力を持つのだとか。その都市伝説である【宇宙ウサギ】を、その中原中也という男は自称したらしい。
 それだけ聞くと中原中也という男は頭のおかしい気の触れた男か、或いはただのイタい男かと思われるが、彼はそれを太宰に信じさせるだけの【特殊性】があったのだ。
 まず、彼の頭にぴょっこりと生えた一対の耳。それはどこからどう見てもウサギの耳だった。彼の髪の色と同じ赤毛の耳。そして尾てい骨の部分にぴょっこりと生えたのは丸いふわふわの尻尾。どこからどう見てもウサギ尻尾だった。これが身体的な特徴。
 そしてもう一つ。彼は重力を自在に操ることが出来た。マジックの類ではない。はっきりと太宰は見たのだ。時には自身を羽のように軽くさせてふわりふわりと舞い、時には蝙蝠のように天井に逆さまに立ち、重いものも紙切れ一枚のように軽々と持ち上げた姿を。

 二人が出逢ったのは満月の夜の事だったらしい。その日は素晴らしい満月で思わず川に身投げした。だが、目を瞑って静かに死を待っていた太宰は、ゆったりと川を流れているとゴツンと体に何かが当たった衝撃で仕方なく目を開くとそこにいたのは少年だった。全身を黒でコーディネートした少年を仕方なく引き上げたところ、帽子からウサ耳が現れズボンからはぴょっこりと尻尾が生えていたという訳だ。(ちなみに尻尾が本物かどうか確かめるべくぎゅっと握りしめたら「ピイ」と叫んだそうで、それ以来ことある毎にピイピイと鳴かせていたと太宰はサディスティックに笑った)
 中原中也と名乗ったその男は助けて貰った恩だ、月の人間は借りは必ず返すのだ、だのなんだのと言って太宰の住む安アパートに居候した。

 その時の様子を、太宰は悪口を多分に混ぜながらも幸せそうに中島に語った。
 ナメクジみたいなテラテラした奴、だとか頭が悪くて叶わなかった、だとか趣味が悪い、だとか散々にこき下ろす。しかしその口で、ふわふわの赤毛や透き通るような蒼穹の瞳の美しさを語った。

 きっと、大切な人だったのだ。
 中島はそう思った。
「……でも、月は今………」
中島は太宰の語る彼らの思い出が二年目の秋を迎えたところで口を挟む。
「…………そうだよ。月は今、鎖国している。宇宙移民は月から出ることはないし、地球の人間は月に行くことが叶わないから都市伝説の宇宙ウサギのことなんて嘘か真かさえ分からない」
太宰は再び満月を見上げた。
「結局、中也は月に帰っていったよ。私のペットのくせにさ……帰ってしまった」
そう言って微笑む太宰の瞳には満月が映っていた。

 水面の月がゆらゆら揺れる。中島は月の向こうに思いを馳せた。

「私と中也の関係を表すなら………そうだな、パートナー、だったのかもね。
 そう、相棒だった。一番の」

 太宰は時折こうして満月を眺めるのだという。健気な飼い主だろう、とお道化る彼の瞳にあるモノを中島は忘れることができない。
 それはきっと恋と呼ぶのだと彼は揺れる月に教えてやるのだった。

Re: 文スト BL、R18有 乱歩受け中心 太中も ( No.65 )
日時: 2019/12/07 17:03
名前: 皇 翡翠

青から赤へ 無意識な答え
 



「……判った」

 ゆっくりと決意を固めた乱歩は、開口してはっきりと断言した。


「じゃあ、好きだ」


 判らないと曖昧に答えた最初の時、それよりも乱歩ははっきりと答えたつもりであった。彼としてはきちんとした答えを相手に繰り出したのだが、最初の「じゃあ」という言葉は酷く太宰に疑問を与えてしまった。

「…じゃ、じゃあとはどういう事ですか。仕方がないから好きだと云ってあげよう、というような発言ではありませんか?」

 太宰はその発言では満足できるわけも無い。そりゃあそうだろう。

「だって、太宰が僕に二択しか与えないのだから、だったら好きだと答える!だって嫌いだって云ったら前みたいに仲良く莫迦莫迦しい会話が出来ないだろう?そうなるぐらいだったら好きだって云った方が良いと思ったんだよ」

 乱歩の中ではまだ曖昧「判らない」のまま変わらないでいた。彼は、はっきりと太宰が好きなのか判らない。そもそも好きとは何なのか、と思っていたのだ。
 乱歩の中で「太宰」の位置づけは確かに変わっていた。
 あの日、好きだと云われてから確かに乱歩は太宰をきちんと意識していた。
 そんな彼の心境を判るはずも無い太宰は、今一つすっきりとせず。別れる決断も出来ずに、かといって抱き締めて彼を離すまいという決意を固める腕も持たず。それでも太宰はきちんとしておきたかったのだ。

「…それじゃあ、乱歩さん。私がこれから乱歩さんにキスをしても文句は云いませんか?」
「へ…?」
「だって好きならこれから恋人同士として生活していくのであれば、それぐらいしてもいいですよね」

 本当はその先にも進んでみたいのだが。
 とはいえ、初めての経験では無い。かつて酒に酔って二人は一度キスをしている。それも乱歩からだ。酔って覚えていない乱歩に太宰はその時の記憶を蒸し返す勇気も悪気も持っていないので彼はそれに関してはひとまず蓋をして。

「……別に、してもいいよ」

 そう云った後に唇を噛み締めながら、乱歩は太宰を見つめる。

「……本気ですか」

 太宰としても、このままキスをしてしまいたかった。このもやもやした気持ちを払しょくするには動かないことに変わりはないと考えているのだが、それでも「じゃあ」という前置きは何時までとっても脳内に残り続けてしまって、彼の歯車を止めてかかる。

「……別に厭じゃない。太宰にキスをされても厭じゃない。厭じゃなかった」
「……厭、じゃなかった?」

 硬く噛み締められていたと思っていた唇はまたも大きく開かれて、太宰に伝えた。はっきりとした回答はあげられなかった乱歩ではあるが、それでも自分の今の気持ちはきちんと把握している。

「あの時―――酒に酔ってた時にしてみたけれど、別に厭じゃなかった!それに…むしろ、心臓が早くなったし…何か緊張した」

 少しずつ片言になっていく単語達は、あの時をまた思い返すように乱歩の心臓を早めていく。
 勿論そんなことを云われてしまえば、太宰も動かざるを得ない。

「…誰にでもそんなことを云っているんじゃないですよね」
「そんな誰彼構わずに変なことはしない。第一、僕は酒なんて弱くも無い」

 太宰に、だけだ。
 最後に小さく萎んでいきそうな声はきっちりと太宰へと届けられていき、その言葉はすっかり相手の口の中へと含まれて行ってしまう。

「ん……っ」

 階段の段差を埋め尽くして太宰は一段上に登って彼の唇に吸い付いた。
 平坦な地に足を置いていないので乱歩は前のめりになって落ちそうになる。最初は脚でしっかりと踏ん張っていたが、徐々にその力よりも酸素を求める方に神経が向いてしまい、結局乱歩の身体が階段から落ちそうになったところで仕方なく顔を離して、太宰が腕に見事収めてあげる。

「乱歩さん、どきどきしているんですか。心音が凄いこちらにも届いています」
「そ、れはっ…僕が階段から落ちてそのまま二人で怪我をするかもしれないと思って、その危険性に心臓が早まっただけだ!」
「またまたぁ」
「にやけるなっ!」

 もう平気だ、と乱歩は慌てて太宰から離れて心臓を聞こえないてないか警戒して、距離を取る。それでも心臓は何時までも収まる気配を見せない。

「……乱歩さんが、まだ気づいてくれないのなら、私が惚れさせてあげます。逃げられないぐらいに、私に好きだと云ってくれるまで粘ることにします」
「え、そん…」

 何か云おうとしたが、乱歩の喉には痰が絡まって上手く言葉を出せなかった。その隙に、太宰は会話を続ける。

「云ったでしょう。好きならば離しはしない、と。最初は告白をしてそれでいいと思っていましたが、矢張りきちんと貴方を手に入れたいと思う欲が増してしまいました」

 にこり、と笑った表情は乱歩の心臓をまたも早めて行った。

「な、んで…そんな恥ずかしいことを云うんでよ…。僕、は好きか嫌いかと問われれば好きだと云っただけだ!」
「でもキスしてもいいんですよね」
「うっ…」

 それを云われてしまうと、それ以上何も云えない。
















「……なんてこともありましたよね」

 昔を思い出す。二人で一つの枕を共有しながら、太宰は昔話を隣の彼にした。
 隣の男―――乱歩は、すっかり最後まで話し終えたところで耳を真っ赤にしている。矢張り恥ずかしい過去を掘り返されるのはいい気分では無い。

「…にしてもあの時の乱歩さんには全く自覚が無いというのですから、本当に鈍感ですよね。周囲の反応には敏感なだけに意外でしたよ」
「………うるさいなぁ」

 乱歩はシーツに顔を埋めて太宰に見られまいと隠す。早く熱が引いてくれないかと待ちながらも、耳だけはしっかりと太宰に向けておく。その隣にいる太宰は耳まで真っ赤になって隠しきれていないその姿を見て可愛いな、と思いながら別に言葉にはしないであげる。優しさだ。昔の話を一から十までしておいて何が優しさかと傍から問われてしまいそうな苛めっぷりであるが、あの時を思い返して太宰もまた反省をしていたりもした。
 あの時は太宰もまた必死であった。だから乱歩が無意識に好意をそこまで抱いてくれているとは考えつく余裕が無かったのだ。本当は酔った勢いで襲い掛かろうとも思っていたのだから。

「……でも、今こうして一緒にいるんだからいいじゃないか」
「そうですね。乱歩さんが、自覚するのには随分と時間が掛かりましたが」

 今となっては結果オーライ。笑い話にはならないけれど、それでも馴れ初めを思い返して改めて一言。

「乱歩さん、これからもよろしくお願いします」

 その数秒後に、小さく「うん」とだけ聞こえてきた声は、逃しはしなかった。

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